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命は一度きり〜『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』


「学校はどう、楽しい?」


「私はとっても楽しいよ。あなたに会えて、またこうやって過ごすことができて。でもね……もうあなたの世界はここじゃないでしょう」


作品:乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…/作者:山口悟/32話「ここが私の世界でした」より



事故で命を落とした高校生の少女が乙女ゲームの悪役令嬢に転生。やりなおし人生では愛されキャラに育ってゆく──という、いわゆる悪役令嬢もの。


冒頭に引用した二つのセリフは、転生前の世界で、主人公の親友“あっちゃん”が口にするセリフ。高校のいつもの教室で、いつものように過ごす主人公に、あっちゃんは静かに問いかける。でもそれは、転生後の世界で事件に巻きこまれ、昏々と眠りつづける主人公ヒロインカタリナがみている夢の一場面でもある。


この場面の、あっちゃんのこのセリフは、とても深い余韻を残して、読んだ直後から思いはさまざまに巡り始めた。「学校はどう、楽しい?」──こんな平凡なセリフが、なぜ深く響くのだろう。それはきっと、あっちゃんが話しかけている相手=転生前の主人公が、実はもういない友だち、もう二度と会えない友だちであることを、この少女は知っているからだ。


命は一度きり。失ってその重さを知る。私たちは誰でも身近な人の死によって初めてそれを痛感する。情けないことに、そのようなリアルを通じてしか、私たちはそれを本当には実感できない。けれども表現は、それを普遍的な感覚へと昇華して、改めて伝わる言葉として再生することがある。「学校はどう、楽しい?」──この場面の平凡なこのセリフは、たぶん命というものに直接ふれていたのだ。別の言い方をすれば、命という形のないものを、目にみえる形に昇華して描いていたのが、この場面であり、このセリフだったのだと思う。


この作品にかぎらず人気の悪役令嬢ものは、乱暴に言ってしまえば「やりなおし」の物語。やりなおせばうまくいく、やりなおし人生なら愛されキャラになれる──というご都合主義が満載だから、その部分を嫌う人には拒否されるだろう。けれどもこの作品の、とくにこの場面を読んで私が感じたのは、転生ものというのは、形式的には異世界で二度目の人生という安易なリセット=「やりなおせばうまくいく」を描きながら、結果的に「命は一度きり」「やりなおしはきかない」という、逆説的な主題に向かっているのではないか──ということだった。


原作では決して出番が多いとは言えない、この“あっちゃん”というキャラは、それでも印象に残した人が多かったのだろう。アニメのオープニングでも、短いカットだが、大切なテーマのように描かれて登場していた。文章で、後にはコミック、アニメでも描かれた“あっちゃん”は基本モブというか、やはり平凡な、どこにでもいそうな高校生の女の子だが、だからこそ、実はこの作品の背中合わせのヒロインだったのではないか。主人公ヒロインカタリナが体験する異世界での充実した日々というのは、この少女が二度と会えない親友に贈りたかった幸せ──でもあったのではないか。そんなふうに私は受けとめている。


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