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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、アジトへ潜入する


レン達は、荒くれ者のアジトらしき場所を見つけた。

その隠された入り口をウォルターを先頭にフウマ、レン、ディーネが続いて行く。


内部は薄暗い洞窟が続いており、石壁には松明の炎が奥へと揺らぎ続いている、

しかし、レン達が侵入したにも関わらず、洞窟の入り口付近は静かだ。

見張りの一人も立っていない所を見ると、荒くれ者たちはこの奥に居るのだろうか。




「アジトにしてはこんなにも手薄とはな…」




呟くウォルターは、それでも警戒すの眼を緩めない。

そんな彼に、フウマはまるで緊張感のないような顔をしてみせた。




「油断してるんじゃねぇの?」

「そうだといいけど…」

「あ、相手は何人くらい居るんでしょうか?」




少しだけ震えた声でディーネが言う。

敵のアジトと言う事もあり、彼女のロッドを握る手もまた震えていた。




「さあ。俺が見る限りでは2,3人しか確認出来なかったぜ」

「それでしたら、此方はスライムさんを合わせても5人ですから、安心…ですよね?」

「ディーネ。オレを忘れてるぞ?」

「マ、マオさんは、危ないので下がっていて貰って…!」




そうは言うものの、フウマ以外の人間はマオの実力を知っている。

現在は能力に制限が掛けられているとはいえ、一般人を軽くのせるくらいのポテンシャルはあった。


だが今回の相手は同じ『冒険者』

下手をすれば、マオの身に危険だって及ぶかも知れない。




「そうだね。マオちゃんは私が護るから、下がってて」

『ボクもまおー様を護るよー!』

「別に護らなくても平気だっての」

「はいはい。『魔王様』は強いんだもんな―? 解ってるって」




マオは唇を尖らせ、不服そうな顔をしている。

どうやらへそを曲げてしまったらしい。


フウマはそんなマオの頭を、笑いながらポンポンと撫でた。




「人数の問題もあるが、何しろ俺達には連携がそれほど取れていないからな。此処は慎重に行くとしよう」


「連携…そうだね。確かにそう言えるかも」




パーティを組んでいるとはいえ、それぞれの戦い方のスタイルは違う。


ウォルターは大剣を手に前線で皆を護るタンクで、フウマは素早い動きで敵を翻弄するアタッカー。

レンもまた同じアタッカーではあるが、戦いの殆どがスライムに任せている。

ダガーを使って戦いには出るのだが、悪魔で自衛の為とも取れた。

そしてディーネは皆の後方で回復やバリアを張るヒーラーだ。

最近覚えた『浄化の矢』を使用し、何とか攻撃面にも貢献している――と言った感じである。



それぞれのスタイルがあり、思想もまるで違う。

とは言え、いがみ合うほど仲が悪い訳でもない。寧ろ良好な方だ。




「連携については、この旅を通じて形にしていければいいさ」

「そうですね。頑張ります…!」

「連携って言うなら、奴らよりもまだマシな方だとは思うぜ?」

「どうして、フウマ?」

「あいつらは所詮、寄せ集めだからさ」




そんな言葉を口にしたところで、フウマが口布を引き上げた。

その姿は、彼が先頭に於いて『仕事』をするスタイルだと言う事を、レン達は理解していた。




「…返り討ちにするだけだ。別に命を奪う必要はない」




ウォルターが静かに言う。

フウマはそんな彼を見て、少しだけ肩を竦めた。




「もう何度も聞いた」

「何度も言ってるからな」

「…はいはい。殺さなければいいんだろ」




そう言った彼の顔は目元しか解らなかったが、顰め面だと言う事はよく解った。




「何とか、お互いにカバーし合って戦おう。これもその練習だと思えばいいんだよね」

「そ、そうですねっ。わたし、精一杯頑張ります!」

「あぁ。しかし無理はしないようにな」


「んじゃ、さっさと行こうぜ。こんな所で喋ってても始まんねぇし」




レン達は頷くと、ゆっくりと洞窟の中を警戒しつつ進んで行った。

すると、少し歩いた先で何やら話し声が聞こえて来る。




「…何人かいるみたい。男の声ばかり聞こえて来る」




レンが囁くようにそう言うと、フウマがまたも顔を顰めて振り返った。




「お前さ。前から思ってたけど耳がいいんだな?」

「あー…そうかな?」

「こんな小さな声、俺でも直ぐには気付かないくらいだぜ」

「はは…」




それが『魔王様の施し』による効果だとは、レンは誰にも言えなかった。




「此処からは更に慎重に行くぞ」

「は、はい…」




敵が近くに居ると言う緊張感からか、ディーネの手はますます震えている。

そんな彼女にレンが優しく微笑みかければ、今にも泣きそうな顔で笑い返していた。


ウォルターが岩陰越しに通路を覗くと、其処には開けた空間が見えた。

点在していた松明の明かりは大きく広がっており、その場所だけやや明るい。

その中にはレンの言う通り、複数の男達の姿があった。


その装いは鎧や軽装、剣に斧と言った、まさに『冒険者』の装い。

夜盗やただの荒くれ者に見えないのは、奴らがもっている装備が本当に綺麗過ぎる事だった。




「あの村ももうすぐおしまいだな、リーダー?」

「そうだな。あと二、三回盗みに入ればいいだろう」

「また俺達、村の一つを壊滅させる英雄になっちまうのかぁ~!」

「おいおい。英雄なんてそんなちんけな言葉、使うんじゃねぇよ」

「んじゃ、勇者様って言えばいいか?」


「「ぎゃははははは!!!」」」




男達は全員が談笑し、酒をかっ喰らっている。

会話の中では、当然村の話が出て来ていた。


ワイワイと賑やかな光景だが、レン達にとっては非常に胸糞悪い話だ。




「…10人は居るようだな」

「そんなに?」

「人数が解れば後は倒すだけだな。前は頼んだぜ、おっさん」

「よし、行くぞ」




ウォルターが一歩足を踏み出す。

すると、レン達の姿をいち早く目に留めた男が、顔を此方に向けた。


先程『リーダー』と呼ばれていた男だ。




「…何だお前ら?」

「リーダー。もしかしてまたカモが来たんじゃないですか?」




荒くれ者の一人がにやりと笑った。

リーダー格の男はじっと此方を観察するような眼を向けていたものの、同じように笑い出した。




「あぁ、そうだろうな。この場所をよく見つけた…と褒めてやるか?」

「あんなバレバレの仕掛け。よく今まで見つからなかったもんだぜ…」

「…と言うと、見つけたのは其処のお前なのか」

「簡単すぎて欠伸が出ちまうぜ?」




挑発するような笑みを浮かべてフウマは言う。

武器も持たず、一軒無防備なその姿だが、彼の服にはクナイが仕込まれている。

それをいつでも取り出せるように、フウマは隙を見せるふりをしつつも、眼はしっかりと警戒の色を示していた。




「お前達が、あの村を襲っていた奴らなのか?」

「そうだ…と言ったら?」

「決まってる。お前達をギルドに着き出すまでだ」




ウォルターが背中の大剣を引き抜く。

それを見たリーダー格の男は、何処か残念そうな顔をした。




「何だよ。今回は大剣使いか…ハズレじゃねぇか。誰かアレに賭けた奴は居たっけか?」

「でも見ろよあの大剣。でっかいぜ!?」

「他の奴らは…何だ、めぼしい武器もなにもねぇじゃねぇか」

「いや待て。『女』って言うだけで十分価値があるぜ?」

「は。言えてるな」




何とも耳汚しな会話だと、レンは顔を顰めた。

後ろではディーネが不安そうな顔をしている。


間違っても、14歳の少女に聞かせるような話ではない。




「貴方達、自分が今まで村で何をしてきたか、解っているの?」




レンが険しい表情で言い放つが、男達は怯む事はなかった。




「おぉ、怖い怖い」

「正義の味方気取りか? お前らみたいなやつ、何度も見て来たぜ。まあ最終的にいい教訓になるだろうよ」


「…『お勉強』って奴ね」

「そう言う事だ。何だ嬢ちゃん、解ってんじゃねぇか―ーやるぞ、お前ら」




リーダー格の男が仲間達に指示を出すと、荒くれ者たちが一斉に武器を構えた。





「皆さん。後ろにも居ます…っ」




ディーネの言葉に振り返ると、出入り口を塞ぐようにして佇む男の姿もあり、レン達は囲まれていた。

その人数は十人ほどで、武器どころか立派な鎧を着ている姿も見受けられる。

奴らの眼は殺気が宿っており、誰も隙を見せる気配はない。


そんな状況を把握し、ウォルターが皆に聞こえるくらいの声量で呟いた。




「…囲まれてしまっては身動きが取れない。此処は穴を見つけて抜けるのが得策だ」

「穴…?」

「敵を少しでも動揺させて、隙を作れればいい」

「そう言う事なら…私とスライムがやってみるよ」




戦いの連携は手探りだった。

しかし、ウォルターのように指示を出す司令塔が居てくれる事は、本当に助かる。


レンが自分の左肩を見れば、おくちをきゅっと引き上げるスライムの姿があった。

何も言わずとも、彼はやる気満々の様だ。




「よろしく頼む。皆は行けるか?」

「は、はい!」

「殺さないように頑張りまーす」




それぞれが武器を構え、戦闘態勢に入る。

スライムもレンの肩からぴょんっと飛び降り、奴らを小さな瞳が強く見据えていた。




「なんだあれ。スライム…か?」

「おいおい。何でスライムが冒険者なんかと一緒に居るんだ?」

「弱っちい奴はママの所に帰りましょうねー!」




その小さな存在に目を見張る者も居たが、所詮はスライム。

男達の顔には、完全なる油断が生まれている。


しかし、スライムはそんな嘲笑にも負ける事はなかった。




「やるよ、スライム!」

『うんっ!』




レンの声にスライムは大きく頷く。


その瞬間、スライムはおくちを大きく開けた。




『ぷちっとふぁいあ!』




激しい炎がボウっと燃え上がった。


ただのスライムが、まさかそんな攻撃をしてくるとは思わなかったのだろう。

炎は囲む男達の一角を乱し、その隙を突いてウォルターが走り出す。


彼が先陣を切って駆け出すと、慌てたように男達が応戦する。

そのウォルターの横をすり抜ける様にして、フウマが男達の背後を素早く取っていた。




「ぎゃあっ!?」

「な、なんだっ!?」

「いつの間に――!」




ウォルターの猛攻に木を盗られ、フウマの動きには注意が向かなかったのだろう。

一人がその場に崩れ落ちると、男達はまたも狼狽してその包囲を崩していた。




「誰だあいつ。新入りか? 陣形がなっちゃいねぇぞ」

「これだから金に釣られて入った奴はいけねぇ…」

「リーダー。俺たち全員そんな奴らばっかじゃねぇか」

「…違いねぇや」




早くも一人が脱落したものの、荒くれ者達が降伏するなんて事はない。

寧ろ俄然やる気が出て来たと、笑い出す者さえ居た。



戦いのゴングは鳴らされている。

レン達は先手を取って包囲から脱したが、状況は何ら変わらない。

そんな中、荒くれ者達が一斉に突撃して来た。




「「おらああああっ!!」」




剣、斧、ナイフと言った、様々な獲物を手にしている。


ウォルターは大剣でその中の攻撃を一つ受け流すと、突き飛ばされた男はそのまま倒れ込んだ。

その隙をついて別の男が斧を振り翳したが、直ぐに反応をして獲物同士が激しい火花が散らせる。




「戦い慣れてんな。あんたがこの中で一番強そうだ」

「それはどうも」

「ってぇ事は、あんたを殺せばこのパーティは瓦解する。そうだな?」

「さあな、やってみるといい」




にやりと笑うウォルター。

そして斧を持った男もまた、にやり笑っていた。


そんな彼を心配しつつも、ディーネはレンに手を引かれて逃げていた。




「ウォルターさん、大丈夫でしょうか…っ?」

「大丈夫! それより私達は自分の心配しないとっ」

「は、はいっ!」




追いかけるは、同じように獲物を手にした男が二人。

その顔は何処かいやらしくもあり、興奮に息巻いている様子が見て取れた。


荒れに捕まるのだけは本当に危ない気がする。

レンはディーネの手を今一度ぎゅっと強く握りしめた。


足元では、ぴょんぴょんとスライムが共に逃げている。

しかし直ぐに男達の方へ身体を向けると、またも大きなおくちを開けて見せた。




『ぷちっとふぁいあ!』


「あちちっ!」

「この雑魚スライムがっ!」


『おくちてっぽう!』


「ぶわっ!?」

「こ、今度は水だと!?」




炎と水を交互に使い分け、スライムはレンとディーネを護るべく奮闘する。

たった一つのスキルを覚えただけなのに、スライムの心は少しまた成長したのだとレンは驚いていた。




「スライムさん、凄い! いつのまにあんな…!?」


『えへへっ。ボクも成長してるんだよっ。ディーネちゃん!』




ニコニコと笑うスライムに、ディーネの心は徐々に落ち着きを取り戻していた。


慌てているだけでは駄目だと、深く深呼吸をしてロッドを握り締める。

その手には、もう震えなどなかった。




「『水の加護』を発動します。皆さん、これでどうか頑張って下さい…!」




ディーネがロッドを掲げると、青白い光がレン達を包み込んだ。

水のベールがバリアとなり、レン達を護ってくれる役割を担っている。


そのバリアは一人一人に張られているものの、一度のスキル効果で全員へと付与されていた。

確か彼女は、少し前までは一人に月一回と、順番に『水の加護』掛けていた筈。




「凄いディーネ! いつの間に全体のバリアなんて出来るようなったの?」

「えっと。D級に上がった時に、スキルが少しだけ変化したみたいなんです…」




これで少しは防御の幅が上がりますと、彼女は少し照れたように笑った。

スライム同様、ディーネもランクやレベルを上げる事で、確かな成長を遂げている。




「はー…私も頑張らないと…っ」




レンも同じD級だと言うのに、出来る事と言えばフウマに教えて貰ったダガーの使い方くらいだろうか。

自分だけ何だか成長していない気がして、ほんの少し肩を落とす。





レン達は既に荒くれ者の半数を倒していた。

主にフウマがその功労者で、俊敏な動きで敵の間を気掛け、一人また一人と敵をダウンさせている。


彼の手にはクナイが握られ、休まずに攻撃の手繰り出している。

そんなフウマの攻撃は鋭く、素早い動きで繰り返し翻弄しており、荒くれ者達は動揺を隠せない。




「くそっ…手加減してるつもりか? このガキ、俺達を見くびってるって事か!?」

「そんなんじゃねーよ、バーカ。あとガキじゃねぇ」




しかし言いつけ通り、誰一人としてその命を奪う事はなかった。

相手に致命的なダメージを与えないように、細心の注意を払っている。




「ったく…殺さないってのも大変なんだぜ?」




そうは言ってますます肩を竦めるものの、フウマの表情は何処か嬉しそうだ。


そんな彼の後ろでは、レンとディーネがまたしても、敵の猛追から逃げるように走っている。

先程とはまた別の男が、今度もまた執拗に追いかけ回していた。




「おいおい…此処の奴らはロリコンなのか?」

「ロリコンって歳じゃないんですけどね、私!?」

「わたしもそんなんじゃ…ない、ですよね?」


「どっちにしても、年上のおっさんが女子供を追っかけてるのには違いねぇだろ…なぁ、おっさん?」


「俺は断じて! ロリコンではないっ!」




強く否定したウォルターの一撃が、斧使いを倒す。

段々と彼の評価と印象が下降気味になるのを案じつつ、レンはディーネを振り返った。




「ディーネ。逃げてばかりじゃ駄目よっ。戦おう!」

「は、はいっ!」




レンとディーネは立ち止まり、その男に立ち向かうべく武器を構える。

足元にはスライムの姿もあり、その姿はまるで小さなナイトの様だ。


しかし、その男にしてみれば脅威はそのスライムでしかなく、運のいい事に着ている体装備は『耐火炎』のエンチャントが付いているのだと言う事を知っていた。

先程、スライムが『ぷちっとふぁいあ』を喰らった際に、その効果が十分に発揮されている事も検証済みである。




「炎なんか俺には効かねぇぞ?」

『おくちてっぽう!』

「痛くも痒くもないぜぇぇっ!」

『わぁっっ!?』




スライムのおくちから小石が発射されるも、男の装備にはビクともしない。

それどころか反撃の手にはロングソードが握られている。


スライムがその場から逃げ出すものの、決してレン達からは離れようとはしなかった。




『あ、諦めないもんっ』




それならと顔に小石を向けてみるが、男は盾を手にしており、またもあっさりと防御されてしまった。


どうやら男の職業はナイトらしい。

此方の小さなナイトとは違い、可愛くもなければただの脅威でしかない。


すると、男が剣を強く握り締めるのをレンは見た。




「スライム! 飛んで!」




レンの声にすぐさまスライムが飛び上がり、その瞬間男の剣が素早く空を切った。




『わあぁっ!?』

「ちっ。外したか!」




男は舌打ちをするものの、決して動揺する様子は見られない。

今、スライムが避けたのはレンの声に反応したからだ。


それがなければ、今頃体は真っ二つになっていただろう。



もう一度。


もう一度やればいいと、男は不敵な笑みを零す。




それを見て、レンは表情を歪めた。

男の顔に、何か嫌な予感を感じて取っていた。



相手の動きは素早く、どうあっても自分がその動きを捉えるのには困難。

それでもレンは必至に、動きや剣に注意して目を凝らす。




「…?」




ふと、男の腕からは何か白いモヤの様なものが見えたような気がした。

眼に何かゴミでも入ったのかと思ったが、此処で目を擦る訳には行かない。


瞬きを繰り返したが、白いモヤは確かに其処に在る――



すると、そのモヤが一瞬だが黒色に変化した――かと思うと同時に、男が剣を再び振り上げた。




その挙動はまるでスローモーションのようで。


ゆっくりと時間が流れるのを感じる。





避ける?


駄目だ、きっと間に合わない。





「スライム、盾で防御を!」


『ぷっ!』




レンの叫びに反応し、スライムがまたしてもファインプレーを起こす。

おくちからは『盾』が即座に現れ、敵の攻撃から見事にスライムを護った。


職人ギルドで、スライムに盾を購入しておいて本当に良かったと、心から思った瞬間だ。




「なっ!? どっからこんなもんが…!?」

「行きます――浄化の矢!」




男が眼を見開くその隙に、ディーネのロッドからは、柔らかく青白い光が矢となって放たれた。

即座に男は盾を構えるも、彼女の矢はその盾の一部を破壊すると言う威力を見せる。




「な、何だと!?」

「えっ!?」




これには男だけでなく、ディーネもまた驚きの表情を隠せなかった。

彼女はD級僧侶となり、バリアだけでなく攻撃までもが強化されている事実を知ったのだ。


これにはますます、レンも焦るしかない。




「ディーネも強くなってるのに、私のこの体たらくは何なのよ…!」


「頑張れレン! 負けるなレン!」

「ありがとうマオちゃん…っ! でも危ないからそこに居てねっ!」




唯一、自分を応援してくれるのは、戦いを一人見守る小さな魔王様だ。

彼は一切の手を出さず、ただただレンを応援してくれている。


しかしそれだけでも、背中を押すには十分過ぎるほど。

思わず涙立って流してしまいそうだ。



そんなマオの傍にも、荒くれ者の魔の手が忍び寄ろうとしていた。




「へへ…」




突然目の前にふっと黒い影が覆う。

にたりと笑う男の顔が、マオを見下ろしていた。




「このガキを人質にとれば、あいつらなんか――」

「お前、邪魔っ」

「ぐあっ!?」




彼の目の前を塞いでいたのが原因だったのだろう。

マオはその小さな身体でありながらも、荒くれ者に元気よく立ち向かって行き、腹にパンチを一発お見舞いした。


ズドンッと大きな音にレンが振り向くと、マオの傍にはぴくぴくと地に伏せる男の姿があった。




「またやったのね、マオちゃん…」




マオの心配よりも、倒れた男の方を心配してしまいそうだ。




「おいっ。こいつら強ぇぞっ!?」

「誰だよっ。ただの女子供だなんて言ったのっ!」




次第に荒くれ者達の間には、不穏な空気が流れ始めていた。


元々、男達は寄せ集めの集団に過ぎず、それぞれが個性を持った冒険者達である。

そんな奴らが、徐々にとは言え連携を形にして行くレン達に勝てる筈もない。



ウォルターが盾となり、フウマがその後に続いて敵を倒す。

ディーネのバリアが仲間達を護り、些細な傷も献身的にを癒した。

レンはスライムに声を掛け、戦いに有利な指示を出している。



そのパーティの流れは、もう誰にも止められなかった。






―ー俺達を。ただの冒険者達と侮る勿れ。


今度は、お前らが狩られる番だ――



『とある男の手記より』



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