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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、警備を確認する




国内外の各方面からは続々と来賓達の姿が見られ、国王を初めとする王族達は、その来訪を出迎えた。

お陰で城の中は城の中はいつも以上に慌ただしく、厳かに準備が執り行われている。

継承式の日があと幾日と言う事もあり、騎士達の顔にも緊張の色が窺えた。


そんな中、騎士団長であるシリウスもまた、警備の最終確認に余念がない。




「大丈夫なのか?」

「警備の事なら、腕の立つ傭兵をまた雇った所だ。金で動く分の働きはしてくれる」

「それもだが…お前だって疲れているだろう?」




日に日に疲れの色が見えているのをウォルターは知っていた。

シリウスは苦笑しつつ、首を横に振った。




「これくらい、戦場に立つ事に比べればどうと言う事でもない」

「戦場か…やはりこの国でもあちこちで戦乱が起きている様だな」

「戦いが終わる事なんてないさ。争っているのが人間同士なんて、皮肉なものだがな」





夜が更けた城内の作戦部屋。


広い部屋の中央には大きな地図が広げられ、城内と城下町が詳細に描かれている。

その周囲に、レン、スライム、マオ、ウォルター、ディーネ、フウマ、そしてシリウスが集まっていた。

全員の表情には緊張と疲労がにじむが、それぞれが強い意志を秘めている。


こうして広げられる『作戦会議』は、これが最後の調整だった。


シリウスは地図を見下ろしながら口を開いた。




「継承式まであと数日しかない。この短期間で、城内外の安全を確保するのは至難の業だ。それでも、何とかするしかない」


「余裕がなくなってきたな。でも、これが面白いところだろ? 守るべきものがあって、守りたい相手もいる。けど敵も強い――物語のクライマックスみたいだ」




フウマが椅子にもたれかかり、呑気な口調で返す。

そんな彼に、ウォルターが軽く溜息を吐いた。




「軽口を叩いてる場合か。敵がいつ攻撃を仕掛けてくるか分からない状況だぞ」

「だから、そういう時こそ、力を抜けって話だよ。ピリピリしてたら、見えるものも見えなくなる」




すると、シリウスは少し苦笑しつつ、フウマを見た。




「フウマ殿の言いたい事も分かる。だが今回は、流石に笑いごとじゃない。これまでの不審な動きは全て、継承式を狙ったものだと考えて間違いないからな」




シリウスは地図の一角を指しながら、冷静な口調で状況を報告する。




「城内の警備はこの範囲で増員している。要人達が集まる広間を中心に、周囲の通路も警備を固めているが…侵入者がいないとは限らない」




レンが眉を顰める。




「侵入者? 城内の警備は厳重な筈なのに、どうやって?」


「招待された要人達の随行員に成りすましている可能性が高い。それだけじゃない。この数日、街でも『妙な動き』を確認している」

「妙な動き…ですか?」




ディーネが不安げに尋ねる。




「普通の市民や商人に紛れて、明らかに訓練を受けた動きの連中がいる。例えば、警備の目を避けて通るルートを熟知していたり、武器を流すルートを隠し持っている素振りがあったりだ」


「そうなると…城内にいる人間も、街に潜む連中も、動きが連携している可能性が高い。俺達が見逃している敵は、思った以上に多いかもしれないな」




ウォルターの言葉に、全体の緊張感が高まる。


城の内部だけでなく、街でもそんな動きがあるとは思いもしなかった。

確かに以前よりも城への人の出入りは、日に日に活発化しており、レン達もその全てを逐一把握している訳ではない。


街の警備には騎士達が当たってくれているそうだが、シリウスはその報告を受けて、危険性を危惧しているのだろう。




『だ、大丈夫だよ! みんなで力を合わせれば、どんな敵だってやっつけられるもんっ!』




スライムが血頭脳で飛び跳ね、場を和ませるように明るく声を上げる。

そんなスライムの頭を、フウマが笑いながら軽く叩いた。




「全く、この場に唯一の癒しだな、お前は」




その場に微かに笑いが広がったが、すぐに全員の表情が真剣さを取り戻す。

レンはシリウスに問い掛けた。




「シリウス。継承式当日は、どの程度の警備が必要なの?」




シリウスは、地図を見つめながら答えた。




「王座の間周辺は、絶対に手薄に出来ない。一方で、他の区域にも目を光らせる必要がある。要人が集まる事で、敵が紛れ込む機会が増える」




継承式は、王座の間で執り行われる。

普段は国王や太后、騎士達がいる空間も、当日は来賓や要人達の姿で溢れ返る。


人が多くなればなるほど、危険も生まれる事を、ウォルターは知っていた。


だからこそ、警備に余念がない。




「継承式の最中に事件が起きれば、この国の信用が地に落ちる。それだけは何としても防がなければならない」



シリウスの表情は険しかった。




「それだけじゃない。太后陛下の周りにも、どうも妙な影がある。」




シリウスの冷静な報告が、会議の空気を更に重くした。

城内外の不審な動きに加え、彼が新たに告げた内容は、太后の周囲に関するものだった。


レンは、その言葉に反応して顔を上げた。




「妙な影?」


「太后の側近として仕えている者達の中に、行動に一貫性がない者がいる。特に面会時には、特定の来訪者だけ、妙に丁寧に対応している姿が見受けられた」


「王族に仕える方なのですから、礼儀正しいのは当然の事では…?」




ディーネが不安げに尋ねる。

しかし、シリウスは首を振り、厳しい声で続けた。




「いや、彼らは礼儀を越えて、何処か下手に出ているように見えた。その来訪者達も。普通の貴族や商人には見えない。太后様が何かを隠している可能性は、ますます否定出来ない」




シリウスの言葉を聞いたレンは、昨日のお茶会の記憶が蘇った。


太后の落ち着いた物腰、その中に隠された冷徹な目線。



そして微かに感じた異様な雰囲気――




議論が続く中、レンがゆっくりと口を開いた。




「私も感じた。昨日のお茶会で、太后様の振る舞いが何処か不自然だった。話題を選んでいるというか…私の反応を探っているように思えた」




スライムがレンの肩に飛び乗りながら、ぷるぷると震えた。


昨日の今日だ。

『太后』の名前に、少し敏感になっているのだとレンは思った。




「太后様とはどんな話を?」


「エルヴィン皇子やアルデール皇子に関する話題が多かった。特に、アルデール皇子に関しては、あからさまに否定的な意見を口にしていたよ」




フウマが腕を組みながら、低い声で言った。




「太后がアルデール皇子を快く思っていないのは、城内では有名な話だ、けど、わざわざ話題にする必要があるのか?」


「まるで彼を排除する理由を、正当化しようとしているようだった」


「排除ねぇ…」


「も、もしそうなら、アルデール皇子様を狙っているのは、太后様と言う事に…?」




議論が進む中、レンの胸の中に一つの考えが浮かび上がった。

それは、太后が裏でアルデールを狙っている可能性だった。


ディーネの言葉に、ウォルターは頷いてシリウスを見た。




「シリウス。アルデール殿下に、この事を進言すべきだと思う。太后様が裏で糸を引いている可能性があると、伝えなければ」




シリウスが少し眉を上げて反応する。




「しかし確証がない。証拠がなければ、皇子が何処まで信じてくれるか…」


「憶測であっても、伝える価値はある。アルデール殿下は、ただの独断で動く方ではない。情報を元に冷静に判断するお方だ」


「解った。アルデール皇子には、現状を全てお伝えすべきだろう」

「それなら、エルヴィン皇子にも伝えた方がいいんじゃないかな。何か遭った時、力になってくれるかも知れない」




エルヴィン皇子への対応をどうするか――


それは、レン達の会議の中でも大きな議題となった。



彼は無邪気で、人を疑うことを知らない性格の持ち主。

だがそれ故に、太后の計画に巻き込まれる可能性も高い。


レン達はエルヴィンに対し、慎重に議論し始めた。



ウォルターが腕を組みながら、静かに口を開いた。




「アルデール殿下に伝えるのは当然として、エルヴィン殿下に太后陛下の暗躍を話せば、混乱するのは目に見えている」




レンは少し悩んだが、知っているのと知らないのとでは、行動の仕方が全く異なって来る。




「でも、何も知らないままでエルヴィン皇子が利用されたら? それこそ危ないんじゃない?」


「確かに…エルヴィン皇子様は、アルデール皇子様の事を心から信頼している。多分、太后様以上に…そんな彼に、真実を伝えるなんて…想像するだけで胸が痛いですね」




レンは少し考え込み、慎重に言葉を選んで答えた。




「エルヴィン皇子にも、全てを伝える必要があると思う。彼もまた、アルデール皇子と太后様の間で揺れ動いているんだもの。これ以上、彼が太后の計画に巻き込まれないよう、何らかの形で注意を促すべきだよ」


「エルヴィン皇子ならば、信じてくれるだろうが…あの方は病弱なのだ。無理はさせられない」

「病弱なのは太后のプレッシャーの所為だろ。いい加減解放してやらないと、あいつはいつか壊れちまうぜ」




フウマが口を挟む。

その物言いに、レンも同意だった。




「昔から病弱だった――なんて、太后様が言っているだけ。あんな風にプレッシャーを与えられ続けてたら、心も身体も弱っちゃうよ。まだ若いのに…」




スライムが不安そうにレンを見上げる。




『でもさ、エルヴィンおーじ様は優しいから、何か言ったら、逆に悩んじゃうかもしれないよ?」


「もし伝えるなら、太后の直接の悪事ではなく、王宮内の情勢が不穏だと言う形に留めたっていい。あくまで、彼自身を守るためという名目で」




レンの言葉に、ウォルターが頷く。




シリウスは暫く黙っていたが、やがて口を開いた。




「それなら、俺がエルヴィン皇子に直接会って話す。太后様の具体的な陰謀には触れず、アルデール皇子が狙われる可能性がある事を伝えるだけに留める。そして、彼が太后陛下の意向に安易に従わないように――でも、傷つけない言葉で」


「頼む。お前の誠実さは、きっとエルヴィン皇子にも伝わる」




レン達の視線は、地図の中央に描かれた王城へと向けられた。




「わたし達は、何処の警備に当たるのでしょうか?」

「俺は騎士団の精鋭達を率いて、王座の間の警備に当たる。ウォルター達も其処を待機して欲しい」

「解った」


「アルデール皇子もエルヴィン皇子も、この国の未来を担う存在だ。そして彼らを守るのは、俺達に課された使命だ。何としても、継承式を無事に終わらせる」




ディーネが不安げに尋ねる。



「でも、もし本当に事件が起きたら、どうしましょう…誰かが傷ついた時の為に、わたしは救護用にアイテムも揃えておきます!」

「うん。準備はしておいた方がいいね。不測の事態に備えて私も買っておかなきゃ」

「金はあるのかよ? あんた、此処に来てろくにクエスト請けてなかったんだろ?」




フウマの言葉は図星だった。

この国に来て、クエストを殆ど受けていない。


たまに城の中で困っている人のお手伝いをしたりはしていたが、報酬と金銭を受け取る事はなかった。

せいぜい、感謝の気持ちくらいだ。


寧ろ、無償で衣食住を提供してくれている身である。

このまま此処に居続けたら、結局のところ怠惰な人間に成り下がるだろう。


回的すぎる生活もよくない。

しかし、日々借金を細々と返しているとは言え、そろそろお金が其処を突きかけているのは、間違いなかった。




「…マ、マモンさんにまた借りるかな…っ!」

「バーカ。そうして借金ってのは増えて行くんだ」


「各自、起きた時の為の準備もしておこう。その上で、事件を未然に防ぐのが最優先だ」


「そうだな。皆、それぞれの役割を果たそう。私たちの力で、この国を守る。」




全員が頷き、それぞれの決意を胸に、その場を後にした。


緊張が高まる中、継承式に向けた最後の準備が進められていく。




お読み頂きありがとうございました。

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