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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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C級大剣使い、騎士の誇りを紡ぐ




―ーぱち、ぱち、ぱち…




静寂を切り裂くように拍手が聞こえて来た。

見ると、戦いを鑑賞していたリーダー格の男が、ゆっくりと手を叩いている。


その顔には笑みが零れており、次第に声を上げて笑い始めた。




「強いなぁお前達! どうだ、お前達も仲間にならないか?」

「仲間だと?」


「丁度弱い奴がやられたんだ。代わりにお前達を迎え入れてやってもいい」


「リ、リーダー…!?」

「待ってくれ! 俺はまだやれる!」




しかしリーダー格の男の眼は冷たく、少しの慈悲すらもなかった。


既に負けを期した奴らを。

かつては同胞だった奴らの事など、もうどうでもいいと言うように。




「弱い奴には興味ねぇんだ。ちょっといい装備を持ってるからって、強いとは限らねぇもんなぁ?」

「リーダー…っ!!」

「特に其処の大剣使い。お前はどうだ?」

「断る」

「即答かよ…ま、そう言うと思ったぜ」




がりがりと頭を掻いて、リーダー格の男は深い溜息を吐いた。




「じゃ、勿体ないがやっぱり殺して装備も何もかも奪うっきゃねぇか。冒険者の結末はは二つ。俺達の仲間になるか、それとも――死だ。殺したら立ってる奴だけの好きにしていいぞ。女子供もだ」


「あの大剣は俺が貰うぞ!」

「鎧は俺のもんだっ」




甘い誘いにレン達は乗らなかった。

そして、同じようにして乗らなかった冒険者は、こうして殺されてしまったのかと、その無念に表情を歪めた。


奴らがあんなにも綺麗過ぎる装備なのも、冒険者から装備を奪い取った結果だったのだ。




「…やはり、奴らを野放しにはしておけないな」




ウォルターの言葉に、レン達全員が強く頷いた。





お互いのパーティのうち、どちらかが倒れるまでこの戦いは繰り広げられるだろう。

戦いが長引けば長引くほど、体力が消耗するのは互いに同じ。


しかし、荒くれ者達とは違い、レン達にはチームワークが確かに生み出されていた。



ウォルターが前線で戦い、ディーネが後方で支援し、フウマが隙を突いて徹底的に敵を沈める。

そして、レンはスライムの戦いをサポートする事で、荒くれ者たちはどんどんと追い詰められていった。




「おいおい…こいつぁ本当に予想外だぜ…」




一人、また一人と沈められて行く姿に、流石にリーダー格の男の顔にも焦りに色が見え始めた。

そっと傍にある剣を手にすると、漸くその重い腰を上げ始める。




「…にしてもだ。お前らは村のモンに頼まれて此処まで来たんだろう?」


「そうだ」


「どうして其処までする? 奴らはお前らにとっては赤の他人だ。助ける理由も義理もねぇ。依頼ってのはただの小遣い稼ぎに過ぎねぇからな」


「お前は、村の人ん悲しみや仲間の大切さなんて、気付かないんだろう?」




ウォルターは冷静に言葉を投げかけながら、大剣を構える。

その言葉に一瞬、リーダー格の男は眉を顰めたものの、口元はにやりと、またしても笑みを見せた。


やがてリーダー格の男もまた、ゆっくりと此方へ近づいて来ると、静かに剣を構える。




「おっさん。気を付けろよ。あいつ…」

「あぁ――あれは、相当の使い手だ」




フウマの言葉を聞き終える間もなく、ウォルターは頷いた。

敵でありながらも、彼が一目で一流剣士である事が解ったようだ。


男の鎧は高級な鉄製、

しかし、それが冒険者から奪い取った戦利品と言う訳ではない。


剣も鎧も、彼自身が愛着を持って使用している一級品だと言う事は、慣れ親しんだ様子の立ち振る舞いからも見て取れた。




「お前…騎士、なのか?」

「元、騎士だ。今じゃあそんな肩書も、栄光と共に消え失せたがな」

「何故、こんな事をしている?」

「騎士様が永遠に国を護ってるとでも思ったのか? 馬鹿馬鹿しい」




吐き捨てるように、男は言う。

その表情は酷く歪み、何処か苦しんでいる様だとレンは思った。




「護りたかったさ。なのにあの国は、俺を裏切ったんだからな…!」

「どうして…」

「どうして――か。そんなの、知った所で今更さ」




そう言った男は遠い眼をしている。

敵を前にして見せるその姿は、余裕なのか、それとも哀しみから来るものなのかはよく解らない。





「この場で生き残るのは強者のみ。正義ぶった奴らなんて、一瞬にして殺してきた。強い奴が正義となるのさ!」




男は不敵に笑い、鋭い眼差しでウォルターを見据えた。




「強者だと? 仲間を裏切り、他人の命を踏み台にしてるだけの奴が、強者だと思うなよ」


「…お前に、俺の何が解るっ!」




怒りに打ち震える男は、瞬間的に剣を一閃してウォルターに向かって突進して来た。

その剣筋は力強く、一撃で相手を打ち倒すかのような気迫が見られる。


そんな攻撃をウォルターは両手の大剣で必死に防いだ。

男の猛攻と、それに圧しかかるように強い想いが、剣を通じて伝わってくるようだ。




「戦線を退いた騎士の剣は、意外と軽いもんだな?」




しかし、ウォルターは口元に笑みを浮かべる。

楽ではない攻撃の手だが、決して強がっている訳ではない。


冷静に男の動きを見極めながら攻撃を受け止め、時に一歩下がってその攻撃を躱している。




「仕方ないとは言え、鈍い動きだ」

「こ、の…!!」




男は更に激怒した。


剣の軌跡は容赦なく、彼の一撃一撃には確かな殺意がっ込められていた。

それでも、ウォルターもまた冷静にその攻撃を受け流し、ガードを固めた。




「はぁっ!」




男が剣を頭上から振り下ろした瞬間、ウォルターは強く踏み込み、その一撃を真正面から受け止める。

それは、完全に動きを見切っていた。




「…なるほど。少しはやるようだ」

「もう諦めろ。そして大人しく罪を償え」




こんな状況でも、説得さえ出来れば――なんて思うのは、フィオナが聞いたら『浅はかだ!』なんて激怒するだろう。

自分の仕出かした事を認識し、罪を償ってくれれば、また新しい人生を歩む事が出来る。


ウォルターはそう信じていたのだ。



だが――





「償え、だと…?」




ワナワナと震え出す身体に、ウォルターは顔を顰めた。




「ふざけるなよ…っ。お前如きが、俺に勝てると思うな!」




男が力を込めてウォルターを押し返すが、ウォルターもまた全身の力を使って押し返す。


そして、静かに言った。




「本当に強い奴は、自分の力を誇示して他人を傷つけたりはしない。騎士であったお前が、それを知らない筈がないだろう」




ウォルターは一気に力を入れ、男の剣を押し返した。

その一瞬に隙を突いて、彼は大剣を横に振り、男の鎧の一部に深い傷をつけた。




男が驚愕の表情を浮かべているのは、攻撃を受けた為か。



それとも、ウォルターの言葉を聞いてなのか――




「な、何で…こんな奴に…」




どちらにしても、その一撃が決定打となり彼は膝をついていた。




「…騎士の誇りを取り戻せないままのお前じゃ、一生解らない事さ」




大剣を背に収め、ウォルターは倒れた男に背を向けた。






荒くれ共は自分達の上に立つリーダー格の男までもがやられた事に、酷く動揺していた。




「リ、リーダー…!?」

「不味いぞ、リーダーまでやられちゃあ俺達…!」


「まだやるのか?」


「「こ、降参だ!!!」」




次々に武器を手放して両手を上げる男達にウォルターは漸く終わったかと肩の力を緩める。

その様子を見て、スライムが興奮気味に大きく飛び跳ねた。




『やったぁ! みんなの大勝利だねー!』


「す、凄いです。まさかこんな事が…!」

「俺が居るんだから当然だっての」

「えぇ。そうですねフウマさん!」

「…冗談だっての」




ディーネが余りも素直に頷くものだから、フウマは少しだけ視線を逸らした。

彼女の素直過ぎる性格と優しい心には、彼でさえも悪態を吐く事に引け目を感じるらしい。




「レン、ディーネ。無事か?」

「うん」

「大丈夫ですっ」

「おっさん、俺は心配しねぇの?」

「フウマは最初から心配してないさ。強いからな」

「…あ、そ」




ウォルターはレン達を誇らしげに見渡した。




「この調子で行けば、どんな相手にも負けないパーティになりそうだ」

「パーティねぇ…」

「ちょっとそれは言い過ぎじゃない?」

「ふふっ。それくらいウォルターさんも嬉しいって事ですよね?」

「…すまん。少し興奮気味だったようだ」





ウォルターの心に在る情熱の炎が、眼に見えなくともメラメラと燃えているような気がした。

普段は冷静で大人な対応の彼にしては珍しいと、レンもディーネも顔を見合わせて笑いあった。




「…まあ、パーティってのも悪くないもんだな」




フウマもまた、レン達を見てにやりと笑った。






戦いが終わり、レンは少しだけほっとしたように息を吐く。

何だか頭が重いような気がするが、戦闘による気疲れなのかも知れないとレンは思った。


そんな様子をいち早く察知したディーネが、怪訝そうな顔で覗き込んで来た。




「レンさん大丈夫ですか? 何だか顔色が優れませんが…」

「大丈夫だよ。相手の人数が多かったから、少し疲れちゃったのかも」

「お前じゃなくて、殆どそっちのスライムが戦ってたじゃねぇか」

「これでも指示出すのにいっぱいいっぱいだったんだよ、フウマ…」




苦笑しつつ、レンはスライムの頭を撫でた。

今回は本当にスライムもよく頑張っていた。


怯える事も震える事もなく、勇敢に立ち向かったその姿は、やはり小さなナイト様である。

その一方で、レンは何度か息を吐いて呼吸を整えた。


戦闘が終わったばかりでも、まだ気を張っているのかも知れない。

徐々に心を落ち着かせるように、深呼吸を繰り返す。


すると、とてとてとマオが笑顔で近づいて来た。




「レン、よく見てたな、偉いぞっ!」

「マオちゃん。見てたって、本当にただ見てただけなんだけど…」




何もせずにいる事は、果たして戦闘に参加していると言えるのだろうか?

レンが困ったような顔をすると、マオは何故か不思議そうに首を傾げた。




「気付いてないのか?」

「何が?」

「…いや。やっぱりいい。気にするな」

「?」




彼は腕を組み、難しい顔をしていた。

暫く考え込んでいたかと思うと、すぐにぱっと明るい笑顔でスライムの優しく撫でた。

マオに撫でられてスライムもご満悦である。




「さてと。荒くれ共はこれで制圧したって事でいいんだよな?」

「あぁ」

「あ。一応、逃げ出そうとする奴は仕留めといたから」

「…」

「殺してねぇよ」




信用ねーのか、俺…とフウマは口を尖らせる。


普段の行いと言うか、行動が全ての原因とも言えるのだが、今回は誰一人としてフウマは殺していない。

そんな彼に、ウォルターはふっと笑みを零して肩を叩いた。




「解ってるさ。よくやったな」

「…おっさん。気持ち悪いんだけど」

「だからおっさんと言うなと…」




かくして、レン達は無事に荒くれ者を討伐するクエストをクリアする事が出来たのだった。

後は村へ帰り、この報告をあの夫婦に伝えるだけである。


あの二人はまたあの家に戻っている事を祈りたい。




「ウォルター。彼らはどうするの?」




レンが気に掛けたのは、荒くれ者たちの残党の事。

リーダー格の男は既に戦意喪失し、それ以外の人達も既に投降の意思を示している。


本来ならば冒険者ギルドへと引き渡すのが道理だが、何せ今回はギルドを通した仕事ではない。

かと言って、このまま野放しにするのも、再犯の可能性を考えるとよろしくはなかった。




「…全員、あの村の人間に謝罪をしろ。そして今度は村の為に働け。許されない罪を犯したんだ。それくらいはするべきだ」


「な、何だって…!?」

「今更、どの面下げて村に帰れって言うんだ…!」

「…? お前達の中に、あの村の出身者が居るのか」




ウォルターが問いかけると、男達の数名がさっと視線を逸らしていた。

どうやら、当たりらしい。


新たな事実が判明したところで、ウォルターはますます肩を竦めた。




「それなら尚更、村の為に尽力するんだな。人の命を奪い、盗み、村の人間を苦しめていたんだ。その痛みを理解しろ。自分が選んだ道がどれだけの人を苦しめたか、しっかりと見つめ直せ」


「…そんなの、ただ苦しいだけじゃねぇか」


「確かにお前達にとっては辛いことだろう。その重みを感じながら生きる事こそが、罪を償う始まりだ」

「そんなもんで、罪が帳消しになる訳ないだろ…」




ウォルターはその言葉に対し、首を横に振った。




「犯した罪は消える事はない。しかし、今後の生き方への道標になるんじゃないのか」




その言葉はには容赦ない厳しさの他に、何処か希望が込められていた。

ウォルターは彼らの未来を否定するのではなく、彼らが再び道を踏み外さない為の機会を与えていたのである。


荒くれ者たちはその言葉に、初めて自分達が目を背けていた現実の重さを感じた。

自分達がどれだけの人々の心に深い傷を負わせ、何を見せて来たのかを改めて思い返していた。




「いつか…本当にやり直せる日が来るのか…」

「お前達次第だ」




その言葉に、一人、また一人と頷く男達。

そして、あの村の出身者ではない者達もまた、納得した様子で頭を下げていた。




「――それで、お前はどうするんだ。全員が首を縦に振ったぞ?」




ウォルターは最後の一人、リーダー格の男に呼び掛ける。

彼は未だに顔を顰めていたものの、その手に剣を握る様子は見られない。




「…馬鹿か。犯した罪は消えないんだ。謝罪なんかした所でそれこそ今更だ」

「だが、やり直す事は出来る」

「やり直す、か…」




男はまたしても遠い眼をして呟いた。




「その言葉、俺が騎士として王国を護っていた時に、言って欲しかったよ…」

「…生憎、俺は騎士じゃないんでな」

「惜しいな。あんたほどの男なら、騎士にだってなれる器だろうに」




不敵に笑い、お世辞とも取れる言葉。

だが、男の眼は限りなく真剣だった。


ウォルターは顔を顰めるものの、それ以上口を開く事はなかった。




かつて、彼が騎士を志していた事はレンも耳にしている。

紆余曲折あり、今はフィオナの元でサブマスターを務める彼だが、その心にはまだ『夢』が残されているのかも知れない。


ウォルターの何処か切なそうな表情から、レンはそう思った。







ーー戦いを本当の意味で『楽しい』と思うなんて。



俺はきっと、どうかしているーー




『とある男の手記より抜粋』




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