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「ああ、時間がない……早く何でもいいからテイムしないと」
そうぶつぶつ呟いているのは、はたから見たら完全に不審者な女。
ボサボサな髪。くたびれた服。挙動もおかしく、草陰から頭を出したり引っ込めたりしている。
「お父様からは今日までが期限だって言われているし……」
両手をモミモミしながら、今度は一点を見つめて動かなくなる。誰かがこの姿をみたら、「怖っ」と言って逃げていきそうなものだが、幸い今いる場所は人里離れた『フィールド』と呼ばれる場所。荒野のようなところに、岩場やら森やらがある土地。
フィールドは主に魔獣をハントしたり、レベル上げをしたり、稀に見つかる鉱物を取るための場所だ。
そんな場所でこの女――レベッカは、一人でうろうろしていた。
か弱い女性が一人でこの魔獣のうろつく土地に居るなんて正気の沙汰ではないが、その点は問題ない。
なんせ、レベッカはその魔獣こそを使役する、テイマーを目指しているのだから。
「だって仕方ないじゃない。あんなにみんな言うこと聞いてくれるんだもの」
独り言にしては声がでかい。そして、「ねえ?」と、足元の何かに話しかける。
それは大型の黒い狼に似た魔獣だった。レベッカは独り言が多いが、それには理由があった。
いつも周りには何かしら魔獣がいる環境だったのだ。そしてそのどれもが、レベッカに懐いていた。誰か(魔獣)がいつも話を聞いてくれているのだ。
そして、彼女は勘違いした。
「テイムの才能があると思ったのよ。懐いてるだけだなんて、思わないじゃない」
この世界では、一攫千金を夢見てフィールドにハントをしに来る者が多くいる。そしてレベッカの夢もフィールドに来ることだ。
それなら、変わり者の自分でも魔物に囲まれて暮らせるから。
しかし、それを阻止しようとする者がいた。レベッカの父親だ。変人でも可愛い娘なのだ。外にも出したくないのに、フィールドなどに出すなんてもってのほか、とレベッカに説教をした。
毎晩の熱い舌戦の末、『期限までに上級の魔獣を一匹テイムしてこられたら認めよう』という条件を父親は出した。
上級魔獣といのは、ベテランでも数年がかりで捕らえるもの。諦めさせるための方便だ。
しかし、レベッカには自信があった。なんせ、隠していたけれど上級魔獣とはすでに友達だ。
それがいま足元に寝そべっている黒狼。
ただ懐いているだけの、魔獣。
「今までテイムの魔法ってなんか痛そうだったから、やってこなかったのがいけないのよね……」
そう。いざテイムしようと思い、呪文を唱えて魔力を向けたところ、なんと弾かれてしまったのだ。
「テイムって、相手を屈服させる必要があるらしいわ。つまり、私よりも下の存在って認めさせなきゃいけないの。でも、そもそも私があなたを下の存在って認められないのだから、無理な話よね、クロ」
黒狼の瞳をじっと見つめて撫でる。レベッカはちゃんとしていれば美形ではあるので、その姿は傍から見ると神秘的にも見える。
ハッハッハと息をしていた黒狼はまるで返事をするかのように、ベロンとレベッカの頬を舐める。
微笑ましい光景だが、ここは魔獣溢れるフィールドだ。ここだけ空気がおかしい。
「励ましてくれるのね」
と、落ち込んだ少女のような声を出したのもつかの間。
「クロ、隠れて!」
まるで魔獣でも出たかのような形相で黒狼を茂みに隠す。
「来た。人間よ……。それも、格好からしてジョブが勇者、弓使い、ヒーラー、タンク……。弱い者いじめをする最低な奴らよ」
もちろん弱い者いじめをするわけではない。魔獣を狩るのが彼らの仕事だ。
「テイマーにはなりたいのよ。でも、あんなやつらが周りで好き勝手にしてるのは我慢ならないわ……。はっ! そうよ!」
デカい独り言を言いながら、機敏に茂みの後ろを移動して、勇者たちの背後を取る。
そしてすかさず呪文を唱える。
「勇者御一行をテイムすればいいんだわ!」




