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D級テイマー、職人ギルドへ行く② ~甲冑職人は、鎧に愛を込める~



鍛冶職人の元を後にしたレン達。

フォージャーは他のお客さんの対応に戻るとの事で、カウンターの向こうへと引っ込んで行った。


ひとまず武器に関してはこれでいいだろう。


次は――防具だ。




「ようこそ! 此処は甲冑職人の工房さ」




工房のカウンターに立つのは、明るく大らかそうな男性だった。

彼はこの工房で『師匠』の立場に在り、数名のお弟子さんを抱えている。

お隣の鍛冶職人の親方に比べれば、何とも落ち着いた雰囲気である。





「私は『団長』そして彼らは『兵団員』さ。そう呼んでくれると有り難いよ」




親方と言い、団長と言い、分野によってその呼び名はまちまちの様だ。




「甲冑って事は、鎧とか兜とかですよね?」

「そうだね。此処は主に剣士や騎士などが訪れる。鎧には『愛』が込められているのさ!」

「…愛?」




よく解らないが、スルーしておくか。




「テイマーは騎士じゃないし、きっと違うかな。盾も重そうだし…」




レンは軽量の鎧でさえも重たいと思ってしまうので、基本的には此処に用はなかった。

盾を装備する事も考えたけれど、常に片腕が塞がっていると言うのは何とも窮屈だ。

兜なんかも同様で、レンの頭にはとてもじゃないが重た過ぎる。




『ボク、鎧が着たい!』




しかしながら、うちのスライムは高望みが過ぎる様だ。

そんなにもキラキラした目で見られては、断る気も失せてしまう。


鎧が着たいとの申し出だが、スライムってどう着るのかな…

自分の頭で想像してみたけれど、鎧の胴部分だけがカタカタと揺れ動いてる姿しかない。


スライムは鎧の中に入れば体は護られるだろうが、移動が非常に困難そうだ。

跳ねるにしても重いし、ガシャガシャ音はするし。





「…着てみる?」


『いいのっ!?』





それでも頭ごなしに『無理』だとは、レンも言わなかった。

スライムも自分に合った装備を知らなければならない。


それに、万が一と言う事もある。

もしかしたら、鎧や盾、兜にも『選ばれる』何かがあるのではないか―ーと。




『わーん。前が見えないよぅ!』


「やっぱりか…」




予想通り、スライムは鎧の中に入ったものの前が見えない。

人間用に作られた鎧を試していると言う事もあるが、そもそもスライムの体の表面はつるつる、もしくはプルプルしている。


そんなスライム用にどうすればいいか、団長も思案してくれた。




「スライムには、鎧と言うよりも兜の方がよさそうだなぁ」




じっとスライムを見つめて彼は言う。


団長は冒険者――とりわけ騎士の為に作る甲冑には、特別な愛情を持っていた。

その昔は自分も騎士だったが、今は引退してその経験を生かした甲冑作りに専念している。




「兜? それならスライムの頭でも被れそうですね」



「甲冑作りは単に防御力だけじゃない。騎士の精神を高めるものだ! そんな訳で、君も是非とも騎士になろう!」

「いや、テイマーなんでいいです…」





この人…普通の職人かと思いきや、またしてもクセ強だった。

団長と言われるだけあってお察しである。


彼のお陰で騎士の職業が普及してるとか言う噂も、ない訳ではなかった。




「兜なら、大人用だと大きいからね。子供用でも十分かと思うよ。どれがいいかな…」




工房横のお店には、鎧や盾、兜と言った甲冑職人達が丹精込めて作り上げた装備が並んでいる。

大人用と子供用があり、大きさが違うだけでデザインは一緒だ。




「オーダーメイドなら、もっとスライムの頭に合った兜を作れそうだけどね」


「あぁ、ちょっと時間がなくて。間に合わせになってしまう形で揃えてしまってるんです」


「なるほど? 本来なら自分に合った物を選ぶべきだとは言いたいが、自分もスライム用に兜を作った事がなくてね…そもそも、テイマーをお客さん相手にすると言う事自体が初めてだから」




それは甲冑ギルドに留まらず、職人ギルド全体を揺るがすほどの出来事だったのだろう。

まだ鍛冶と甲冑の工房しか見ていないが、明らかにお弟子さん達が此方を見ている、ガン見している。

その視線が耐えきれないと視線を逸らしても、工房内には人、人、人の姿。


職人ギルドは職人が居て、お客さんが居て、冒険者が立ち寄る場所。

いつでも大賑わいの様だ。




「さあ、試しにこの兜を被ってみてくれるかい?」


『はーい!』





団長が取り出したのは、鉄兜と呼ばれるごく一般的に使用される装備。

子ども用ではあるが、小さなスライムには更にぶかぶかの様だった。




『ぐらぐらするぅー』


「うーん。ちょっとまだ大きいな。まるで赤ん坊の頭部ぐらいの小ささだ」

「流石にそんな小さい兜は、オーダーメイドとかですよね?」


「そうだね。サイズに関して言えばオーダーメイドになるけれど、それくらいの大きさであれば、数日ぐらいで済むだろうとは思うよ」




オーダーメイドにするのであれば、スライムが望むなら作って貰っても構わないだろう。

それにはスライムの採寸と、どんなデザイン化が話し合われる事になる。

まずは、一通りスライムに合う様な兜を見つけるのが先決だった。




「鉄仮面なんかは向いてなさそうだな。シールドの上げ下げが自分で出来ない事には、前も見えない」


「…ですね」


『まっくらー! わーん、助けてー!』




泣きべそをかいて飛び跳ねようとするも、兜は重たいのかガシャガシャと激しく音を立てた。

ナイフの時同様、自分で装備の管理が出来ない事には、例え装備が出来たとしても意味がない。




「顔が出るタイプで厳選しようか、スライム」


『…えっ? レン、何か言った―?』


「その兜は、スライムにとって余り有効的じゃないよって言ったんだよ」


『えー? 何ー? よく聞こえないよぉ…』


「…どうやら、鉄仮面じゃなくとも兜の形状によっては、スライムには聞き取りにくい様だ」




それは何とも不便過ぎる問題だった。

耳(?)まで覆ってしまうと、辺りの声や音がくぐもって聞こえるらしい。


指示が聞き取りにくければ、意思疎通は困難だし、戦闘に於いても余り宜しくない。


そうなると『兜』と言う選択肢もまた却下となりそうだ。


レンは残念そうに思い長柄も、スライムから鉄仮面を取り上げた。

すぽんっと小気味いい音がして、彼はぷるぷると大きく体を震わせる。




「ぷぅっ…吃驚したっ。えへへっ」




にっこりと笑顔を見せるスライム。


可愛いけど、中で詰まって出て来られなくなった時を考えると、やはり兜は駄目だな、うん。




「あとはそうだな…サークレットなんかもあるよ」




兜も駄目、鉄仮面も駄目。

そうなると残るは兜が被れない様な職業――例えば魔法使いや僧侶なんかが使用する、ティアラやサークレットと呼ばれる頭装備だった。


キラキラと輝きを持つその冠は、まるで王冠の様で、スライムの小さな瞳もキラキラと輝いている。




「わぁっ。何だかオシャレだね!」

「ボクもこんなのを着けたら『伝説のスライム』っぽく見えるかもっ!?」

「伝説のスライムは、王冠でも被っていたの?」

「解んないっ。でもその方が『伝説』って感じで格好いいよねっ」




試しに小さなティアラを装備させて貰ったが、スライムの頭には少し大きい。

これもまた調整は必要ではあるが、今の所彼にとっては装備の筆頭候補だった。




『似合う―?』


「うんうんっ。でもこれ、ずっとつけるって思うとちょっと窮屈そうかな?」


『うんー。ずぅっとつけてると頭がイタイイタイってなっちゃう。いつもみたいにぷるぷるが出来ないや」




気に入ったはいい物の、装備に苦しめられるのは本末転倒だ。

装備にも向き不向きがある様で、スライムには特にプルプルした身体を締め付けるような類は苦手の様だ。


せっかくいい装備に巡り合えたと思ったのに、またもや残念である。




「では、盾はどうだろう? 君のスライムには『異空間収納』と言う凄いスキルがあるそうじゃないか。必要な時に出し入れすればいい」


「ご存じなんですか?」

「あぁ。テイマーがスライムを収納代わりに持ち歩いているなんて、話も聞くくらいだよ」




本当に、自分のテイマーとしての噂は、何をどうしたらそんな風に聞こえるんだろう。

間違ってはいないが、少し行動には気を付けるべきだと、今更ながらにレンは思い直した。





『ボクでも持てるの!? 盾をっ!?』


「おくち入れておけば、スライムも自分でパッと出せるからいいね。そうする?」


『うんっ!』


「盾も色々と種類があるんだ。小盾に大楯いろいろあるよ。耐久性は勿論のこと、敵の攻撃の盾となれるように防御力は必要だ。それに敵の攻撃の中には、火や氷など属性のブレスを使う奴も居る。ドラゴンなんかがいい例だな」


「ドラゴンと遭遇する機会がない事を祈りたいですね」


「ははっ。世界は広い! 何処でどんな魔物と遭遇するかも、旅の醍醐味じゃないかっ!」




しかし、ブレス耐性はあった方がいいし、魔法を使う敵を相手にするなら、魔法防御も。

一度考えると、欲しいエンチャントがあり過ぎて困ってしまう。

エンチャント付与するには、装備一つに対して数が限られているし、お金もかかる。

現段階で出来るのは、耐久力を上げるのとあと一つくらいだ。


ブレスを取るか、魔法防御を取るか…




「前線はウォルターが護ってくれるだろうし、スライムが前に出る事はないよね。自分の身を護れるくらいでいいんじゃないかな…」


『えっ!?』




ぶつぶつと独り言を言っていた矢先、スライムが突然驚いた声を出した。

レンもまた驚いた様にスライムを見た。




「ど、どうしたの?」


『ボクだってレンを護れるよっ!? 盾でばーって!」




有り難い話だが、スライムの小さな体には『小盾』か『盾』しか出せそうにない。

護れてせいぜい、自分の身体くらいのモノだ。




「大楯ならばテイマーを一緒に護れるかもしれないけどね。小さな君には難しいかなぁ?」


『そ、そんな事ないもんっ。じゃあおっきい盾を出してよ!』


「本気かい? まあ構わないけどね」





だからと言って『大楯』を使おうとしても、体が盾の大きさに会っていない為、逆にスライムが押し潰される恐れもある。


丁度、あんな風に―ー




ーーズシーン…




『うわーん…! 潰されちゃうよー!」


「言わんこっちゃない…」




そうなると、やはり小盾もしくは普通の盾の大きさの方が、スライムには合っている気がした。


ぐすん、ぐすんと泣きじゃくるスライムを優しく撫でて、予定通りに『盾』を購入する。

エンチャントは『耐久性』と『ブレス』を選択した。

お金に余裕があったら、今度は『魔法防御』を付与したらいいだろう。




『…うぅ…おっきい盾で、護りたかった…』


「そんなに大楯が欲しかったのね、スライム…」




せめて身体がもう少し大きくなった時に、また考えてみよう―ー




「レン、レン!」




再び、マオがレンの名を呼んでいた。


先程は知らない内に『王者の剣』をぶん回していた彼だが、甲冑職人の工房ではまさかな展開はないだろうと思っていた。




「どうだ? 格好いいか?」




マオは、5歳児でも着られる様な子供用の鎧を、団員さんに装備させて貰っていた。

『可愛いですね』なんて言われている通り、レンの眼から見てもその姿は大変可愛らしい。


可愛らしいけれど、鎧の下に来ている緑色のジャージが見え隠れしていて、何とも締まりが悪かった。




「うん。似合ってなくはないんだけど…ジャージだもんね、今」

「じゃあやめる!」

「えっ」

「あとこれ、ガシャガシャして煩い!」

「鎧の音もまた『愛』さ!」




愛って何ですか…?



お読み頂きありがとうございました。

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