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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、警戒を強める




一方、レン、ディーネ、フウマたちは、騎士達と連携しながら警備を固めていた。

来賓たちの中に混じって不審者が紛れている可能性がある為、会場全体を警戒の目で見回していた。


ウォルターが、厳しい目で周囲を見渡しながら言った。




「式典が始まる前が一番危険だ。不審な動きをする者を見逃さないようにしよう」


「わ、解りましたっ」

「ディーネ。そんなに緊張するな…と言っても無理もないか」

「す、すみません…」




ディーネが深々と頭を下げる。

緊張しているのはレンも同じだった。




「と、とにかくっ。気を引き締めて行こうっ!」

「レン、お前もガチガチになっているぞ」

「うう…」

「情けねぇな」




フウマが少しだけ苦笑しながら言った。

彼は特に緊張すると言った様子は見られず、いつも通りだった。




「フウマは緊張しないの? よく落ち着いて居られるね」

「バーカ。いつ何時でも、冷静に、平常心でいるのが当たり前なんだよ」

「な、なるほど。勉強になります…!」

「ディーネ、此処でもメモを取るんだね」

「フウマさんの言葉は、ためになりますからっ」




勉強熱心なディーネを、私も少し見習いたいと思う。



継承式前の立食パーティーが進む中、厳重な警備体制が敷かれていた。

会場内外には騎士達が配備され、厳しい目つきで来賓達の動向を見守っている。

その中には、ウォルター、ディーネ、フウマと言った、選ばれた護衛たちも加わり、それぞれが持ち場での任務にあたっていた。




「各自、十分に警戒して警備に当たってくれ。物音や動きに違和感を感じたら、すぐに報告する様に」


「了解。俺は特に出入口付近を重点的に見張ろう」




ウォルターは会場入り口付近に配置され、来賓が出入りする度に細かく目を光らせている。

鍛え抜かれた体格と冷静沈着な雰囲気は、一目見ただけで頼りがいを感じさせた。

彼の眼差しには僅かな隙もなく、周囲に潜む危険を察知しようと鋭く見渡している。




「ディーネ殿は、あちらに居る神官達の傍で待機してくれ。もしもの時は救護班に回って欲しい」

「はい。解りました」




頷いたディーネは、足早に神官達の方へと走って行く。


ディーネは会場の外側付近を見回りながら、神官達との間に適切な距離を保っていた。

彼女は微笑みを絶やさず、しかしその目の奥には緊張感が漂っている。

警備をしながらも、来賓達が居心地よく過ごせるよう、配慮しているのが彼女らしいところだ。


フウマは窓際を中心に警備していた。

その動きは軽やかで、風のように静かだった。



そんな中、レンは会場内の片隅に待機していた。

自分の役目はマオやスライムとの警備だったが、一人と一匹は料理に夢中で、どうにも動く必要がなかった。

皿に山盛りの料理を前にし、スライムが大口を開けてとても幸せそうだ。




「マオちゃん、スライム。私達も警備に行かないと…」

『待ってー。まだあのお肉、食べてないのー!』

「オレ、さっきのパイをまたおかわりするぞ!」

「もう…っ」




レンは溜息を吐きながら、壁際に寄りかかった。

会場内を警備している仲間たちを見渡し、彼らの動きと比べてしまう。

ウォルターの威圧感、ディーネの気品ある佇まい、フウマの静謐な存在感。


それに比べて自分はどうだろうか。

結局、何の役にも立っていないような気がしてならない。




『レンも食べようよっ! 美味しいよー?』

「そう言われてもな…」




レンは困ったように苦笑した。


今は警備中――つまりこれは仕事だ。

しかも継承式当日。


そんな大切な時に、のんびりと食事をする事なんて出来ない。

しかし、寝不足と緊張の余り、朝も昼も食事は喉を通らなかったので、程よくお腹は空いている。




「私、テイマーの筈なんだけどな…」




スライムはデザートに夢中で、レンの話には気づきもしない。

そんな様子を見て、レンはますます肩を落とした。


自分の言う事を聞いてくれないのは、単にランクが低いから…だと思いたい。



会場内のざわめきが耳に届く。


煌びやかな装飾と上品な会話が飛び交う中で、自分の存在はまるで空気のように感じられた。

護衛としての責務を果たしている仲間たちと比べ、自分はただの添え物に過ぎないのではないか――そんな考えが頭をよぎる。




「私、本当にこれでいいのかな」




レンの呟きは、誰にも聞かれる事なくかき消された。

だが、その瞳には、自分に課せられた役目を見つけたいと言う、小さな炎が宿っていた。




「レンちゃん。そんな顔してたら怪しまれんで」

「フーディー…」


「今日はお祝いなんやろ? 何処もかしこも厳しい顔してるけど、こういう時こそ笑顔で自然でおらんと!」




にっこりと笑うフーディーの顔を見れば、レンの肩の力もゆっくりと抜けていくのを感じた。

やはり、自分も緊張していたのだろう。


ほっと一息吐いたところで、改めて自分の空腹を思い知らされる事になる。


我慢だ、我慢…!




「敵はこの場の混乱を狙っているかも知れない。注意を怠るな」




少し離れた場所で、シリウスが騎士達に指示を出している声が、聞こえて来た。

徐々に多くなる人の多さに疲弊しつつ、レンも警備に余念がなかった。


更に窓際のバルコニー付近では、早くも赤ら顔をした恰幅のいい男が二人、和やかに談笑しているのが見える。


恐らく彼らも来賓客なのだろう。

来賓達は、ワイン片手にそれぞれ談笑を続けていたが、会場の空気には何処か緊張感が漂っていた。




「次代の王はどのような手腕を見せるのだろうか。どちらの皇子がこの国を導けるか否か、それが我々の今後にも関わる」

「若いながらも、アルデール皇子は冷静で聡明だと聞いている。だが、弟君のエルヴィン皇子も優れた資質を持つと噂だ」




その会話の裏では、互いに探りを入れ合う視線が飛び交い、式典が始まる前から駆け引きが始まっていた。

レンもその空気を感じ取り、ますます警戒を強めていた。




「この緊張感…何かが起きる前触れかも知れない」




大広間に設置された巨大な鐘が、荘厳な音を響かせる。



低く深いその音は、城内の喧騒を静めるように響き渡り、広間全体に厳粛な空気をもたらした。

立食パーティーを楽しんでいた来賓達も、会話を止め、視線を一斉に玉座の方向へと向ける。

騎士達は整列し、出入口付近の警備を一層厳しくした。




「これより、アルデール殿下の王位継承式を執り行います。来賓の皆様は、それぞれの席にお着き下さいませ」




式典司会官である男が、高らかに宣言する。


招待状に記載された席番号に従い、来賓達は広間内に設置された席に着席し始める。


各国の要人が座る一列目は、緊張感のある雰囲気に包まれていた。

やがて、大広間の奥で鐘が一度鳴り響き、いよいよ式典が始まる時が近づいてきた事が告げられた。



大広間はこの日のために特別に装飾され、煌びやかさと格式が両立する仕上がりになっていた。

天井から吊るされた巨大なシャンデリアは、無数のクリスタルが光を反射し、会場全体を明るく照らしている。

壁には王家の象徴である紋章が飾られ、その下には高貴な花々が並べられている。


正面に置かれた玉座の背後には、代々の王の肖像画が掲げられ、長い歴史の重みを来場者に感じさせた。

玉座の前には、王冠を載せた台座が置かれ、周囲には高位の神官達が並び立つ。




全ての準備が整い、いよいよ継承式が始まる時刻が近づいてきた。

アルデールとエルヴィンは最後の確認を終え、王座への入場を待つ。




「行くぞ、エルヴィン」

[はい、兄上」




エルヴィンは頷き、兄の後を追う。

広間の扉がゆっくりと開き、二人は凛々しい姿で入場する。



全員の視線が二人に注がれ、深い静寂が訪れる中、ついに継承式が幕を開けた。




大広間の奥に設けられた扉が開き、厳かな音楽が奏でられる中、アルデールとエルヴィンがゆっくりと姿を現す。

アルデールは王家の正装である白と金を基調とした礼服を身にまとい、まるで王そのものの威厳を放っていた。

その隣に立つエルヴィンは、青と銀を基調とした衣装で、兄とは対照的な柔らかさと優雅さを見せている。


その瞬間、来賓の中からはざわめきの声が聞こえ始めた。




「あれがアルデール殿下か…立派なお姿だ」

「弟君のエルヴィン殿下もなかなかの風格だな」




アルデールは正面の玉座へと歩を進め、エルヴィンはその隣に控えの席へと着席する。

二人の姿が並ぶと、兄弟でありながら異なる雰囲気を持つその光景に、会場全体が感嘆の声を漏らした。



式典司会官が、王冠が置かれた台座の横に立ち、力強い声で開式を告げた。




「皆様。本日は次代の王を迎える、歴史的な日であります。王国の繁栄と安定を願い、アルデール皇子殿下が王位を継承されるその瞬間を、此処に立ち会える事を光栄に思います!」




その言葉に続き、会場内の全ての者が立ち上がり、敬意を示す為の拍手を一斉に送った。

アルデールは一歩前に進み、観衆に向かって深々と頭を下げた。




「おぉ…!」

「やはり、王家の正装を身に纏っているのは兄のアルデール様か」




式場内では、何人かの来賓が微妙にざわめき始めていた。

彼らは互いに顔を見合わせ、何かを密かに確認している様子だった。


レンはその光景を目にし、更に警戒を強める。

どうやらこの場にいる全てが、アルデールの王位継承に納得している訳ではなさそうだ。




続いて、神官長が前に進み出る。

神聖な装束を身に纏い、厳かな雰囲気の中で、玉座の前に立つアルデールに向かって祈りを捧げた。


神官長は静かに、しかし力強い声で言った。




「天よ。この王国に新たな導きをもたらすべき御方を此処に迎えられる事を、心より感謝致します。アルデール皇子殿下が正しき道を歩み、この国と民を永遠に護り導く存在となりますよう、我らは祈りを捧げます」




神官長が手を翳すと、周囲に柔らかな光が広がり、神聖な雰囲気に包まれた。

その場にいる全員が息を呑む中、アルデールはその祈りを受けながら静かに目を閉じ、心を落ち着けていた。



祝福の儀式が終わり、いよいよ王冠を受け取る瞬間が近づいてきた事が感じられる。

アルデールが王冠を授けられる瞬間を待つ中、大広間は厳粛な静寂に包まれていた。




「…?」




しかし、その静けさの中で、レンは微かな違和感を感じ取る。


何処からともなく聞こえるかすかな物音。

人混みの中に紛れる視線の鋭さ


――何かが動いているのを直感的に感じ取る。




それは、式場の外で起きている様だ。


人の声がするのは当然の事ながら、その声色の中には焦りと緊張感が滲み出ているような気がする。




会場の中では荘厳な式典が進行していたが、その裏側で、何かが動き始めている事を一部の者だけが感じ取っていた。



ふとマオが周囲を見渡すと、先程まで其処に居た筈のフウマの姿が見当たらない。

彼は窓際の傍に控えている筈だが、今は姿を消していた。


マオは眉を顰める。




「…レン。フウマが居ない」

「えっ、さっきまで此処に居たのに…」

『フウマおにーちゃん、何処に行っちゃったんだろう?』

「トイレちゃうの?」




不安を抱えたまま、レンは式典の進行を見守るしかなかった。





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