表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
78/146

D級テイマー、国の内情を知る



「それで、そのシリウスって人に会うんだね」

「あぁ、そうだ」




その夜、レン達は剣の王国の英雄と呼ばれるシリウスと共に、賑やかな夕食を囲む事になった。

何がどうしてそうなったのかは、大凡の事は先に聞いていたので、レンは納得した様子で頷いている。




「私が寝ている間にそんな事が…」

「と言うか、お前は寝すぎだ」

「あはは。どうにも時間に追われない生活に慣れたら、こうなってしまって…マオちゃんを見ていてくれてありがとう」




苦笑いを浮かべつつ、レンはウォルターに頭を下げた。




「でも、この国の英雄様とお会いするなんて、何だか緊張しますね…っ」

「そんなに硬くならなくてもいいさ。あいつはただの酒飲みだ」

「酒飲み…?」




そんな話をしながら目的の店に到着する。

レン達が訪れた居酒屋は、剣の王国の名物が楽しめる場所で、入り口からは既に活気が溢れていた。

広いフロアにはざわめきが響き渡り、大衆的なテーブル席では杯を交わす声や、料理を運ぶ店員の足音が絶えない。

中は個室、または半個室も備わっており、少し落ち着いて話したい客の為に用意されていました。




「ウォルター、こっちだ!」




シリウスは前もって個室を手配してくれていた様で、レン達は初めて対面する彼を前に、何処か緊張した面持ちで頭を下げた。




「初めまして、レンです!」

「は、初めましてっ。ディーネと申しますっ!!」




二人が揃って挨拶をすると、シリウスは少しだけ驚いた顔をしてウォルターを見た。




「おいおい。まさかお前が女性連れとはな…?」

「別に、そう言うんじゃない。これもフィオナの命令なんだ」

「またあいつは…いつまでもお前に頼りっきりだな」




そう言いながら笑うシリウス。

その姿は、模擬試合で見せた雰囲気とは、また違った印象だった。




「俺はシリウス。このビセクトブルク王国の騎士団長をしている」

「先日の模擬試合見ました! 凄い剣捌きで圧倒されて…」

「わ、わたしもっ。格好良かったです!」

「それはありがとう。さあ、遠慮なく座ってくれ」




レンは何処か安堵したようにほっと息を吐いた。

ウォルターも、いつもより少しリラックスした表情を見せている。


するとシリウスは、レンの腕の中にちょこんと納まるスライムを見つけた。




「ん? そこに居るのはスライムか?」

『こんにちはー!』

「おお、元気がいいな! しかし、偶然街に入り込んでしまったようではなさそうだが?」

「シリウス、レンはテイマーなんだ」

「テイマーだって? なんと、そうなのか!」




驚いた様に声を上げるシリウス。

レンもまたその声に驚いた表情を見せていた。




「いや、急に声を上げてすまない。テイマーを見るのは初めてだったから、ついな…」

「いえ」




やはり此処でも、テイマーと言う職業は珍しかった。


料理が運ばれてくると、香ばしい匂いが個室に漂い、レン達は自然と笑顔になる。




「さあ、今日は遠慮なく楽しむといい」




シリウスが言うと、マオが早速料理に手を伸ばし、スライムも少し興奮して小さく跳ねた。




「まさかお前が此処で会うとはな、ウォルター」




シリウスとウォルターがどんな関係なのか、レン達は興味津々だった。

ただの英雄ではない親しげな雰囲気に驚きつつも、その温かい友情の絆に自然と此方も笑顔になる。


再会を祝う乾杯が終わり、暫く和やかな雰囲気の中、シリウスが口を開きました。



「お前が剣の王国を去った時には、もう二度と会えないのかと心配してたが…それでも、今も剣を手にしている姿を見ると、やっぱりお前らしい」




と、シリウスはグラスを傾けながら微笑む。

ウォルターも懐かしそうに笑いながら答えた。




「ああ…俺もだ。こうしてまた此処で会えるなんて思わなかった。シリウス、こんな立派になったお前を見ていると、自分がどれだけ未熟か痛感するよ」


「俺もお前には感謝してるよ、ウォルター。お前との日々があったからこそ、俺はここまでやってこれたんだ。英雄だなんて言われるのも、正直しっくりこないんだけどな」




シリウスは少し照れくさそうに笑い、肩を竦める。




「お二人は、昔からのお知合いなんですか?」

「シリウスは俺と同郷なんだ。そしてフィオナもな」

「君達もフィオナの世話になっているのか。あいつの相手は大変だろう?」

「ど、どうでしょうかね。レンさん?」

「えっ。私に振るの?」




この中でフィオナの『被害』に遭って言うのは、言わずもがなウォルターの方だと思う。

そんな彼を見つめていると、ウォルターは苦笑した。




「あいつも相変わらずさ。お前の方はどうだ?」

「此方も多忙な日々を過ごしているよ。俺が団長になったのもここ最近でな。前任は事情があり、突然辞めてしまったんだ」

「そうなのか。それは大変だったな」

「あぁ…俺も探しているんだが、あの人が何処に居るのかすらも解らない」

「ん? 自分の意志で辞めたんだろう?」

「そうだったらいいんだけどな。どうもそれが違うらしい」




聞けば、前任の騎士団長だった男は、ある日突然その座を降り、この国から姿を消したと言う。

当時のシリウスは副団長の座にあり、彼が居なくなった経緯や理由などを、全く知らされなかったそうだ。

勿論、騎士団長の解任はそう簡単に行われる訳がなく、その事情を国王が知らない筈がないと、シリウスは尋ねた。




「国王にお尋ねしても『急に辞めた』とだけしか言わなかったんだ」

「それは…おかしな話だな? 辞めるまでに何か前兆はなかったのか?」


「あるにはある…が、俺には到底信じられない出来事だったよ」




其処で言葉を切るシリウス。

彼は苦悶の表情で、酒の注がれたグラスを見つめていた。




「あの人が騎士団を去る前日。俺に言ったんだよ。『この国が俺を裏切ったんだ』ってな」


「一体、何が遭ったのでしょうか…」

「団長とはそれきり会う機会もなく、連絡すら取れなくなった。今どうしているのかも解らないのが現状さ」




シリウスは、そう言ってグラスを煽る。

消えた元騎士団長の話も気になるが、何よりも彼が消える前に言った言葉が、どうしてもレンは気になっていた。




「この国がってどういう事なのかな…」

「そういやウォルター。何か相談があるとか言ってなかったか?」

「あぁ」




再会を喜び、暫し昔話に花が咲きますが、やがてウォルターは今回の重要な話へと話題を移す。

ウォルターが一息吐くと、途端に真剣な表情に変わった。




「実はなシリウス、俺達はただ観光でこの国に来た訳じゃないんだ」

「そうだろうな、フィオナが絡んでいるんだ」


「…元々。俺達は魔法王国へ向かう途中だったんだが、この国のゴタゴタで先へ進めなくてな。そんな中、王位継承の件で不穏な動きがあるっていう噂を耳にしたんだ。一か月以内――継承式までの間に、何か起きるかもしれないって話だ」


「何だって…?」

「信じ難い情報だけど、どうしても無視出来なくてな」




その言葉を聞いたシリウスの表情も固くなった。




「そうか…やはり、お前たちも気づいていたんだな」




彼は低く静かな声で続けました。




「城の中でも、どうも最近は雰囲気が変わってきているんだ。貴族や騎士の間にさえ、誰が味方で誰が敵か、簡単に見極められない状況になってる」


「でも王位継承問題とか、継承式だとか、そんな重要な時期なのにどうしてそんな事に?」




レンはその言葉に驚いて、思わずと尋ねます。

シリウスは少し考え込み、言葉を選ぶようにして答えました。




「寧ろこの時期だからだろう。王位継承はこの国にとって非常に重要な問題だ。兄のアルデール皇子と弟のエルヴィン皇子。どちらが王になるかによって、王国の方向性が変わる可能性がある。これだけ多くの人々が注目している中で、周囲の動向が複雑になるのも無理はない」




ウォルターが耳にした『不穏な動き』に、シリウスは真剣な顔を浮かべる。

表面上は平和が保たれているものの、内部では何が起こっても不思議ではない状況だった。

彼もまた、継承式に備えた準備が念入りに行われている一方で、その裏で蠢く不穏な動きを無視出来ないと感じていた。




「王国は今、非常に不安定だ。継承式は国の行方を左右する重要な儀式。だけど、最近の城内では味方が誰なのかすら見極めにくい。おまけに第二皇子の裏では、太后様が糸を引いてるんじゃないかって言う噂もあるくらいだ」


「太后と言うと、第二皇子の母君か?」

「あぁ。エルディン様にとっては実母だが、アルデール様とっては継母。あの方は、アルデール様の亡くなられた母君の妹だ」


「じゃあ、叔母さんって事になるのね」




しかし、第二皇子の裏で糸を引いていると言うのがよく解らない。

その太后とやらが、王位継承問題に何か関わっているのだろうか。




「太后様はエルヴィン様を大層可愛がられておられる。そんな皇子を、次期国王の座に就かせたくなるのは道理だろう?」


「しかし、上には第一皇子がいる。順当に行くのならば継承権は第一皇子にあるのでは?」

「其処なんだ、ウォルター」





「正直に言えば、どう動いていいか考えていたところだったんだ」

「と言うと?」


「王位継承問題は根強い。第二皇子は17歳とまだ年若く、通例であれば、20歳の第一皇子に王位継承権があるのだが…最近は皇子の周りで、不穏な空気が流れ始めていてな。この前は剣の訓練中、斬り殺される寸前だった」


「何っ…!?」


「それを犯したのが団長なんだ。幸い皇子に怪我はなかったのだが、そんな大ごとを仕出かしたのなら即刻処刑もの。しかし皇子の温情によりそれは免れたが、結局のところ騎士団長は剥奪だ。『あの人がそんな事をする筈がない』と俺が進言しても、皇后は聞く耳を持たなかった」


「国王には?」

「言ったさ。しかし、結局はあの方も皇后様の言いなりに過ぎん」




シリウスが語る言葉は、この国の内情に深く突き刺さる内容だった。

食事をしていた手もいつしか止まり、レン達は彼の話に真剣に耳を傾けている。




「しかし、アルデール様が命を狙われていると言うのは、間違いないのだろう。その怪しげな二人組が話していた内容も考慮すれば、継承式までの間に何かが起こる事は明白だ」


「俺の話を信じてくれるのか?」

「お前の話だからこそ、俺は信じるんだぞ、ウォルター?」

「そうか…ありがとう」




ウォルターは驚きに目を見開いたものの、シリウスの言葉に何処か安堵した表情を浮かべていた。




「しかし、俺一人では難しいだろうな」

「騎士達が護衛につくのはどうなんだ?」


「うむ。こう言っては何だが、アルデール様はとても素晴らしい剣の使い手なのだ。自分の身は自分で護れると仰るくらいにな…だから、力量不足の騎士達をを場に置いておく事はしないんだよ」




街の広場で見た模擬試合。

其処で戦っていた騎士達の剣捌きは、シリウス程ではないが確かに光る物があった。

そして、この国で騎士と名乗る空には、それ相応の実力を伴っている。

しかし、第一皇子のアルデールは、そんな騎士達の上を行く実力の持ち主だった。




「さっきも言った通り、俺だけでは皇子をお守りする事は難しい。其処で俺からもお前達に頼みがある」

「頼み?」

「何でしょう?」

「お前達は、騎士団が雇った傭兵と言う形で城に潜り込んで欲しい。要は皇子の護衛役をして貰いたいんだ」

「えっ!?」




レンとディーネは驚いた。

まさかそんな提案をされるとは思ってもみなかった。


話を聞いたウォルターもまた、顔を顰めている。




「シリウス、本気で言っているのか?」

「勿論だ」




シリウスの表情は真剣で、決して冗談を言っているようには見えない。




「俺はこの国の行く末を案じている。皇子達の仲もだが、このままでは国は荒れるだろう。…こんな事、お前くらいにしか話せない」


「シリウス…」




ウォルターは少し戸惑った顔で、レンとディーネを見た。




「レン、ディーネ。俺はシリウスの話に乗ろうと思うんだが、いいだろうか?」




レンは少し戸惑いながらもウォルターに視線を送る。




「私達でも出来る事があるのかな…?」

「勿論だレン。シリウスが信じて頼んでくれてるんだ、俺達に出来る事を全力でやろう」

「そ、そうですね。レンさん、頑張りましょうっ」

「解った。では、その話を引き受けよう」


「ありがとう。お前達が此処に居てくれる事は心強い。継承式までの間、俺もお前達と協力して、この国を守りたい。もしも何か異変が起きた時には、すぐに知らせてくれ」




ウォルターはシリウスと強く握手を交わした。




「本当に感謝する.…では明日。冒険者ギルドには俺の方から依頼を出しておこう」




シリウスの申し出を受け入れ、レン達はは継承式までの間、ビセクトブルクの城に入り込む事になった。

かつて騎士を目指したウォルターと、そしてその友人であるシリウス。

二人が再び手を取り合い、国家の未来を守るべく動き出す瞬間だった。




お読み頂きありがとうございました。

ブクマやご感想等を頂けましたら、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ