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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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C級大剣使い、旧知を訪ねる




ウォルターは、厚みのあるウィスキーグラスを手に取り、琥珀色の液体をゆっくりと揺らした。

宿の控えめな照明に照らされ、グラスの中でウィスキーが静かに輝いている。

光をまとっては揺らめく様は、まるで炎のようにも見えた。


その豊かな香りが鼻腔を擽り、スモーキーでありながら僅かに甘みを含んだ香りが、彼の心に微かな安らぎを与えていた。


一口含むと、口内に広がるウィスキーの複雑な風味。

強めのアルコールの刺激と共に、樽の香ばしさや、微かに漂う果実のような甘み、そして余韻に残るスパイスの辛味が絡み合い、心の奥にしみ込んでいく感覚。



ぼんやりと窓から外を眺めては、自分が目指した道、そして辿り着いた現在の自分について。

気が付くと、頭の片隅でそればかりを考えていた。


ウォルターにとって、街の模擬試合で見たシリウスの登場は、強い衝撃と同時に懐かしさを伴っていた。


観客の歓声と拍手喝采の中で、シリウスは見事な剣捌きを披露する姿。

若い騎士達をものともせず、堂々たる態度で立っていた。

鍛え抜かれた体、洗練された技、そして騎士団長としての貫禄――


そのどれもが輝いて見え、ウォルターは心の奥に小さな後悔を感じた。




「もし、俺も騎士の道を歩み続けていたら…」




フィオナを支える為、騎士の道を断念した過去が、ふと重たく圧し掛かった。

その瞬間、かつてシリウスと共に未来を夢見た、若き日の自分を思い出し、少しばかり苦笑が漏れる。


直ぐに彼は、思い直すように首を振った。



…過ぎた事を言っていても仕方がないな。



今の道は自分で選んだものであり、後悔はない筈。

しかし、心の何処かに僅かな未練が残っているのは確かだ。




「スライム、マオちゃん。もう寝る時間だよ」




そんな中、周囲からはレン達の声が微かに聞こえて来た。

隣の部屋では、レンが小さな魔王とスライムに優しく言い聞かせているようで、それに対して楽しそうな笑い声がしている。




「そうなの。凄かったんだよ、それでね、お城もすっごく大きくてね――」




その反対にあるディーネの部屋からは、誰かに街の出来事を楽しげに報告する声が、風のように聞こえていた。


今日も彼女は、大好きな祖母に電話をしているのだろう。

ウォルターの口元にも自然と微笑が浮かんだ。



夜も更け、皆が静まりかえった頃。

いつしかレン達の声も聞こえなくなり、ウォルターもまた最後の一杯を飲み干してから、眠りに就こうと考えていた。


明日もまた、街で情報収集をしなければならない。

継承式が終わり日までは手持無沙汰になりがちだが、この国が抱える『王位継承問題』について、もう少し調べる必要がありそうだった。


何せ、街の住民達が心配するように、皇子二人の仲は悪い。

それは見学ツアーで目にした光景からも、計り知れる事。

このまま二人がいがみ合えば、最悪の場合、それこそ国全体を揺るがす騒動になりかねない。


王国の未来を、まだ年若い皇子達に背負わせると言うのも酷な話だった。


かと言って、自分に何が出来るとも思えないのだが――




「…ん?」




ふと、窓の外を見る。

何処からか、低く響く話声の様なものが微かに聞こえてくる気がした。




「何だ…?」




ウォルターはその声に耳を澄ませ、慎重に窓際に歩み寄った。

声だけから男が二人居る事は解るのだが、暗闇に紛れて姿は見えない。

更に声は遠くにある様で、夜風に乗って微かに聞こえて来る程度だった。




「反逆者を一か月以内に始末しろ」




ウォルターの耳に、思いもよらない言葉が飛び込んで来た。



『反逆者』そして『継承式』



聞こえて来る会話は断片的なもので、もっと近づかなければそれは聞こえない距離。

だが、今此処で物音一つでも建てようものなら、その『誰か』に気付かれてしまう恐れがあった。


会話の内容を反芻しながら彼は眉を顰め、其処にある不穏な気配を肌で感じ取っている。




それは『継承式までの間に何かが起こる』と言う話だった。


ウォルターはその話を信じるべきか迷いながらも『誰かが命を狙われている』と不安を抱く。

いつしか、酒の酔いも吹き飛んでしまっていた。

これが単なる噂であればいいが、もし事実ならば対処しなくてはならない。


特に今は、継承式を控えた大事な時期。

何かが起きる前に対処はしておきたい所だ。


しかし自分はただの冒険者。

しかも『C級』ではそう簡単に、国王へのお目通りも敵わないだろう。




「あいつなら…」




そんな思いから、ふとシリウスの顔が脳裏を過った。

そしてウォルターは翌日、シリウスに会おうと決めたのだった。







翌日。


ウォルターが城へ向かおうとすると、彼の傍には小さな魔王の姿があった。

辺りをキョロキョロ見回すその様子に、ウォルターは思わず首を傾げる。




「…レンはどうした?」




其処には、彼のテイマーたるレンが居なかった。

するとマオは腕を組み、ふんっと少し得意げに笑う。




「レンは寝坊助なんだっ」




その言葉に、ウォルターも少々呆れたように苦笑いを浮かべた。

旅を始めて以来、レンがよく寝坊するのには驚かされたものの、今朝もやはり起こさない限り目を覚まさないようだ。




「全く…相変わらずだな、あいつ」




肩をすくめるウォルター。

そんな時、彼女を起こすのはスライムやマオの役目なのだが、彼が此処に居ると言う事は、スライムに任せているのだろうか。




「スライムなら、ディーネと一緒に出掛けて行ったぞ」

「…人の心を読んだのか、お前?」

「まさか。そう顔に書いてあるんだ」

「そうか…それで、お前は一緒に行かなかったのか?」

「あっちよりこっちの方が面白そうだと思ってなっ!」




マオはにやりと笑って言った。

『こっち』と言うのは、ウォルターの要件の事なのだろう。


昨夜の事は誰にも話してはおらず、今から自分が旧友に会いに行くと言う事もレン達は知らない。

だからこそ、この小さな魔王が知っている筈もないのだが…




「それにレンが居真似てるんだ。オレが代わりにお前について行ってやるよ」

「えっ、いや、お前は来なくていいだろう」




ウォルターは慌てて手を振ったが、魔王はしれっとした顔で返す。




「何言ってんだ、お前はオレの『監視役』なんだろ? オレを放っておく訳にはいかないだろ」




その言い回しに、思わず押され気味になってしまい、どうしたものかと暫し考え込んだ。

監視役としての立場もある為、無理に突き放す事も出来ない。

そもそも本来の監視対象は『彼』なのだ。

いつもはレンが傍に居るから見ていてくれている事もあり、こうして二人で過ごす時はそうそうない。


けれど、小さな魔王の言い分もまた正しかった。





「仕方がない…ついて来い」

「おうっ!」




仕方なく。本当に仕方がなく、ウォルターは一緒に連れて行く事にする。



しかし、出発してすぐに、彼はその決断を少し後悔し始めていた。

マオはあっちへちょろちょろ、こっちへちょろちょろと小さな体で好き勝手に動き回り、ウォルターは目が離せない。




「おい、こら魔王。そっちは危ないぞ!」




慌てたように注意すると、マオはウォルターを振り返り、少しむくれた顔で言い返した。




「お前、いつまで『魔王』なんて堅苦しい呼び方するんだよ。オレの事はマオって呼んでいいんだぞ?」

「いや、さすがにその…お前は、あくまで魔王だからな…」




困ったように言うウォルター。

人通りが多い中で『魔王』と呼ぶにも気が引けるのだが、それ以外に彼を呼ぶ言葉がない。


レンやディーネは親し気に名前で呼んでいるが、ウォルターは未だに彼を『魔王』と呼んでいる。

それが気に入らないマオは、なおも食い下がった。




「こうして一緒にいるんだ。それとも、お前にはそのくらいの柔軟さもないのか? でないとオレもお前の事を『おっさん』って呼ぶぞ?」


「お前までおっさんは呼ばわりはやめてくれ…」




その言い方に少しムッとしつつも、ウォルターは考え込むように沈黙した。

確かに、この小さな魔王は彼にとっても、何処か憎めない存在になっているのかも知れなかった。




「…解ったよ、マオ」




少し照れ臭そうに言葉を詰まらせつつ、ウォルターはぽつりと彼の名を口にした。

それを聞くや否や、マオは満足げに頷く。




「それでいいんだよ、ウォルター!」




ウォルターも、何処か不思議な親しみを感じつつ、マオを連れて再び歩き出した。


二人は王城の壮大な門をくぐり、城の内部へと足を踏み入れる。

今日も『見学ツアー』は大賑わいで、中にはは昨日と同じガイドの姿もあった。

マオがひらひらと彼に手をやると、その姿に気付いた様で優しい微笑みと共に手を返している。




「おや。また来てくれたのかな?」

「今日はシリウスに会いに来たんだっ!」

「シリウス…もしかして騎士団長の事かい? 君は一体…」

「まだ会えるとは限らないぞ」




そっとウォルターが声を掛ける。

シリウスは今、騎士団長と言う立場に在る男だ。

幾ら旧友とは言え、アポもなしに直ぐに会えるとはウォルターも思っていない。




「シリウス団長なら、先程城に入って行くのを見かけましたよ」

「そうか、ありがとう」




ガイドの彼は不思議そうに首を傾げてつつも、自分の仕事に再び戻る事にした。


門を入ったすぐの所には、厳格な衛兵が数人立っており、ウォルターは彼らに一礼してから話しかける。




「すみません、シリウス団長にお会いする事は出来ますでしょうか?」


「本日はお会いするお約束をされていますか?」

「いえ、そう言う訳では…」




衛兵たちは一瞬、二人の姿を上から下までじっと見つめた。

そして衛兵の一人が、少しばかり困惑した顔でウォルターに答えます。




「団長は非常にお忙しい方ですから、お約束もなしに突然の面会は難しいかと。どのようなご関係でしょうか?」




ウォルターは言葉を詰まらせ、一瞬返答に戸惑う。

シリウスとは、確かに過去に共に騎士を目指した仲間だが、今の自分は冒険者。

シリウスの居る場所に相応しい存在かどうか自信がない。

どう説明すれば良いのか迷っていると、マオが唐突に幼い声で口を挟んだ。




「シリウスと友達なんだ! そうだろ、ウォルター?」

「そう…だな。まあ、昔の仲間なんだ」




マオの無邪気な言葉に、ウォルターは少し焦りつつも苦笑いを浮かべる




しかし、衛兵は怪訝な顔をした。

いきなりそんな事を言われても、直ぐには此処を通す事も出来ない。




「団長はお忙しい方ですので…」

「あっ! 居たぞ!」




衛兵がそう断ろうとしたその時、偶然にもシリウスがエントランスを歩いているのが見えた。

シリウスは一瞬此方に気づき、驚いたような表情を浮かべた。




「ウォルター…? ウォルターじゃないか!」




シリウスは懐かしそうにウォルターを見つめる。

ウォルターはその気さくさに、彼が昔と変わっていないと言う事を再確認した。

その表情には、何処かほっと安堵した様子も見られる。




「シリウス。…久しぶりだな」

「本当に! 元気にしてたか?」

「ああ。お前も元気そうで何よりだ」


「こ、これはとんだご無礼を…!」

「失礼致しましたっ!」




衛兵達は二人を不審に思っていましたが、シリウスが親し気に話している様子を見て、慌てて敬礼をして後ろに下がった。

シリウスは衛兵達に軽く手を挙げ、困った様に笑っている。




「何だ。門前払いでもされていたのか? 悪かったな…」

「いや、大丈夫だ…あぁ、この前の模擬試合を見ていたぞ」

「そうか、見ていたのか」

「おめでとう。よかったな」

「あの場にお前が居たと解っていたのなら、騎士の相手ではなく、お前を指名したかった」

「よしてくれ。王国騎士団の団長に剣なんて向けられない」




そう言ってウォルターは苦笑する。

そんな彼を見て、シリウスは何処か複雑そうな表情を浮かべた。




「お前は、まだフィオナの所に?」

「ああ、相変わらずさ」

「相変わらず、仲がよろしい、と」

「変な言い方はよせ。ただの腐れ縁だ」




そんな会話をしていると、マオがじっとシリウスを見つめているのに気付いた。




「この子どもは? …まさかお前の?」

「ない」

「だろうな。しかし、フィオナの子だとも思えんが…」

「俺は魔王だ!」

「…魔王だと?」




早くもウォルターは頭が痛くなった。




「こいつは『マオ』だ。そしてこれはそう言う『遊び』なんだ。気にするな」

「なるほど」

「ところでシリウス。お前に相談したい事があって来たんだが…」




積もる話もあるが、本題は其処じゃないとウォルターは話を切り出すが、シリウスの表情は少し曇っていた。




「相談か…すまない。王に呼ばれていてな。もしよければ夜で会わないか?」

「あぁ、解った」

「行きつけの飯屋を覚えてるか? 其処で待ち合わせしよう」




そしてまた後ほど会う事を約束し、シリウスはその場を立ち去った。




お読み頂きありがとうございました。

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