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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、村の異変を探る


翌朝になり、ウォルターは昨夜フウマと話していた内容を、レン達にも伝えた。

二人は大層驚いてたが、想いは皆同じだったようで、直ぐに頷いてくれた。




「それじゃあ、まずは何をしたらいいの?」

「それについてはフウマが説明してくれるそうだ」


「情報を集めるんだ。村を襲う冒険者――荒くれがどんな奴らで、何処から来るのか。どんな些細な情報で良いから、村の人から聞き込んでくれ」


「うんっ」

「解りました!」




レン達は頷いて家を出る。


雨は上がり、昨日とは打って変わって青空が広がっていた。

地面はぬかるんでいて、まだ足元を汚していたけれど、雨に打たれるよりかは幾分マシである。


村の人達に話を聞くべく、レンはスライムとマオを連れて村を回った。




「あの奥さん。今日は居ないみたい」




昨日は村の入り口に佇み、レン達を温かく迎え入れてくれた彼女の姿が、何処にも見当たらなかった。

代わりに入り口付近には別の男性が居て、荒れた田畑を耕す作業をしているのが見える。


朝になって、家の中にあの夫婦が居ない事にも驚かされたが、村の何処かで仕事でもしているのかも知れない。




『これからどうするのー?』


「とりあえず、誰かに話を聞かないとね」




肩に乗るスライムがこくりと頷く。

まずはあそこにいる、農作業をする男性に声を掛けてみる事にしよう。




「よっと…!」




男性は一生懸命に鍬を振り下ろす。

昨夜の雨でぬかるんだ土や泥をものともしない様子で、作業に精を出している。


そんな彼が作業の手を止めて一息吐き、額の汗を拭っている。




「ふう…」

「あの、ちょっとお話を聞いてもいいですか?」

「ん?」




男性はレンの姿を見るなり、朗らかな笑顔を見せた。




「やあこんにちは。俺に聞きたい事とは何だろう?」

「この村で起きている問題について、お話が聞きたくて」

「問題?」

「えぇ。農作業をされていたようですが、此処では何か作物が盗まれていたりは?」

「ああ、そっちの事か。そうだね、うちも被害に遭っているよ」




…そっちの事?


その言い方に気になる部分もあったのだが、レンは静かに彼の話を聞く事にした。




「丁度一昨日の夜の事だ。畑に植えていた農作物が殆ど根こそぎ持って行かれていたよ。もうすぐ収穫間近だったのに」


「そうなんですか…」


「残っていたのは植え立ての種と巻いた肥料ぐらいさ。お陰で街へ持って行く分が台無しだ」

「街と言うと?」


「この近くにあるビセクトブルクと言う街から、時々行商人がうちの野菜を胃買い付けに来てくれるんだよ。生活の大切な収入源なんだ。しかも奪われたのは一度や二度じゃない。どうしてこんな事に…」




がっくりと肩を落とす男性は、深く溜息を吐いた。

どうやら田畑は、思ったよりも深刻な事態を招いているらしかった。


今はどうにか蓄えてあるお金でやりくりしているものの、今年の収穫は見込めない。

更に盗人は味を占めたのか、強奪を繰り返す度にその量を増やしていると言う。


何とも卑劣な行為だ。




「うちの被害もそうだけど、向こうの家屋に在る小さな牧畜主も困っているよ。何せ大切な鶏が居なくなったんだ。うちはまた植えればいい話だけど、あの人の所はそうもいかない。…手塩にかけて育てたと言う意味では同じだけどね」


「…」


「君は見た所、冒険者の様だけど…もしかしてこの村を救ってくれたりするのかな? …はは、なんてね。そろそろ仕事に戻らせて貰っても?」


「あ、はい。すみません。貴重なお話をありがとうございました!」




男性は少しだけ苦笑し、また農作業へと戻って行った。


少し話を聞いただけでも、村の人の苦しみが痛いほど伝わって来る。

そんな様子のレンを見て、スライムもまた悲しそうな眼をした。




『レン…』

「次は、その牧畜主の所に行ってみよう」

『うん…』




村の片隅にある小さな牧畜場を通りかかると、老齢の男ががっくりと肩を落としている。

其処にはウォルターの姿もあった。




「ウォルター」

「レンか。今、丁度この人から話を聞こうと思っていたんだ」

「あの、私もお話を聞かせて貰っても?」




老人の顔には疲れが滲み出ていた。

レンが心配そうに声を掛けると、老人ははっとした様にかを上げ、微かに微笑む。




「あぁ…いいとも」




しかし、その眼には深い悲しみが宿ってる。

やがてぽつり、ぽつりとその老人は、溜息交じりに話し始めた。




「実はなぁ…先日の事じゃ。飼っていた鶏が、誰かに盗まれてしもうたんじゃ」




老人の声には、どうしようもない無力感と悲壮感が含まれていた。

彼はこの村で小さな牧畜場を営んでおり、其処には多くの鶏が居た。

年老いた身体で一羽一羽丁寧に世話を、年月を共に過ごした大切な鶏だった。




「夜中に何か物音が聞こえて外に出たんじゃが、その時にはもう遅かった…鶏小屋の扉が開いていて、殆ど鶏がおらんかった。大方、盗人の仕業じゃろうな」


「その盗人に、心当たりなどは?」

「さあのう。鶏を盗まれたのは今回が初めてじゃった。村の農夫の男は何度もやられているようじゃが、何とも逞しものよ…」

「農夫の方なら、さっき話を聞いたところです」

「そうかい…」




話を聞きながら、レンの心は重く沈んでいた。

盗まれたのはただの鶏ではない。

その鶏が奪われた事で、老人の心にはぽっかりと大きな穴が開いてしまったようだった。


老人は更に続けた。




「この村では、最近そんな事があちこちで起きてるんじゃよ。自分の育てた家畜や農作物が奪われたなんて、夢にも思うまい…」


「荒くれ者達の仕業…か」




ウォルターは老人の言葉を気ながら、深い怒りに拳を握り締める。


荒くれ者達は人々の生活を脅かし、大切なものを奪っている。

それは決して許される事ではない。


だが、嘆き悲しむ理由はただ物が盗まれた事に留まらなかった。


大切にしている鶏たち。

ずっと世話をし、老人の心をも支えて来た思い出の象徴であり、生きる意味そのものだった。




「どうして、人間が人間を悲しませるんだろう」




レンは呟いた。


隣に居たマオも、珍しく真面目な顔をして頷く。

いつも元気で明るい彼が、静かな怒りを感じているのが解った。




「ワシももう老いぼれじゃ…ましてや新しい鶏を飼う気力もない。鶏たちを大切にす事が、ワシの唯一の楽しみじゃったのに…何で、こんな事をするんじゃろうな」




レンもウォルターも、胸が締め付けられるような思いだった。

動物や魔物襲撃ならまだ解る。

魔物によっては理性を持たず、本能で行動するものも多い。


しかし、この村で荒くれ者どもがしているのは、人間の行いだ。

欲望や利己的な想いが、他の人間を苦しめ、生きる希望を失わせようとしている。


レンは、それがとても悲しかった。




「…おじいさん。荒くれ者達は俺達が何とかします。これ以上の被害を食い止める為にも」

「おぉ…そうかい…そう言ってくれるだけでもありがたい事よ」




老人は俯いていた顔を上げ、ほんの少しだけ笑みを見せた。




「しかし、冒険者が何人もこの村を立ち寄ってはいたものの、誰一人として未だ還っては来ない。やられてしまったのかも知れんな」




あのご夫婦もそんな事を言っていた。



人間が人間を苦しめている。

目の前で嘆き悲しむ人が居ると言うのに、そんな村をレン達は放ってはおけない――







村を一通り回った所で、レン達は村の広場に集まる事にした。

だが其処に、フウマの姿だけがなかった。




「あれ、フウマは?」

「少し遅れるとの事だ」

「遅れる?」

「村を離れて何処かに居るらしい。俺達だけでも先に情報交換をしておこう」





そうですねと、ディーネが頷く。


村の人々は好意的で、話を聞いて聞いてくれるものの、斧顔には一様に暗い影が差していると、彼女は真っ先に報告を上げた。

それにはレンも同意だった。


畑の収穫物が奪われ、大切に育ててきた家畜が盗まれる様子に、村人達は心を痛めている。

特に最近は畑の実りも少ない為、村の生活に支障が出ているのは間違いなかった。


それぞれの報告は似たようなもので、村の金品が奪われる被害はないものの、やはりそれなりに被害を被っている村人は多い。




「あのご夫婦の事も探してみたのですが、今は居ないようですね。何処に行ってしまったのでしょう…」


「そうだね。心配だな」

「おーい」




そんな話をしていると、フウマが広場に戻って来た。




「フウマ? お前、今まで何処に…」

「まあ聞けよ。怪しい場所を見つけたかも知れないんだ」




三人がその言葉に反応し、フウマを見つめる。




「本当ですか、フウマさん!?」

「恐らくだけどな。怪しい奴を追いかけたら見つけた」

「怪しい奴?」


「この村は山の中腹にあって、周囲は木々が生い茂っているから、少しの人数でも隠れるには絶好の場所なんだ。そんな場所で怪しい動きをしてる奴を見たら、追いかけたくなるだろ?」


「で、居たのかそいつが?」




ウォルターを見て、フウマは頷く。




「その怪しい奴の後を尾けて行ったら、案の定アジトを見つけたぜ。出入りする冒険者みたいな奴の姿もあった。綺麗過ぎる装備のな」

「それじゃあ、其処が奴らの隠れ家なんだね」

「あぁ。けど見つけた段階で引き返して来たから、中の様子は解らないけどな」

「いや、それでもよくやった」




フウマの報告に、ウォルターは心の底から驚いた。

自分達が村で情報収取をしている間、彼はこんなにも綿密に偵察を行っていた事に、感銘を覚えて肩を叩く。




「おいおい…こんなの、冒険者なら当たり前の行動だろ?」




肩を叩かれた事に驚きはしたものの、フウマは少し照れ臭そうにして肩を竦めた。



そんな時だった。




「あんたら、昨日この村に来ていた旅の者か?」

「えぇ、そうですが…あなたは?」

「この村の村長をしている者だ」




村長と名乗るその人物が、広場に現れた。

その男は真白い髭を生やした老人。


レンにはその人の顔に見覚えがある気がした。



そうだ。

この村に来た時、じっとこんな人が自分達を見つめていた気がする…


その表情はレン達を訝しんでいた。

だが、余所者が来たからと言うのなら、この村の人があんな風に友好的ではある筈はない


すると、村長の口から発せられた言葉は、少し意外なものだった。




「やめなさい。これ以上犠牲者を出したくない」




どうやら村長は、レン達の身を危ぶんでいると思われる。




「やめるとは? 村に被害が出ているんですよね?」

「あぁ。しかし、村を思って此処に来た冒険者は全員、誰一人として戻って来なかったよ」

「誰一人と言うのも不思議な話です。本当なのでしょうか」




ウォルターが問いかける。

村長は深い溜息を吐いて頷いて見せた。




「本当だ。腕の立つ冒険者達が次々に此処を訪れたが、数日もすれば音沙汰もなくなる」

「そんなっ。どうしてですか…?」


「こんな小さな農村だ。きっと冒険者達も見捨ててしまったに違いない。そんな事が何度も続けば、街へ依頼を出すのをいつしか止めてしまったよ」


「止めた? ですが…あの家のご夫婦から、最近村で被害に遭っていると言う依頼をしたと聞いているのですが」




レンの言葉に、村長の顔が不思議そうなものに変わった。




「夫婦…? お前さん達が居たあの家にか?」

「えぇ。若いご夫婦で、私達にとても良くしてくれたんです。食事だけでなく一泊させていただいて…」


「そんな馬鹿な…」

「村長さん?」




次第に村長の顔は曇って行くのをレンは感じた。

驚きと戸惑いその両方が合わさった様な感情が、その表情からは滲み出ている。


やがてはっとした様に村長が頭を振った。




「いや、何でもない――最近は、村からの依頼は一切出ておらんよ。ついでに言うと、あの家は少し前から誰も住んでいない。居たのは私と同じ年の女性だったが、病で亡くなってな…」


「同じ年、ですか?」

「どういう事? だってあの家には…」

「レン。その話は今は置いておこう」




もしかしたら、村からギルドへの依頼は、あの若い夫婦が出しているのではないか?

それを村長が知らないだけなのでは…とレンは思った。


だが、それだけだ。

何だか話がおかしいとは思ったが、レン達も混乱しているのでよく解らなかった。




「とにかく村長。我々はこの村の人から依頼を請けているのです。既に荒くれ共のアジトを見つけた可能性もあります」

「何と…!? 村の者も捜索に出たが、誰一人として見つける事は出来なかったと聞いていたが…!」

「盗賊のスキルを舐めんじゃねぇよ、じーさん」

「…む、むぅ。盗賊が冒険者としてこの村を訪れる事など、初めてだったからのぅ」

「どうでしょう。我々に任せて頂けませんでしょうか。勿論、依頼の放棄なんてしない。必ず村へ戻ると約束します」




村長は暫く黙り込み、レン達を見つめていた。

誰一人として、その決意は揺るがない瞳をしている。


そんな自分達を見て、村長はやがて諦めたように深い溜息を吐いた。




「…村をどうか救ってやって欲しい。これ以上、村の者には苦しんで欲しくない」

「ええ。任せて下さい」

「だが、無理はしないようにな。死んでしまっては元も子もない」




それぞれが村長に対し、了解に意味を込めて頷く。




「まずは、フウマが見つけたと言う敵のアジト付近まで行こう。案内を頼めるか?」

「ああ、勿論だ」

「頑張りましょう、皆さん!」

「村長さん。行ってきます!」

「あぁ…雨がまた振り出すかもしれん。気を付けてな」




雨の匂いが漂う曇り空の下。


レン達は謎を抱えながらも、村の人々を護る為、フウマが見つけたと言う荒くれ者たちのアジトに進む事を決意した。




そんなレン達を見送る村長の眼は、やがて例の『空き家』へと向けられる。




「…雨の日だからかのぅ」




村長はほんの少し不思議そうに口にするものの、それ以上拭かう追及する事は出来なかった。




何せもう、あの家には随分前から誰も居ないのだから――









◇◆◇







「あそこだ」




普段はやんちゃで軽口を叩くフウマが、今や真剣な表情をしているのを見て、レン達は強く緊張感を持った。


其処は木々や岩場があちこちに点在している。

周辺には家屋もなく洞窟もない。

とても『アジト』と呼べるような隠れ家らしきものは見当たらなかった。




「本当に此処なのか?」

「あぁ。確かに人が出入りする姿を見たんだ」

「しかし…何処にもそんな入り口はなさそうだが」

「見た目はな」




そう言った彼は岩場に近付いてしゃがみこみ、地面に伸びる草むらを丁寧に掻き分けている。

何か違和感を感じたのか、慎重な動きで進んで行くフウマをレン達は見守っていた。




「どうしたの、フウマ?」

「…気になるもん見つけた」




フウマの顔は、まるでクエストを受け取った時と同じ『顔』をしていた。

その表情にレンは無意識にまたも緊張を感じとる。




「ここだな…入口か?これを隠してる感じだ」




フウマが小さく呟くと、草の間に隠された岩を見つけた。

何の変哲もない岩のように見えるが、フウマは違う。


地面の隙間に手を差し込み、岩を持ち上げる。

するとカチリと岩が音を立てた。


次の瞬間、まるで魔法がとけるかの様に、目の前に広がる木々や岩陰がずれ、隠されていた地下への入り口が現れた。




「ま、こういうこった」

「こんな場所に隠してあったなんて…」




レンは驚きの声を上げた。





「今までの冒険者は、これを見つけられなかったからクエストを放棄したのかな?」

「フウマさんの様な盗賊の冒険者は、村にも来ていないそうですからね」

「勘が避ければ気付くかも知れないな? まあ、俺だから出来たっつー事だ」




フウマは一瞬の違和感で、アジトの入り口を見破ってみせた。

その鋭い洞察力には目を見張るものがある。


ウォルターもまた、フウマの働きに関心の意を示した。




「凄いな、フウマ。やるじゃないか」

「まあ、何となくさ。長年の勘って奴だよ」




しかしレンは、その言葉に違和感を覚えた。

フウマの『勘』は単なる直感ではない。


これまで見せてくれた明るく軽い態度の裏に、もっと深い何かが隠されている気がしてならなかった。



…なんて、考え過ぎだろうか?




「フウマって、本当にただの盗賊なの?」




レンがふと疑問を口にすると、フウマは軽く笑った。




「何言ってんだよレン。俺はただ足が速い盗賊さ。それ以上でもそれ以下でもない」





お読み頂きありがとうございました。

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