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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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C級大剣使い、夢を再び追い求める



訓練場に集う騎士達が激しい稽古を続ける中。

アルデールは相変わらず無表情で、静かにその姿をじっと見つめていた。

彼の冷静で静かな佇まいは一見すると無関心にも見えるが、その眼差しの奥には騎士達の力量を真剣に測る意図が宿っていた。

その横に立つシリウスが、少しだけ驚きの色を浮かべて声をかける。




「殿下が訓練を見守られるとは、意外ですね」

「ただ、確かめているだけだ。彼らの力量と、自分の剣がどれほどのものかをな」




アルデールは視線を外さないまま、小さく答えた。

その言葉にシリウスが少し微笑む中、傍らのレンとウォルターも騎士達の稽古を静かに見守っていた。



「此処の兵士達は本当に強いな…腕を試したくなる」




少年時代の夢が蘇り、ウォルターの胸が高鳴る

剣の王国で騎士となる事を夢見ていたあの頃、剣の打ちあう音や騎士達の誇り高き姿、そして父の姿が彼の憧れだった。




「ウォルターが騎士を目指してたのは聞いてたけど、シリウスさんも一緒だったんだね」




レンがふと、ウォルターの昔話を持ち出す。

ウォルターは苦笑いしながら肩を竦めた。




「ああ、シリウスとは同郷で、一緒に剣の腕を磨いてたさ。俺も騎士になるのが夢だった」

「お前がこの王国を去ると聞いた時は、本当に驚いたな」

「あれは…しょうがない。フィオナの為だ」




その話を耳にしたアルデールが彼らを一瞥する。




「貴方はこの国に居たのか」

「えぇ、まあ…とは言っても昔の話です」

「ウォルターは騎士になるのが夢だったのですよ、皇子」

「シリウス…!」

「ほう。そうなのか」




騎士としての資質がありながら、護衛として自分に仕える彼の姿に、少しの好奇心が芽生えたのかも知れない。

彼はウォルターに向かって顎を上げ、小さく命じた。




「なら、行ってこい」

「…は?」

「腕を試してみたいのだろう? 彼らに相手をして貰ういい機会だ」

「えっ…!」



ウォルターは驚き、レンに視線を送る、

レンも面食らって目を見開いていた。




「し、しかし。それは…」

「何だ。躊躇う必要はないだろう」




何の気なしに言った言葉をアルデールが拾い上げる。

まさか彼の口からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。

レンやウォルターは勿論驚いていたし、シリウスもそれは同じだった。




「その剣技を俺に見せて見ろ。護衛と称しているが、その実力をまだ目にしていない」

「それは…確かにそうですが」

「見せてあげたら?」

「レンっ!?」




驚いたウォルターは一瞬レンに視線を送るが、レンも戸惑いつつ、期待するように微笑んで見返した。




「それはいい考えだ。直ぐに騎士達を集めよう」




するとアルデールの提案に乗ったシリウスが、訓練する騎士達に集合を掛けた。




「おい、シリウスっ。俺はまだやると言った訳では…!」

「もう逃げられないぞ?」

「…む、むぅ」




その表情はにやりと笑っており、ウォルターはそれが何かを企んでいるのだと、旧知の間柄で理解する。




「仕方がない…」




ウォルターは少しだけ気を引き締めると、訓練場の中央へと足を踏み出した。

その様子にスライムが、興味津々でレンの肩で見つめている。




『何が始まるの―?』

「ウォルターが騎士達と手合わせするんだって」

「わー! おじちゃん、すごーい!」




まずは周囲の騎士達と手合わせをすることになり、数人の騎士がウォルターに立ち向かう。

訓練用の剣を互いに構え、距離を詰めた途端、ウォルターは一瞬で鋭い一太刀を繰り出し、相手の剣を一撃で払いのけた。


観客達が息を飲む中、彼の動きは流れるように続き、迫りくる敵の剣撃を巧みに躱しながら、時には力強く防御を崩していく。




「…流石だな。騎士団の連中にも引けを取らない腕だ」




シリウスが感嘆を漏らした。


ウォルターの動きには、長年の鍛錬が刻まれていた。

彼の剣はただ力を見せるだけでなく、素早く鋭く、時には相手を圧倒する威圧感すら感じさせる。

まるで相手の動きを見透かすように、次々と繰り出される打撃を寸分違わず防ぎ、僅かな隙間に切り込んでいく。


騎士達は一人、また一人と打ち負かされ、やがて観衆の中にどよめきが広がった。




「ほう…やるな」




それを見ていたアルデールは、感心した様子で頷いている。

どうやらウォルターの腕は、この国の騎士達に引けを取らない実力を持っているらしい。


レンは、ウォルターの剣が認められているのを目の当たりにし、嬉しそうに微笑んでいた。




そんな時だった。




「ウォルター、久しぶりに俺と手合わせをしないか?」




シリウスがにやりと笑い、剣を手にして訓練場に降り立って行く。

しかもその剣は真剣だ。訓練用に誂えた騎士達のそれではない。


当然ウォルターもそれに気付いている。




「お前と?」




その姿にウォルターは一瞬戸惑いを見せながらも、すぐに表情を引き締めた。

訓練用の剣を傍に居る騎士に手渡すと、背中に背負う己の大剣を引き抜く。




「望むところだ」




二人が向き合うと、場の空気が一瞬にして緊迫感を増し、周囲の騎士たちが息を飲んで見守る。

やがて、シリウスが先手を打つように駆け出し、その剣が風を切る音を立ててウォルターに迫った。


シリウスの攻撃は鋭く、そして速い。

その一撃一撃が鋼鉄の如き重みを持ち、ウォルターは全身の力を使ってそれを受け止めていく。

激しい衝撃音が響く中、ウォルターは後退せず、一歩一歩と前に進むようにシリウスと渡り合った。




「くっ…!」




一瞬の隙を突いてウォルターが反撃に出た。

彼の剣が閃光のようにシリウスの側面を狙うが、シリウスはそれを予測していたかのように身をひねり、剣を払いのける。


二人の剣が交差し、鋭い金属音が場を支配した。




「さすがだな、ウォルター。その剣筋、俺達が共に鍛えた日々を思い出すよ」




シリウスが息を弾ませながらも笑みを浮かべる。

ウォルターもまた笑みを返しつつ、再び構えを取り直した。




「お前こそ、昔よりも強くなっている」

「当然だ。お前と道を分かれてから何年経ったと思ってるんだ」

「そうだな…だが、俺も簡単には引かないぞ!」




更に激しい打ち合いが続く中、シリウスの剣が再び鋭く突き出され、ウォルターは全力で受け止める

その一瞬の重圧に、彼は僅かに足元を崩された。


シリウスはその隙を見逃さず、一撃を放ち、ウォルターの剣を外へと弾き飛ばす。

剣が弧を描いて地面に落ち、ウォルターはついに膝をついた。




「俺の負けだ…流石だな、シリウス。国の英雄と呼ばれるだけはあるよ」




シリウスは勝利の余韻を感じさせるように、満足げに剣を納めた。




「いや、お前もよくやったぞウォルター。やはりあの頃のまま、騎士の夢は忘れていなかった様だ」

「騎士の夢、か…そんなの当の昔に捨てたと思っていたが」

「夢は完全には捨てられないものさ。どうだ? 今からでも遅くない。俺と一緒に騎士の道を目指さないか?」




その言葉にウォルターは胸を打たれるものの、やんわりと首を振る。




「いや…遠慮しておこう。俺が居なくなったら、あいつがまた独りになってしまうからな」

「またフィオナか…」

「あいつは、あれでも寂しがりやなんだぞ?」

「あぁ、知っているさ。彼女がどれだけお前を頼りにしていたのかもな」




一度は諦めた騎士への道。


この国で成り上がるのが夢だった。


自分の生き方はこれでよかったのか――




今でも時々、その答えに迷う事はある。

その度に思い出すのは、目の前の親友。


そして、泣きじゃくる若き日の『彼女』の姿だ。




「気が変わったら、いつでも言え。俺は待っているぞ」

「はは…まあ、夢を追うのも悪くないかもな…」


その二人のやり取りを静かに見守っていたアルデールは、口元にわずかな微笑みを浮かべた。

そして彼は小さな声で呟くように言った。




「…悪くないな」




その一言に、レンとスライムは驚きと共に少しの感動を覚えた。

アルデールの心の扉が、ほんの少し開かれた瞬間だった。




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