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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、運命を再び覗く




青い薔薇が咲き誇る庭園に足を踏み入れると、レンは何とも言えない懐かしさを感じました。

空気には微かに甘い香りが漂い、深い青色の薔薇たちが美しく花開いている。




「この場所、何度見ても好きだな」




レンはその場に立ち止まり、周りをゆっくりと見渡しながら思わず呟いた。

足元ではスライムが、蝶々の動きに誘われて楽しそうに飛び跳ねている。

マオは近くの薔薇に触ろうとして、その鋭そうな棘に慌てて手を引っ込めていた。




ーー庭園に息づくこの青い薔薇は、かつて冒険者が此処を訪れ、特別に植えたものだと言われています。


何処の誰かも伝えられていないのが残念ですが、王族だけはそれを知っているのでしょう。


何世代にも渡り、こうして今も大切に育てられているのですから――




以前、ガイドから聞いた説明が思い起こされる。


この庭園は、第二皇子であるエルヴィンが特に好きだと言う場所。

今日も彼はこの場所を訪れては、静かに薔薇達を眺めていた。


そんな皇子を見守るようにして、レンとディーネは庭園に佇んでいる。




「すみません。直ぐに用を済ませますので、其処でお待ち頂けますか?」

「ゆっくりで大丈夫ですよ、エルヴィン皇子」

「はい、ありがとうございます」




エルヴィンは、そう言って青い薔薇の庭園の奥深くへと入って行った。

この先は王族しか入れないとの事なので、レン達は庭園の入り口で静かに彼の帰還を待つ事にする。


その美しい薔薇に心を癒やされていると、何処からともなく静かに足音が近づいて来た。




「あら、貴女は…」

「え?」




振り返ると、以前レンを占ってくれた占い師が立っていた。

彼女は薄いヴェールを顔にかけ、神秘的な眼差しでレンを見つめている。




「お久しぶりですね、レンさん」




占い師が静かに声を掛ける。




「レンさんのお知り合いですか?」

「うん。前にね、街で占ってくれたんだ」

「占い師さんなのですね」




ディーネが深くお辞儀をすると、占い師は優しく微笑んだ。




「この国の未来を占うようにと呼ばれました。ですが、まさか再び貴女とお会いする事になるとは…」

「呼ばれた?」

「えぇ。国王陛下に。たまにこうして城を訪れる事があるのですよ」

「凄いですね。宮廷占い師って奴ですか」

「いいえ。そのような事は…」




レンは驚きつつも、少し安心したような笑みを返す。


謙遜した様子の占い師だが、一国の王に呼ばれて占うだなんて凄い事だ。

彼女は普段、ひっそりとした路地裏で占いの店を開いているが、まさかこんな所で再会するなんて、レンも驚きである。


レンの脳裏には、以前彼女が告げた言葉が過っていた。


占い師は穏やかに微笑み、レンに近づく。

彼女の存在は何処か神秘的で、周囲の空気が静まるような力を持っていた。




「貴女が此処に居るなんて、何かの縁かもしれませんね…」

「そ、そうですか? 実はちょっとした任務に当たってまして…」




レンは少し緊張した様子で答える。




「えぇ。皇子様達の護衛でしょう?」

「えっ」




占い師は、それを既に知っているかの様な口振りだ。




「以前、私が貴女に占った事を覚えてらっしゃいますか?」

「は、はい」

「貴女の数少ない選択が、いずれこの国や人々に大きな影響をもたらすでしょう」

「それは…具体的にどういう事でしょうか?」




その言葉にレンは戸惑いながらも尋ねた。

まだ自分がそんな運命を背負うとは思っていないからこそ、不安げに占い師を見つめている。




「今、貴方の周りには無数の光が見えます」

「光?」




占い師は遠くを見つめるように、静かに話し始めた。




「光は互いに異なる道を歩むかも知れない。ですが、貴女の関わりが、その未来を変える鍵になるのです」




レンは思わず唇を噛みしめた。


光とは、一体何の事か。

今自分が関わっている事と言えば、二人の皇子について――この国の王位継承に関わる問題だ。


護衛しているのは、確かに王位を巡る立場にある二人の皇子。

しかし、レンにその未来を変えるような力があるとは思えない。


けれど、占い師の言葉には何処か説得力があり、レンはその言葉に引き込まれていた。




「どうすれば…」




レンが呟くと、占い師は意味深な笑みを浮かべる。




「運命はまだ完全に定まってはいません。しかしこのままでは、光は互いに争い、国は崩壊の危機にさらされるでしょう」

「…」

「貴女の運命は、前に見たときよりも更に複雑で難しい道のりになっています。それでも、貴女ならば…」

「…それも、占いですか?」

「えぇ」

「私に、そんな事が出来るでしょうか?」




レンが不安げに聞くと、占い師は優しい眼差しを向けて答えた。




「貴女には、魔物だけでなく他人の心に触れる力がある。運命は変えられないものではありません。貴女が一歩踏み出せば、きっとその道が開かれる筈です。覚えていて下さい、レンさん。貴女自身が迷える者の心を動かすのです」




その言葉に、レンは少しだけ勇気を貰った気がした。

まだ全てが曖昧なままだったが、自分が関わる事で何かが変わるのだとしたら、出来る限り力を尽くしたいと思い始めていた。


それが吉と出るか、凶と出るかは解らないけれど――




「占い師さん…ありがとう。私、やれる事をやってみます」




レンが真剣な表情で答えると、占い師は穏やかに頷く。




「その意志こそが、運命を動かす一歩になりますよ」




占い師が静かにその場を後にし、レンは再び庭園に立ち尽くしました。




「不思議な方でしたね」

「うん…」

「お待たせしてすみません。…あれ、どうかされましたか?」




其処へ、エルヴィンが庭園の奥から戻って来た。

彼は占い師の存在には気付かなかったようで、レンやディーネを見て不思議そうに首を傾げている。




「いえ。エルヴィン皇子、ご用事は終わりましたか?」

「はいっ。今日も綺麗に咲いていました」

「咲く…?」




花の様子でも見ていたのだろうか。

エルヴィン皇子らしいと、レンはそう考えて微笑んだ。




光とは、もしかしたら彼ら皇子の事かも知れない。

漠然とだが、レンはそう思っていた。


まだ何も確かなことは分からないけれど、自分がこの国に関わり、二人の皇子や運命の流れに影響を与えるかもしれないという思いが、胸の中に少しずつ広がって行く。




やがて、レンは静かに青い薔薇を見つめ、決意を新たにした。







◇◆◇






その夜、訓練を終えたアルデールの元に、新たに護衛として加わったフウマが現れた。


暫く盗賊としての仕事が忙しくなると孤児院に伝える為、彼は一度話をしに孤児院へ。

まさか国の皇子相手に自分が護衛をするなんて事は、秘匿とされ口にする事が出来なかった。


院母はその理解を示し、不安そうに見つめつつも、笑顔で子ども達とその帰りを待つ事を約束する。

そんな事情から、フウマが夜になって合流をする事になった。




「何故、護衛が増えている?」




護衛が居るだけでも迷惑だと言うのに、其処へ更に一人増えたと報告を受けるアルデールとエルヴィン。

しかし、アルデールの表情は、いつになく仏頂面である。




「しゅ、襲撃があったので…」




申し訳なさそうに頭を下げるレンは、内心ドキドキと心臓を高鳴らせている。

今日は、レンがフウマと共にアルデール皇子の護衛に付いていた。

護衛役が4人になり、レン達はそれぞれの皇子に2人体制で任務に就く事を決めた。


…決めたまではよかったのだが、どうして顔合わせでこんなにも、不穏な空気が漂っているのか。




「勝手に近付くな。お前達をまだ完全に信頼した訳ではない」

「まあまあ、そう言うなよ。皇子様? まだって事は、ちょっとは信頼してくれてるんだよな?」


「…其処の女が、武器もなしに立つからだ」

「えっ。私?」




アルデールの意外な反応に、レンは少し驚いた。

確かに襲撃の夜、レンは咄嗟にアルデールの前に立ったが、正直身体は震えていたし、腰も引けていた。

そんな自分が何の影響を与えたのか知らないが、アルデールは少しだけ、ほんの少しだけレン達を信用している…らしい。


どうみてもそんな兆しは見えないのだが、エルヴィン皇子曰く『兄上はしっかり見て下さってるんですね』だ。

こっそりと笑っている姿は微笑ましいが、意味が解らない。




「フウマ。きちんと挨拶をしろ」

「へいへい…俺はフウマ。職業は盗賊だ。よろしくな、皇子様!』




フウマは軽やかな足取りでアルデールの横に立ち、一見護衛として馴染んでいるように見えるが、その態度は何処か不躾だ。

アルデールは冷ややかな視線をフウマに投げかけ、口元を引き締める。




「近付くなと言っている。斬るぞ」




フウマはそんなアルデールの言葉に、鼻で笑いながら肩を竦めた。




「へえ、流石は皇子様。俺らの扱いが慎重だこと。そんなに睨むなよ、俺はあんたを護る為に来てんだぜ?」




と、全く敬意を示す様子もなくフウマは堂々と答える。

その一挙一動に、レン達はまたもハラハラとした様子で眺めていた。


フウマが斬られでもしたら大変だ。

普通なら、皇子に対してそんな無礼な働き、許される筈がない。


現にアルデールの手は二本の剣に触れており、いつでも抜く準備は出来ている。

そんなアルデールは、フウマを見て眉を顰めた。




「お前、本当に護衛として適任なのか? 度を改める気はないのか?」

「フウマ。皇子の言う通りだぞ」


「おいおい、何なんだよ。俺が護衛になったからって、いきなりお行儀よくすると思うか? 国の皇子だからって、そんなつんけんするなよ」



しかしフウマは気にも留めず、寧ろ不満げに答えた。

アルデールは少し驚いた表情を見せたが、それをすぐに冷静に取り繕い、淡々と返した。



「つんけん? …それが、一介の盗賊風情の意見か」




すると、フウマは寧ろ楽しげに笑みを浮かべた。




「そう。俺はあんたを一国の皇子としてじゃなく、ただの『アルデール』として見てるんだよ。あんたが何処の誰だろうと関係ないってことさ」


「は…?」




その一言に、アルデールは少しだけ表情を緩めた。

彼の事を皇子としてではなく、ただの人間として見ているというフウマの態度が、何処か異質であり、また奇妙に心地よくも感じたからだ。




「フ、フウマさん。流石に皇子様を呼び捨ては宜しくないかと…」

『斬られちゃうよ、フウマおにーちゃんっ』

「俺がそう簡単に斬られるタマかよ」




得意げに胸を張るフウマ。

彼には、怖いもの知らずと言う言葉がぴったりだ。


アルデールは顔を顰めたまま、じっとフウマを見つめている。




「あ、兄上。この者はきっと緊張なさっておいでなのでしょう…!」

「とてもそのようには見えないが」

「…そ、そうです、ね…」




今にもその剣が抜かれるんじゃないかと、エルヴィン皇子も内心ヒヤヒヤしていた。




「オレは最初からアルデールって呼んでるぞ?」

「そりゃ、チビはなーんにも考えなくていいからさ」

「そんな事ない。オレだって色々と考えてるっ」

「ハンバーグの事だろ、知ってる」

「何で解ったんだっ!? エスパーなのかっ!?」

「マオちゃん…」




マオは自身が『魔王』であるからか、決して敬称をつける事はない。

寧ろ友達感覚で名前を呼ぶのだ。

それはアルデールだけでなく、エルヴィンにも同様である。

しかし、マオはまだ幼い子ども。

皇子と言う存在を敬うと言う事を知らないのだろうと、エルヴィンは寛容な心で微笑んでいた。


問題は、アルデールである。




「…」




アルデールは、ふとした瞬間、あの夜の暗殺者の影がちらつく事が多々あった。


撃退したとは言え、命を脅かされた事には違いない。

護衛が増えた事には不服だが、継承式の日もまた近いこともあり、城内はますます警戒の色が強まっている。


当然、そんな時期に新たに増えたと言うこの男に、警戒心を抱かない訳がない。

思わず視線をそらし、アルデールは小さく呟いた。




「…疑心暗鬼、か」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもない。ただ、お前が俺に近づく理由が、未だに腑に落ちないだけだ」

「護衛だからさ。あんたが心配なんだよ、俺なりにな」




フウマは一瞬、表情を曇らせるが、すぐに軽く笑って誤魔化した。


アルデールはその言葉を受け入れるかのように黙り込み、暫しの静寂が二人を包んだ。

内心で彼は、フウマの言葉が何処まで真実なのか測っている様子。

しかし疑念を抱きつつも、言葉にはしなかった。


フウマの一挙一動が気になる一方で、何処かで彼に――護衛達に頼りたいという気持ちも、僅かに芽生えている自分に気付いていた。

戸惑うアルデールに、エルヴィンもまた心配そうに見つめていた。



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