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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、盗賊の力を借りる



アルデールが敵の襲撃に遭ったと言う話は、一夜の内に瞬く間に城内に広がっていた。

早朝の城内は静けさの中に緊張感が漂っており、焦った顔をして廊下を進んでいるエルヴィンの姿を、城の者達は何人も見ている。

その後を、レンとディーネも足早に追いかけていた。




「こんな朝早くから…何処に行くんだぁ…?」


『レン…?』




むにゃむにゃとまだ寝ぼけ眼なマオは、レンに引っ張られる形で足を進めている。

その肩では、スライムも小さく欠伸をしていたものの、レンの表情に何処か緊張感を感じ取っていた。


エルヴィンは昨夜の暗殺者の襲撃を受けて、兄アルデールの元へ向かっている所だった。

朝から浮かない顔をしたレンを見て不思議に思って聞けば、夜の間にそんな出来事が起こっていたとは露知らず。

そして気が付くと、彼は自室を飛び出してしまっていた。


エルディンは、自分が静かに眠っていた事を悔やんでいる様子だった。


ドアをノックすると、すぐにアルデールが中から声がした。




「入れ」




『生きている…』とほっと息を吐きつつ、意を決したようにエルヴィンはその扉を開ける。

エルヴィンは心配そうに一歩踏み込むと、兄の様子を窺いながら言った。




「昨夜の襲撃の件、お聞きしました。…兄上は本当に大丈夫なのですか?」




アルデールは一瞬沈黙し、視線を外す。




「気にするな。暗殺者が現れたのは一度や二度じゃない。これまでも何度か俺はこういう状況を乗り越えてきた」




そう言った兄の顔には、疲れが見えていると、直ぐに彼は感じた。

昨夜の一件で、兄は一晩中起きていたのではないかと言う考えが頭を過ぎる。




「それでも、僕は心配です。兄上は強いですが…一度や二度じゃないからこそ、頼れる人がおられないのでは…」




エルヴィンは焦燥感を隠せず、言葉を続けた。




「僕は、兄上の負担を少しでも軽くしたいです」

「俺が王としての役割を果たす為には、孤独も受け入れなければならない」

「王…ですか」




エルヴィンは、既に兄が王としての道を歩んでいる事に、何処か哀しみんだ様子を見せる。

確かに王位継承権は兄であるアルデールが優先であり、近々行われる継承式もその意向で進められている。


しかし、エルヴィンがこのままでは兄がずっと寂しく孤独に生きていくのではないかと、不安でたまらなかった。

そんな様子を見ていたウォルターは、小さく肩を落とす。




「暗殺者が何者かを掴まないといけませんね。エルヴィン殿下も、どうかご自身の心配をなさって下さい」

「僕は、命を狙われた事は一度もありません。兄だけなのです…」

「…そうなのですね」




アルデールが過去に命を狙われていた事は、ウォルターもシリウスから聞き及んでいた。

ある時は食べ物に毒を混入されていたが、食事に違和感を感じた彼は口にしなかった。

その残飯をこっそりと下働きの男が口にし、毒殺された。


剣の訓練では、元団長以外にも皇子の命を脅かすような行動をとる騎士達が、実は何人も居た。

その度に騎士は自害し、または国を追放され、騎士達は次第に皇子との訓練では、接触を許されなくなっていた。


またある時の狩りの時間では、獲物に向けられていた弓矢が皇子に襲い掛かると言う、不思議な出来事があった。

まるで意思を持ったような動きに、皇子は命を狙われるものの、それを何とか剣で払い落とした。


そんな出来事が多々起こっている為、アルデールは次第に、自身が何者かに命を狙われている事を理解し始める事になる。




「暗殺者は逃げても、また命を狙ってくるに違いありません!」

「だとしてもだ、エルヴィン。お前には関係のない事だろう」

「兄上っ。僕は兄上の身を案じているのです!」

「不要だ」




言い合う皇子二人に、レン達はただ困惑していた。



その日もいつも通り、皇子達の護衛をしていた。

だが、昨日の今日と言う事もあり警戒は更に強待っている。

城内には騎士による警備が厳重化され、レン達以外にも常に騎士達が控えていると言った対策が取られていた。


中には、傭兵として雇われていたレン達の動向を監視する者も、少なくはなかった。

まだ護衛任務に当たって間もない内の襲撃だ。


騎士達に警戒されるのも無理はないが、其処はシリウスの声があったとしても、そう簡単に薄れる事はないだろう。



皇子達は今、国王や太后と共に朝食を採っている。

ダイニングには他に騎士達の姿もあり、警戒する決して姿勢を崩さない。


その間、ウォルター達は中庭で顔を突き合い、今後の護衛の方針を話し合っていた。




「例の暗殺者については、解らない事だらけだ。何処の誰で、依頼人が誰なのかもな」

「何か手がかりが必要ですね」




ディーネは呟く




「でも、どうしたらいいんでしょう?」

「そうだな…」




ウォルターは腕を組み、顔を顰めて悩んでいた。


先程も言った通り、暗殺者の正体は何一つ分かっていない。

アルデール皇子に対する怨恨の線で当たってみるにしろ、それに下手に動けば、城の騎士や兵士達に変な目で見られてしまう。

そうなると、傭兵である自分達の立場も危うくなって来る事だろう。


その事を思うと、自分達には何も出来ないのが現状だった。




「じゃあ、フウマに頼ってみるのはどうかな?」

「フウマに?」




情報を持っているかも知れないと、レンは直感的にフウマの顔が浮かんでいた。

ウォルターは少し驚いたようにレンを見る。




「フウマは盗賊だぞ?」

「そうだけど。盗賊だからこそ、何か知ってるかも知れないよ? この街の情報にも詳しいだろうし」

「…確かに、フウマなら特殊な視点を持っているかも知れない、か…何か情報を持っているかもな」

「わたしもそう思います。お話したら、きっと協力してくれるかも知れませんねっ」



ディーネも賛同し、大きく頷いた。




「じゃあ、早速街へ行こう。孤児院に行けば、あの院母さんに彼の住む場所が聞けるかも知れない」




レンが決意を示すと全員が同意し、急いで準備を整えた。

皇子達の食事が終わる時間までは、まだ少しある。


その間にフウマに接触して何か情報が掴めると有り難いのだが――




「あれ。マオちゃん、どうしたの?」




レン達が意気揚々と街へ向かおうとした時、マオがふと空を見上げているのを見つけた。

彼の目線に合わせて屈むと、マオは静かに首を振る。




「何でもないぞ」

「そう? これからフウマに会いに行く事になったから、マオちゃんも行こう」

「解った!」






◇◆◇






「おじさん達、また遊びに来てくれたのっ!?」




レン達が孤児院に向かうと、真っ先に迎え入れたのは子ども達だった。

彼らはレン達を見るなり、また遊びに来てくれたのかと期待の眼差しで見つめている。




「いや…今日は違うんだ」

「えぇっ!? 何でさ、遊ぼうよー!」

「ごめんね。今日は院母さんを訪ねて此処に来たの」




遊んであげたいのは山々だったが、今日は事情が違うのだと告げれば、子ども達は酷く落ち込んだ様子を見せていた。




「なーんだ。お母さんに用なのかぁ」

「おかあさーん。おじさん達が来たよー!」




やがて家の中から、院母さんが姿を現す。

今日も彼女はニコニコと優しい笑顔で、レン達に深く頭を下げていた。




「まあ、いらっしゃいませ。私に御用と窺いましたが…?」

「こんにちは。実はフウマを探しているのですが、此処には来ていませんか?」




レンが尋ねると、院母は少しだけ心配そうな表情を浮かべた。




「フウマはさっきまで此処に居たのだけど、お花を持って何処かに行ってしまいました」

「お花を?」

「誰かにプレゼントーーと言うような花ではなかったわね」




それはまるで、誰かの為の献花をするかのように見えたそうだ。

その言葉に、レンとウォルターはは思い出す。


この孤児院の傍には、彼の友人が眠っている事を――




「向かう先は、あの場所かも知れない」




院母や子ども達はその友人の『最期』を知らない。

それをレン達が口にする事も出来ず、その場はお礼を言って孤児院を後にする事にした。


目的地へ向かう道すがら、事情を知らないディーネには簡単にだが、フウマとその友人の関係を伝えた。

彼女は酷く驚いていたものの、その表情には哀しみの色を隠せないでいる。



やがて例の墓に到着すると、静かな場所でぽつんと佇むフウマの姿があった。

彼は亡き友の墓の前に立ち、静かに花を手向けている。


友人が亡くなってから、どれくらい経っただろうか。

長いようで短い日数を頭の中で数え、レンははその場に近づき、フウマの後ろ姿を見つめていた。




「フウマ…」




レンが声をかけると、彼は驚いた様子で振り向いた。

その眼には涙が滲んでいたが、フウマは慌てたようにそれを拭う。



「お前ら…?」




レン達は、その様子に心配そうに顔を見合わせた。




「何か、あったのか?」




ウォルターが尋ねる。

フウマは、少し困惑した表情を浮かべながら答えた。




「ただ、こいつの事を思い出していただけさ…それよりどうしたんだ?」


「フウマに会いに来たんだ」

「俺に…?」




ほんの一瞬、フウマの顔が顰められる。

しかしレンは、それに気付く事なく頷いて見せた。




「実は私達、ちょっとした護衛任務についてるんだ。それでフウマの意見が聞きたくて」

「意見?」

「盗賊の観点から、侵入者が炙り出せないかと思っているんだ」

「へぇ。何か面白そうじゃん。詳しく聞かせろよ」




意外にもフウマは興味を示していた。

レン達は昨夜の出来事を掻い摘んで話すと、フウマは何度か頷きながらも考えこむ姿勢を見せている。




「ふーん…この国の皇子が狙われてるなんて話、本当だったんだな」

「知ってたの?」

「街には騎士達が沢山歩いて居るんだ。情報なんてあちこちに転がってる」

「一応、王子暗殺については箝口令が敷かれている筈なんだが…」

「人の口に戸は立てられねぇよ」




にやりとフウマは笑みを零す。

一夜にして広まっていたのは、何も城内に限った話ではないらしい。


街の方でも大きな混乱は見られないものの、皇子の暗殺未遂については多少なりとも噂話になっているそうだ。




「なあ。その護衛って奴、俺も出来ないか?」

「え?」

「俺が居たら百人力だぜ? 暗殺者なんてやっつけてやるよ」




思いがけない申し出に、レン達は顔を見合わせるものの、断る理由はなかった。




「確かに。フウマが居たら安心かもね!」

「えぇ! また一緒にパーティが組めて嬉しいですっ」

『わーい!』




スライムもぷるぷると体を揺らし、喜んでいる。




「それなら、シリウスにこの事を伝えなければな」

「シリウスって、まさかあの騎士団長の事か? はー。おっさん、どういう人脈してんだよ」

「おっさんはやめないか、フウマ…」




そうは言うものの、ウォルターの表情もまた嬉しそうに笑っていた。



仲間が増える事はとても嬉しいと、レンも微笑む。

そんな中、ふとマオがぎゅっとレンの手を掴んだ。




「マオちゃん?」

「…腹減った」




ぽつりと呟いたマオに、レンはまだ朝食を食べていない事を思い出す。

朝からバタバタと移動していた所為で、マオのお腹はぐうぐうと鳴いていた。




「あああっ。そうだった! ごめんねマオちゃん!」

「何だチビ。腹減ってんのか? 何か作って貰えるように、母さんに頼んでやるよ」

「ハンバーグ!」

「マジか。朝からかよ…」




苦笑しつつも、フウマは優しい顔でマオの頭を撫でるのだった。





お読み頂きありがとうございました。

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