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嫉妬の悪魔、訪問販売をする


「はい。それでは今回のクエストは以上となります。お疲れ様でした!」




冒険者ギルドで請け負ったクエスト報告を完了させる。

報酬として、今日もそれなりのお金が手元に来たが、その数分後には直ぐに手元からは無くなってしまう。


言わずもがな、マモンへの借金返済に充てる為だ。

お金の送金後、直ぐに彼からの連絡メッセージが届く。



『――今日も少ないですね。お疲れ様です』



貶してんのか労ってるのか、解らない文面である。




「これでも結構頑張った方なんだけどなぁ…」




討伐に採取と、今日は自分なりに頑張った方だ。

報酬額もそれなりに貰えたが、完済すべき金額には程遠い。


そう考えると、今日の分も彼の言う通り『少ない』のだろう。




『どうしたのー?』


「何でもない…お昼食べてから帰ろうか」


『うん-!』




家に帰れば冷蔵庫には、マモンが常にストックしている食材がある。

それを使ってお昼ご飯を作る事も可能だが、勝手に使うとマモンから何故か追加請求が来る。


『魔王様の為の食材です』なんて言われればぐうの音も出ない。

最早我が家のキッチンはマモンの城なのだから。


自分の家なのにお金を請求される家主って、どうなんだろうか…




「マオちゃん。お昼食べに行こう?」

「お昼? ハンバーグかっ?」




クエストボードを眺めていた魔王が振り返る。

以前の様にテーブルの下に隠れる事は無くなり、彼は落ち着いた様子を見せていた。


お昼と聞いて、いつものお食事処を想像したのだろう。

当たってはいるけれど、毎回ハンバーグなのね…




宿屋『海月亭』へは、週一のペースでご飯を食べに訪れている。

普段はマモンが週五でレンの分を『ついで』に作ってくれるので、彼の居ない一日はほぼ外食だ。

何せ、マモンがキッチンに入らせてくれない――と言うのは建前で、レンは料理の腕がそんなに上手い訳ではない。


自分が食べられればいい味付けや目分量なので、人に食べさせるレベルではない事を、レン自身がよく解っていた。

野営の時はウォルターもディーネも、無理して食べていてくれたに違いない…




「こんにちは、レンさん! スライムちゃん、マオちゃん!」




宿屋に入ると、受付のカウンターにはいつもの様に看板娘が居た。


彼女はこの宿屋の娘であり、三つ子の姉妹である。

二人の姉を持ち、一人は冒険者ギルドに、もう一人は職人ギルドで働いている。

そして、彼女達の母親はレンが持つハウスの全体的な管理を担う、コンシェルジュを務めめていた。

加えてその旦那さんは、宿屋のオーナー兼お食事処のシェフである


そう言う訳で、レンは家族ぐるみでお世話になっている冒険者の一人だ。




「そうそう。ご存じですか? 最近の噂」

「噂?」

「何でも、最近魔物が狂暴になってきているみたいですよ」

「えっ。それは怖いね?」

「はい…『災いを呼ぶ星』ってご存じですか?」




―ー災いを呼ぶ星。


その話は、レンも知っている。




「あぁ、うん。何か聞いた事はあるよ」




スライムママが言っていたお星様の話を、レンはふと思い出す。




「近くの森や草原でも何体かの魔物が変貌していると聞いてます。お姉ちゃんも特に心配しているみたいでしたが、レンさんの周りは大丈夫ですか?」


『?』




心配そうな目で看板娘がスライムを見ている。

きょとんとした顔で彼女を見つめ返すその眼に、悪意なんてものは勿論ない。




「スライムは大丈夫だよ」

「ですよね…よかった」




受付嬢は、何処かほっとした表情を浮かべる。

しかし直ぐに、はっとした様子で首撃った。




「あっ。疑う訳ではないんですっ。スライムちゃんにもしもの事があったらと思うと心配で…!」

「えぇ、解ってます。ありがとうございます」

「クエストやダンジョンに際は、特にお気をつけて下さいねっ」




そんな話をして、レンたちはお食事処に向かった。




『お星様が悪いのかなー』


「どうだろうね…」




星が流れる夜に起きた騒動の件に関しては、レンが言わない限り誰にも知られる事ではない。

余計な事を言って周りを不安にさせるかも知れないと、自分の胸に留めておく事にした。


街で噂になっている通り、魔物は活発な動きを見せているらしく、今日のクエストも『討伐』関係が多いように見受けられた。

あちこちで多発する被害を抑えたり、増殖する魔物を殲滅したりと、何かと冒険者達の手を借りたいらしい。




「スライムも、何か体に異変があったらすぐに言うんだよ?」


『うんっ』




スライムの明るい笑顔を見る限りでは、今のところは心配なさそうだ。


そして魔王はと言うと――




「ハンバーグ定食! 大盛りで!」

「あいよっ! 今日もよく食うなボウズ!」




既に注文口でハンバーグ定食を選んでいた。

彼に関しては、全く以ていつも通りだった。











―ーとある日の午後。



窓を叩く雨音を耳にリビングでは、レンが一人ソファに座り『ステータス』の確認をしていた。

先日、スライムがレベルアップした事で、新たなスキル『ぷちっとふぁいあ』を習得した。

これにより、小石や水による『おくちてっぽう』他に、戦いの幅がぐっと増えたとレンはこっそりガッツポーズをする。


それに比べてレンはと言うと、テイマーとしてはまだ『E級』で、スキルも『テイム』と『なでる』のみ。

パッシブに至っては、『魔王の施し』による『聴覚アップ』のみだ。


正直、聴覚に関しては常日頃から『聞きたい音』と『そうでない音』に、何となくだが切り替えられるようにはなってきた。

人の私生活を盗み聞きしているようで、余りいい気分ではない。



マオに至っては、相変わらず姿は子供のままだったが、ランクがいつの間にか『F』から『E』に変化している。

これに関してはよく解らないが、スライムの様に、テイマーと一緒にランクが上がると言う訳ではなさそうだ。





「こっちだぞー!」


『わー!』

『待て待てー!』

『捕まえるぞー!』




広い家の中では、マオとスライム達のドタバタ劇が盛んに行われいた。

楽しそうに笑い、駆けまわる姿がリビングに飛び込んで来る。

分身した小さなスライム達は、まるで小さな波のように、次から次へとマオを包囲し、逃げ道を塞ごうとしていた。


魔王い一人に対し、追いかけ回す小さなスライム…その数は最大80匹にも昇る。

ステータスでも解るように、スライムの現在の分裂数は『80匹』までに増殖していた。

これは先日、夢を持ったスライム同士が融合したお陰のようだ。

最大数が増えるのは有り難い事だが、80匹はちょっと…いやかなり多すぎる。




「今度はこっちだー!」


『ガオー!』

『食べちゃうぞぉ~!』


「それ、この前の魔王様だよ…」




しかし、この家の中ではスライムが大量発生しても、ぎっちぎちになる事はない。


ビバ・ロイヤルハウス!

少しも狭くないわ!なんて、少し前の映画風に言ってみる。



マオは逃げる為、スライム達は追いかける為に家中のあちこちでおいかけっこしていた。

幾ら家の中が広いとはいえ、こうもドタバタされてしまうのは困る。

まるで此処は幼稚園だ。




「あんまり走り回ると転ぶよー?」




高圧的に『煩い』と言うのは、教育的(?)にも余りよろしくはない。

それでも直接的に言うか、遠回しに言うかで判断には迷った。

けど、とりあえずやんわりと言ってみる事にした。




「レン、レン!」

「何? マオちゃ…」

「捕まっちまったー!」




笑顔のマオに群がる小さなスライム達。

頭に肩に腕に、スライム達が此処でも大量発生していた。


以前の鬼ごっこでは、魔王がスライムを捕まえる役だったが、今回はそれが見事逆襲に成功したらしい。

小さなスライム達も、数が多ければ魔王を捕まえられると言う事なのか…?




『捕まえた―!』


「一斉に追いかけて来るんだもんな―っ」


『マモン様も捕まえたよー!』


「俺は書類整理に部下の指示に、お家の掃除に忙しいんですけどね?」




そして今日も、マモンは我が家で主夫(?)の様な事をしてくれている。



今日は特に何も予定があなく、レン達は久しぶりに、家でのんびりとした時間を過ごしていた。

外での冒険が続いていた為、全員がそれぞれの一時を楽しんでいた。


レンはソファに腰を下ろし、長時間ダラダラと過ごしていた。

何もせずにゆっくりとするのは久しぶりで、緊張の糸が一気に緩む。

たまにステータスを確認し、それぞれのスキルや成長ぶりを再確認するくらい。

しかし、それも直ぐに欠伸と共に眠気が増してくる。


目の前には、最近お気に入りになりつつある甘めの紅茶と、ディーネが焼いてくれたと言う『マフィン』が並んでいる。

手には暇潰しにと本棚に在った適当な本を持っているが、数ページ読んだだけで、レンの眼はすでに半分閉じかけている。



スライムはそんなレンの膝の上で、すやすやと寝息を立てている。

家じゅうを駆け回って疲れたのだろう。

僅かに身じろぎをすれば、ぷるんっと体が小さく震えた。


体をゆっくりと揺らし、気持ちよさそうである。

まるで猫のように、レンの膝の上を楽しんでいるかのようだった。



同じくして、マオもまたすやすやとソファの上で眠っているのを、マモンが甲斐甲斐しくタオルケットを掛けてあげていた。

手にはマフィンの食べかけを持ったまま、ぽろりと落ちそうになっている。




「マオちゃん。食べるか寝るかどうにかしないと…」

「んー…」

「魔王様を起こそうものなら、断罪ものですが?」

「ちょっと声を掛けただけで命を盗られるなんて、酷過ぎない?」




マモンの眼がぎろりとレンを睨んでいる。

お陰で、さっきまでうとうとしていた自分の眼が、ぱっちりと冴えてしまった。




「それよりも。何ですかこの有様は…」




溜息交じりにマモンがリビングを見渡す。

緑が多く豪華な家具や調度品に囲まれる中、レンの周りだけはちょっとだけ汚い。

脱ぎっぱなしの服や読みかけの本、その辺に放っておいた戦利品アイテム等、『後でやろう』と思って『置いておいた』物が散乱している。




「物を置きっぱなしにしないで下さい。魔王様が躓いたりでもしたら大変です」




マモンの小言がチクチクと刺さる。

正論には違いないのだが、前述の通り、レンは今日一日をだらーっと過ごしている。


家事や洗濯などは二の次だし、それもまた『後でやろう』の範疇だ。




「先程貴女の部屋を覗きましたが、何ですかあれは。ゴミ屋敷ですか?」

「えっ。人の部屋を覗いたの? マモンさん酷い」

「そう言うのであれば、部屋の扉はきっちり締めて置く事ですね。開けっぱなしでしたが?」

「あぁ…締めるの忘れてたかも」




開けたら開けっぱなし、物を捨てない、放置する。

そんなだからレンの部屋は常に『汚部屋』である。




「ちゃんと脱いだ服はしまいなさい。あと掃除もしなさい」

「だってこの家、住むには広すぎて行き届かないんだもん」


「家全体の話じゃないんですよ。貴女の『汚部屋』の話をしてるんです。それに家自体は、俺がちゃんと掃除してますから」


「うぅ…その内片づけます…」




まマモンはまるで、口うるさいお母さんの様にレンを叱る。


レン自身、母との思い出は余りないのだが、世の中のお母さんはこんな感じなんだろうかと考えると、嫌悪と言うよりも何だか嬉しさが込み上げていた。




「…何を笑ってるんです?」

「いや、マモンがお母さんみたいだなぁって」

「俺はこんな駄目人間を子に持ちたくはありません」




またチクチクとお小言を言われた。




「全く。以前は一人で生活していたと言いますが、一体どんな生活をなさっていたんですか?」


「いや、掃除が出来ないくらいに仕事が忙しくて」


「それは『怠惰』と言うものです。出来る人は、仕事が忙しくてもきっちり火事が出来る人の事を言います。俺の様に」




マモンは素晴らしい程、家の事をよくやってくれている。

炊事洗濯に始まり家の中の掃除等、完ぺきにこなすまさに主夫!


広い庭や庭園の手入れは『シーサイドハウス』側で執り行ってくれる事もあり、特に庭園の剪定なんかはしなくていいらしい。


魔王の為とは言うが、しっかりと掃除はしてくれるし、レンの食事もついでだが作ってくれる。

この前『代わりにやってくれてありがとう『とお礼を言ったら、冷めた眼で『働いた分は借金に加算しますね』なんて言われた。



また借金が増えた。








ロイヤルハウスはとんでもなく広い。


家の中を探検しようにも、未だに何処に何があるかが把握出来てないし、何なら家の中でも迷ったりする。

ちょっとトイレに行くだけでも、色んな扉を開け閉めしがちだった。


『いい加減覚えたらどうですか』なんてまた小言が飛んで来る。

これは自分の記憶力が問題なのか?。



レンは広すぎる家に住んでいしまった事を、今更ながらに後悔していた。

しかし、多額の借金を抱えている以上、此処から引っ越す事も出来ないし、寧ろ引っ越せない。


魔王様の、魔王様による、魔王様の為に拵えたロイヤルハウスから逃げ出すのには、彼をを連れて行く事は絶対に無理な話だった。





ーードーン!




そんな会話の中、突然家の外で大きな音が響き渡った。




『わあああぁっ!?』


「な、なに、いまのっ!?」




まるで雷が落ちたかのような音だった。


天井ではシャンデリアが僅かに揺れ、ガタガタと家具が動き出す。

ビリビリと全身で振動を感じていた。

謎の音と衝撃に、スライムが吃驚して跳ね起きた。


レンも起き上がって窓の外を見たが、空は快晴で、雨が降っている様子もない。

しかし、何かが落ちたと言うのは確かだった。



ぱちりとマオの眼が開いた。

しかし彼は、何事もなかったかのように、ふあああと大きな欠伸をする。




「…この気配は」




何かに気付いた様に、マモンが低い声で言う。

彼の眼は、家の外に向けて何かを探っているようだった。



その時、家の中に呼び鈴の音が響き渡った。

それは、この家に訪問者が来た事を知らせていた。




「だ、誰だろう?」

「見てきます」




マモンがそう言ってリビングを離れると、レンは少しだけ首を傾げた。



この家を訪問してくる人は、そう多くはない。

誰が来たところで、まずはコンシェルジュの彼女を通してからでないと、この家の敷地内には愚かゲートすら通れない。

訪問者が来た際には必ずこの家に連絡が来る筈が、そんな事前連絡はなかった。


特に、奇妙な音の後に鳴った呼び鈴については、少しだけ警戒心が強まっていた。

ゲートを潜り抜けずに誰かが来ることなど、普通であればあり得ない事である。




「魔王様」

「ん?」

「ジェリーが来ました。どうやら音の正体は彼だったようです」




リビングに戻ってきたマモンが連れていたのは、フリーマーケットで出会ったジェリーだった。

彼はマモン同様、魔王に仕えている『嫉妬』を司る悪魔。

そして腕利きの職人と言う一面を持つ、ちょっと風変わりな人(?)である




「ジェリー!」

「やあ。こんにちは、小さな魔王様…」

「今の音、ジェリーだったの?」

「うん…でも何だか驚かせたみたいだね」

「庭に穴が開くほどでしたからね、あとで直しておいて下さい」




少しだけ不機嫌な顔をするマモン。

彼が言うには、家の丁度玄関先に、何かを叩きつけたような大きなへこみが出来ているそうだ。




「ゲートを通って来るのが面倒で、城から直接飛んで来たんだけど…」


「ジェリーって、直接此処に来れるの!?」


「それが結構な数の結界が張られててね…ちょっとだけ服が焦げちゃった…何なの此処、セキュリティが厳重過ぎ…」




『シーサイドハウス』による徹底したセキュリティ管理の下、このハウスは建てられている。

しかも、悪魔も吃驚の厳重ぶりだった。




「普通にゲートを通ってくれば、問題ないんじゃ?」

「君、僕は一応悪魔なんだけどな…」

「あ、そうだった」

「大丈夫ですよ。俺が通れるんですから」




そう言えば、マモンが此処に来る際にはちゃんとゲートを通って来ている。

咎められないのは、契約の際に一緒に居たからだろうか?


一応、あやしい人物なんかが来ないとも限らないので、コンシェルジュが対応する際にはハウスの家主へ連絡が来る手筈にはなっている。


もし次にジェリーが来たのなら、通していいと伝えておこう。




「それよりも…今日はカタログを持って来たんだ」

「カタログ?」




ジェリーはいつも通りの暗い声で言った。

彼はトランクを一つだけ持って来ており、その中に一冊のカタログを入れているだけで、他には何もなかった。




「過去に作った作品をカタログにしてみたんだ。これを見て買ってくれたらいいな…」




レンはカタログを受け取って、ページを捲る。

其処には、ジェリーが過去に作った作品の数々が掲載されていた。


家具、調度品、武器、防具、アクセサリー、魔法道具など、種類は多岐に渡り、どれも精巧で美しい物ばかりだ。




「凄い数だね…」




思わず呟くレン。


ページを捲る度に、彼の技術の高さを感じさせる作品が続いて行く。

直接目で見るのも凄かったが、こうしてカタログにしてみると、改めてその数の多さに圧倒された。


マモンに言わせれば、ジェリーは『引きこもりの天才』らしく、物づくりに関しては言えば本当に天才らしい。

要望があれば大抵は応えてくれるし、修理や改造だってしてくれる。




「これ、ネット販売でもいいくらいだよ」

「ネット? 確か前にもそんな事を言ってたよね、君…」


「ネット販売って言うのはね、こう言う感じの商品をネット―ーえぇと、通信販売? 何て言うんだろう。とりあえずこのカタログの中から選んだら、買いたい人が注文してくれるって言う仕組みだよ」


「それって今、僕がしている事と同じじゃないの…?」


「人間の世界には『通信機』って言うのがあってね。それを使うと、買い物が出来る『アプリ』があるんだよ。直接ジェリーが家に来る必要はなくて―ー」


「…?」




ジェリーは不思議そうに首を傾げていた。

自分の説明下手が浮き彫りに出ていると、レンは少しだけ困ったように笑う。




「ジェリー。要は全て『通信機』の『アプリ』で貴方の作品を購入してもらう――と言う事です」

「へぇ。そうなんだ…ニンゲンの世界には便利なものがあるんだね…僕は機械には疎いんだ、ごめんね」

「いやいや、私の方こそ説明が下手でごめん…」




互いに謝る姿に『何をしてるんですか』なんて、マモンが肩を竦めた。




「こう言うのって、お願いしたら作るのにどれくらいかかるの?」

「在庫があればすぐに渡せるよ」

「えっ。在庫?」




うん――と、ジェリーは頷く。




「楽しくてつい作り過ぎちゃうんだ」

「ジェリーのアトリエは、貴女の部屋の様なゴミ屋敷ではありませんが、まあ散らかってますね」

「ゴミ屋敷…?」

「ああああっ。何でもないよ、ジェリー!」




マモンのチクチクはもういいってば!




「在庫がなくても、材料は直ぐに取り出せるから少し時間をくれたら作れるよ…」


「取り出すって?」

「此処に入ってるから」




そう言ったジェリーは、先程カタログを取り出したトランクを見た。

レンが見る限りでは、カタログ以外には何も入っていない筈だった。


不思議そうに眺めていると、ジェリーは少しだけ笑って見せる。




「嘘だと思うなら、何か取り出してみようか」

「あ、いや。別に疑ってる訳じゃ…」


『あーっ。こんぺいとーの瓶だ!』


「金平糖? あぁ、似てるだけだね」




ふと、カタログを見ていたスライムが声を上げた。

見ると、道具屋で見たようなカラの瓶がある。

しかしジェリーが作ったのは、金平糖が入ってなくともキラキラとして見えた。

ラメやスパンコールなんかを散らしたような感じだ。




「じゃあそれ、見せてあげるね…」




ジェリーがそう言うと、テーブルの上にトランクを置いた。

中はやはり空で、何も入っていないように見える。


すると、徐にジェリーがその中に手を入れると、その手がずぶずぶとトランクの中に入って行った。




「えっ!?」




その手がトランクを貫通すると言う訳でもない。

テーブルの下からもそれは同じだ。




「…あぁ、あった。これだね」




やがてジェリーが手を引き上げると、其処にはカタログに載っていたのと同じ、キラキラした小瓶が握られている。




『わーっ。キラキラだ―!』


「ど、どうなってるの?」




レンは驚き、思わず聞いた。




「このトランクはね、魔王城にある僕のアトリエと繋がってるんだ。其処から取り出しただけだよ…」


「何か、スライムの『異空間収納』みたいだね…?」


『キラキラー! きれー!』




反応を求めたのだが、スライムの眼はキラキラの瓶に釘付けである。

キラキラしていたら何でもいいのかな、この子…




「じゃあ、材料もそのトランクから?」

「うん。場所さえ貸してくれればいつでも作るよ…」

「オレっ。オムライス自動製造機が欲しいっ!」

「…だからね。そう言うのはマモンが作ってくれるよ。ねぇマモン?」

「腕に寄りをかけて作りますっ!」




何か前にも、こんな会話をしたような…


驚きと感動が入り混じりながらも、気が付けばレンはパチパチと拍手をしていた。




「はー、凄いねジェリー。手先が器用で仕事が早いなんて、本当に凄いよ!」




レンがそう言うと、彼は少し照れくさそうな顔をした。




「…君、やっぱりいい人間。褒めてくれたからそれはあげるよ」

「えっ!?」

「ジェリー。甘っちょろい事を言わないでくれます?」

「マモン…どっちに対してのお小言なの、それ…」





〇月×日 雨


大きな家! 探検のし甲斐がある!

スライムが80匹入っても大丈夫な家だ!


マモンがレンのぐーたらっぷりに頭を抱えてた。

怠惰なオレと同じくらいだった。


オレとそっくりだな!




お読み頂きありがとうございました。

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