D級テイマー、暴食の悪魔と出会う
普段は皇子二人の護衛に付いてるレン達だが、たまには休日と言うものが存在する。
と言うのも、アルデール皇子からの『命令』なのだが。
皇子の護衛に付いてから二週間が経ったある日の事。
いつもの様に皇子の護衛任務に当たるレンは、今日一日をアルデール皇子の元で過ごす筈だった。
「おはようございます、アルデール皇子。今日のご予定は…」
「護衛はしなくていい」
「…はい?」
いきなりそんな事を言われて、レンも少しだけ理解が遅れた。
隣ではフウマが不思議そうな顔をしている。
「何だよ皇子様。急に?」
「急にではない。護衛など不要だと俺は散々言っている筈だ」
「そう言う事なら、自分の父上様にでも言ったらどうなんだ?」
「…お前達を傍に置く事は、父上の命令だからな」
「んじゃ、諦めろよ」
フウマは相変わらずで、相手が皇子であろうともいつもの姿勢を崩す様子はない。
最初こそアルデールもその接し方に難色を示していたが、何日かもすればお小言すら言わなくなった。
…言うのも面倒だと思い始めたのかも知れない。
「しかし、俺にだって一人になりたい時くらいある」
「普段からぼっちのくせしてよく言うぜ」
「…護衛の癖に口が過ぎるぞ」
「怒ったのか皇子様? カルシウムが足りてないんじゃないか?」
「フ、フウマっ」
二人のやり取りに、レンは気が気ではなかった。
特にフウマがアルデール皇子を相手に護衛となった日には、もう一人の護衛役である自分に役が回って来る。
偶然なのかどうかはさておき、とりあえずフウマがアルデール皇子に突っかかるような対応は、本当に胃がキリキリと痛むのだ。
このままでは急性胃腸炎だか何だかで。治癒院に搬送されたっていいくらいだ。
「ではお前達に命じよう。今日は『休暇を取れ』――以上だ」
「きゅ、休暇ですか…」
「そうだ。異論は無しだ」
「皇子様がそう言うんだからしょうがねぇな?」
「はは…」
いきなり休暇と言われても、何をしたらいいのやら。
レンが苦笑いを浮かべていると、マオが何処か期待したような顔で此方を見上げている。
「今日はお休みなのかっ?」
「うん…そうみたい、だね」
「それじゃあ、皆を呼んでハンバーグを食いに行こう!」
「えっ。皆って…休暇は私とフウマだけで、あの二人は違うんじゃ…」
そう口にするのも束の間。
「ちょ、マオちゃんっ!?」
マオは直ぐにアルデールの居室から飛び出すと、何処かへ駆け出してしまった。
バタバタと駆けていく小さな姿は、直ぐに隣の部屋へと引っ込んで行く。
隣は――エルヴィン皇子の居室だ。
数分後、アルデールの居室にはウォルターとディーネが合流。
其処にはエルヴィン皇子の姿もあった。
「マオが急に『休暇だ!』なんて叫ぶんだが?」
「一体どうしたんですか、マオさん?」
「アルデールが今日一日、オレたちに休めって言ったんだぞ」
「あ、兄上が…そんな事を?」
酷く驚いた様子のエルヴィン。
まさか兄がそんな事を口にするなんて…と、自分の兄に対して何とも言えない驚き振りを見せている。
「俺が言ったのは、この二人に対してだ。其方は知らない」
「で、でしたらっ。今日はウォルターさんとディーネさんも休暇と言う事で…!」
「いや、しかし…」
「ぼ、僕もたまには一人で過ごしたい日もあるんですっ」
そう力説するエルヴィンだが、彼が一人で過ごす姿なんて余り考えられない。
いつも城の者に気付かう姿勢を見せ、優しい笑顔で会話をしているのだ。
勿論一人になりたい時だってあるだろうが、今の彼はその調子を兄に合わせている節がある。
それを聞き、アルデールは『うむ』と頷いた。
「ではお前とは意見が同じと言う事だ、エルヴィン」
「は、はいっ。そうですね兄上っ」
「ならば即刻、全員この部屋から出て行け。俺は一人になりたいんだ」
「あ、兄上…!?」
静かな一日を過ごしたいと決めていたアルデールだったが、いきなり増えた人数に実はそっと溜息を吐いていた。
護衛どころか、弟である自分でさえもが蚊帳の外に追いやられる事を知り、エルヴィンの肩はいつになく重い。
「今日一日くらい、兄弟水入らずで過ごしたらどうだよ?」
フウマはここ数日護衛をしていて、兄弟間の不仲には勿論気付いている。
解っていてそう言った提案をしているのだが、アルデールは素知らぬ顔をし、手近にあった本を開いた。
もう無視だ、この人…!
「フ、フウマさん…いいんですっ。兄上がそう仰るのであれば、僕は…」
そう言ってエルヴィンは、少しだけ悲しそうに笑った。
そんな訳で、レン達の本日のお役目は『休暇』である。
休暇と言っても、いきなり与えられた命令にレンはまだ戸惑いを隠せなかった。
護衛のない一日だ。
普段から過ごしているままに自由にしたらいい話だが、此処は剣の王国。
自宅はないし、ラ・マーレの様な見知った街並みでもない。
この国に滞在して二週間ほどだが、まだ街の全てを理解しているほど、レンはこの地に明るくはなかった。
「とりあえず…どうしよう?」
「そうだな。いきなり休暇と言われても、な」
「ハンバーグが食べたい! シェフの気まぐれハンバーグ!」
「ラ・マーレに行く事は出来ないぞ。この街で済ませるんだ」
ウォルターの言葉に、マオは顔を顰める。
マオはお食事処のシェフが作るハンバーグが痛く気に入っており、度々それを所望して来た。
街一つ違うだけで、味付けから好みまでが違うのだと、マオはちょっとした食通を気取っている。
全てを『うまっ! うまっ!』で片付けると思いきや、とんだグルメ舌の持ち主だった。
「じゃあ、この街のハンバーグで我慢してやるよ…」
マオは唇を尖らせるものの、渋々と言った様子で了承していた。
フウマはそんな様子を見て、ふっと笑みを零す。
「あぁ、お子様ハンバーグでしとけよ?」
「嫌だ。大人用で食べる!」
「そのちっせー身体の何処に入んだよ、お前…」
そうは言うものの、孤児院でカレーを食べた時は、美味しいと何倍もおかわりをしていたのを思い出す。
その食欲には、フウマも目を見張るほどだ。
「フーディーはもっとよく食べるぞ?」
「誰だよそれ?」
「オレの配下だ!」
「配下ぁ? チビ魔王様にゃ、そんな設定もあるのかよ」
未だに『魔王』を設定だと思ってくれている事は有り難い。
だが、マオの言う『配下』は、恐らくきっと――悪魔だ。
レンは顔中に冷汗をダラダラと流しつつ、マオがこれ以上余計な事を言わないようにと、その手を引いた。
「あっ、あっちから美味しそうな匂いがするな―!?」
「そっちはただの雑貨屋だぞ、レン」
『あまーい匂いはこんぺいとーかなぁ?』
「これは香水ですね、スライムさん」
『そっかぁ…』
この街に来てから、スライムには『金平糖』を買ってあげる事が出来ていない。
暫く前にラ・マーレの街で購入していたストック分は、今日で全て食べ切ってしまった。
しょんぼりと悲しい顔をするスライムだが、レンもまさかこんな長い事、この剣の王国に留まるとは思ってもみなかった。
一応護衛中、空いた時間で街に出ては、金平糖を探しに歩いたりもしてみたのだが、この街ではまだ見かけていない。
代わりと言っては何だが、金平糖よりも甘いアイスクリームやマカロンにケーキと言った、他の甘いスイーツで代用していたりもする。
しかし、やはり金平糖が恋しい事には間違いはないようだ。
スライムの悲しそうな眼を見ていると、何とも心苦しくなる。
剣の王国の街並みは美しく、所々に巨大な剣のオブジェや甲冑の装飾が見られ、冒険者や騎士が行き交う活気にあふれている。
その一方で、歩き進めるごとに飲食店が立ち並び『デカ盛り挑戦者求む!』や『食べ放題』の看板が目につくことに気付く。
その内、食堂の窓越しに覗くと、大盛りの料理に挑む冒険者達が、力強く食べている姿が見えた。
「この街の食文化は豪快な感じだね」
「お腹を空かせた騎士や冒険者向けに、ボリューム満点の食事を提供してるんでしょうか」
レンとディーネが感心したように言う。
「そうだな、この街じゃこれが普通さ」
街をよく知るフウマが同意した。
「こんな店があちこちにあって、量は多いけど飯には困らないぜ」
「はー。見てるだけでお腹いっぱいになりそう」
「本当ですね」
店先のショーウィンドウには、食品サンプルが所狭しと並べられている。
そのどれもが通常よりも倍以上の規格外な量だ。
眼にするだけでも既に圧倒されているのに、実際に目の前にこんなのが出ると思うと、ちょっとだけ胸やけしそうになる。
しかし、何処もかしこもデカ盛りグルメを宣伝文句に謳う店ばかりだ。
挑戦者が居れば制覇者も居て、店の中は途轍もない賑わいを見せている。
完食すれば賞金が出るのは魅力的だが、レンに食べ切れる自信は当然ない。
「実はこの街には、ちょっとした有名人が居るんだぜ」
「有名人?」
「食の道場破りって呼ばれててな。いろんな店のデカ盛りを次々と制覇してるんだ。大食い大会にも参加してた事もあったっけな」
「えっ。そんな人が居るんだ」
「一体どんな方なんでしょう?」
その食べっぷりはまさに戦場だと、騎士や冒険者達が尊敬の念を込めて語るほど、その名は街中に広まっているらしい。
それを聞いて、感心した様子でウォルターが頷く。
「凄い人が居るもんだな」
「驚くのはまだ早いぜ。それが実は女性なんだ」
「はー。それもまた凄い…」
一体どんな人なんだろうか。
そして本当にそんなに食べる人が居るのかと、レンもまた興味深げに話を耳にしている。
すると、レンに手を引かれていたマオが、ふと足を止めた。
とある飲食店の軒先に佇む彼は、じーっと店内の様子を窺っているように思える。
「どうしたのマオちゃん、何か見つけた?」
「レン、ハンバーグだ!」
レン達が街を歩きながら見つけた店は、デカ盛りで有名なチャレンジメニューが売りの人気店だった。
大きな看板には『挑戦者求む!』と言う大きな張り紙と共に、ハンバーグやら唐揚げやらポテトやら、いろいろと乗っかったプレートが、デカデカと掲げられている。
ハンバーグが食べたい!と言うマオが、早速その看板に目をつけたようだ。
「まあ、とても大きなハンバーグですね。一体何人分あるんでしょう?」
「総重量10人前だってさ」
「それはもう、パーティーでシェアするレベルじゃない?」
「これを一人で食うって言うのか? 凄いな…」
別にデカ盛りメニューにチャレンジするつもりはないが、お腹は空いている。
マオもその店が気になる様だしと、レン達は中に入る事にした。
「いらっしゃい!!」
軽い気持ちで店に入ってみると、店主がちらりと彼らを鋭い目で見つめた。
まるで勝負を挑むかのようなピリピリとした緊張感が店内に漂っている。
何だこれは、とレン達は当然驚いた。
「なんか…殺気立ってない?」
レンが小声で呟くと、フウマが興味深そうにニヤリと笑った。
「あー、此処のおっちゃん、例の道場破りを待ってるんだろ」
「道場破りって…さっき言ってた?」
「そ。普段は優しい人なんだけどな」
例の『食の道場破り』は、普段から店のデカ盛りメニューを次々に完食していく。
どの店も彼女の食べっぷりに感心しつつ、チャレンジに負けたくない店主達。
ついには対道場破り向けの特製メニューを考案し始めたらしい。
「まあ気にするな。座ろうぜ」
「オレ、あの看板にあるハンバーグが食いたい!」
テーブル席に着くなり、マオがそんな事を言い出した。
「マオちゃんには量が多いんじゃ」
「ハンバーグだけ食べたら、残りはレンが食ってくれていいんだぞ?」
「絶対に無理」
すると、注文を取りに来た店の店員さんが、申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。デカ盛りメニューは前日までにご予約を頂いた方にのみ、お作りしているんです」
「あ、そうなんですね」
あんなに多くの材料を使うのだ。
作るのにも手間暇がかかるし、材料費も馬鹿にならない。
確実に料理を食べると言う予約を取りつけてこそ、初めて提供されるのだ。
「ハンバーグでしたら、他にも種類はございますので、此方のメニューをご覧下さい」
「ありがとうございます」
「おっちゃん、きたでぇ!」
暫く食事をしていると、突然、店の入口からとても明るい女性の声が響いた。
その声に店内がざわつき、店主も即座に立ち上がって、ますます真剣な顔つきを見せる。
待ち望んでいたのは、まさにその『食の道場破り』だった。
「か、関西弁…?」
入り口には、元気いっぱいに笑う若い女性が立っていた。
ふわりとしたウェーブのかかった髪が揺れ、その笑顔には無邪気さと自信が溢れ出ている。
店主は既に勝負モードで、深呼吸してから宣言した。
「さあ、今日こそ完食させないぞ!」
「そんなん言うて、いつも最後には『ご馳走さん』言うてるやん?」
彼女は涼しい顔で笑い返すと席に着く。
厨房では店主が腕を組み、張りきった様子でその女性を見ていた。
「お待たせ致しました。当店の自慢のデカ盛りメニューでございます!」
店員がゆっくりと運んで来る料理に、人々の眼は釘付けだった。
それは店の看板と同じあのデカ盛り料理そのもの。
「今回もまたぎょーさん乗ってんなぁ?」
「おうともっ。嬢ちゃんを負かす為に考案した渾身の料理だ!」
「そら嬉しいわぁ! 時間はいつも通り、45分でエエよね?」
はい、と店員がにっこりと頷く。
彼女は今から、そのデカ盛りに一人で挑戦するらしい。
「改めて見ると凄いね。あの量…」
レン達はその様子を見守ることにし、客達も何処か嬉しそうにその挑戦の光景を楽しんでいる。
店の外には、早くも『食の道場破り』が現れたと、その姿を一目見ようと訪れる人の姿も少なくはなかった。
「それじゃ――頂きます!」
彼女はナイフとフォークを軽く構えると、まず一口、口に入れた。
目を閉じ、ひと呼吸。
そして、にっこりと微笑んだ。
「うん、やっぱ此処のお肉はジューシーやなぁ。ほんまに柔らかくて、炭火焼きの香ばしさが最高やん!」
感嘆と共に彼女の手は止まらず、驚異的なスピードで料理が減っていく。
彼女はただ食べるだけでなく、料理の細部に至るまで感想を述べながら、どんな細かい味わいも楽しんでいる様子が伝わってきた。
「本当に凄い…! 普通の量でもお腹いっぱいになるよね…?」
レンが感心していると、ディーネは言葉も出ずただコクコクと頷いている。
驚くほど彼女のスピードは速く、次々と口の中に消えていく姿はまさに圧巻だ。
最初こそ余裕の表情を浮かべていた店主も、開始15分で既に半分以上の量を平らげたその姿には、驚きを隠せない。
今回もまた、彼女にしてやられたのか…と、悔し涙を流すほどである。
ついにはデカ盛りメニューを時間余裕で完食してしまった。
周囲の客が拍手喝采を送る中、彼女は満足そうに息を吐いた。
「いやぁ、ほんまに美味しかったわ!」
「流石だよ、嬢ちゃん…!」
「それじゃ、褒められたついでにおやつも頼んどくな」
「お、おぉ…」
更には『おやつ』と称し、追加メニューを続々と頼んでいる。
そのどれもがデザートではなく、またもハンバーグやカレーと言った、メイン料理ばかりを注文するからもう驚きだ。
彼女にとってはそれが普通の様で、寧ろこれからが本番だと言わんばかりである。
あれが『食の道場破り』かと、その姿を初めて目にするレン達は、最初から最後まで驚きの連続だった。
テレビやネット配信で見る様な大食いの人達を、実際お目に掛かれるとは、レンも思ってもみなかった。
「相変わらずだな、フーディー」
その時、マオがその女性に近づき、親しげに声を掛けた。
その女性―-フーディーは目を丸くしてマオを見つめると、ニコリと笑った。
「魔王様やんかー!!」
「…え?」
マオが彼女に声を掛けた事には驚きだが、それに笑顔で応えるフーディーにもまた驚きだった。
フーディーと呼ばれたその女性。
彼女もまた、悪魔である。
「フ、フーディー? この人が!?」
「せやで。ウチがフーディーや!」
フーディーは明るく気さくな女性だった。
彼女は小さな魔王を見て、しみじみと頷いている。
「魔王様、ほんまにちっこなったんやなぁ…」
「小さいは余計だっ」
「そう怒らんといて。マモンちゃんから話は聞いとってんけど、その姿も案外可愛らしいやん?」
「マ、マモンちゃん…?」
フーディーが親しみを込めて呼ぶ名に、レンは驚いた様に反応する。
まさかマモンとは、あの強欲の悪魔の事だろうか。
すると彼女の眼が、再びレンへと向けられた。
「あんたがレンちゃんか?」
「そ、そうです」
「ウチの魔王様がお世話になってます~」
「あぁ、いえいえ。此方こそ…?」
人懐っこい笑顔で挨拶をするフーディーに、レンは腰を低くして頭を下げる。
悪魔と言う事だが、とてもそう言う風には見えない。
しかし頭についているのは確かに悪魔特有の『角』
そして、その羽の生えたような恰好や露出度満載な服と言い、スタイル抜群の彼女はまさに『小悪魔』だ。
「オレ達も飯の途中なんだ。良かったら一緒に食わないか?」
「ええの? 魔王様がそう言うなら…おっちゃん! ウチの料理、あそこのテーブルに持って来てな!」
厨房の奥からは『あいよ!』と元気のいい声が聞こえて来る。
デカ盛りメニューを完食された痛手はあったが、店主の声は明るかった。
レン達の居るテーブル席にフーディーも腰を落ち着けると、瞬く間に料理が追加で運ばれて来る。
それらは全て、彼女が宙申した料理だった。
テーブルの上を埋め尽くす料理の山にも驚きだが、彼女が実はマオと知り合いだと言う事実にも皆は驚かされていた。
「チビ、知り合いなのか?」
「フーディーはオレの配下だぞ!」
「配下?」
「そ。ウチは『暴食』を司る悪魔やねん。そうや! お近づきの印に飴ちゃんあげるなっ」
フーディーはそう言って、腰につけている可愛いポーチから包み紙に入った飴玉を人数分取り出した。
一人一人に笑顔で配るその姿は、関西弁も相まってとてもフレンドリーである。
『わーい! フーディー様、ありがとー!』
「可愛えぇなぁ、スライムは!」
スライムは早速それを口に放り込み、口の中でコロコロと幸せそうに転がしている。
飴玉一つでそんな風に笑顔を見せられ、彼女もご満悦の様子。
しかし、余りにも『悪魔』だとサラッと言うものだから、レンはうっかり聞き流してしまいそうになった。
ディーネは目を丸くし、ウォルターは開いた口が塞がらない。
「…大丈夫なのか? そんなあっさりと…」
「何が?」
「何がって…」
言い淀むウォルターの眼は、小さな魔王に向けられた。
「別に隠したりしてる訳ちゃうし」
「いや、隠すだろ普通…」
「言うても信じへんって。こんな格好やしな」
フーディーの見た目は、まるで『悪魔』のコスプレをしているようにも見えなくはない。
だから『暴食の悪魔』と言う設定だとして見れば、何の違和感もなかった。
「また悪魔かよ…そう言うのが流行ってんのか?」
「な?」
「…そ、そうだな」
現にフウマは、彼女のその姿を一種の『設定』だと思い込んでいる。
魔王と言い、悪魔と言い、彼の中では正直に受け止めている気配はなさそうだった。
「フーディーはこの街によく来るの?」
「此処には美味しいもんが沢山あるからなぁ。何処見ても天国やっ!」
「悪魔が天国を語るのか…」
「言葉の綾っちゅうもんやで。でも間違いは言ってないわ」
食事も会話も弾むように楽しんでいるレン達。
フーディーが美味しそうに食べる姿がとても幸せそうに見え、レンも自然と笑顔になっていた。
お読み頂きありがとうございました。
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