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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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B級剣士、襲撃される



夜の闇が深まる頃、ビセクトブルクの王宮は静まり返っていた。

月明かりが微かに廊下を照らし、衛兵達の足音が規則正しく響いている。

そんな中、影のように姿を消しながら忍び寄る一人の人物。

その姿は、音もなくターゲットの居室へと向かっていた。


影は、柔らかな忍び足で廊下を進み、ターゲットの部屋に続く扉の前に到着する、

鍵はかかっておらず、警備も最小限の部屋。


影は武器を手にし、無駄のない動作で扉を開き、一つの影として部屋の中へ滑り込んだ。




部屋の中は暗く、壁には一つの燭台が微かに揺らめいている。

その中で、ターゲットはベッドに横たわり、穏やかな寝息を立てていた。


影が武器を構え、一歩ずつターゲットのベッドに近づいて行く。




「…っ」




その姿を見た瞬間、影は一瞬だが息を呑んだ。

ターゲットをじっと見つめ、僅かに心の奥底で葛藤を感じながらも、任務を遂行すべく足を進めた。




緊張が張り詰める中、影は強く武器を握り締める。

その手は微かに震えているようだったが、影は歩みを止めない.


自分が今すべき事を最優先に考えていた。


だが、次の瞬間。



ターゲットが突然目を見開き、鋭い目つきで影を見据えていた。




「…其処にいるのは誰だ?」




静かな男の声が低く響く。


影は一瞬動揺を見せたが、すぐに武器を構え直し、ターゲットの――アルデールの胸元を狙って襲いかかった。

アルデールはその攻撃を素早く躱し、枕元に置かれていた二本の愛剣を手に取ると、暗殺者と対峙する構えを見せた。




「皇子を狙うとは、随分と度胸があるな」




アルデールは冷静さを保ちながらも、目に鋭い光を宿しています。

暗殺者もまた、闇の中でその視線を受け止めつつ、無言で応じていた。


二人は一瞬、互いの出方を見計らい、その場に静寂が訪れる。





先に動いたのはアルデールだった。


鋭い剣が闇を裂き、暗殺者の腕を掠める。

影は素早く後退し、再びアルデールに向かって一撃を見舞うが、アルデールもまたその動きを読んで躱していた。




「貴様、何者だ? 誰に依頼された?」

「…」

「黙るのか。そうだろうな」




アルデールが問いかけるが、影は沈黙を貫いている。

しかし、暗殺者が自分の素性をペラペラと喋る筈がないと思っていた為、期待はしていない。


だが、影が自分を殺そうとする暗殺者であり、何者かの依頼を請けて此処に居ると言う事は、間違いないのだろう。




「ならば、強引にでも喋らせるまでだ」






◇◆◇






夜の静寂を破る物音に驚き、レンははっと目を覚ます。

傍ではスライムとマオがぐっすりと眠っていた。

隣のベッドではディーネがすやすやと眠っており、不思議な物音に気付いた気配はない。


今日が初めての護衛だったからか、とても緊張して物音にも敏感になっているのかも知れない。

宿屋の時と同様、この城にも多くの人の気配がある。

たまたまその中の一つに耳が敏感に反応しただけ――だと思ったのだが、どうにも胸騒ぎがする。




「…気のせいかな」




夜はウォルターが、騎士達と後退で見張りに出ると聞いていた。

流石にレン達に其処まではさせられないと、シリウスにやんわりと断られたのは少しほっとした部分もあるが。


再びベッドに潜り込むものの、やはり何かの気配と胸騒ぎは収まらず、とうとうレンはベッドから静かに降りた。

気分が落ち着くまで、少し散歩に出て見るのもいいかも知れない。


日付は塔に代わっていたが、城内には人や物が動く音が何処かからしている。

昼夜問わず、此処の騎士達は交代で見張りに立っているのだろう。


だからレンが聞いた物音も、彼らの日常的な一部として捉えていた。




「ウォルター?」

「レン!」




ところが、レンが部屋を出て少し歩ていたところで、ウォルターが走って来るのが見えた。

その様子は何処か焦っているようにも見える。




「お前も騒ぎを聞きつけたのか?」

「騒ぎ? 何の事?」

「違うのか。いや、今はそんな事を言っている場合じゃない…!」

「え、ウォルター!?」




即座に走り出したウォルターを、レンも慌てたように走り出す。

どうしたのかと声を掛ければ、警備の最中、怪しい影を目撃したとの事。


影は夜の闇を駆け、城の内部へと侵入して行くのを見て、嫌な予感がすると追いかけた。

そして案の定、城の一角からは大きな物音が聞こえて来た、と言う話だ。




「影は、アルデール殿下の居室に入った。皇子が危ない」




廊下を急ぎ足で進み、音のした方向に近づく。

行き着いた先は第一皇子アルデールの居室。


まだ誰も騒ぎに気付いていないのか、扉の前には誰の姿もなかった。

しかし中からは、激しい金属音が聞こえている。


アルデールが戦っているのだと認識すると、ウォルターが扉を勢いよく蹴破った。




「皇子!」




其処には抜き身の剣を持ち、闇の中で対峙するアルデールと暗殺者の影が浮かび上がっている。

薄暗がりの中で視認しづらいながらも、アルデールは鋭い目つきで目の前の敵をじっと見据え、剣を構えた姿勢を崩さない。




「アルデール殿下! ご無事ですか!?」




ウォルターは声を張り上げ、彼の無事を確認した。




「逃がすな。こいつは暗殺者だ」




アルデールは振り返りもせず、低く言葉を返す。

視線は鋭く、その状況に焦る事無く冷静さを保っていた。


レンは、その異様な光景に息を飲んだ。




「あれが、暗殺者…!?」




暗殺者の姿は全身黒装束に包まれており、顔も覆われている為、その正体は不明。

しかしその暗殺者の動きには、熟練の気配が漂っていた。


暗殺者もまた、レン達が駆けつけた事を認識し、一瞬だけ驚きの表情を見せる。



ウォルターは大剣を抜き、構えを取りながらアルデールの前に飛び出した.

静かに暗殺者を睨みつけ、彼は盾のように身体を寄せている。


レンはもまた、アルデールを護るようにの前に躍り出ていた。

それに気付いた彼は、怪訝そうな顔をして見せた。




「どけ。お前は丸腰だろう」

「で、でもっ。貴方を護らないと!」




レンは焦っていた。

今、自分は丸腰で武器を持っていない。

スライムはベッドで寝ているし、こんな状況で自分に出来る事なんて何一つない。


それでも、自分が護るべきアルデール皇子が、危機的状況に晒されている事には違いない。

彼女の本能が、目の前の大切な命を守ろうとさせていた。




暗殺者が振り下ろす刃の光が、月明かりに反射しながらウォルターの前に迫る。


刃が彼らの間を通り過ぎる寸前。

ウォルターの瞬発力が優先され、彼はしっかりと大剣を構えて防御の体勢を取った。


鋭くも高い金属音が響いた。

レンはその背中を見つめ、彼が果敢に立ち向かう姿に、自分がこの瞬間にいかに重要な役割を果たすべきかを痛感する。




「お前は何者だ? 皇子を手にかけようとするとは、覚悟は出来ているんだろうな」




それは威圧的な声だった。


暗殺者はその言葉に応える事なく、冷静に距離を取り始めた。



すると、何処からか強く笛の音が鳴り響き、次第に迫って来る人の足音や声がした。

それが『賊』の襲来を告げているのだと、レンは瞬時に理解した。


すぐに状況を理解したのは、暗殺者の方も同じだった。

状況の不利を察知したのだろう。

レンやウォルターと言った対峙する人数の多さに、次第に警戒心が増して行く。



そして、一瞬の隙をついて何かを床に叩きつける。


途端に白煙が瞬く間に室内を覆い尽くし、視界が遮られてしまった。




「煙玉か…っ!?」




アルデールは即座に鼻と口を覆い、身を引いた。

煙の中で暗殺者の気配が遠ざかって行くのを感じ取っていた。




「逃がすか…!」




アルデールは素早く煙の中を突き進むが、暗殺者は窓を開け放ち、屋根の上へと身軽に飛び移って行く。

その軽やかな身のこなしに、レンは驚きの表情を見せていた。


アルデールが窓際に辿り着いた時には、暗殺者の影は既に、王宮の屋根に駆け抜けて姿を消していた。







―ー失敗した。


相手が皇子だなんて聞いていない。


次は、もっと上手くやらないと…




『とある男の手記より抜粋』





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