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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、危険なお茶会をする



レンが案内される太后の部屋は、城内でもひときわ豪華で洗練されている。

金の刺繍が施された深紅のカーテンが揺れ、中央の大きな窓からは柔らかな陽光が差し込む。

装飾が施された棚には、高価な調度品が整然と並び、部屋全体に静謐な威圧感が漂っている。


太后は窓際の椅子に腰掛け、まるで舞台の女王のように威厳ある姿を見せつけている。

その眼差しは穏やかそうだが、奥には冷たい鋭さが宿る。

レンはスライムを肩に乗せて、慎重に部屋へ足を踏み入れた。


侍女達が無言で出ていき、部屋には太后とレンだけが残る。




「ようこそ、レン。座りなさい。」




太后が手を軽く振ると重厚な椅子が静かに動き、レンの背後に現れる。

その光景に目を丸くすると、太后はくすりと笑った。




「魔法を眼にするのは初めて?」

「エルヴィン皇子の訓練で少し…」

「そうだったわね。あの子は私に似て、魔法に長けているの」

「失礼します」




レンは一礼して椅子に腰を下ろす。

スライムは肩からぽん、と膝の上に飛び降りた。

太后が小さなスライムに目をやれば、少しだけ顔を顰めた。




「私は、小さな子どもが苦手だと言ったと思うのだけど?」

「すみません。この子は大人しいので…」

「まあいいわ、まずは感謝を伝えなくてはね。私の息子に手を貸してくれている事を、母として感謝するわ」




『息子』と言う言葉に、レンもまた眉を顰める。

その言葉は、明らかにエルヴィンのみを指し示しているような気がした。




「…いえ、私はただの冒険者です。それに、エルヴィン皇子やアルデール皇子には、寧ろ助けていただいてばかりで」

「謙虚な言葉ね。でも、ただの冒険者というには、貴女は少し目立ちすぎるわ」




レンは、僅かに緊張した表情で口を開く。




「そう、でしょうか」


「ええ、特にエルヴィンには、貴女が良い影響を与えているように見える。特に、あの子の魔法の素質が見る見る内に上がっているような気がしてなりません」




それはきっと自分ではなく、マオの影響だろう。

一度マオがエルヴィンの前で魔法を披露してからは、彼は前のめりに訓練に励むようになっていたのを、レンは知っている。


レンは魔法をよく知らない。

だから、訓練でエルヴィンの力が磨かれているのは、彼自身の努力の賜だ。




「それがどれほど貴重な事か、貴女自身分かっているかしら?」

「…エルヴィン様がどのように受け取っているかは分かりませんが、私なりに出来る事をしているだけです」

「あの子は――エルヴィンは、特別な子よ」




太后の声が少し低くなる。

その目には深い愛情が浮かんでいた。




「その才能と知性は、この国を新たな高みへ導く可能性を秘めているわ」

「ええ…エルヴィン皇子の才能には目を見張るものがあります」


「ただ、才能を持つ者ほど周囲から妬まれる。貴女も見てきたでしょう? 天才と呼ばれる『兄』をもつあの子が、どれほど孤独で、そしてどれほど周囲に理解されないかを」


「…確かに、アルデール皇子は素晴らしい方です。勿論、エルヴィン皇子もですが」


「だからこそ、あの子には味方が必要なの。貴女のような存在がね」




太后がじっとレンを見つめる。

その瞳には明らかな意図が宿っているような気がしてならなかった。




「…私が、ですか?」


「ええ。冒険者である貴女は、城の人間とも貴族とも違う立場。エルヴィンにとっては信頼しやすいでしょう。けれど――間違っても、アルデールに肩入れするような真似はしないで頂戴」


「…」




太后の言葉の裏にある意図に気付き、レンは思わず口を閉ざした。

明らかにアルデールを敵視するような物言い。


これは『警告』ととっていいのだろうか――




「太后様…アルデール皇子もまた、立派なお方だと思います。国の未来を真剣に考えていらっしゃる」


「ええ、もちろん。あの人も国王様の血を受け継ぐ者として、それなりの役目を果たしているわ。でも、剣を振るうだけでは国は治められない。それは分かっているでしょう?」


「…」

「王位継承の問題というのは、それほど単純なものではないの」

「はい、その事についても、少しずつ理解しているつもりです」




「私が言いたいのは、貴女がどちらに肩入れするかで、貴女自身の立場も変わるという事よ。無謀な選択はしない事を祈っているわ」




太后の言葉は一見穏やかで母親らしいが、その裏には明らかな駆け引きがある

この会話は、彼女がレンを巻き込み『護衛』の立場を利用しようとしている子よを暗示している。

また、レンがそのことに気付きつつも、どうすれば良いか、決断を迫られる緊張感を生んでいた。




「貴女はテイマーだそうね?」

「え、えぇ」

「…私の王国に、随分と面白い力をお持ちの方が現れたものだわ」




彼女の声は滑らかで、優美な響きを持ちながらも、何処か突き刺すような冷たさが含まれている。

彼女の視線がレンを見据えると、その瞳はまるで底の見えない深淵のようで、ふとした瞬間に僅かに鋭く光ったようにも見えた。

その光は、何処か禍々しさを思わせて、思わず背筋が凍る。


レンは無意識の内に身構え、太后がただ者でない事を強く感じ取っていた。




「エルヴィンを、私の可愛い息子をね。いずれは王にしたいと思っているの。この国を魔法王国の様な相応しい王に育って欲しいわ」




その言葉は一見するとただの親心。

しかし、レンにはその背後にある欲望が透けて見えるような気がした。



王国を『私の』と称するあたり、それが窺えてしまう。




「だからレン。貴女にも協力して欲しいの。エルヴィンの為にね。」




その言葉の響きに、レンは一瞬だけ視線を逸らした。


彼女の言葉に従うべきか、少しでも応じるべきか迷いが生じるものの、太后の瞳に宿る何かが、レンの心の警戒心を一層強くしていた。

表情には出さないが、太后が放つ気配に、背筋がまた少し寒くなるのを感じている。




「…アルデール皇子が王になるのは、認められないと?」

「アルデールはね…ええ、あの子は少々厄介なの。私に警戒心を抱いているみたいで」

「警戒心?」

「私の姉――つまりあの子の母親が亡くなり、側室だった私が正室になった。あの子からしてみれば、その立場を奪ったも同然です」




元々太后は側室に過ぎず、正室だったのは彼女の姉だった。

それが不運な事に、アルデール皇子が幼い頃、病気で亡くなった。

その後に、側室だった彼女が太后の座に就き、今に至る――と言う。




「それは…でも、ご病気だったのですよね? そう聞いています」


「えぇ、えぇ。姉は流行り病に罹り、命を落としました。彼女が亡くなったと、幼かったアルデール皇子にお話しするのは酷な事でしょう? 何も知らないまま、私が正室になった事で、あの子は私に『母の居場所を奪った者』として、敵意を向けているのです。私はただ、姉の代わりにあの子の母でありたかっただけなのに…」


「えぇと…アルデール皇子のお母様については、お話したんですよね?」

「勿論です。彼が私の話を理解出来る年齢だと、判断した時には」




彼女は悲しそうな顔を見せながら、アルデールに対して僅かに軽蔑の色を滲ませている。

本当に彼女は、亡くなった姉の代わりにアルデールの母になりたかったのか?

それならば、どうしてアルデールは今もずっと敵意を向けているのか。


その一方で、エルヴィンの事を語る時は、愛情の裏に隠れた執着が見え隠れし、レンの心にはますます疑問が浮かんだ。

何故太后は、これほどまでに二人の皇子に対する態度が違うのか、そして何故レンにその手助けをさせたがるのか。




「どうかしら? それにエルヴィンが王になる事で、貴女にも良い事があるかも知れないわ」

「いい事?」


「エルヴィンが貴女を気に入っているのなら、それなりの待遇を致しましょう。継承式が終わった後も、この城に滞在するといいわ。王たるあの子の護衛が出来るんですもの。これほど喜ばしい事ないでしょう」




その言葉には魅力的な響きが込められているが、レンにはそれが甘い罠であると感じ取れた。

太后の本質に触れた気がしたレンは、内心でこの誘いを拒む決意を固める。




「エルヴィン皇子には、立派な資質をお持ちです。でも…私はただのテイマーですので、お役に立てることがあるかどうか…」




レンはあくまで控えめに返答したが、その裏には毅然とした拒絶の意志が込められていた。

第一、この国に留まっているのは『魔法王国』への道が、閉ざされているからに過ぎない。

継承式が終わり、封鎖された道が解放されれば、レンはまたウォルター達と旅に出るのだから。


レンにこの国に留まる理由はない。




「…まあ、仕方ないわね。ですが、いつか心変わりする日が来ることを期待しているわ」




そんな拒絶の意思を悟ったのか、太后の微笑みは微かに歪み、鋭い眼光が一瞬だけレンを射抜いた。

その瞬間、レンの心にまるで爪を立てられたような痛みが走る。




「貴女のような立場の者は、下手に動くと命を落とす事になるわ。忠告よ、気をつけなさい。」




つまり、エルヴィン皇子につかなければ、私の身が危ぶまれる。

そしてきっと、ウォルター達もを巻き込んで、ただではすまなされないだろう。

太后はそれを示唆しているのだろうか。


レンは内心の動揺を隠しつつ、ゆっくりと頭を下げた。




「ありがとうございます、肝に銘じます」

「ええ。それが賢い選択というものよ」




太后の美しい微笑みに、レンは背筋が凍るような感覚を覚えた。

膝の上に乗るスライムもまた、彼女から視線を逸らすように、背を向けている。




「あの――侍女の件に何か進展はありましたか?」

「侍女? …あぁ、あの子ね」




太后は軽く息をつき、やや伏し目がちに話を続けた。




「侍女の死は、心が痛みます。私達の国で、こう言った不幸な事件が起こるなど、悲しい事…」




レンはその言葉に違和感を覚えた。

太后の声には感情がこもっておらず、あまりにも平静だったからだ。




「確かに、王宮内でこれほどの事件が起こるとは。ですが…何者かが意図的に口封じをしたようにも思えます」




それは、フウマが言っていた言葉だ。

すると、太后は微笑みを浮かべたまま、目を細めた。




「口封じ…なるほど。そうお考えになるのも無理はありませんわね。ですが、このような悲劇が、私達の国の未来をより良くするための一歩となるのであれば、それもまた必要な事なのかもしれません」




その発言は、一見無関係なようでありながら、何処か意味深だった。







――ゴーン、ゴーン…




厳かな大時計の音が室内に鳴り響いた。

静かな部屋にその音だけが、まるで時間の重みを強調するかのように響く。

レンはその低く重い鐘の音に、はっと我に返った。




「(もう一時間も経ったのか…)」




太后に招かれたお茶会――いや、実際は意味深な言葉の応酬。

表向きは優雅な談笑の場に見えても、その言葉の裏に潜む針のような鋭さが、レンの神経を静かに削っていた。


太后は相変わらず優雅にティーカップを手にしていた。

その微笑みは完璧に作り上げられており、レンの隙を探るように観察している。


太后は微笑みを浮かべつつ、淡々と言った。




「ふふ…お茶はいかがでしたか? 王宮にお招きする客人には、最高級の茶葉を用意するのが礼儀ですからね」




レンはカップを静かにテーブルに置き、柔らかく笑う。




「恐れ入ります。とても美味しいお茶でした」




レンはなるべく穏やかな表情を保ちつつ、内心では太后の微妙な言葉の間合いに緊張し続けていた。

太后の言葉は常に何かを探るような、含みを持った響きがある。それを無視して立ち回るのは至難の業だった。


彼女は大時計に一瞥をくれると、微笑んだままレンへと視線を戻した。




「時の流れというものは、つくづく残酷ですわね。大事な時間は、あっという間に過ぎ去ってしまうものです」




その言葉に、レンは心の中で冷や汗を感じながらも、表情を変えずに答える。




「確かに、貴重なお時間を頂き光栄に思います。ですが…そろそろ私は失礼いたします。護衛の役目もありますので」




太后の目が僅かに細められた。

まるで、レンの言葉の裏にある本心を見透かそうとするかのようだ。




「少しだけお付き合いくださった事、感謝致します」




レンはその皮肉のような礼に、笑顔を崩さないよう細心の注意を払いながら立ち上がる。

太后の前では、言葉一つ、動作一つが試されているような気がした。




「滅相もございません。太后様とお話が出来た事、私にとっても大変貴重な時間でした」




レンが丁寧に一礼し、退出の姿勢を見せると、太后は静かにカップを置いた。

その音が妙に鋭く響き、レンの耳に残った。




「レン」




太后は声のトーンを少し落とし、レンを呼んだ。




「これからも、どうか『お体には気を付けて』下さいませ。エルヴィンの為に、よろしくお願いしますね?」




その言葉には、優しさとは程遠い、ぞっとするほど冷たい響きが含まれていた。

レンは背筋に一瞬、冷たいものが走るのを感じたが、それを悟られまいと頷く。


レンは、笑顔のまま答えた




「ご忠告、ありがとうございます」




太后の部屋を出た瞬間、レンは無意識に息を大きく吐いた。

その緊張感に耐え続けた自分を、スライムが肩の上から見つめている。


スライムがぷるんと震えた。




『…レン、お顔が怖いよぅ』




何処か怯えたようなスライムに、レンは苦笑しながら小声で言う。




「いや…無事に終わっただけでも奇跡だよ」




レンは少しだけ振り返り、太后の部屋の扉を一瞥する。

そこにはまだ、あの冷たい微笑みが残っているかのような錯覚すら覚えた。




「…それにしても、あんな釘を刺されるなんて」




傍目から見れば、太后の言動は『子を想う親』だ。

しかし、それはただ一人―-実子であるエルヴィンにのみ、注がれた愛情のである。




「(あの人、何かを企んでいるような…)」




レンの胸に、太后の不気味な言葉と微笑みが、氷のように冷たく残っていた。




「…あの方の笑顔は心臓に悪いな。全然笑っていないのに、笑顔だけは完璧なんだもん」


『ボク、もう此処には居たくないや…』




スライムの素直過ぎる言葉に、レンはふっと少しだけ笑いを零した。




「そうだね。皆の所に戻ろう」




嬉しそうに笑うスライム。

その顔に笑顔が戻った事に、レンもまたう喜んでいた。




『あっ。まお―様だ!』




レンがふと顔を上げると、廊下の向こうから、こちらをじっと見つめている小さな影――マオが立っていた。

レンは目を丸くして驚く。




「えっ、マオちゃん!? どうして此処に?」




マオは腕を組み、何処か不満げな表情でレンを見つめている。




「お前が変なところに行くからだろう。危なそうな気配がしたから様子を見に来た」

「心配してくれたの? ありがとう」




その言葉に、マオはぱっと明るい表情を見せた。




「でも一人で歩き回ったら危ないよ。この城は広いんだから、迷子になっちゃう」

「レンじゃないから大丈夫だ」

「ぐっ…確かに今でもよく道に迷うけど…っ」




この城の中でレンが移動するのは、食堂や訓練場、皇子の居室と言った、決められた空間だけだ。

護衛として何とも不甲斐ないが、そろそろ此処での生活も一か月が経つくらいにはお世話になっているのだから、いい加減覚えるべきなのはレンの方である。




「話は終わったのか?」

「うん」

「菓子も出たのか? 美味かったか?」

「あはは…お茶を飲んだだけで、お菓子はとてもじゃないけど、喉が通らなさそうだからやめたよ」




太后との対談には、終始緊張の位置を張り巡らせていた。

その為、紅茶の味がどんなものだったかさえも、レンはよく覚えていない。




「食わなかったのか」

「粗相をしたような事はないとは思うけど…やっぱり出された物に手を付けないのは、失礼だったかな」

「いや…手を出さなくて正解だろうな」

「え?」

「もしかしたら、菓子には『毒』が仕込まれていたかも知れないからな」




一瞬、マオが何を言っているのか、理解が遅れた。

そして同時に、アルデールの食事に仕込まれていた『痺れ薬』の件が、脳裏によみがえる。


お菓子は太后が用意したと言っていた。



まさか、あの中に『毒』が――…?




自分の顔が見る見る内に強張って行く。

それを見て、マオは途端にい肩を竦めて見せた。




「もしかしたらの話だ。それくらい、警戒心は持っておいて損はない」

「やめてよ。これ以上の緊張感には堪えられない…」

「狙うならアルデールだろうからな。間違っても護衛が狙われるなんて事はない」

「…きっとまた狙われるよね?」

「向こうも事態が公になって、雑になっているくらいだ。焦っているのかも知れないな」




確かに、侍女の亡骸がそのまま放置されていては、見つけて下さいと言っているようなものだ。

寧ろ秘密裏に始末して、痕跡を残さないようにしてもいいくらいなのに。




「誰が侍女を殺したんだろう」

「さあな。だが、太后には気を付けた方がいい」

「マオちゃんは、太后様が怪しいと思ってるの?」

「あの女が関係ないとは言い切れないんだ。お前が言い包められなくて少し安心したぞ」

「き、聞いてたのっ?」」




その言葉に、レンは驚いた声を出す。

何処から聞いていたのかと聞けば、勿論『最初から」だそうだ。




「何を驚いているんだ。オレの耳を侮るなよ?」

「は、はは…流石魔王様」




マオの小さな体から漂う、不思議な威圧感に、レンはふと冷や汗を感じた。




「そう――オレは魔王だ。だからこそ、あの女もそれを警戒している」

「え?」

「魔力がある人間なら、同じように魔力を持つオレの力量を測れるだろうからな」

「じゃあ、マオちゃんが魔王だって、解る人には解っちゃうんじゃ…?」



例えば、エルヴィン。

例えば、太后だ。


だが、エルヴィンがマオの正体に気付くどころか、今や尊敬のまなざしで見ている。




「今のオレは子どもだぞ? こんな子どもが『魔王』だなんて、誰が信じるんだ」

「普段から、自分が『魔王だ』なんて言う人の言う台詞…?」

「少なくとも、本気でそれを受け止める奴は、今までそう居なかっただろ?」

「ま、まあ。そうだけど…」




逆に太后は、初めからマオを警戒する様に、自分の傍には近付けさせようとはしなかった。

それが『魔王』だからなのか、それとも本当に『子ども』だからなのかは解らない。

しかし、太后は無意識に『何か』を感じ取ったのだろう。

マオの存在に対する警戒感は、彼女自身も理解していないかも知れない。



考える事が次から次へと増えて、レンの頭はパンクしそうだった。

此処は場所を変えて、皆と話し合うべきだろうか。


何処からどう話すべきだろうかと悩むレン。

そんな彼女の手を、マオの小さな手がぎゅっと握り締めた。




「そんな顔をするな」

「えっ…」

「任せておけ。いざとなれば、あの女に何か仕掛けられても、オレがぶっ飛ばしてやる」




マオの言葉に少し気が楽になったレン。

だが、同時に胸の中には小さな疑念が残る。


太后がマオに無意識に警戒するくらい、太后には危険を察知する力があると思ってよさそうだ。



マオはそんなレンの心配を察するかのように、平然と歩き出す。




「おい、行くぞ。此処に長くいるのはまずいんだろ?」

「そうだね。早く戻ろう」




レンは最後にちらりと太后の部屋の扉を振り返る。

その向こうにいる冷徹な笑顔を持つ太后を思い出し、無意識に息を吐いた。



スライムが楽しそうに跳ねながら、レンとマオは廊下を進む。

小さな後ろ姿だが、そこには確かな信頼感と、魔王としての強大な力が潜んでいる――




また、何かが起こるかも知れない。

もっと警戒を強めなければ。



この先の波乱を予感させながら、レンは王宮の長い廊下を進んでいった。





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