新米テイマー、新米冒険者になる
『冒険者ギルド』
此処では『冒険者』と呼ばれる人が集っている。
どの街にも一つは必ず施設が存在しており、『クエスト』をこなした冒険者に報酬を支払うと言った、冒険者稼業の斡旋をしている。
ーーと言うのが、宿屋の看板嬢に教えて貰った内容だ。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
「え。宿屋の受付嬢…?」
そして私は、早速訪れたその場所で、彼女と同じ顔をした受付嬢に出会った。
その女性は、服装こそ違いはあるものの、全く同じ女性だった。
宿屋の看板娘は、冒険者ギルドでも受付嬢をしているのだろうか。
レンが驚いた顔をしていると、彼女は少しだけ首を傾げてーー『あぁ!』と、頷いては両手を合わせる。
その姿までもが、彼女と同じだとレンは思った。
「もしや、レンさんですか?」
「は、はい」
「妹から連絡を受けていますよ。冒険者として登録をなさりたいと!」
「妹!?」
はい!と、元気よく頷く彼女は看板娘の『姉』だった。
確かに先程『お姉ちゃん』が居ると言っていたばかりである。
しかし、それを知らなければきっと、同一人物だと間違えていた事だろう。
失礼な事を言う前に理解出来てよかった。
「姉妹なんですね、双子の」
「いえ、三つ子です」
「えっ」
「宿屋は一番下。そして『職人ギルド』に、真ん中の妹が居ます」
ニコニコと笑う冒険者ギルドの受付嬢は、服装が違うだけで、顔や目鼻立ちなどが全く同じに見えた。
双子、いや三つ子なんだから当たり前だ。
もう既に失礼な事をしでかしてしまった!
そうして深々と頭を下げるのは、今日で何度目だろう。
「うふふ。よく間違われます。本当にスライムを連れてらっしゃるテイマーなんですね。…っと、失礼致しました」
其処まで言うと、受付嬢はコホンと咳ばらいを一つした。
「では『冒険者ギルド』についてのご説明をさせて頂きますね」
「お願いします」
「此処では『冒険者』の登録・破棄を行っております。冒険者になると『冒険者証』が発行され、それがご自身の身分証明になります」
・Chips!
【■『冒険者証』…冒険者を名乗るなら持っておくべき!▼】
…なんか、目の前に変なウィンドウが出て来たよ?
「『冒険者』として登録すれば、『クエスト』を受ける事が出来ます。内容や報酬はランクごとに様々で、あちらの『クエストボード』に一覧がありますので、受注して下さい」
・Chips!
【■『クエストボード』で『クエスト』を受けよう!▼】
また、ウィンドウが…
本当に何、このはログ?
いきなり現れた『ウィンドウ』は、受付嬢の言う言葉をなぞり、要点だけを書き出している。
自動筆記の様な気もしなくはないが、『これ』が何なのかは理解に苦しんだ。
気にしないように…と思っても、余程重要な事なのか、目を逸らした所でそれは執拗に追いかけて来る。
なにこれ、邪魔なんだけど。
「あの…? 申し訳ありません。説明が早かったでしょうか」
私の注意散漫な行動に違和感を覚えたのか、彼女は少しだけ困惑したように言った。
人の話を聞く時は目を見るようにって教わらなかったか、私!?
いや、このウィンドウ、マジ邪魔だわ…
せめてもう少し端に寄って欲しい――そう願ったのがよかったのか、ウィンドウがススス…と静かに視界の端にずれた。
マジか、有能だな。
「あの…」
「い、いえっ。大丈夫ですっ。続けて下さい」
「はい。『冒険者ランク』は『F級』から始まり、『E級』『D級』『C級』と言ったように徐ランクを上げる事が可能です。また、冒険者ランクを上げるには『昇級クエスト』をクリアして下さいね」
・Chips!
【■『冒険者ランク』を上げよう! ランクによってクエストの内容・報酬は異なるぞ!▼】
此処までは、よくあるゲームでの流れだな。
とりあえず、クエストを受けてレベルを上げて、ランクを上げるのか…
『ウィンドウ』が説明の要点をまとめてくれているおかげか、とりあえず理解は出来た。
言葉で聞くよりも、文字を目にした方が覚えやすいもんだな。
そう言うところは、この変な機能は有り難いと思う。
「ランクが上がる毎に様々な『制限』が『解除』されますが、それはまたの機会にご説明させて頂きますね」
「そうですね。とりあえず冒険者として登録して、慣れたら…と言う感じで」
とりあえず、まずは身分証明を尽からない事には始まらない。
冒険者になってどうするかなんて二の次だった。
ランクを上げた所で、私が冒険者としてやっていける自信もないのだから。
「ご登録には1000Gを頂戴しておりますが、いかが致しましょう?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました」
「えっと、実はお金の使い方が解ってなくて――スライム」
「んべー」
チャリン、チャリーン
「た、確かに…」
反応が、宿屋の子と全く一緒だった。
流石三つ子…!
「それでは、此方の用紙に必要事項をお書き下さい。不明な個所は空欄で構いませんよ」
差し出された用紙は、氏名、年齢、職業等と言った一般的な欄から、職業、スキル、と言った悩みどころまで、色々とある。
とりあえず、名前は…漢字でいいんだろうか?
「異国の方ですか?」
「えっ?」
「すみません。初めてみる文字でしたので、つい」
「…読めない、ですか?」
「はい。読めないですね」
『氏名』と書かれた項目を見て、つい漢字で書いてしまったのだが、まさかの読めないとは…
じゃあ、何でそう書いてるんだ、間違えるだろ普通?
「用紙には、書く人にだけ判読出来る『スキル』が掛けられていますので」
「…スキル?」
スキルって、確か技みたいなものだっけ。
そんなものがあるなんて。やっぱりファンタジーだ。
「記入の際は、『ステータス』を見て書く事をお勧めしますよ」
「『ステータス』って、何ですか?」
「えっ。『ステータス』をご存じない…?」
もしかして、この世界での一般常識なんだろうか。
きっと皆、当たり前に知っている事なんだろうけど、私には本当に解らないんだ。
少し驚きの顔を見せた受付嬢だが、また一つ咳ばらいをして、にっこりと営業スマイルを見せる。
この子もプロ意識が高いと思った。
面倒くさい客ですみません…
「『ステータス』とは、ご自身の状態を表すウィンドウです。貴女はそれでテイマーと知ったのでは?」
「いえ。スライムが教えてくれました」
『ボクはレンがテイマーだって直ぐに解ったよー。お喋りが出来るんだもん!』
スライムとそんな会話をしていると、受付嬢は首を傾げている。
そう言えば、スライムの声は普通の人には聞こえないんだっけ…
「ぷるぷる…?」
「えぇと…私、冒険者になるのも初めてなんですが、テイマーとしてもまだまだ初心者で…っ。なので、ウィンドウ?って言うのを教えて貰えたら嬉しいです!」
自分で調べたりしてもいいが、何処から手を付けていいのか解らない。
解らない事は、素直に人に聞くのが一番だ!
「そうなのですね。では、ウィンドウ画面を出す事から覚えましょうか。まずは『ステータス』と宣言してみて下さい」
「は、はいーーステータス!」
レンは高らかに唱えた。
すると―ー
【■ステータス画面を起動します。▼】
何と目の前に、先程のログウィンドウの様に、クリアブルーな画面がパッと現れたではないか。
画面の上部には『ステータス』と書かれており、左には人の姿が映し出されている。
そして右には、氏名、年齢、性別と言った項目が幾つも連なっていた。
「な、何、これ…?」
「見えますか? その『ステータス』はご自身のものなので、貴女にしか見えません」
・Chips!
【■『ステータス』…自分やテイムした魔物の状態を確認出来る。各パラメーターや装備、スキルの確認も此処で!▼】
「レベルが上がると『パラメーター・ポイント』が増えるので、選択して振り分けて下さい。『スキル・ポイント』も同様にレベルを上げたり、習得出来ますよ!」
・Chips!
【■『PP』…パラメーター・ポイント『SP』…スキル・ポイント 振り分けて強くなろう!▼】
『他にも様々なウィンドウがありますが、冒険者ランクを上げる事で解放されます。詳しい事は『マニュアル』でご確認下さい』
「じゃあ、とりあえず『ステータス』と『インベントリ』、それに『マニュアル』だけ覚えておけばいいか…」
「はいっ。是非とも自分だけの『マニュアル』を作って下さいね!」
「自分だけの…?」
・Chips!
【■【インベントリ】…アイテム欄。【スキル:異空間収納】の中身も此処で確認出来るよ!▼】
一度に説明されても、覚えられる気配がなかった。
後で学人出来ると言う話だし、暇な時に目を通すのがいいだろう。
流し読みをしていた自分のステータスを、改めて見る。
名前は、レン・アマガミ。『天神 レン』ではないのか。やっぱり外国風かな?
ランクは『F級』
いきなり『S級』だとか、そんなチート設定はなかった。
ステータスに映る顔は、幼い顔の私が居る。
写真(?)映りがいいと思っていいんだろうか、これは。
年齢は…18歳?
「疲れてるのかな。見間違いかな…」
何度か目を擦り、改めてステータスウィンドウを凝視する。
何度見ても間違いない――18歳だ。
「…は?」
「どうしました?」
「おーい。姉ちゃんまだかー?」
「えぇと…何でも、ない、です…」
とりあえず、此処でモタモタしていると後が支えてしまうのは解った。
私の後ろでは、他にも順番待ちしている人も居るのだ。
しかし、ササッと書いている間に、受付嬢はテキパキ対応し、混雑を見事に解消している…凄くない?
「それでは此方が『冒険者証』となります。再発行には手数料がかかるので、失くさず大事にして下さい」
程なくして、手渡されたのは一枚の小さなカードだった。
丁度、運転免許証と同じくらいの大きさ、厚みである。
表には顔写真と、先程記入した内容が印字されていた。
裏面を見てみると、何かのロゴが入っている――冒険者ギルドを象徴するロゴだと気付いた。
漸く手に入れた身分証明書を眺め、感慨深くなるのだが…
しかしながら、やはり違和感は拭えない。
「あのぉ…私って、こんな顔なんですか? 本当に?」
「えぇ、そうですが…あっ! お化粧してからの方がよかったですか? そのままでも映りは十分だと思いますが…」
寝起きで顔を洗ってない事が大問題ではない。
顔はちゃんと洗ったし。
次にすっぴんで外を歩くには、見る人に失礼だと思ってた。
顔写真を改めて見る。
18歳の時の私だ。
やはり、洗面所で見た姿は間違いではなかった。
35歳のすっぴんしては、肌がもちもちとしてとてもキメも細かく、綺麗だった。
「…マジか」
一体全体何が起こっているのやら。
もしかして、これが本当は異世界転生の『ボーナス特典』って奴だろうか。
あげないとか言っていたのに、実は優しいとこがある?
カミサマも粋な計らいをしてくれる。
「若返って嬉しいっ!!…って喜べば満足ですか?」
「え?」
「あぁ、すみません。つい」
誰に言うでもなく、独り言が語る。
自分が若返ったのは受け入れよう。
異世界転生をしている時点で、こう言ったトラブルやイベントはつきものだと、腹を括ってもいい。
まあ、他人の人生をなぞってニューゲームしたりするのも、楽しそうだったけど、こうなったのなら仕方がない。
てっきり別の誰かの人生を歩むとか、そう言うのを期待したりもしたが、私は私――『天神 レン』だった
あ、今は『レン・アマガミ』か
じゃあ、名乗る時は『レン』でいいかな。
『かわいいねー』
私の手にある『冒険者証』を一目見ようと、スライムがぴょんっと肩に乗って覗き込んでいる。
「か、可愛いって…」
「くすくす…スライムさんも褒めてるんですかね? うふふっ」
手のひらサイズの、それをしっかりと服のポケットに収める。
失くさないようにしよう、手数料を取られるのも嫌だし。
「また解らない事があれば、お申し付け下さい。良い冒険者ライフを。そして神のご加護があらんことを――」
これで『冒険者』として登録は完了したらしい。
このまま宿に戻るのもよかったが、せっかくだし中を少し見学させて貰おうと思った。
この世界の事を知るには、まだまだ情報が少なすぎた。
『冒険者』は『クエスト』を受けると言っていたな。
何があるのか、ちょっと気になるところだ。
「クエストボード、見て行こうかな」
冒険者ギルド内は人の姿が多かったが、中でも『クエストボード』の前には人だかりがある。
基本的に、クエストは此処から受注する様だ。
ボードを眺めていると、それぞれ『仕事内容』『冒険者ランク』『報酬』と言った風に内容が用紙に記入されている。
貼っている場所は雑多で乱雑だが、それだけクエストの数が多い証拠なのだろう。
「わっ!?」
クエストボードに近付くと、突然目の前に『クエスト確認』と言うログウィンドウが現れた。
ウィンドウと言うものは解ったが、突然目の前に現れると、ちょっと心臓に悪い…
どうやら、此方の画面では『カテゴリ』や『ランク』ごとに振り分けられているようだ。
確かにこんなに多くては、何処にどんな内容のクエストがあるのか、解りにくい部分もある。
「F級からS級までいろいろあるんだ。でも、今は『F』と『E』しか受けられないみたい」
Chips!
【■『クエスト』…自身の冒険者ランク一つ上まで受注可能だよ。それ以上は死んじゃうよ!】
――死んじゃうよ…?
「…ま、まあ、同じランクぐらいでいいか」
いきなり『死の宣告』をされて、ちょっとだけ気分が暗くなった。
軽々しく『死んじゃうよ!』なんて、言わないで欲しいなっ。
とりあえず、『F級』のクエストを探してみる事にする。
ランクを上げるには、依頼――クエストを受ける、達成するの繰り返し。
達成する事で、眼には見えないが『経験値』というのが入るのだろう。
そうする事でレベルが上がり、強くなって行くシステムの様だ。
一般的なRPGゲームだと思えば、理解は早い。
次のランクである『E級』には、どれくらいのレベルで挑むのがいいんだろうか。
『E級』と言えば、お食事処で絡んで来たヤジ男がそのランクだったっけ。
クエストは内容が様々で、討伐・採取・納品・護衛なんてのもある。
討伐は怖いし、護衛も腕に自信がない。
出来る事と言えば、採取や納品だろうか。
手持ちのお金を増やしておきたいが、今は納品出来るアイテムは持っていない。
此処は採取のクエストを選ぶ事にしよう。
【クエスト名:小石集め。エリア:草原 報酬:300G】
【小石が欲しいんじゃ! 沢山集めてくれ!】
小石が欲しいなんて、何かに使うのだろうか。
しかし、クエストを依頼した人について、余計な詮索は不要だろう。
とにかく小石を集めればいいらしい。
草原と言うのは、昨日森を抜けた時に見た、街との間にある場所かな?
「ねぇ。草原エリアって解る?」
『森を抜けて通って来た道だよー』
「あぁ、やっぱりそうなんだ。じゃあこれにしようかな」
小石を集めるだけで300Gとは、高いのか安いのか解らないが、今のレンには大切な収入源だ。
クエストを受ける事を決めると、早速受付嬢の元に戻った。
「早速クエストをお受けになるんですね。此方は『採取クエスト』となります。特に個数の指定はありません」
「じゃあ、何個でもいいんですね」
「はっ。F級にはお似合いのクエストだな!」
「うん?」
鼻で笑う様な言い方に其方を見ると、お食事処で会ったヤジ男が居た。
「小石でも、投げりゃHP1ぐらいは削れるだろうなぁ。20回当たればその辺の魔物くらいは倒せんじゃねぇ?」
「20回も投げたら、肩が爆発するわ」
「非力にもほどがあんだろっ!?」
此処に来ていたのか…
相変わらずちょっかいかけて来るし、関わり合いにならない方がいい。面倒だ
「俺は今からパーティを組んで討伐だ!」
そうか、ソロだけでなく、パーティを組む事もあるのか。
まあ私は組む人も居ないんだけど。
「あ、どうも」
「…あぁ」
「おいっ。無視か! F級テイマー!」
パーティの中には、あの大剣使いも居る。
何となく会釈をしたら、ちょっとだけ驚かれた。
それにしても、いちいち突っかかって来るの、何なのこの人。
嫌な奴! もう会いたくない!
『ステータス』
氏名:レン・アマガミ
性別;女
年齢:18歳
職業:テイマー(F級)Lv.1
スキル:テイム…魔物を手懐ける
パッシブ:なし
『装備』
服:宿屋のパジャマ
足:宿屋のサンダル
『スライム』
種族:スライム’(F)Lv.1
スキル:おくちてっぽう…おくちから何か出て攻撃する。
異空間収納…何処に繋がってるかスライムも解らない。
分裂…スライムを分裂させる。数は増えるが能力が僅かに落ちて行く。
パッシブ:夢見る子供…『伝説のスライム』を夢見る無垢な心の持ち主。効果はなし。
お読み頂きありがとうございました。