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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、不穏な動きを察する




レンはフウマの姿が見えない事に、違和感を覚える。


フウマが居なくなったのは、何か意味があるのだろうか。


今、この場で『通信機』による連絡手段を用いれば、彼の行動に支障が出てしまうかも知れない

そう思うと、懐に忍ばせた通信機に伸ばす手が、ピタリと止まる。




「(フウマ…どうしたんだろう? つもならこんな場面で離れるなんてないのに…)」




しかし、そのすぐ後で通信機が静かに震えた。


式典の最中はバイブのみにしていたのを思い出し、そっと耳に当てる。




『――レン』


「ウォルター?」




聞こえて来たのは、出入り口付近で警備をするウォルターの声だった。




『――フウマの姿が見えないが、何処へ行ったか解るか?』


「ごめん。私も今気づいた所なの」


『――そうか。実は廊下で怪しい動きがある。フウマがいち早く察知し、それを追っているのかも知れない』




持ち場を離れられないのは互いに同じ。

彼は『通信機』を使った連絡手段で、レンに状況を確認する為だった。


フウマはいつの間にか会場を抜け出し、静かに動き回っていたらしい。

直ぐ傍に居た自分に声を掛けなかったのは、そうする暇もなかったのだろう。




『――持ち場を離れる時は連絡する様にと伝えていた筈だが…あいつ、忘れているな」


「フウマに連絡する?」


「一応、通信機で連絡をしたんだが、どう言う訳か繋がらなくてな…」




肩を竦めるウォルターが容易に想像出来てしまった。


大広間は光が溢れ、各国の要人達が整然と並ぶ中、荘厳な音楽が鳴り響いていた。

アルデールとエルヴィン―ー二人の皇子は、王位継承の儀に臨む為、玉座の間に立っていた。


両者の姿は、その場にいる全員を圧倒するほど堂々としていたが、その胸中には重い緊張と疑念が渦巻いていた。

華やかな雰囲気の中で、レンは意識を警備の任務へ戻す。


だが、心の何処かで不穏な気配を感じていた。

ウォルターもまた、会場の隅で目を細めて周囲を観察している。




「やはり、怪しい動きがいくつかある…この中に敵が紛れていないとは、言い切れないな」




ウォルターは低く呟く。




「うん、そうだね」




レンはその言葉に頷き、周囲に目を光らせた。


立食パーティーは、継承式の前哨戦とも言える重要な場。

何事もなく終わる事を願いながらも、その緊張は高まるばかりだった。



一方で、シリウスは厳しい目つきで周囲を監視していた。

来賓達に紛れて、怪しい人物が潜んでいる可能性を捨てきれなかった。


シリウスは、神官達と共に居るディーネに近付き、小声で囁いた。




「ディーネ殿」

「は、はいっ?」

「不自然に目を逸らした者が数人いた。奴らが何を企んでいるのか、まだ分からないが、油断は禁物だ。」

「…っ! わ、解りました」




ディーネはその言葉に頷き、注意深く動き回る。

緊張で手が震えるてをぎゅっと握り締め、己を鼓舞する。



―ー頑張らないと…!



此処で固まっていては、何も出来ないと言うのを、ディーネ自身は知っているからだ。






大広間の玉座の付近では、神官の一人が微かに震えながら周囲を見回している。

その神官の姿を目にしたアルデールは、眉を顰めた。


アルデールは、小声でエルヴィンに伝えた。




「見たか。あの神官の様子…何かがおかしい」

「はい。ただの緊張とは思えません」




突然、大広間の外から甲高い音が響き渡る。

それは何かが砕け散ったような音で、続いて聞こえてきたのは騎士達の怒号だった。




「侵入者だ! 防げ!」




会場内の空気が一気に張り詰める中、スライムに向かって指示を出した。



式典の進行が最高潮に達する中、突然、大広間の隅から人々が悲鳴を上げた。

一人の黒装束が騎士達の目をかいくぐり、玉座の方向に向かって突進して来たのだ。




「させないっ!」




アルデールの前に立ちはだかったのは、エルヴィンだった。

弟として兄を守る為、咄嗟に魔法を繰り出して侵入者を押し返す。




「えっ…!?」




だがその瞬間、エルヴィンは何かに気づいた。




「この動き…やはり見覚えがあります。まさか、貴方は――」




何者かの攻撃が、エルヴィンの防御魔法に阻まれると同時に、式場の窓ガラスが粉々に割れる音が響き渡った。



バルコニーや出入り口の扉から、無数の魔物が群れを成して飛び込んできた。

黒い影が次々と会場内に雪崩れ込み、来賓達の悲鳴が辺りに響き渡る。




「きゃあああっ!!」

「魔物だ!」




誰かが叫ぶ。


盛大に執り行われていた継承式が、一瞬にして混沌に包まれていた。




「魔物…っ!?」

「シ、シリウ、ス…だん、ちょ…」

「おいっ、どうしたっ!? 何が遭った!




その場にいたシリウスは、息も絶え絶えの騎士団員から状況を聞き出した。




「外部で騒ぎが起きていると思っていたら、これが原因だったのか……。」



シリウスは剣を抜き、騎士達に命令を下す。




「来賓を守れ! 皇子達の護衛も固めるんだ!」




その声に、レンははっと皇子達の居る方向へと眼を向ける。

其処には、アルデールとエルヴィンを前にする、侵入者らしき者の姿があった。


襲撃事件の夜に見た姿と酷似している。

この混乱に乗じて乗り込んで来たのだろう。


一刻も早く皇子を護らなければ。

しかし、逃げ惑う来賓の退路も確保しなければならない。



混乱が混乱を呼ぶ中で、魔物の襲撃はレンの身にも襲い掛かって行く。




『ぷちっとふぁいあ!』


「ありがとう、スライム!」




ボゥっとおくちから炎を噴射したスライムが、寸前のところでレンを護る。

城内のあちこちでは混乱が置き続けており、至る所では叫び声が聞こえていた。



「今すぐ此処から出してくれ!」

「魔物が現れたんだぞっ! 殺されるかもしれないんだ!」


「駄目ですっ! お戻りく下さい!! 外にも魔物が――!」




そして、出入り口付近では同じく人の姿でごった返していた。

我先にと扉から出て行こうとするものなら、外に居る魔物に襲われる危険性がない訳ではない。


中も外も、危険には変わりなかった。

出入り繰り付近では、シリウスとウォルターが騎士達を伴って、魔物に応戦している。




『お客さんは、ディーネちゃんの所に集まって、みんなで護ってるみたいだよー!』




その報告に彼女の方を見やれば、青白い結界のが大広間の一角に広がっている。

決して大きくはないが、魔物の攻撃を妨害するには十分だった。


しかし、魔物の数は多く、他の神官達も同じように結界を張っているとは言え、長くはもたないかも知れない。





「レン、走れっ」

「うんっ」




マオの声にレンは頷く。


壇上ではアルデールとエルヴィンが、侵入者の相手に苦戦している。




「このような状況下で恐れることはない! 我が剣を持って、敵を討つ!」




国王――かつて『剣王』と呼ばれた武勇の誉れ高い男。

その力強い声は、混乱する人々に僅かながらも希望を与えた。


年齢や肉体の衰えの感じさせない程、勇猛果敢に剣を振るっている。


彼は迷うことなく剣を抜き、太后を護るように立ち塞がった。



魔物の一体が牙をむいて太后に襲いかかろうとした瞬間――。




「許さん!」




国王の剣が閃き、魔物の一体を斬り裂く。

その姿は、かつて戦場を駆け抜けていた『剣王』そのものだった。


国王は太后を守る為、次々と迫り来る魔物を討ち払っていく。




「大丈夫だ。わしがいる限り、お前に指一本触れさせはせん!」

「陛下…!」




その言葉には、国王の揺るぎない決意が込められていた、

国王が必死に自分を守る姿を見て、太后は冷笑を浮かべた。




「…ふ、ふふ――」




ふと、国王が後方を振り返った。


その目に映ったのは、魔物の群れをものともせず悠然と立つ太后の姿。

彼女の顔には笑みが浮かび、その瞳は冷酷な光を放っていた。




「愚かな男。あなたの力を、私が利用する日が来るとはね…」




彼女は、自分を盾にして戦う国王の背中を見つめながら、そう言った。




太后の心中では、一つの計画が着実に進行していた。




「この国を壊し、私の息子エルヴィンを新たな王として据える。アルデールも、国王も――邪魔な存在は全て排除する!」




その中には、国王も含まれていた。

彼の存在すら、もはや太后にとっては計画の道具でしかなかった。




「お前…何を…!?」




国王の胸に、疑念が湧き上がる。

だがその思考は、次の瞬間、背後から襲いかかる魔物の気配に遮られた。




「くっ…!}




魔物の鋭い鉤ぎ爪が襲い掛かり、懸命に剣でそれを防いだ。



何かがおかしい――




状況は混迷を極め、国王の視界の端に映る太后の姿が、次第にその異質さを露わにしていく。



この国を、家族を救う為に戦っているのに…


何故、こんなにも胸がざわつくのだ…?




国王は剣を振るいながらも、自分が守ろうとしているもの違和感に、気づき始めていた。






◇◆◇






「…フウマ、何故だ?」




アルデールの瞳には驚きと動揺が混じっていた。

信頼していた護衛に襲われるという現実を、すぐには受け入れられなかったのだ。


フウマは何も答えず、再びクナイを構える。

その目は冷酷で、アルデールの問い掛けにも一切動じる気配がなかった。


魔物を退けながらも、アルデールはフウマに問い掛けた。




「誰に雇われた?」

「…」




しかし、フウマは無言のまま剣を振るう。

顔の半半分は口布のマスクで隠されているが、その無機質な目には、何処か苦しみが隠されているようにも見えた。




「黙っているのか?」




アルデールが、今度は挑発するように言う。

それでもフウマは黙ったままだ。




「そうか…ならば、此方も全力で応じるまでだ!」




アルデールは二本の剣を抜いた。

すると、エルヴィンは腰に備えていたロッドを掲げる。

光の魔法陣をを生み出し、魔物の襲撃を阻んだ。




「魔物は僕が! 兄上はフウマ殿の相手を!」

「頼む、エルヴィン 此処で来賓に被害が出れば、国の威信が地に落ちる。何としても守り抜くぞ!」


「はいっ!」




その隙にアルデールが剣を振り翳し、次々と魔物を斬り伏せた。


皇子二人は、フウマに目を向けながらも、同時に魔物の襲撃に応じざるを得なかった。

どちらをおざなりにしても、決してただでは済まされない状況である。


一方、ディーネは神官達と共に結界を張り、救護班として負傷者を保護していた。

しかし、魔物の数は多く、次第に追い詰められていく。



その時、アルデールの視線が、ふと壇上の一角に向けられた。

其処には、懸命に剣を振るう父の姿。


そして、不敵な笑みを浮かべながら、事の成り行きを見守る太后の姿があった。

その目には、完全に計算し尽くされた勝利の余裕が見て取れる。



侵入者がフウマだと分かった瞬間、会場全体に居る彼を知る者是認が凍りついた。

フウマは無表情のまま、アルデールにクナイを向ける。





太后は彼らの目の前で微笑みを浮かべ、全てを見守るよう佇んでいた。

その姿には一切の動揺も隙も見られない。


広間の窓際や出入り口からは影が動き出し、異形の魔物達が次々と現れる。


彼らの狙いはただ一つ。


――この国の次期王となる、アルデール皇子の命を奪う事だった。




激しい戦闘の中、皇子二人とフウマが対峙する。

アルデールは剣を構え、フウマの目をじっと見据えて問いかけた。




「お前が暗殺者だったのか…フウマ。何故だ?」




フウマは無言だった。

しかし、その手に握られたクナイが微かに震えている。


彼の中で何かが揺らいでいるのが、誰の目にも明らかだった。


その時、会場の隅から声が響いた。




「フウマ!」




レンが駆けつけて来たのだ。

レンは、フウマが暗殺者として皇子に刃を向けている光景に目を疑った。




「フウマ…どうして…!」




驚愕と戸惑いで言葉を失うレン。

フウマは一瞬だけ振り返り、その表情に苦悩が浮かぶ。


だが、すぐに顔を伏せ、クナイを再び握り直した。




「何をしている、フウマ?」




その時、場の空気が一変した。

太后が壇上にゆっくりと上がり、冷たい笑みを浮かべながら口を開いた。




「獲物はすぐ目の前だ。早く殺せ」

「…っ」




その言葉に、場内の空気が凍りつく。

エルヴィンは太后を睨みつけながら叫んだ。




「母上、一体何を――!」

「エルヴィン、落ち着くんだ」

「あ、兄上…っ」

「…太后。フウマを雇ったのは貴女か?」

「そう、フウマは私の駒。そして、この国を新たに導く為の計画の一部よ」

「導く?」




太后はその問いに答えず、さらに続ける。




「フウマだけではない。私は長い間、この国を内側から支配する準備をして来たのよ。そして、明日からはエルヴィン、お前が王として私の計画を完成させる」


「そんな事はさせない!」




アルデールが剣を振り上げて叫んだ。

だが、太后はその剣を見ても怯むことはなく、堂々とした態度で言葉を続けた。




「アルデール、お前は不必要な存在よ。この国の未来において、エルヴィンこそが相応しい王なの」




その時、太后の瞳が不気味に輝いた。

彼女の中に潜む『何か』が表に現れ始めたのだ。


その異質の気配にいち早く気付いたエルヴィンが、顔を顰めた。




「母上…? 貴女は本当に、僕の母上なのですか?」

「可笑しな事を言う…可愛いエルヴィン。勿論。私は貴方の母ですよ」

「…違う。お前は何だ。母上の身体に何をしているっ!?」




一際強い声色で、エルヴィンが叫んだ。

彼の尋常じゃない動揺から、太后のみに何かが起きている事が、レンにも感じられた。


太后の声は徐々に低く、異様な響きを帯びていく。




「私はこの国の未来を嫉妬で満たすのよ。エルヴィンを王にする事で、私の願いが叶う。私は――『ワタシ』は、それに同調した。あの亡き王妃が成し得なかった栄光を、『この女』は手に入れるのだ!」




その言葉に、エルヴィンは目を見開いた。




「母上。貴女の身体には、魔物が棲みついているのですね…!」


「あははははっ! そうよ!」




太后は笑いながら言った。




「私の、ワタシの執念が、この魔物と同調したのよっ。嫉妬の力を増幅させ、この国を乗っ取る計画を練ってきた。その計画を邪魔する者は、全て排除する!」


「嫉妬…!?」




レンはふと、視界の違和感に気付いた。


自分が見ている太后の姿――それは、ただの人間ではなかった。




「これは…何?」




レンは無意識に口にする。

その視線の先にいる太后は、既にに人間の気配ではなく、どす黒い感情が渦巻く異形の姿をしていた。

それは魔物そのもののようだ。



こんな感覚を、荒くれ者のアジトでも体験した気がする…

あの時もまた、人の身体に纏わりつく、靄のような物がうっすらとだが視認出来ていた。


それが今はどうだろう。


彼女の眼には、太后の周囲にまとわりつく不気味な黒いオーラが、はっきりと映っていた。



太后の姿を見つめるレンの瞳は、徐々にその本質を暴き出していく。

彼女の周囲に漂う黒と赤の入り混じったオーラ――それは人間ではあり得ない異質な存在を示していた。



レンの眼には、太后の中に潜む魔物がはっきりと映っていた、

それはまるで、太后の身体を抜け殻のように利用している、寄生生物のようだった。




「…あの姿は、魔物…っ!?」




レンは震えながらも呟いた。

その声に反応するように、太后が不気味な微笑を浮かべ、彼を見下ろす。




「どうシたのテイマー? ワタシの姿ガ怖いのかしラ?」




彼女の声は低く、魔物特有の異様な響きを帯びていた。

しかし、他の人々にはその変化が見えていない。


アルデールは困惑した様子で太后を見つめているが、レンやエルヴィンのように。魔物の本質を視認する事は出来ない



レンはその場で動けなくなった。

太后に見えるその姿は、もはや人間ではなかった。




「…っ!?」




そして、彼が幼い頃から慕ってきた存在の変貌に、心の中で強い葛藤が渦巻く。




「エルヴィン!」




アルデールが振り返り、必死に叫んだ。




「何をしているんだ! 太后じゃない…これは魔物だ! 太后は魔物に取り憑かれてる!」」

「ま、魔物…?」




エルヴィンが驚き、太后を見つめ直す。

だが、彼の眼には何も映らない。


レンは深呼吸をして自分を落ち着かせ、震える手でダガーを握り直した。




「太后の中にいる魔物をどうにかしなきゃ…でも、どうすれば?」




太后の姿が徐々に魔物の形へと変わりつつあった。

その異様な光景に、場内は再び混乱に陥る。




一方、フウマはクナイを握りしめながら、その場に立ち尽くしていた。


太后の命令に従うべきか、それとも――




「やはり、お前では国は救えないな、フウマ。用済みだ。」




太后の視線を感じたフウマは、僅かに動揺した。

そのクナイの切っ先が、僅かに揺れる。




「そういう事か…!」




アルデールの中で、全てが繋がった。

フウマを操り、魔物を解き放ったのは太后。




「フウマ!」




アルデールが一喝する。




「お前は太后に操られているのか? それとも、自分の意志で太后に従っているのか?」




フウマの瞳が揺れる。

彼の中で葛藤が巻き起こっていた。




「…俺には、もう選択肢がないんだ」




低く絞り出すように言うフウマの声が、激しい戦闘の中でもはっきりと聞こえた。




「フウマ殿…!」




アルデールとエルヴィンは、その言葉に微かな同情を覚えながらも、戦いを続けるしかなかった。


式典はすでに混乱の極みに達していた。

だが、この戦いが決着する時、何かが大きく変わる。




――それを全員が感じていた。





「フウマ!」レンが声を上げた。


「貴方はそんな人じゃない! 貴方は、何か自分の大切なものを守る為に、戦って来たんじゃないの?」




その言葉に、フウマの手が再び震えた。

彼の中で葛藤が渦巻く。




「…どうすればいいんだ」




フウマは低く呟き、クナイを握る手を更に強く締めた。

彼の迷いを見透かしたかのように、太后が冷たく笑った。




「フウマ、ワタシはお前ニ命令しテいるのヨ。アルデールを殺しなさい」




太后の冷徹な声が響く。

その命令に、フウマは深く息を吸い込んだ。

彼の次の行動が、この場の運命を大きく左右する事になる。




「早くシろっ!」




命令に従わない彼に苛立ちを隠せない太后だったが、フウマはその声に耳を貸さなかった。




「今此処で戦えば、もっと多くの命が危険に晒される…」




そう呟いたフウマは、突如その場から離脱した。

驚いた皇子達やレンを残して煙玉を使い、混乱の中へ姿を消す。




「逃がすか!」




アルデールが即座に追おうと動き出すが、魔物の群れが再び彼を襲った。

このままでは、足止めを喰らったままである。アルデールの叫びが場を支配した。

「レン! お前は自分のフウマを追え! 此処は俺達が何とかする!」

「アルデール皇子っ!?」

「奴らの狙いは俺だ! お前は…自分の仲間をどうにかしろっ!」




――仲間。


そう思っていたのは、自分だけだったのだろうか。



こんな事態を引き起こしたであろう、フウマの胸中を知りたかった。

その言葉に一瞬戸惑ったレンだったが、すぐに頷く。




「スライム、マオちゃん!」

「行くぞ」


『うんっ』




スライムとマオを連れ、レンはフウマの後を追い始めた。



逃走するフウマは、脳裏に過ぎる太后の命令と仲間達の顔を振り払おうとしていた。




「俺は…ただの駒か…」




だが、その目には揺るぎない決意の光が宿り始めていた。


彼が逃走したのは、単なる命令への反抗ではなく、他の誰かを守る為の時間稼ぎでもあった。




「このまま奴らに従っても、皆を守れる保証なん何処にもない…だったら…!」




フウマの足音を追いかけるレンの声が迫っていた。

彼は振り返り、一瞬だけ笑みを見せる。




「追いつけるか、レン…?」




その笑顔には、何処か寂しげな影が映っていた。



フウマは満月の輝きに照らされた空を見上げ、僅かに目を閉じた。

その表情にはまだ迷いが残っていたが、それでも、確かな決意の欠片がその胸に宿り始めていた。





逃走劇は、新たな戦いの幕開けを告げていた。

フウマを追うレン達。


そして太后を前にして立ち向かう皇子達。



それぞれの運命が交錯する中、物語は更なる混迷へと進んでいく――






―ーこの夜が明けた時。


自分はどんな選択をしているのだろう。



『とある男の手記より 抜粋』





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