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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、傭兵になる



レン達はシリウスに導かれて、国王が待つ謁見の間に向かって歩いていた。

その長い廊下は豪華な装飾で彩られ、これまた豪華な肖像画が厳かな雰囲気を醸し出している。

壁には騎士達の盾や剣が整然と並び、歩く度に足音が床に反響した。




「これが王宮の中…」

「す、凄く立派ですね」




レンとディーネが、城内をきょろきょろと見渡している。

見学ツアーでもこの場所は通ったのだが、今日は勝手が違っていた。

二人の顔には緊張の色が現れており、先程から落ち着かない様子を見せている。


何故ならこれから、この国の王と面会をするからだ


ウォルターはその気配に鋭く反応している様子で、ふとした瞬間、周囲を警戒するように目を配っている。

ディーネもいつもより緊張した面持ちで、スライムはレンの肩で小さく震えている。




「緊張するのも無理はない。国王陛下に会うのは並大抵の事ではないからな。しかし恐れる事はないぞ。今の君達はこの国の傭兵なのだから」


「あー…シリウス。それはきっと逆効果だ」

「そうなのか?」

「見ろ」




ウォルターがレン達を見ると、二人の表情はますます強張っていた。

今日は勝手をしないようにとマオの手を握っていたレンは、ますますその力を籠めている。




「レン、痛い」

「あ、あああっ。ごめんねマオちゃんっ!」

「そんなに緊張するな。相手はただの王様だろ?」

「『ただの』だなんてそんな! この国の王様ですよ…?」

「オレだって魔王だぞ?」

「マオちゃんは、まぁ、ね…うん」




マオの言葉にレンは少しだけ安堵しつつも、やはり緊張は拭えない。




謁見の間に入ると、壮麗なシャンデリアが高く掲げられ、壁には豪華なタペストリーが所狭しと掛けられている。

太陽光が差し込む巨大な窓から、カーペットの上に柔らかな光が落ちている。

部屋全体が荘厳な雰囲気に包まれ、その場に居る者たち全員が、この空間の厳粛さを感じ取っていた。


奥には、玉座に深々と座る国王がいる。

彼の風格は圧倒的で、力強い眼差しが静かにレンたちを見据えているた。

その表情は厳格だが、何処か温かさも感じさせるような威厳が漂っている。


昨日とは全く違う雰囲気だと、レンは謁見の間を眺めてそう思っていた。


これが剣の国『ビセクトブルク』を治める王。

近づくほどに緊張してしまうのは、まるで心まで見透かされているような視線を、感じるからだろうか…



そして国王の傍には優しい微笑みを浮かべる太后の姿と、二人の皇子が控えていた。

シリウスが深々と一礼し、レン達もそれに倣う様にお辞儀をする。




「シリウス。其方が昨夜申していた例の傭兵達か?」


「はい陛下。彼らは腕もあり、信頼出来る者達です。継承式が近い中、不測の事態に備えて、彼ら皇子様方のお側に置かせて頂ければと…」




国王はシリウスを信頼する目で見つめながら、レン達に視線を移す。

その瞳には一瞬の冷たさがあるが、すぐに柔らかな笑みが浮かんでいた。




「まあ、心強い事ですわ。皆さん、どうか我が愛しき皇子達を護って下さいませ」




美しく整えられた衣装と穏やかな佇まいが、太后としての威厳を更に引き立てている。

優しげな微笑みを浮かべる彼女だが、その瞳には何処か暗い光が宿っているようにも見える。

彼女が見つめるたび、レンは背筋が少し冷たくなるような感覚を覚えていた



なんだろう、この感じ…

笑顔なのに冷たい視線を感じる。




『レン…っ』




スライムもその雰囲気に敏感に反応し、少し怯えるようにレンの肩で震えているような気がした。




「特にこのウォルターと言う男は、私の同郷の者でありまして。とても剣の腕が立ちます。彼らはこれまで、数々の任務を成し遂げて来ました。その為、その仲間達も信頼に足るとお見受けしております」




そう言うものの、殆どが建前だ。

シリウスはレン達の力量を見た事はないし、任務に関してもその成果を耳にした事は一度としてない。


しかしシリウスは、さもわかり切った様子で堂々と、レン達を紹介していた。

国王を真っ直ぐ見つめ、その姿勢にレンたちは少し心が落ち着く。

だが、それでも国王の視線が自分たちに向けられると、再び緊張が高まるのを感じていた。




「そうか、シリウスがそう言うのであれば、わしも信じてみるとしよう。だが、傭兵と言えどお前達も自覚しておけ。剣の国の一部を護ると言う事は、生半可な覚悟ではないのだ」




国王の厳しい声が響き渡る。

レンはその鋭い眼差しに一瞬息を呑み、力強く頷くしかなかった。




「そなたらには、第一皇子アルデール、そして第二皇子エルヴィンの護衛を命じる。継承式が近づく中、不穏な気配が国内外に漂っていると聞いておる。万が一、皇子達に危険が及ばぬよう、万全を期して貰いたい」




厳粛な国王の言葉に、レン達はしっかりと胸に手を当て、一礼する。

命をかけて守るべき責務が、いよいよ現実味を帯びて圧し掛かって来る。




「…はい、全力を尽くします」

「父上」




その時、アルデールが静かに口を開いた。




「なんだ、アルデール?」

「護衛など必要ありません。俺は一人で十分やれる」




アルデールは険しい表情で答え、傲慢にも聞こえるその声には、明らかに護衛への反感が滲んでいる。

彼はレン達を鋭く見据え、まるで『余計な手出しは無用』とでも言いたげだ。




「兄上、そんなことを言わないで…。彼らがいるのは心強い事じゃないですか」




エルヴィンは少し困ったように、しかし明るい笑みを浮かべながら兄を諭すように話す。

その穏やかな態度とは裏腹に、彼の視線には僅かに不安が浮かんでいた。




「スライムを連れているような女など、信用出来ません」




アルデールの眼が真っ直ぐにレンを、そしてスライムを見据えていた。

まるで射抜くような視線に、スライムは一瞬だが『ぴゃっ!?』と驚きの反応を見せる。

ぷるぷると震える体をそっと撫でると、レンは静かに呼吸を吸い込んだ。




「警戒させて申し訳ありません。この子は私がテイムしたスライムなのです」

「テイム…?」

「殿下。彼女――レン殿は、テイマーだそうです」

「テイマーだと?」

「何、それは真かっ!?」




すると、その話を聞いた国王が身を乗り出さんと声を上げた。




「その昔、我が国にもテイマーと名乗る者が訪れたと言う話を聞く。幼き頃、乳母から伝え聞いた話ではあったが…もしや、そなたの縁の者か?」

「えっ。いえ、違うと思います」

「そうなのか…いやそれでも、再びテイマーがこの地を訪れた事を感謝しよう!」




何だかよく解らないが、テイマーである事が国王には痛く気に入られたらしい。

先程までは警戒心を持った眼で見つめていた表情も、今では朗らかで優しい笑顔が伴っている。




「す、凄い。兄上っ。テイマーだそうですよっ!?」




弟のエルヴィンはもまた、興奮気味にアルデールを見ていた。




「落ち着きなさいエルヴィン。また咳き込んでしまいます」

「は、はいっ。母上。申し訳――けほっ、けほっ」

「ほうら。それ見た事ですか」

「だ、大丈夫です。これくらい…」




エルヴィンはそう言うものの、少し苦しそうに胸元を抑えている。

彼は、大丈夫なのだろうか…と、レンは少し心配そうにその様子を見守った。




「…テイマーだか何だか知らないが、その者からは妙な気配が感じるのです」




アルデールはレンに視線を向け、険しい表情で一歩前に踏み出す。

その眼光は鋭く、まるでレンの何かを見透かそうとしているかのようだ。




「気配…?」




驚いたレンが言葉を返す間もなく、アルデールの手が剣の柄にかかる。




「貴様、魔物の仲間ではないだろうな。」




その言葉と同時に剣が抜かれ、レンに向かって向けられる。

場の空気が一気に張り詰め、スライムが驚きに震えた。




『わぁっ!?』

「あ、兄上、落ち着いて下さい…!」」




エルヴィンが慌てて間に入り、レンに向けられた剣を止めようとする。

その表情には必死さが浮かんでいた。




「この者からの妙な気配は、僕も感じ取ってはいます…が、きっとこのスライムから、そのような気配を感じているのではないでしょうかっ」


「…スライム…そう、か…」




アルデールは剣先をスライムに向け、少しばかり拍子抜けした表情を浮かべる。




『ボ、ボク…悪いスライムじゃないよぅ…!』




怯えたスライムが小さく震える様子を見て、彼は静かに剣を納めた。




「…すまなかった。しかしやはり護衛など不要だ。護るのなら、其処のひ弱なエルヴィンだけでいいだろう」


「兄上…ぼ、僕はそれほどひ弱では――けほっ…」




言いながらも、その口からはヒューヒューと細々とした呼吸音が聞こえて来る。

もしかしたら、気管支系に影響が出ているのだろうか?

一呼吸するのにも本当に苦しそうな表情だ。




「エルヴィン!」




そんな皇子に、慌てた様子で太后が駆け寄ると、優しくその身体を抱き締めた。




「あぁ、可哀想なエルヴィン…アルデール王子の所為で、また今日も余計な心労が祟ったのですね」

「…っ」

「違います、母上…そう言うんじゃ、ない…」




太后の腕から離れ、エルヴィンはふらふらとした足取りでレン達の方へ振り向く。




「すみません、兄上はああ見えても、本当に優しい人なんです…。いつもは一人で居る事が多いので、護衛の方がいると緊張してしまうのかも知れませんえ。ですが、お話すれば解って貰えると思います。ですから、気にせずお力添えください」


「は、はい…」




その表情からは苦しさの他にも辛さが窺え、彼が無理をしているのだと言う事が窺えた。

兄の冷たい態度に慣れているのか、エルヴィンは申し訳なさそうにレン達に頭を下げた。

一国の皇子様にそんな事をされては、此方も恐縮する他ない。

エルヴィン皇子のその表情には、心の底から兄を心配する気持ちが浮かんでいるようだった。




「解りました、エルヴィン皇子。精一杯お守りします」




返答するレンの言葉に、エルヴィンは安心したように微笑む。

彼の笑顔は純粋で、レンの心に何か温かいものが宿るのを感じさせた。





「ふむ。ウォルター殿、レン殿、ディーネ殿、それにマオ殿にスライムじゃな。覚えておこう」




それぞれが自己紹介を終え、場の空気が少しだけ緩むが、レンは緊張が一向に収まらない。

王と太后の前で護衛としての誓いを立てる事で、彼女は自分達が王国の重要な一員となった事を改めて感じていた。






王との謁見が終わった後、レン達は暫くの間城の中で過ごす事を許された。




「私達に本当に務まるのかな?」

「でも、ここまで来たからには全力でやるしかない…ですよね」


「うん…でも、護るべき相手が皇子だなんて…あの時は勢いで乗っちゃったけど、よく考えたらとんでもない事をしてるんだよね、私達」




その時、シリウスが二人に励ますように言葉をかける。




「大丈夫だ。君達ならやり遂げられる。信じているよ」




その言葉に、レンの中で覚悟が一層固まっていくのを感じた。



通常なら傭兵の寝泊りは騎士団員達の詰め所。

しかしレンやディーネが女性と言う配慮から、二人だけは城の中の客室を一部屋使用させて貰う事になった。

ウォルターには悪いと思ったが、彼はむしろ詰所の様な場所の方が有り難いらしい。




「凄いお部屋ですね。流石お城です…こんな所で寝泊まりさせて頂いて、いいんでしょうか」




ディーネは豪華な部屋の内装に驚き、何だか落ち着かないと零した。

レンもまた頷き、そわそわとした様子で辺りを見渡している。

しかしマオやスライムは、既にふかふかのソファの上で飛び跳ねたりと、緊張感は更々ない様子だった。


いくらロイヤル・ハウスに住んでいたとしても、自分の家とは勝手が違う。

やはり高級感満載な城の内装には、何度見ても目がちかちかするし、落ち着く事がない。

唯一の救いは、ベッドがふかふかで寝心地がいい事くらいだろうか。


しかしこの広さでは、確実にマオが転落するだろう。




「ベッドも二つしかないから、いつも通り一緒に寝ようね」

「あ、いつもそんな感じなんですね、レンさん達…」




余りにも普通にベッドに横になる姿に、ディーネは驚きつつも何だか微笑ましいと思った。



お読み頂きありがとうございました。

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