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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、国の英雄を知る



ウォルターは通信機で、早速フィオナと連絡を取る事にした。

剣の王国に無事到着した事や、国で起きている王位継承問題。

更には魔法王国への関所だけでなく、別ルートも封鎖されている事を一通り説明する。


すると、通信機から聞こえてくるフィオナの返事は――『何とかして』と言う、冷たく淡々としたものだった。




「何とかって言われてもな…八方塞がりなんだ」

「じゃあ継承式が終わるまで、剣の王国で待機して。ついでだから王位継承問題も解決して来たら?」

「そんな一国を背負う重いクエスト、俺は絶対にやらないぞ…」




その簡潔で断固とした命令に、ウォルターは思わず溜息を吐いた。

フィオナの声はレン達の耳にも確かに聞こえており、とんだ状況になったとその表情を曇らせている。




「…聞いた通りだ」




肩を落とした様子でウォルターは電話を切った。




「フィオナからの命令は『此処で待機』だそうだ。」

「ラ・マーレにも帰れない状況で、ただひたすら待つしかないって事…?」

「そう言う事になる」




苦笑いを浮かべて伝えるウォルター。

その表情には、少し呆れたような諦めも混ざっていた。




「すまない。いや、二人だけでも街に帰って貰っても構わないんだが…」

「ウォルターが残るってなると、私も残らなきゃでしょ?」

「うむ…」




一応、名目上はウォルターがレンの監視係。

レンがこの度について行くのも、彼がそう言う立場だからこそである。




「それでしたら、わたしも一緒に残りますっ」

「ルーナさんの元へ戻らなくてもいいのか?」


「おばあちゃんはわたしの背中を押してくれたんです。いきなりこんな事になっちゃってますけど、これも旅の『醍醐味』ですから!」




旅立ちを決めてから、ディーネの心は少しずつだが強くなっているとレンは思い始めていた。

彼女はまだ14歳と言う幼さながらも、懸命に成長しようと頑張っている。


それに比べて、自分は――と、またしても心が少し暗くなったのを感じた。




「でも、待つしかないんですか?」

「あぁ。当面はな」

「継承式が終わるまで、か…」



レンがぽつりと呟き、少し考え込んだ。

ディーネも不安げな表情だった。




「フィオナさんも凄い事を言ってくれるね?」


「まあ、フィオナのああいう横暴っぷりにはもう慣れっこだ。何しろ、長年の幼馴染だからな」




ウォルターが肩を竦めて言うと、少しだけ場の空気が和んだ気がした。

レンはそんなウォルターの姿に、彼がどれだけフィオナに振り回されてきたかを察した。

思わず笑いそうになるのを堪えつつ、一方で、封鎖された道と先の見えない状況に、どうにか別の手段がないものかと頭を巡らせる。




「まあ、こうなったらのんびり街でも見て回るか。ディーネは初めてなんだろう?」

「は、はいっ。そうなんです! もうちょっと見て回っただけで色々と目移りしちゃいまして…!」


「レンとディーネは、ずーっと店の前から動かなかったんだぞ?」

「ご、ごめんって言ってるじゃない、マオちゃん…」

「…まあ、女子は買い物好きだからな」




フィオナもそうだ、とウォルターは本日何度目かの肩を竦めた。

彼女の買い物は、一体どんな雰囲気なのだろうかと、ちょっとだけレンは気になったりもする。



ひとまずこの街を歩き、情報収集をする事にした。

ビセクトブルクに於いて問題となっている『王位継承問題』や『継承式』について、レン達はまだまだ解らないことだらけなのだ。

先程の御者が言っていたように、街の雰囲気は賑やかに見えて何処か物々しく、兵士たちの眼がギラリと光っている。

それだけ街中も警戒態勢に在るのだろうが、これでも気の休まる間もないんじゃないか。


そんなレン達の想いとは裏腹に、街の人達はいつも通りの生活を送っている。

王位継承問題については話題や噂話に取り上げられたりはするものの、結局のところ王族同士での関わりである。

心配する声はあるものの一般市民には何の助力も出来ないのが現実だった。




「ねぇ、せっかくだしもっと街の人にも話を聞いてみない?」




レンが思い立ったように言った。




「もしかしたら、城の中での噂や情報を集める事が出来るかもよ?

「お城! わたし、是非中に入ってみたいです!」




お城と聞いて、ディーネは途端に目を輝かせた。

ビセクトブルクに着いた時もそうだったが、彼女は大きなお城にちょっとした憧れを持っていた。

女の子だからと言えばそれまでだが、その気持ちはレンも同様で、何年歳を取ろうともピュアな心は何処かに残っているものだ。


ウォルターは少し驚いたようにレンを見つめると、やがてその提案に頷いた。




「潜入捜査でもするつもりか? 上策とは言い難いが、まあやらない手はないか」

「でも、今日も『見学ツアー』は行列みたいだね」




城へと続く道は、お城の見学ツアーに訪れた人が長い列を作っていた。

常に人々の為に門は開かれていると言うが、そのツアーに参加するだけでも一苦労しそうだ。

加えて現在は例の『王位継承問題』もあり、余計に人が殺到しているのかも知れない。

とうとうツアー参加には整理券まで配られる形になっていた。


ディーネの要望もあり、レン達も整理券を受け取りに行くと、中に入れるのは何と数日後。

たった数日でよかったと思うべきなのかは解らないが、この街に居る内には一度くらいは見ておきたいと思う。




「中に入るには、数日待たなければならないようだな」

「あの行列だもん。仕方がないよね」

「はい。それまで、他に出来る事をしてみましょうか」


「そうだな。街で聞き込みをするのもありだろう」




ウォルターは頷いて、そう言った。




「城には騎士や侍女達も増えてる筈だし、皇子達の噂や国の状況について、何かしら聞けるかも知れないな」

「そうですね」




街の中で囁かれる噂や騎士や民の意見から、何か見えてくるものがあるかも知れないと、レン達は考えた。

その案にスライムも『いこ―!』と元気よく応えた。





レン達はその日から、街の情報収集を始める事に決めた。


時にはディーネが小さな街角で街の人達と親しげに話し、ウォルターは酒場で騎士や兵士、冒険者達と飲み交わしながら、彼らの本音を引き出そうとする。




「まあまあ、可愛らしいぼうやだこと!」

「よかったら美味しいお菓子を持っておいきよ」

「ありがとうっ!」

『わぁい!』




スライムとマオもその愛らしい姿を活かして、街の人々に自然と溶け込んで情報を集めていた。

早くも馴染んでいる二人の姿に、レンはまたしてもお株を取られてしまった気分である。




「マオちゃん達が居て助かってはいるんだけどね。私は何もしてないから何か複雑…」


「ま、まあまあ。レンさん!」




そう肩を落としていると、ディーネが心配して声を掛けてくれた。




「わたしが得た情報は、お城に二人の皇子様が剣と魔法に秀でた方々だってくらいしか解りませんでしたからっ」


「ディーネ…それは励ましになっているの?」




気持ちは有り難いが、それが更に落ち込みに拍車をかけてしまっている事を、彼女は知らない。

そんな二人の会話を苦笑しながら見ていたウォルターが、ふと気付いた様に通りの脇道へと眼を向けた。




「…ん? あれは――」




其処は街の本通りから一本外れた裏路地に続く道筋で、其処から誰かが姿を現すのが見える。



フウマだった。




「フウマさん!」




ディーネも気付いて声を掛けるものの、何処かぼんやりとした様子で聞こえていない。

するとマオが、タタタ…と彼の元に駆け寄るなり、その小さな手が彼の服を引っ張った。




「フウマ!」

「…っ。お前…チビ?」




フウマは一瞬驚いた顔を見せ、それからレン達に気付いた。




「お前ら、何でまだこの街に居るんだ?」

「実はな。魔法王国へ行くルートが全て封鎖されているんだ」

「あぁ…こんな時期だもんな、今」




ウォルターが事情を説明すると、フウマは何処か納得した様子で頷く。

通りを行き交う人たちを眺め、何処か疲れた様子で肩を落とした。




「残念だったな。ラ・マーレには戻らないのか?」

「それが、何とかしろと上からのお達しが来てな」

「何とかねぇ…継承式が終わるまで待つしかないと思うけど」

「とりあえずこの国の情報を集めようと思うんだ。もしかしたら、何処か別の道があったりするかも知れない」




その話を聞き、フウマは少しだけ考える。




「魔法王国か…其処までは俺も行った事がないからな。でも、関所が通れていた時は皆、安全にあのルートを通っていたし、わざわざ危険な道を選ぶ奴は居なかったぜ」


「やっぱりそうなのね…」




地元の人間である彼が言うのだから、間違いないのだろう。

聞いた話では殆どの人が口を揃え、同じような事を言っていた。


どう足掻いても、継承式が終わるまでは冒険者も行商人も、足止めを食らっているとの話が聞けた。




「陸が駄目なら空とか。海のルートはないの?」


「この地域は雨が多いけど、雷もまた多いんだ。直ぐに天候が悪くなるから、飛行船の類は飛ばせない。海を使うにしても、やっぱり関所か別ルートを通るしかないんd名よ」


「本当に八方塞がりなんですね…」

「ま。諦めて観光でもしてろって事じゃね。って言っても、継承式までまだ一か月はあるんだ。のんびりこの街を見て回ったらしい」




フウマの言葉に、レンは目を丸くした。




「一か月!? そんなに先なの?」

「何だよ、知らなかったのか?」

「そうなのか? 式典がいつだと言う話は、街の誰も知らないようだったが…」

「国を大々的に上げての式典なんだぜ? 継承式の日まで、毎日こんな感じでお祭りムードさ」




お陰でビセクトブルクは日に日に人の姿で賑やかになり、様々な催しものが開催されていると言う。

先日は、有名アイドルがこの街に訪れたとかで黄色い悲鳴が絶えず、それはもう大層な混雑具合だったそうだ。




「イベントと言えば。今日は街の広場が特に人が多いぜ」

「何かあるのか?」

「俺もさっき知ったんだけどさ。どうやら広場で王国騎士団が模擬試合をするそうなんだ」

「模擬試合?」


「あぁ。騎士達が日頃の鍛錬の所為かを、街の人達にお披露目するってのが目的で、毎年開催されてるんだよ。今年は継承式が近いって事で、随分と貼りきってるらしいぜ?」




話を聞き、感心した様子で呟くウォルター。




「ほう。そんなものがあったのか。知らなかったな…」




その表情は、何処か落ち着かなさそうにそわそわしているような気がしないでもない。

彼が昔『騎士になりたかった』と言う経緯もあり、その姿と実力を眼にしておきたいのだろう。


すると、その話を聞いたマオが大きく両手を突きあげた。




「オレ、見てみたいぞっ。騎士!」

「そうだね、私も王国騎士団がどんな人たちなのか、少し気になるかも」

「じゃあ、行ってみるか?」

「はい、そうしましょう!」

「んじゃ、俺も暇だし行こうかな。広場はこっちだ」




フウマの案内の下、レン達は街の広場へ向かう事に決めたのだった。




街の広場では、ビセクトブルクの王国騎士団が模擬試合を行うイベントが、開催されてようとしていた。

多くの観客で賑わうその光景は圧巻で、街の人のみならず冒険者達の姿が多く見られている。

広場の片隅にはちょっとした出店が並んでいて、お昼時と言う事もあってか皆、それを食べながら開始を見守っていた。




「す、凄い人ですね」

「本当に。席が取れただけでもラッキーだったね」

「そうだな」




広場に特設された会場には、多くの観客が入る事を見越して席が設けられている。

観客席には街の人々や冒険者が詰めかけ、熱気と歓声が辺りを満たしていた。

レン達も席に座り、剣の王国の実力ある騎士たちがどう戦うのかを興味津々で見守っていた。


大きな広場を円状にぐるりと囲むようにして、その中央には広々とした試合会場があった。

其処ではこのイベントの主催者と思しき男性が、開催に先んじての注意事項などを口頭で並べている。




「えー。模擬試合ではございますが、万が一と言う事もあります。飛んで来る剣や魔法には十分ご注意下さいますよう、宜しくお願い致します」




広場は騎士達が模擬試合に臨む前の緊張感と、人々の期待が交錯する独特の雰囲気に包まれていた。




「これだけの人が集まるなんて、やっぱり剣の王国の騎士団って、すごい人気なんだね。」




レンが目を輝かせながら周囲を見渡すと、ディーネも同じように瞳を輝かせて応える。




「そうですね…!普段は騎士の方々のお姿は見られても、こうして街の人前で披露するのは、滅多にない機会でしょうし」

「…それに、今日は王族も来てるから、騎士達も本気で臨むだろうな」




ウォルターは一瞬笑みを見せるものの、視線は別の場所に向けられていた。


レンはその言葉にハッとして王族席に視線を向けた。


観客席の中央付近には立派な椅子の席が設けられ、試合を観客するには一番いいポイントだ。

その席には、国王、太后、そして若い青年とまだ幼さの残る少年の姿があった。




「あれが、例の皇子達だ」




二人の皇子の名前は街での情報収集で知った事だったが、実際にその顔を眼にするのは初めてだった。


今、ビセクトブルクでは『王位継承問題』が勃発しており、第一皇子と第二皇子のどちらが王位を授かるかと言う議論が交わされている。

順当に行けば、兄である第一皇子が次期国王の座に就くのだが、どうにも込み入った事情があるらしい。

それは『義弟』である第二皇子の存在が関係しており、またその母である『現太后』が関わっている――と言うのが、レン達が街で仕入れた情報だった。


二人の皇子の顔は微笑んではいるものの、まるでそれが貼り付けたような笑顔。

そんな様子に、レンはふと違和感を感じるものがあった。


すると、観客席の一角から小さな囁き声が聞こえてきた。




「最近、あのご兄弟の仲がちょっと…ねぇ。前はあんなことなかったのにさ」

「そうそう。あのお二人、あんなに余所余所しかったか?」

「アルデール様もエルヴィン様も、跡継ぎの事でいろいろあるんだろうけど。兄弟だし仲良くして欲しいよなぁ…」




レンは、ふと噂話に耳を傾けながら、皇子達の様子に目を凝らした。


弟のエルヴィンは隣のアルデールに話しかけているようで、優しい笑顔を見せている。

しかし、アルデールは何とも言えない冷やかな表情を浮かべ、エルヴィンに視線を向ける事なく、素っ気ない態度に留まっている。

その姿は兄弟というよりも、何処か距離を置いた他人のようだ。




「ねぇ、ディーネ。あの二人、何か変な感じがしない?」

「えぇ。わたしも何だか少し、見ていて悲しい感じがします」




レンが小声でディーネに尋ねると、彼女は少し困った顔で頷く。




「街の人の前だからこそのあの笑顔なのでしょうが、ふとした時には、全然目を合わせてくれないみたいで…」

「…兄弟でも、立場が違えば色々あるさ。特に、王位を巡る問題が絡めばな」



ウォルターが低い声で呟いた。

レンはウォルターの言葉に、何とも言えない不安な気持ちを覚えた。


アルデールとエルヴィンの間にある冷たく張り詰めた空気が、酷く重く感じる。

エルヴィンは何とか話題を作り、親しげに語りかけようとするが、アルデールはその度に微妙に体を引いて、冷ややかな返事だけを返している。




「第二皇子の方は仲良くしようとしてるみたいだけど…何だか違うね」




レンが視線をじっと二人に向けたその時、彼女の視界の中で微妙な変化が起き始めた。


エルヴィンの周りには、ふんわりとした柔らかな青いモヤが揺らいでいるのに対し、アルデールの体からは、暗く鋭い赤いモヤがぼんやりと滲み出ていた。

その二つのモヤがぶつかり合うように、見えない軋轢が立ち上っているのが分かる。



どうしてそんな風に感じたのか解らない――が、レンは途端に眉を顰めた。




「(何、この感じ…エルヴィン皇子は兄に近づきたい気持ちがあるのに、アルデール皇子はその距離を拒絶してるような…)」




だがそれも一瞬の出来事で、ぼんやりしていたモヤはレンの視界から直ぐに消えてしまった。




そんな話をしている内に、模擬試合が始まろうとしていた。


剣を掲げ、盾を構える騎士達が広場で激しく戦い合い、観客が大きな歓声を上げる。

しかし、レンの心には、いつまでもあの兄弟の冷ややかな空気が残り続け、モヤモヤとした感覚が消える事はなかったのだった。




広場にはいくつもの旗がはためき、騎士達が揃いの鎧に身を包んで準備を整えている。

参加する騎士達はそれぞれの武器を磨き、兜を被り、剣を握り締め、試合への緊張と誇りを込めて戦いに備えていた。

騎士達のその真剣な表情が、観客達に尊敬の念を抱かせ、子供たちは目を輝かせて見つめている。


レン達も観客席から試合を見守っており、特にウォルターは試合の熱気に心が躍っていた。




「おぉ…っ!」」




その表情はまるで幼い子供の様だ。

そんな彼の様子にレンは小さく笑う。




「ふふ…楽しそうね、ウォルター?」

「む…いやしかし、これはしょうがないんだ。つい血が騒ぐと言うか…」

「うん、解るよ。私もさっきから胸がドキドキしてる」

『すごいすごーい!』




レンも同じくして興奮気味で観戦し、その膝の上でスライムは、ぷるぷると弾むように応援している様子が伺えた。


試合は主に一対一の剣技の勝負で行われた。

敵を制する能力も騎士としての重要な資質である事を示す為。参加する騎士達は互いに敬意を払いながら、鋭い剣技を披露し、白熱した戦いが次々に繰り広げられている。


中でも目を引くのは、若手騎士と経験豊富なベテラン騎士の対決。

若手騎士は新進気鋭の実力者として知られており、軽やかなフットワークとスピードを武器に戦っていた。


一方のベテラン騎士は力強い剣の一撃と安定した防御力で知られており、長年の経験から来る読みと巧妙な技で若手に一歩も引けを取らない姿を見せている。


レン達はこの一戦に釘付けになり、固唾を飲んで見守っていた。

試合はどちらも譲らない激しい攻防が続き、観客席はますます大きな歓声に包まれていく。


広場は熱気と歓声で埋め尽くされていた。



騎士達が汗だくで剣を振って打ちあう度、観客席からは歓声と拍手が沸き起こる。

レンも目を輝かせながら、騎士たちの真剣な戦いを見つめていた。




「すごい…!」




その迫力に圧倒され、息を呑む。

ウォルターやディーネも騎士達の技に釘付けだ。


だが、その熱気が最高潮に達した瞬間、不意に鐘の音が高らかに鳴り響き、会場は一瞬静まり返る。

観客達がざわめき始める中、中央に設けられた特別席に目をやると、司会者の男が壇上に立ち、声を張り上げてこう告げた。




「皆さま! 本日の模擬試合のクライマックスを迎えるにあたり、特別なゲストがこの場にお越し下さいました! ビセクトブルク王国騎士団が、そのお力をお見せする相手に相応しい、まさに特別中の特別なこの御方!」




一瞬の静寂の後、さらに大きなざわめきが広がり、観客たちはどよめいた。

騎士達も皆、鍛え上げた武器を握めたまま、誰がこの場に現れるのかと注視している。


観客の視線が次第に広場の入り口へと向けられると、そこには厳重な警備に囲まれながら堂々と現れた人物がいた。




「これは…!」




その人物は全身を白銀の鎧で身に固め、胸元に輝く王国の刻印が、ただ者ではない事を物語っている。

彼はゆっくりと歩を進めると、観客の注目を一身に集めながら真っ直ぐと広場の中央へと進んでいった。




「あの人は誰なんだろう?」




周りの観客の中には知っている者もいるらしく、驚きが入り混じった表情で囁き合っていた。




「まさか、彼が騎士団の新しい…?」

「退任した団長に代わり、彼が就任したと言う話は本当だったのか!」




噂は瞬く間に広がり、ついにはその名が明らかになった。

その特別なゲストは、剣の王国騎士団の英雄として知られる男――シリウスであった。


彼は若い頃から、騎士として数々の戦果を挙げ、剣の王国を救った名高い人物。

その名を聞いた者たちは全員が静まり、ただその存在に圧倒されていた。




「シリウス…だって?」

「知り合いなの?」

「…まあ、な」




ウォルターが小さく呟く。

どうしたのかと彼を訪ねたのだが、それきり口籠ってしまった。



シリウスがゆっくりと試合の場に近づくと、騎士達は一斉に姿勢を正し、その敬意を表した。

彼は顔に厳格な表情を浮かべ、観客と騎士達をゆっくりと見渡すと、落ち着いた声で語りかけた。




「本日は、この王国を支える優れた騎士達の力を、こうして皆様にお見せ出来る事を光栄に思う。だが、真の騎士とは、ただ剣を振るうだけではない。力を持つ者こそ、何を守り、誰の為に戦うのかを常に心に刻まねばならぬ」




その言葉に、観客達も騎士達も身が引き締まる思いがした。

シリウスの眼差しは厳しく、深い知識と経験に裏打ちされた言葉には、何処か重みが感じられた。


暫くの間、全員がその言葉を噛み締める様に静寂が続いた。


シリウスが更に続けて言った。




「私もかつて、多くの戦いを経験してきた。その中で知ったのは、真に恐るべきは敵の剣ではなく己が心の弱さだ。これを乗り越えられる者こそが、真の騎士として人々を守れるのだ」




レンはその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

シリウスの語る『心の弱さ』とは、騎士でないレンにでさえも深く突き刺さる。


スライムが成長する様に、レンもまたテイマーとして成長をしなければならない…


シリウスの登場により、模擬試合の場は更なる緊張感と敬意で満ちたものになり、まるで新たな気持ちを持ったかのように再開された。


シリウスは若い騎士と対決し、その鍛え上げられた剣技を披露。

力と技を兼ね備えた見事な試合運びで、観衆全員を魅了した。

観客も騎士も、ただ『英雄』の言葉を心に刻み、目の前の戦いを見つめ続けている。


観客達はその勇姿に大歓声を送り、シリウスは穏やかな笑みを浮かべて応える。




「もし、あそこに居たのが俺だったなら…」




ふと、試合を見ていたウォルターが口にした言葉。

彼は大剣使いとしての誇りと挑戦心を掻き立てられたのか、そんな事を呟いた。


レンもまた、シリウスが単なる剣士ではなく、王国の未来をも背負っているような圧倒的な存在感に目を見開いていた。

その姿に、レンも次第に自分の中に沸き起こる熱い意志を感じ始めるのだった。




「…私も、強くならなきゃ…」




レンが小さく呟く。

その隣では、マオが小さく微笑んでいた様な気した。





やがて全ての試合が終わり、騎士達が王族へ深く一礼をして城へと戻って行く。

その姿に、観客達は立ち上がって拍手を送る。

まさにスタンディング・オベーション。

模擬試合は終始大歓声と熱い熱気、そして興奮に包まれていた。




「凄かったね」

「はいぃぃ…! 騎士の方々の動きにハラハラしちゃいましたっ」

「あんな風に剣を扱えるって、いいなぁ…」


『俺もあれくらい扱えるぞっ。レンも見ただろ?』




レンはマオが職人ギルドで『王者の剣』をぶん回していた光景を思い出した。




「マオちゃんのあれは、常軌を逸していると言うか何と言うか…」




レンが素直にそう意見すると、マオは唇を尖らせる。

どうやら拗ねてしまったらしい。


また後でアイスでも買ってあげよう…






――国を背負う二人の皇子。


その背後には『王位継承問題』の闇が、重圧が。


何処までも深く、深く、圧しかかっている――



『とある男の手記より抜粋』




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