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D級テイマー、職人ギルドへ行く③ ~彫金職人は、装飾に羨望を込める~



続いて彫金職人の工房を訪れた。

此方の工房では、主にアクセサリーや装飾品の装備を中心としている。




「いらっしゃいませ。此処は彫金工房よ」




工房の受付には既に女性の姿があった。

彼女の身に付けている耳飾りや首飾りと言った装飾品は、その全てに宝石が形取られている。


よくお店の人が、自分の店の商品を着用して接客をすると言うのを、アパレルショップなんかでも聞く。

それと同じで、彼女が身に付けている一つ一つの装飾品は、全て自身が作った物なのではないかとレンは思った。


何しろそれらは芸術的で、宝石や装飾品の美しさに、並々ならぬこだわりを持って作られた―ーそんな気がしてならない。




「あたしは此処の工房のトップデザイナー。そしてこの子達はデザイナーの卵なの」




女性はそう言って、自分達のお弟子さんを紹介した。

その殆どが女性で構成されていて、男性の姿はたった一人しかいない。


自身がトップデザイナーを名乗る事もあり、湯がで繊細な感覚を持つ一方で、仕事には厳しい。

デザイナーの卵たる彼女達は、その美的センスを讃え、職人としての誇りを胸に今日も自らの作品を完成へと導いていた。




「テイマーが来てくれるなんて嬉しいわ。どれでもお好きに見て行って頂戴ね」




その工房横にある店では、装飾品やアクセサリーを幅広く取り扱っている。

耳、首、腕、指には、冒険者の見た目を飾るだけでなく、主に身を護ってくれる効果が付与されている。

『毒耐性』『麻痺耐性』なんかがいい例で、そう言ったエンチャントを施した装備の販売もあった。

それ以外にも『魔力上昇』『防御力上昇』と言った、ステータスの底上げになる効果もあって、何を付与するかが本当に迷ってしまう。




『キラキラがいっぱいあるねー!』


「そうだね。迷っちゃうね」




全部の効果を着けたい所だが、やはり装備によってエンチャント数が制限されているのと、お金との相談である。

レンには魔力がない為『魔力上昇』の効果は意味がない。

そうなると、物理系に特化した何かを選んでよさそうだ。




「攻撃系かな。それとも防御系? うーん…」

「そう言えば貴女、さっき甲冑工房の所で盾を見ていたでしょう?」

「え? はい、そうですね」




ふとトップデザイナーが言い出した。

隣での騒動が此方の耳にも入っていたのだろう。

鍛冶、甲冑と同じフロア内であれだけ騒ぎを起こしていたら、テイマーじゃなくても注目はする。




「冒険者の中には、盾が重くて装備出来ないって人も珍しくないわ。うちではそう言ったお客様の為に、こんなものがあるんだけど――」




そう言って、彼女がカウンターの上に置いたたのは、一つの腕輪だった。

銀の金属で作られており、綺麗に磨き上げられた表面には光沢があり、光に反射している。

腕輪s全体にはまるで水が流れるような曲線の魔法陣が彫られていたが、何の意味なのかの解読はレンには出来なかった。




「腕輪ですか?」


「ただの腕輪じゃない。これは『シールドブレス』と言って、宝石に埋め込まれた魔力の力で盾を形成する物よ」


「そんな便利な物が!」




中央には青白く輝く小さな宝石が埋め込まれており、この宝石が『盾の力』を発揮するキーとなるらしい。


レンが早速試着させて貰う。

左腕にしっかりフィットするスリムなデザインだった。


これを『盾』と言われなければ、本当にただの綺麗なアクセサリーにしか見えないだろう。




「これが盾になるんですか?」

「えぇ。試しに盾が出る様に念じてみなさい」




半信半疑ではあるものの、レンは静かに心の中で『盾』が出現する様に念じてみる。


すると、腕輪に嵌めこまれた宝石が強く輝き始めた。

青白いエネルギーが放射され、その輝きが謎の彫刻文字へと光を帯びて行く。



その瞬間、半透明のバリアの様な物がレンの前方に展開された。

展開されたシールドは、まるで薄い水の膜が空中に貼られているかのような印象である。




「で、出た…!」


「水の精霊・ウンディーネが落としたとされる『涙』が、宝石となって生まれた。その欠片が埋め込まれているのよ。宝石の魔力がこうしてシールドを貼ってくれるの」




シールドに触れると、波紋が広がるようなエフェクトが発生し、攻撃の威力を吸収していた。

使い手の動きに合わせて自動的に方向を変える為、敵の攻撃方向に応じて即座にシールドが生成される仕組みだった。




「盾なのに全然軽い、重くない!」




これなら展開中でも自由に動く事が出来るし、戦闘中でも防御の隙を減らせる。

持ち運びも便利で、使わない時はアクセサリーとしても日常的に活用出来る優れモノだ。




「ただ、使用回数や展開の持続時間には限りがある。使い過ぎると宝石の輝くが鈍くなっていくんだ。シールドの強度も低下するから、瞬時に身を護る判断力が必要だね。それに強力な攻撃を受けすぎると、シールドが砕ける事もあって不便な部分だあるのさ」




本物の盾の様な強度には及ばないが、ないよりはマシと言った所だろう。

宝石の輝きが失われるとシールドはもう使えないが、時間を置く事で宝石の力は徐々に回復していくそうだ。




「これ、買います! 一つくらいはアクセサリーが欲しいと思っていたんです!」


「それはよかった。毎度あり」




トップデザイナーはそう言って、優しく微笑んだ。


装飾には他にも腕輪以外に、耳飾りや首飾り、腕輪なんかもある。

余りつけすぎてもジャラジャラしてしまうし、こう言った腕輪一つでもレンには十分満足出来る買い物だった。




『やったぁ。レンもかっこいい~!』


「ふふ、ありがとうっ」


『ボクも何かアクセサリーが装備出来るのかな?』




スライムの装備お悩み相談が、此処でも始まろうとしていた。

トップデザイナーはぷるぷるとしたスライムを一目見て、顎に手を当てる。




「そうだねぇ…一通り試すのもありだけど、スライムは何処に付けるんだい?」




スライムに耳や首、腕や手と言った部位がレン達には認識出来なかった。

耳飾りにしてもイヤリングだと何処を挟んでいいか解らないし、ピアスだと針を体に差す感覚にスライムがちょっと痛がった。


それなら首飾りと思ったけれど、見た目が服のベルトを窮屈に締められているような形状になる為、これまた却下。

腕輪や指輪に関して言えば、ぷるぷるとした表面の何処に嵌めていいのか、スライムも解らない。



つまるところ、スライムは装飾品の装備には『向いてない』と言う事だった。




「…ぐすん」

「まあまあ。そう落ち込まないで?」




またしてもしょんぼりするスライムを優しく撫でる。


ふと魔王が気になって彼を探してみた。

此処でも何かひと騒動を起こすのではないかと木が木ではなかったが、今回の彼は大人しい。

工房内をちょろちょろとして、デザイナーの卵達の作業をジーッと見ていた。

余りにも見過ぎていて、逆に緊張する彼女達に申し訳なくなった。




「マオちゃんは、アクセサリーに興味あるんだね。普段からピアスを付けてるし」

「おう。大好きだ」




ハンバーグよりも大好きなのかと問い掛ければ、彼は其処でうんうんと悩み始めた。

まさかそんなに悩まれるとは思わなかった。


魔王を工房横のお店にも興味があるらしく、じーっとアクセサリー類を眺めている。

此処なら、マオちゃんにも何か買ってあげられるかも知れない。

そう思ったレンは、彼に聞いてみた。




「欲しい物があったら買うからね。遠慮なく言ってね」

「うーん…」

「そんなに悩むの? 沢山あり過ぎて?」




魔王にしては珍しく、難しい表情で唸っていた。

まさかとは思うが、一つじゃなくて『此処に在るもの全部!』とか言われたらどうしよう。


遠慮なくとは言ってみたものの、流石に全部は買えない。



やがて魔王はその顔を上げた。




「ジェリーの作る装備の方が全然いいぞ!」




…そう言うのは、思っていても口に出すべき事ではない。





「す、すみません。失礼な事を…!」

「だって本当の事…むぐっ」

「マオちゃんっ!!」




慌てて彼の口を抑えるものの、一度出た言葉は覆らない。


トップデザイナーは愚か、デザイナーの卵達ですら手を止めて此方を見ている。

レンは直ぐにぱっと彼女達から視線を逸らした。

怒っているのかそうでないのかすら、確認はしたくない。




「『ジェリー』ですって…!?」




しかし確認をせずとも、彼女の声が震えているのがよく解った。

トップデザイナーの彼女は、丹精込めた自らの作品を愛している。

それは他の職人達にも言える事だ。


万人受けするような作品でない物だとしても、愛しているからこそ、それを貶される事が許せない人だっている。

子どもの言う事とは言え、誰かと比べられるような物言いに怒らない筈がないのだから。




「…ふ、ふふ。彼と比べられるなんて、思ってもみなかったわ」

「先生っ!?」

「どうか落ち着いて下さい、先生!」




メラメラと背後に炎が見える。

明らかに彼女は怒っている様だった。


トップデザイナーを心配するように、彼女達は次々に席を立って集まり始めた。

その緊迫する空気に、レンはやはり言ってはいけない事を口にしたのだと理解する。


レンの手の中では、元凶である魔王がジタバタと逃れようとして抗っていた。




「…ぷはっ。比べるも何も、ジェリーの方が上だけどなっ。あいつの腕は確かだ!」

「しーっ!」




またしても火に油を注ぐ魔王様。

もういっその事、黙っていて欲しい。




「次にジェリーが来たら、何かマオちゃんに作って貰うからちょっと黙ってようかっ」

「作る…?」




ふと、怒りに身を震わせていた彼女がレンを見た。

魔王だけじゃなく、自分も何か湿原をしてしまったのだろうかと、レンは身構える




「貴女達…もしかして、ジェリーと知り合いなの?」

「え? はい、そうですね。一応仲良く(?)させて貰ってます」

「ジェリーはうちに遊びに来るんだぞっ」

「遊びにって言うか訪問販売だけどね」

「何ですって…!? まさか彼に何かを造って貰ったのっ!?」




やがてトップデザイナーの顔が、酷く驚いた表情に変わった。


どうやってジェリーと親しくなったのか?

何故彼が装備を作ってくれたのか?

次々に質問が投げかけられる。


トップデザイナーのみならず、デザイナーの卵達ですら鬼気迫る勢いだ。



突然の質問攻めに驚きながらも、レンは口を開く。

理由もないし、下手に嘘を吐くよりかは素直に答えた方が身の為だった。




「家の家具や調度品なんかを依頼した時に、何かそう言う流れになりまして…」

「そんな馬鹿なっ!? 装備も満足に整えてない貴女の、何処にそんなお金がっ!?」

「テイマーさん、とてもお金を持っているようには見えないです!」

「人の懐事情を知り過ぎてて怖いんですが?」




しかし彼女達は納得がいかない様子で、レンに更なる詮索を続けていた。

聞かれた事に答えはするものの、レンもまだ彼とは二度の交流しか経験がない。


好きな食べ物や物について聞かれたところで、どうにも答えようがなかった。

実はジェリー、彫金職人達の間では、ちょっとした有名人らしい。




「鉱物で何とか釣ろうと思ったのに、残念ですね先生…っ」

「えぇ。もっと別の手段を考えないといけないわ」

「釣る?」

「それに家までって…!! ああっ、もう理解と情報が追い付かないわっ!」


「「先生ッ!」」




ふらりと倒れそうになるトップデザイナー。

此処の職人達は、一癖も二癖もある人達ばかりだ。


暫くして、漸く落ち着きを取り戻したであろう彼女は、深々と頭を下げて来た。




「ごめんなさい。ちょっと取り乱したわ」

「い、いえ」




ちょっとってどころじゃないんですが、あれは?




「あの…ジェリーは月に一度、フリーマーケットでお店を出しています。其処へ行けばいいと思いますよ」




レンが彼女達の異様な熱心さに困惑していると、ついにお弟子さんの一人が口を開いた。




「…行ったんですよ私達も。彼の店に」

「え? そうなの?」

「はい。でもジェリーさんは私達『職人』には装備は愚か、装飾品や調度品も、何一つ売ってはくれないんです」

「それはどうして?」




レンが尋ねると、今度は別のお弟子さんが苦笑しながら言った。




「何度かお客として買おうとしたんですけど、どう言う訳かいつも見破られてしまって…」




ジェリーはお客さんが男だろうが女だろうが、人間だろうが魔物だろうが関係ない。

それは本人もそう言っている事だ。


多分、お客を装っていても『職人』だと言う事は、彼女達の手を置見ると解るのだろう。

冒険者にはない、職人特有の傷跡やタコなんかから、ジェリーもそれを見抜いていたのかも知れない。


あと、彼は悪魔だから嘘も通じなさそうだ。



すると、彼女達の言葉に同意するように、トップデザイナーが深く頷いた。




「あたし達は彼の技術に憧れていて、少しでも学びたいと思っているの。でも彼は、あたし達がただ技術を盗もうとしていると解っているからか、全然売ってくれないんです」


「盗むのは、よくないですよね」


「あくまで参考にするだけ…と言っても、そう取られてしまうのも無理はないわ。それくらいジェリーの作品は素晴らしいんですもの」




ジェリーの制作する装備や調度品の数々は、職人の眼から見ても群を抜くほどの出来栄えで、そのどれもが『素晴らしい』と絶賛するほどである。


しかし、ジェリーの店はいい物を取り揃えているのだが、まあまあ高い。

いい物にはいい素材を取り扱うとそうなるから仕方ない事だけども。




「一体何処で、あんな希少な素材を手に入れてるのかしら。彼の傍には腕利きの冒険者でも居るの?」

「え、どうだろう。…マオちゃんは知ってる?」




こっそりとマオにレンは問い掛ける。

すると彼は、さも同然の様に大きく頷いた。




「ジェリーの事だから、何処へでだって自分で取りに行くぞ。目的の為ならだけどな」


「す、凄いわ…! 職人達も自分で素材を集める事はあるけれどお、どうしても冒険者の手を借りなければならない事もあるもの…!」


「あいつも一応悪―-もがっ」

「マオちゃん。それは流石にちょっと…!」

「むぐ~っ!」




普段はアトリエに籠って出ないが、必要であれば重い腰を上げて取りに行く。

『引きこもりの天才』と呼ばれる彼が、其処までして製作を愛し、命を掛けている事すら感じさせる。




「ねぇ。どうしたら貴女のように、ジェリーに気に入られるのかしら?」

「さ、さあ…」

「家に来るほどの間柄なら、余程の事じゃない限りそんな信頼関係は生まれない筈よね…」

「やはり、好物で釣る作戦は断念としますか。先生」




トップデザイナーは頷く。

彼女の顔には、苦悶の表情が浮かんでいた。




「そうね。そもそもそれが解らない事にはお話にならないから、もっと別の手を考えましょうか」

「テイマーさん、どうしたらいいと思いますか?」

「えぇと…」




レンも気が付けばジェリーと親しくなっているような感じだったし、何をきっかけにそうなったかも解らない。

ただ単純に、彼の作品がいいとしか言っていないから。


本来は装備の相談をするために来た筈のレンが、気付けば職人達からジェリーの相談を受ける展開になってしまった。




「なあなあ。これ何だっ?」




何かを見つけた魔王。

その手には、しっかりとアクセサリーが握られている。




「それは『解呪のネックレス』ね。呪いを解く効果があるの。一度解呪されてしまうと壊れてしまうから、一度きりなのだけどね」


「ふーん。試しに付けてみてもいいか?」」

「えぇ、いいわよ。呪いなんて持ってなさそうだしね」

「えっ!?」




魔王に『呪い』は確かに『ある』


もしもそのネックレスで『解呪』出来るのであれば、それはそれで問題だ。

こんな人の多い場所で、いきなり元の姿に戻ったりでもしたら、大混乱になってしまう。




「マオちゃん、ちょっと待って―ー」




しかし、レンは『解呪のネックレス』を首に掛けた魔王を止める事は出来なかった。




ーーパキン




何かが壊れるような音がして、思わず目を瞑る。

まさか、本当に『解呪』が成功してしまったのだろうか…!?




「何か割れたぞ?」




しかし、聞こえて来たのは小さな魔王の声だった。

そして『解呪』と言う割には、彼から感じる魔力や威圧感などは何処にも感じ取れない。


恐る恐る目を開けるても、其処に居るのはやはり変わらな姿。




「解呪に成功したって訳じゃない、ですよね…?」

「えぇ。これは失敗ね」

「失敗? オレの呪いは解けないのか?」


「君にどんな『呪い』が掛けられているのか解らないけれど、解呪出来る呪いにもに限度があってね。特に呪いの力が強いと、こんな風にネックレス自体が壊れてしまうの」


「どれだけ重いの、マオちゃんの呪い…」


「で。これはお買い上げ後の『処分』と言う事でいいね?」

「あ、はい…」




お試しの筈が、商品を怖った事で買い取り扱いになった。

勿論一度壊れてしまった為、もう『解呪のネックレス』としては使う事が出来ない。


要は弁償代である。





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