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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、祝福する


「それじゃあ、ウォルターのB級昇格を祝して乾杯!」


「「かんぱーい!!」」




レンが音頭を取り、全員がグラスを高く掲げる。

賑やかなお祝いパーティーが、街の飲み屋で始まろうとしていた。

パーテーの主役であるウォルターは、少し照れ臭そうな表情で笑った。




「ただB級になっただけで大袈裟だぞ?」

「だってB級って言ったら『ベテラン冒険者』らしいじゃない」




レン現在『一般』であるように、B級からは『ベテラン』として冒険者の格が上がる。

その証拠に、ウォルターの持つ冒険者証の色がまた変化していたのは、先程確認済みだ。




「その調子で一気に『S』まで上がってしまえばいい」




ビールジョッキを片手にシリウスは笑う。

彼もまた親友であるウォルターのお祝いに駆け付けていた。




「お前、自分がS級だからってそんな気軽に言うな…」

「ウォルターなら楽勝だ」

「もう酔っているのか?」

「馬鹿を言うな。俺がそう簡単に酔うものか」

「まあ、お前だからな」




シリウスとは以前にもこうして酒を酌み交わす事はあったのだが、その時も彼のペースは速く、それでいてなかなか酔うと言う印象はなかった。

いくら呑んでも平然とした顔をしており、その豪快に笑う様子は変わらない。


そんな中、テーブルの上に並べられた豪勢な料理の品数に、ディーネは驚いて言った。




「でも、いいんですか? わたし達までご馳走になって」

「お祝いだと言うなら、今回は俺が奢るさ」

「とか言って、本当はお前が呑みたいだけだろう?」

「一人で呑むよりは、皆で呑んだ方が楽しいからな!」




そう言って、シリウスはまたジョッキを煽った。




「お前達は、こんな酒呑みな大人になるんじゃないぞ」

「おいっ。お前だって同じ酒飲みじゃないか!」

「煩い、絡むな」

「はは…」




レンは苦笑する。

今この場で彼の酒に付き合えるのは、ウォルターだけだった。


自分的には飲めるのだが、この世界では18歳はまだ『未成年』と言う括りに在るらしい。

人目を気にして外では呑めない為、そろそろお酒が恋しいと思ったりもする。


家に居る時は、こっそりと地下の貯蔵庫でワインを物色したりもしたのだが、マモンにバレてしまった。

グラス一杯毎に借金が加算だなんて、横暴過ぎない?




「でもウォルターさん、本当に凄いですね! ますます頼もしいです」

「同行していた冒険者達の力あってこそだがな。俺一人じゃ此処まで来れなかった」




ウォルターは、また照れくさそうに笑った。

同行した冒険者達は、全員が熟練の冒険者。

そしてB級ともなれば、その昇格クエストは深層続くダンジョン攻略。

敵も強く、とても骨が折れる内容だったと言う。


そんな中、ウォルターが戻ったのは次の日の早朝。

疲労が溜まっているにも関わらず、もうアルデール皇子の護衛に付いていたのを見た時は、ディーネも驚いていたそうだ。




「おじちゃんかっこいい! おめでとう!」

「ありがとう」




スライムは普段と違う雰囲気に、嬉しそうに周囲を見回した。

その隣では、マオが小さなグラスを掲げている。

ちなみに中身はオレンジジュースだ。




「強い奴は居たか?」

「あぁ、どの魔物も手強かったな。ヒーラーの判断が機転を利かせて立て直してくれたんだ。それがなかったら、危ない所だっただろう」

「す、凄い…そんな事が?」




ディーネが驚いた様子で目を見開いた。

ウォルターは頷くと、感心した様子で言った。




「あれは相当優秀なヒーラーだと思うぞ。本人は大した事ないと謙遜していたがな」

「B級を目指すともなれば、それくらい普通なんですね…」




その話を聞いて、ディーネが少しだけ肩を竦めた。

同じヒーラーとして、彼女も思うところがあるのだろう。

それを見て、ウォルターは少しだけ顔を顰めた。




「おいおい。まだディーネだってD級なんだ。これから十分伸びる可能性だってある」

「そうだよディーネ。一緒に頑張ろうっ」

「は、はい…」




大きく頷いた官女は漸く笑顔を見せる。

やはりディーネは、落ち込んでいる姿よりも笑っている方がいい。


すると、料理を口にしつつ、静かに話を聞いていたフウマが言った。




「そう言うお前らは、いつC級になるんだよ?」

「も、もうちょっと成長したら…ね?」

「そ、そうですねっ!」

「情けねぇな」

「そう言うフウマはいつC級になるんだ?」




うぉつたーの言葉に、フウマは何故か顔を顰める。




「今は忙しくてそんな暇ねぇんだよ。護衛の任務もあるしな」

「そうか…フウマならC級もすぐに上がれると思う」

「そりゃどーも。今の仕事が片付いたら、その内挑んでみるさ」




それを聞き、レンが身を乗り出さんばかりに驚く。




「えっ!? フウマも私達と一緒に、クエスト請けるんじゃないのっ!?」

「お前らに合わせてたら、いつまで経ってもC級に上がれる気がしねぇよ」




少し皮肉めいたような言葉にフウマは笑った。

彼も同じD級冒険者だが、その力量はレンやディーネとは違って群を抜いている。

特に彼の素早さは、ウォルターでさえも認める程だ。




「向上心がある事はいいぞ。うちの騎士達にも見習わせてやりたいものだ!」

「騎士達がどうかしたのか?」


「いやな。最近アルデール様がよく騎士達の演習場に顔を出して下さるんだ」

「そう言えばアルデール様は、よく騎士の皆さんと剣を打ち合いになっていますね」

「私も見たよ。とても熱心だったけど」




シリウスは頷くものの、何処か困った顔をした。




「それはいいのだが――…まあ、あの方は強すぎてな。『全力でかかれ』と言われているが、前団長の末路を知る者も多い。その所為で、今の騎士達ではろくに相手にならないんだ」


「あぁ、そう言う事か」

「それなら、あんたが相手をしてやりゃいいんじゃねぇの? 騎士団長様なんだろ」

「そうして差し上げたいのは山々なのだが、何分継承式の日まであと二週間を切っていてな。警備の見直しに忙しいんだ」




継承式での警備を盤税んな体制にする為、全ての編成を見直している最中なのだとシリウスは言う。

そのお陰で此処数日間は、ずっと団長の執務室で書類やデータと睨めっこをしていたらしい。




「お前の他に、殿下のお相手が出来る騎士は居ないのか?」

「言いたくはないが、内に騎士達は粒揃いだ。アルデール様は愚か、エルヴィン様の足元にも及ばないだろうな」




兄のアルデールは剣の使い手、そして弟のエルヴィンは魔法の使い手として、この国ではとても有名である。




「特に、アルデール様の実力は素晴らしい。あの方は剣技と素早さは、まさに稲妻の如くだ」

「その皇子様が『雷』を操るって話、本当なのか?」




シリウスは頷いた。




「その通りだ。よく知ってるな」

「街じゃ有名な話だぜ」

「この国は雨量が多く、雷の発生も多い。ある時、たまたま皇子の剣に稲妻が走ったのが原因だそうだが――あの方はその力をご自分のモものしてしまわれたのだ」


「か、雷に打たれたって事ですかっ!?」

「そんな事ってある…?」




レンとディーネは顔を見合わせる。

それはまるで避雷針の様だ。




「あの方はエルヴィン様とは違い、魔法が使えない。しかし、今は亡き前太后様の血を引き継いでいらっしゃる。あの方の魔法の血筋が、少しでも影響を及ぼした結果なのでは…と言うのが国王の見解だ」


「確か、皇子様方のお母様はどちらも『魔法王国』出身だと言うお話でしたね」


「そうだ」




実際にその強さを見た事のなかったフウマでさえ、その話は聞き及んでいた。




「ふーん。あの皇子様達って、そんなに強いんだな」

「俺もいつアルデール様に抜かれるか、うかうかしてられんよ」




話の途中、ウォルターはふと思い出して問いかけた。




「殿下と言えば、あれから襲撃の件はどうなったんだ? 侵入者は掴めたのか?」

「いいや。これが何一つ掴めてないんだ」




シリウスは一瞬言葉に詰まったが、やがて重い口を開く




「実は、未だに襲撃者の正体は掴めていない。証拠が残っていない事もあり、城の内部からの情報が流れているのか、もしくは高度な隠密が働いているのか…だが、その動機が『王位の妨害』にあるとすれば、この継承式が一つの転機になることは確かだろう」


「まるで煙に巻かれたみたい」




レンが不安そうな顔をする横で、ディーネも頷いた。




「アルデール皇子も、さぞかしご不安でしょうね…」


「もし何か裏で計画されているのだとしたら…俺達も警戒しておいた方が良さそうだ」




シリウスはそう言って、溜息を吐く。


アルデール襲撃事件に伴い、侵入者の素性や城内に手引きした者は居ないか等の調査はしているが、何の進展もないらしい。




「最近じゃ、私達の護衛も要らないって言うくらいだもんね」

「あれはただの休暇だろ?」

「それは建前で、本当は今、誰も傍に置いておきたくないのかなって思ったんだ」




だからこそ彼は『休暇』と称して、レン達を遠ざけたとも考えられる。

弟のエルヴィンでさえも、近付けさせていなかった事を思い出すと、今のアルデールは隠してはいるが、相当参っているのではないのだろうか。




「アルデール様も平静を装ってはおられるが、内心ではご不安に違いない。だからこそ自分の身は自分で…と言う事なのだろう」




シリウスはビールを盛大に煽ると、空になったジョッキをテーブルの上に置いた。

すぐに店員を呼んで二杯目を頼んでいたが、ウォルターは何も言わなかった。


皆が少しずつ神妙な表情に変わっていく中で、継承式や最近の城の動きについて、様々な話題が飛び交い始めていく。

すると、シリウスが沈んだ声で切り出した。




「この国にいる誰もが、継承式の行方を見守っているのは確かだ。アルデール様とエルヴィン様のどちらが王位を継ぐか…それが国の未来を左右するからな」


「確かに。城の者達だけでなく、街の人間もそれを噂している」




ウォルターが頷いた。




「城の中の雰囲気も張り詰めているような気がしてならない。特に侍女や使用人達までもが、いつも以上に緊張している」

「あー、それは俺も思ってた。どいつも動きが怪し過ぎるんだよな」

「怪しいって…フウマ、まさかお城の人達が何かをするって言うの?」

「襲撃される前にも食事に毒が仕込まれたりとか、暗殺未遂はあった訳だろ? またそれが起こらないとも限らないぜ」


「フウマ殿の言う通りだ。継承式まで残り二週間。気を抜く事は出来ない。継承式当日は特に混乱が起こりやすいからな。王位の継承者が正式に決まるというだけでなく、王国内の各派閥の動きも一気に活発になる。彼らの思惑がぶつかり合う場面も少なくない」




シリウスが更に深刻な顔で続けた。




「…実は、気になる事があってな」

「気になる事?」


「最近、皇后様の周りで、貴族達が怪しい動きを見せている。特に少し前からだが、魔法王国からの関係者が頻繁に訪問しているらしい。それは、表向きは交易や外交の一環とされている。

だがその訪問の裏には、太后様が何かを企んでいるのではないか――と俺は考えている」




レンは、シリウスが目を鋭くしたのを見て、周囲を見回す姿に気が引き締まるのを感じた。

幸い今回も個室を抑えていたので、他人に話が漏れる心配はない。




「最初にお前達に会った時、この話をしようとも考えたのだが…思い留まっている内に機会を逃してしまった」

「…お前にしてみたら、仕えるべき主を疑う話だからな」




シリウスは普段軽い調子を見せていても、いざという時には人一倍鋭い観察力を持つ人物だと言う事を。ウォルターは知っている。

彼が此処に来たのも、今回の祝いの席がただの『お祝い』ではなく、寧ろ情報交換を兼ねた集まりなのではないかと、そう思った。




「王位継承に関して最近少し気になる噂が流れているんだ。…特に太后様についてな」

「太后様の事ですか?」




ディーネが静かに尋ねると、シリウスは頷いて続けた。




「噂によると、太后様は王位継承に関してよからぬ計画を企てているらしい。まさか、アルデール様の襲撃に直接関わっているとは思いたくないが…」

「あの襲撃事件も、太后様…いや、誰かが意図的に仕組んだものかも知れないと?」

「その可能性は高い」




ウォルターの言葉に、シリウスは静かに頷いた。




「王位継承問題で国全体の未来が決まる。そんな時期に、太后様が何らかの思惑を抱いているとしたら、国を混乱に陥れようとしているとも考えられる、か」


「…考えたくはないがな。しかしあの方は…エルヴィン様を王にしたいと願っている。どちらが即位したとしても、継承式後は荒れてしまうだろう。それこそいつ何が起きる事やら」


「確かに。今のままだとアルデール皇子もエルヴィン皇子も、どちらが即位しても穏やかでは済まなさそうだな」




ウォルターが低く言葉を漏らした。




「継承式までには、もっと警備の強化をするつもりだ。また侵入者が現れんとも限らないしな」

「王位継承問題だの、色々とめんどくせーんだな。王族って」




皆がそれぞれ不安そうな表情を浮かべる。

皆が一瞬沈黙する中、レンが意を決したように口を開いた。




「もしも太后様が関わっているなら、私達も継承式の前に何か出来ないかな」




そんなレンの言葉に、シリウスは目を見開く。




「レン殿…?」

「太后様の秘密を暴くとか。そう言う事をしたらどうなんだろう?」

「…いや、それは難しいかも知れない。あの方は普段居室に籠られていて、騎士団でさえも早々に近付けないんだ」

「そうなんだ」




その時、レンはふとフウマを思い出した。

彼の情報収集能力を以てすれば、太后の秘密くらい暴けるのでは?


そう思ってフウマを見れば、彼はそれが解っていたかのように肩を竦めた。




「俺は王族に恨みを買うような真似は御免だ」

「そう言わずにさ」

「お前なぁ…俺に死んでくれって言ってるようなもんだぞ?」

「う…それは流石に」




しまった。

気軽にやって欲しいだなんて、言うべきではなかった。


難色を示していたのはフウマだけでなく、ウォルターやディーネも同じだった。




「まぁ、フウマが危険な目に遭うのは俺も賛成しない」

「わたしもです!」

「ごめんフウマ!」


「では、俺達も継承式までの間、殿下達の身辺警護だけでなく、周囲の動向にも目を光らせる必要があるな」




ウォルターが話をまとめた所で、全員が頷く。




「お祝いの席なのに、こんな話になってしまったな」

「気にするな。元々この話をしに来たんだろう?」

「あぁ」

「でも、皆さんのお話を聞いて、改めて守るべきものが見えてきた気がします」




ディーネはは少し微笑みを浮かべながら、少しだけ冷めてしまった料理に再び手を伸ばした。


話に夢中で殆ど手が進んでいなかったが、マオやスライムは黙々と食事を楽しんでいる。

難しい話は解らないから任せる、と言うのがスタンスらしい。




「この国には君達のような若き力が必要なんだ。何か異変を感じたら、迷わず行動してくれ。今夜の話は決して忘れないでいて欲しい」


「…重い話になってしまったからな。もう一度乾杯でもするか」

「それはいい考えだ。新しい酒を頼むから待ってくれ」

「飲み過ぎるんじゃないぞ、シリウス」




やがて、再び乾杯の音が小さく響き、再び和やかな空気が広がった。


皆が静かに決意を新たにし、複雑な感情を胸に、この夜を心に刻むのだった。






お読み頂きありがとうございました。

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