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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、復興を願う




降っていた雨はいつの間にかやんでおり、雲の隙間からは太陽の光が差し込み始めている。

この分だと、午後にはこの村を出立出来るだろうか。

そんな事を考えていたウォルターが口を開く。




「村への報告は終わった。そろそろ此処を出るぞ」

「えっ。もう一泊すんじゃねーの?」




フウマが驚いた声を上げるのに対し、ウォルターは少し肩を竦めて見せた。




「お前、またあの家に泊まる気か? 流石にもうご迷惑だろう」

「何でだよ。せっかく助けてたんだから、それくらいいいじゃんか」

「村の人は、食料の入手も困難の様ですからね…」




ディーネの意見は正論だった。

村を救ってくれたお礼に食事でも――なんて声もあったが、流石にレン達は断った。


村が救われたとは言え、食料の問題は何とも言えない。

少しでも村の人の足しになればと、レン達は食糧を分け与えたりしたのだが、それも村人の人数を思えばほんの微々たる量だ。




「ベッドが恋しい」

「駄目だ」

「せめてこの村に馬車はないのかよ?」

「ない」

「ちぇっ…」




そんな様子をディーネが困ったように笑う。

レンもまた、フウマの言動に対して肩を竦めている。




「ビセクトブルクまでは此処から歩いても、夜には着ける筈だ」

「まーた山歩きって訳か」

「雨がまた降らない内に行かないとね」

「はいっ。そうですね」




そんな事を話しながら、レン達は最後に村長に挨拶をして、この村を後にする事を決めた。


そんな時、村の入り口では思いがけない人だかりが出来ている事に気付く。




「何でしょう、あの人だかり?」

「私達を見送ってくれるとか?」

「…いや、そう言う訳ではなさそうだ。行ってみよう」




ウォルターは少しだけ怪訝な顔をして近付くのを、レン達も追いかける。




「どうしたんですか?」

「あっ、旅の方!」

「それが…村を出て行った若い奴らが、帰って来たと言うんです。しかも仲間を引き連れて…」

「…何?」




村の入り口には大勢の村人を前に、何とあの荒くれ者達が勢揃いしていた。

村人達は不安そうに彼らを見つめている。




「どういう事?」

「もしかして、また村に悪さをしに来たのか?」




そんな声が何処からともなく囁かれる。

中には先日、たまたま彼らの姿を見てしまったと、未だ忘れられない恐怖に震える村人も居た。

荒くれ者達は村人のそんな会話や表情に、表情をますます硬くした。


彼らを見て、ウォルターもまた驚いた様に目を見張った。




「お前…」

「よお。ウォルターさん…だったか?」




その中には、あのリーダー格の男の姿もあった。

彼はウォルターを見るなり肩を竦めたものの、その眼にはあの時の様な怒りは見られない。




「あんたに言われた言葉が、どうにも忘れられなくてな」

「…そうか」

「すまんな。通してくれ」




すると村人の間を縫うようにして、村長が姿を現した。

彼もまた、騒ぎを聞きつけて此処にやって来ていた。




「村長!?」

「近付くのは危険だっ!」

「構わん。私も話が聞きたいんだ。だが…」





頭を下げる荒くれ者達を眼にし、村長は直ぐに困惑した表情を見せる。




「旅の方、これは一体どう言う事か?」

「見て通り、彼らは…」

「俺達は謝罪をしに来た」

「謝罪だと…?」




その意外な言葉に、村人全員が驚きを見せる。

荒くれ者達は肩を落とし、何処か気まずそうに視線を落としている。




「お前…牧畜場のとこの孫じゃないか?」

「そこに居るの人、村長の息子さんよ…っ」

「今まで連絡を寄越さないと思ったら、何て事を…!」




その中には村人達にも馴染み深い顔もあり、それがより一層場を混乱させていた。

どうやら彼らは村を出て行った若い人達が、何処で何をしているかまでは知らなかったようだ。


それは彼らの身内である、村長もあの牧畜場のお爺さんも同じである。




「…話を聞こう。リーダーはお前さんか」




村長は静かに見つめ、男達に問い掛けた。

リーダーは静かに頷いた。


やがてリーダーは一歩前に出ると膝を突き地面につけるように深々と頭を下げた。




「…俺達は、自分が何を仕出かしたのかその罪の重さを知りました。到底、貴方達に許されるなんて思っていません。ですが、せめてもの償いに、この村で働かせてはくれませんか。村を襲っておいて何様だとは思われるでしょうが、俺達が壊した村だ。自分達の手で直したい」




村人たちは余りの光景に驚き、言葉を失った。

そして、リーダーは更に続けた。




「俺達は私利私欲の為に、この村を苦しめ、救う為にやって来た冒険者の命まで奪った。どれだけの人が俺達の所為で嘆き、悲しんだのか…それを考えると、タダ謝るだけでは足りないのは解っています」


「そうじゃな…村の中には大切な鶏を盗まれ、生きる希望を失くしつつある者も居る」

「ち、違うんだ!」




その時、牧畜場の孫と思しき青年が顔を上げた。

彼はまだ年若く、少し幼さが残った様な顔立ちをしていた。




「お前は――牧畜場の孫か?」

「は、はいっ!」




彼は頷いて、神妙な面持ちで語る。




「じーちゃん。鶏小屋に居た子達はね、俺を追いかけて出て行っただけなんだ」

「ど、どういう事じゃ…!?」


「じーちゃんと喧嘩別れして村を出た日。俺の後を追いかけるようにして脱走したんだよ。じーちゃん、小屋の扉を閉め忘れる時、たまにあっただろ…?」




それを聞いて、おじいさんは口を紡ぐ。

思い当たる節があるのか、その表情は歪んでいた。




「鶏達が脱走したのには後で俺も気付いて…でも、気付いた時にはもう遅かった。魔物が現れて…」

「それじゃあワシの大事な鶏達は…」

「護れたのはこのたった一羽だった。ごめん、じーちゃん」




青年の傍には一羽の鶏が居た。

コッコッコ…と、小さく鳴いては辺りを見渡し、時々その青年を見上げるように見つめている。

その声は聞こえないものの、レンには何処か心配しているような顔をしているような気がした。




「お、おぉ…お前は――そうか、お前は特に孫に懐いておったからな…」




目にうっすらと涙を浮かべ、おじいさんはそっと鶏を抱き締める。

青年は申し訳なさそうにしていたが、お爺さんのその姿を見て、ついには同じように泣き出していた。


その様子に、ウォルターが青年に聞いた。




「どうして、直ぐに帰さなかったんだ?」


「…この村を襲うってなった時、どさくさに紛れて小屋に帰そうとしました。でも、モタモタしてたら村の人に見つかって、思わず逃げてしまって…」

「お、俺があの夜に見たのは、お前だったのかっ」




村人が驚いた様子で声を上げる。


身を隠しながらこっそりと青年が鶏を戻そうとしたまではよかったが、運悪く村人に見つかってしまった。

青年は顔を見られてしまった事に驚いたが、村人はそれが牧畜主の孫までとは思わなかった様だ。


どちらともなく慌てて逃げ出し、青年は鶏を連れてアジトに戻る形になってしまったと言う。




「村では田畑を荒らし、家畜を盗んだりしていましたから…そんな事をする人達だと知ったら、この子もどうなるか解ったもんじゃない」


すると、リーダーの眼が青年に向けられた。




「…そいつぁ入ったばかりの新人。ずっとアジトの外で匿ってやがったんだ」




その言葉を聞き、牧畜場のおじいさんが驚く。




「お前…護ってくれていたのか…!?」


「だって、じーちゃんが大切にしてた鶏だから。小さな村の牧畜主なんて嫌だって思って村を出たけど、この子を見捨てられなかった。やっぱり俺は鶏が大好きで、じーちゃんの孫だから…」


「…鶏の件はよう解った」




村長は深く頷いた。




「だが、田畑を荒らして農作物や他の家畜を奪ったのは事実じゃ…」

「えぇ、その通りです」

「…村の皆はどう思う?」




一瞬の静寂の中、村人達は互いに顔を見合わせた。

その表情には困惑の色が見て取れて、次第にざわざわと小さなどよめきが起こる。




「村を襲って皆の収入源を奪って行ったんだ。許される事じゃないっ」




中にはそんな厳しい意見もあった。

それを聞いたディーネは、ぽつりと呟く。




「…皆を傷つけたのは確かですが、謝罪の言葉を信じたい気持ちはあります」

「あぁ、そうだな」




ウォルターも彼女の意見には同意だった。

すると、それを耳にした村人の一人が、不安げに口を開いた。




「でも…本当に彼らが変わるか、どうやって信じればいいんだ?」


「罪が許される事はありません。しかしやり直す事は出来る。彼らが本当に償う覚悟を持っているのなら、その姿勢をこの村で示して貰うべきではないでしょうか」




出来る事なら、彼らにはもう一度やり直して貰いたい。

そのチャンスがを握るか棒に振るかが、問われていた。


しかし自分達は村の者ではない。

指針は示す事が出来ても、結論を決めるのは村の人間だ。



村人達はその言葉に再び驚き、村長は一人の男を振り返る。




「一番の被害は農夫じゃったな。お前はどう思う?」




特に、田畑を荒らされた農夫の表情は硬かった。

レンが話を聞いた時は朗らかな表情をしていた彼だが、今は違って静かな怒りともとれる感情が見て取れる。



だが――


途端にその表情は緩み、肩を竦めてしまった。




「じいさんの鶏は戻って来たし、畑はまた耕して植えればいい。幸いにも荒らされた場所は収穫間近な所だけだった。今年は余り実りがなくても来年、再来年とまだ土に埋まっている野菜たちが成長するのを待てばいいさ」


「いいのか? あんなに大切に育てていただろう?」


「そりゃあまあ、野菜達はどれも自分の子みたいなもんだし、盗まれれれば腹も立つ。しかしうちの農作物は狙って奪うなんて、こいつらは見る眼があるじゃないかっ」




その農夫は朗らかに笑い、寛容な姿勢を見せていた。

その事には村人は愚か、荒くれ者達も驚いた顔をしている。


やがてリーダーは、そんな農夫に対して小さく笑みを零した。




「…あぁ、確かにあんたの野菜はとても旨かったな」


「そうだろう、そうだろうっ。はっはっは! …でも、罪を償うと言うのであれば、畑仕事は真っ先にやって貰うぞ!」




一番被害に遭った農夫が理解を示した所で、徐々に村人達の顔色が変わりつつあった。

村長はその事に頷いていたが、まだ一つ、問題は残っている――と、頭を下げたままの一人の男を見下ろす。


彼は村長に向けて、長い間ずっと頭を下げ続けていた。




「息子よ。お前もやり倒したいと思っているのか?」

「…はい」




それは同じく村を出て行った彼の息子。

村での退屈な生活に嫌気が差し、刺激を求めて村を出て行ったと言う青年だった。




「顔を上げなさい。どうして村を出た?」




村長の息子は恐る恐る顔を上げた。




「村を出て行ったのは、冒険者になって少しでもお金を稼ぎたいと思ったからです。でも駄目だった。俺には冒険者どころか、戦う才能すらないらしい…」




スライムにすら、コテンパンにやられたよ―ーと、彼は気の抜けた笑いを見せる。




「この人の元に身を寄せたのは、魔物に襲われて危ない所を助けて貰ったからなんだ。リーダーはただ、俺達みたいに行き場のない奴らを拾ってくれていただけなんだよっ」


「お前さん、そうなのか?」

「さあな。こいつらが勝手にそんな事を言っているだけだ…」


「いいや、俺は信じるぞ。何せ彼は騎士様だからな」


「元・騎士だ。間違えるなよウォルターさん。ただまあ、結局はねじ曲がった道を歩んじまった事には変わりないさ」


「ふむ…どうしたもんか」




村長は目を閉じ、暫くの間考え込んでいた。

そんな時、一人の村人が優しく声を掛けた。




「あたしは、村長の判断に任せるよ」

「だが、私では身内贔屓が入ってしまう」


「何言ってんだい。村の人間は皆、身内みたいなもんじゃないか。それに村に人が増えるんだ。働き手が増えれば、村も以前の様に活気が戻るかも――って考えちゃあ駄目かねぇ?」




村長は村の女性の言葉に耳を傾けた。

それから村人の顔を見て行くと、一人、また一人と頷く者も少なくはなかった。


やがて彼は深く頷くと、荒くれ者達一人一人に目を向けて、重々しい口調で言った。




「その言葉が本当なら、この村でやり直してみなさい。罪は軽くならないが、少しでもその苦しみを背負って生きる覚悟があるのなら、此処で働き村を立て直す手伝いをして行け」




その言葉に、荒くれ者の中の一人が涙ぐむ様子が見られた。

それにつられるようにすすり泣く声も聞こえ、全員が再び村人達に向かって頭を下げる。


リーダーもまた、深く球を下げた。




「俺達に、そんな機会を与えてくれて…本当に、ありがとうございます…!」




彼らの姿に、村人達も少しずつ表情を和らげていった。

村人達の温情に、荒くれ者達は肩の力を抜き始め、新たな生活が此処から始まる事を胸に刻む。



心の中では完全に許すとまでは言えないまでも、少しずつ受け入れる姿勢を示し始めている事に、レンは少しだけ顔を綻ばせた。



どんな罪を犯したとしても、許される事はないと教えるのもまた必要だ。



だけど、誰もがやり直せる日は来る。



それが、この村で彼らにとっての新しい始まりになればいい。







「罪を犯したのに許されるなんて、おかしいだろ…」

「フウマ―ー?」




そんな中、フウマがぽつりと呟くのを、レンは聞いた気がした。






お読み頂きありがとうございました。

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