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E級テイマー、盗賊と出会う



本降りだった雨が、漸く上がり始めた頃の事だった。

裏路地から本通りまで戻ってきたレン達は、目の前を数人の冒険者達が掛けて行く姿を目撃した。




「何処かの金持ちが、とんでもない依頼を出したそうだぞ!」

「マジかっ!? 見に行こうぜ!」




彼らは真っすぐに『冒険者ギルド』に入って行く。

どうやら依頼とは『クエスト』の事らしい。

不思議に思ってレンはウォルターを見上げる。




「とんでもない依頼だってさ?」

「何だろうな」

「ちょっと見てみようか」




レンからそう言った提案をされるとは思ってなかったので、ウォルターは少し驚きつつも了承する。

彼女も少しは冒険者らしくなって来たのだろう。


そんな事を思いながら、レンと共に再び冒険者ギルドへと向かう事にした。


冒険者ギルドに入ると、クエストボードの周りには複数の冒険者達の姿があった。

彼らは群がるようにその場にいる為、後ろに居るレン達からはその全貌が全く見えない。


そんなにまで人が殺到するクエスト内容なのだろうか。

そう思うと、レンは興味津々だった。




「俺達はこれを請けようぜ!」

「そうだなっ!」

「この依頼は俺が貰うぜっ!」




冒険者達が一つ、また一つとクエストを受注し、その場から離れて行く。

漸くレン達がボードの前に立つと、既にお目当てのクエストは残り数枚と少ない。

驚いた事に、全てが同じ依頼人からの依頼の様だった。




「討伐に採取に護衛に色々出してる。うわっ、何この報酬!? 桁が一個や二個多いんじゃない?」


「余程の金持ちなんだろう。この国は資産家も多いからな」

「はー。凄い。こんな金額をポンっと出せるなんてね…」




クエストボードに張り付けられたクエスト内容は様々で、資産家と聞くだけあってその報酬金額は高い。

小石集めクエストだけで満足していたレンだったが、最近は少しずつランクを上げて、色んなクエストをこなすようになっていた。


全ては借金取りーーいや、マモンへの返済の為だ。

一日一階300Gのクエストなんかじゃ、いつまで経っても借金が減る事はない。


ハウスを買ったことに加え、家具や調度品なんかも沢山取りそろえた物だから、トータルの借金額を見た時には卒倒しそうになった。


その為、一日でも早く借金を返さなくてはならない。

返済期限は待ったなしだ。


『通信機』を使えば、マモン宛てにお金を送る事が可能だと言う事を知り、毎日少しずつだが返済をしている次第である




「…この依頼を成功させたら、借金も少しは楽になるかなぁ」

「やってみるか?」

「えっ。大丈夫かな?」

「俺も手伝う。報酬はレンに全て譲ろう」

「いやいやっ。そんなの悪いよっ。せめて半分こしよう!?」




ウォルターの当たり前の様な発言に、レンは戸惑った。

お金が必要だなんて零したのは自分だが、その所為で何だか気を遣わせてしまっているようで申し訳ない。


レンは暫くうんうんと唸っていたが、その様子を見ていたウォルターはふはっと笑い出した。




「気にするな。俺がしたくてしているんだ」

「そ、それならいいけど…」






◇◆◇





クエストを請けたレン達は、街外れにある廃屋へと向かっていた。


荒れた地面を進んで行く内に景色は変わり、山岳地帯へと舞い戻っている。

振り返ると、ビセクトブルクの城が遠くに見えていた。

街外れとにあるとは知っていたが、完全に郊外にある様だ。




「なあなあ。どんなクエストを請けたんだ?」

「『盗まれた宝石』を取り返して欲しいんだって」

「ふーん。つまんなそうな依頼だなっ」




マオはそう言って、頭の後ろで手を組んだ。

つまんないと彼は口を尖らせているが、そのクエストを達成すればそれなりの報酬が手に入る。

小石拾いを6666日やらずとも、その一回だけである程度は借金返済に充てられるのだ。

レンにとって、この機会を逃す手はない。




「依頼人の屋敷から宝石を盗んだ奴らが、この辺りに潜伏してるらしい」


「潜伏? さっさと売り払っちゃえばいいのに」

「そんな事をしたら直ぐに足がつくからな。表で売るなら尚更だ」

「表?」


「盗品なんかは、裏ルートで売り払われる事が多いんだ。しかしそんな事をした形跡はない。そうなるとコネクションとの繋がりは薄い奴らだろうな」




顎に手を当て、静かに考察するウォルター。

一つの情報からそんなにも推理出来るなんて、彼は探偵にでも向いているんじゃないか?




「じゃあ、裏では売れない人脈のない人が盗って行ったんだね」


「一人かも知れないし複数かも知れない。少なくとも、似たような依頼が他にも幾つかあった。もしかするとまとめて盗まれたと言う事もある」


『ねー! 何か見えたよー。お家みたいなのー。でもちょっとなんか変ー』




そんな事を話していると、レンは一足先に偵察に出していたスライムからの声を聞き届けた。

聴覚が良くなった所為なのか、スライムの声が遠く離れていても、聞こえるようになったのは有り難い。




「変…?」




しかし、聞こえるだけで此方から指示が出来ないのが、ちょっとした難点ではある。

スライムの言葉が気になったが、合流して自分達も確かめた方がいいだろう。




「ウォルター。スライムが家を見つけたみたい」

「解った」




少しだけ急ぎ足に道を進んで行けば、スライムが前方でぴょんぴょんと飛び跳ねている。


やがて見えて来たのは、古びた家屋の様な建物だった。

木の壁は一部が腐って白蟻が集り、窓は割れている。

屋根には蔦が絡まり枯れている。

長い事人が住んでいたような形跡もないように思えた。




「家…あれか?」

『レン、こっちこっちー』

「ありがとうスライム。それで変って言うのは何なの?」

『あのねー。ニンゲンがいっぱい倒れてるのー』

「待て」




その言葉を聞くと同時に、ウォルターが険しい顔をしてレン達を制した。




「どうしたのウォルター?」

「様子がおかしい。…人が倒れているんだ」




普通、誰か倒れている人が居るのなら、助け起こして安否を確認すべきだろう。

しかし、ウォルターはレンを制したまま、その場から動かない。

彼の険しい表情から、自分にも何か『普通』じゃない事が起きていると言うを感じられた。




「…血のニオイだな」




スン、と鼻を鳴らし、呟くようにウォルターが言った。




「見て来る。此処で待っていてくれ」

「わ、解った」




血のニオイと聞き、レンは途端に恐怖の様な物を感じ始めていた。

人が倒れていて、血のニオイがする。


それはただ怪我をしているだけなのか、それとも――



あちこちを移動するウォルターの姿に、倒れている人が一人ではない事を悟る。

手首の脈を取り、息を確認する様子にレンは固唾を飲んで見守っていた。


やがてウォルターが、ゆっくりと顔を上げて首を振る。




「…やられているな。全員死んでいる」

「そんな…」

「来なくていいぞ。見て気持ちのいいもんじゃない」

「ううん。大丈夫…」




死体は見慣れていないが、こんな所で震えている訳にも行かない。

この世界は常に危険と隣り合わせだ。

これから先も同じような体験をするかも知れない。

そう思うと、足なんて竦んでいられなかった。


それでもゆっくりと、意を決したようにウォルターに近付いて行く。

其処で眼にしたのは、複数の人間の死体が転がる光景だった。

地面に身体をだらりと投げ出すように、力なく倒れている。

首からは大量の血が流れ出ており、鉄のような生臭さを感じた


全員が男性で、身に付けている服装は冒険者の装い

剣や斧、ハンマー等が周囲に落ちており、彼らの所有する武器だと言う事が窺える




「彼らが窃盗団なの?」

「どうだろうな」



ウォルターが、警戒心を露わにしながら呟く

その眼は鋭く辺りに視線を巡らせていた




「これだけじゃ何とも言えん。誰かにやられたのか、仲間割れなのか…」


「誰か? 魔物がやったとかじゃなくて?」


「何か切れ味の鋭い武器で首を斬られている。ナイフかそれともダガーか。少なくとも、長剣の類ではないだろう」


「どうして長剣じゃないって解るの?」


「全員が首の頸動脈を斬られているんだ。確かに息の根を止めるには効果的だが、間合いを取るような武器ではそれも容易ではないからな。しかし落ちている武器はどれも違う…」




淡々と説明をするウォルター




「…っ」




彼らの見開かれた瞳は、最期にどんな光景を映し出していたんだろうか。




「…だから言っただろう。来なくていいと」




ウォルターが困ったように言う。







「あそこ。何か居るぞ?」

「何…っ!?」



視線を感じる――と、マオがふと呟く


鬱蒼とした森の中、木の陰に隠れるようにして何かが其処に居た。

警戒する様に、ウォルターが背中の剣に手を掛ける。




「誰だっ!」

「…」




呼び掛けに対する反応はない。

しかし影は、此方を警戒する様に息を潜めている。

まるで獲物を狩る時の行動にそれは似ていた。


それは魔物か、はたまた人間なのか―ー




―ーガサリ




レンは森の中から木の葉を踏むような音を耳にした。

その瞬間、視界に居た筈の何かが、ふっと姿を消してしまった。




「き、消えたっ!?」




レンが慌てたように辺りを見渡す。

すると、ウォルターが大剣を引き抜いて此方に向けていた。




「ウォル―ー」

「レン、後ろだっ!」




正確に言えば彼の行動は、レンの後ろに居る人物を警戒してだった。

はっとして振り返ろうとした矢先、何かに気付いたレンは、それ以上動く事が出来なかった。




「動くな」




目の前の少年が、少し低めの声でそう言った。


首筋に当たる冷ややかな感触に、レンはドクン…と心臓を高鳴らせる。



これは――凶器だ。


何か鋭い刃物のようなものが、首筋に当たる寸前まで迫っている。

無理に動けば、その首が斬られると悟ると、レンは静かに、ゆっくりと両手を上げた。




「レン!」




ウォルターの声が背後でしたが、彼を振り返る事すら出来なかった。


出来るだけ冷静になろうと努めるものの、煩いくらいの心臓音がそれを邪魔してくる。

挙げた手が震えているのが、自分でもよく解った。


今、自分に出来る事と言えば、その少年が『何者』なのかを読み解く事くらいだ。



その少年は、先端が鋭く尖る武器を手を握り締めていた。

まるで忍者が使用するクナイの様だと、静かに視線を動かしてそう思う。


短く切られた髪はブラウン色。

新緑の色を思わせる少年の瞳は、鋭い視線を放ち、何かを探るような眼でレンを見ている。

驚いた事に、レンはその人物に声を掛けられるまで、気配も何も感じられなかった。

彼の洞察力や動きから、それなりに腕の立つ人物だと言う事が窺い知れた。


少年の服装は細身でありながらも引き締まった体格をしており、全身を黒色で纏め、口元は顔を隠すようにマスクで覆われている。


その姿は、まるで忍者の様だ。


いつ自分の背後に移動したのかさえも全く解らなかった。

音もなく忍び寄る動作に、レンの心臓は大きく高鳴っていた。




「お前ら、何だ? 女…答えろ」

「わ、私達は…依頼を受けて、此処に来ただけよ…」

「…依頼?」




少年が警戒する様に問い質す。

震える声でレンがそう言うと、少年はピクリと反応を示した。




「どんな依頼だ。言え」


「…っ。ぬ、盗まれた宝石と言うのを、探しに来たの…盗んだ奴らが、此処に逃げ込んだって情報を掴んで…」


「――奴らの仲間じゃないのか…」




ぽつり、少年がそう言うと、首元にあったクナイが離れた。




「は…っ」




ほっと息を吐くと同時に、足がガクガクと震え出すのが解る。

立っているのもやっとなくらいだ。


一歩間違えれば殺されていた…

『死の恐怖』を、レンはまたしても感じていたのだった。




「大丈夫か、レンっ!」

「う、うん。平気…」


「悪かったな。こいつらの仲間かと思って警戒してた」

「…な、仲間? そんな筈ないじゃない…っ」


「どうだろうな。口では何とでも言えるさ。そこの大剣使いはともかく、あんたは弱そうだ」





そう言って、少年はにやりと笑う。

先程まで向けられていた探るような眼はもうなく、今はただの少年にしか見えない。




「お前は、子どもか…?」

「子どもじゃねぇよ」




少し拗ねた様子で、その少年は口元にあったマスクを引き下げた。

子どもではないと言うが、少年の顔立ちはまだ幼さを残した様な印象である。


背後を取られた事には本当に驚いた。

身のこなしや気配の消し方など、誰にも気づかれる事なく背後に忍び寄る姿は、どれをとってもまるで『忍者』にしか見えない。


まさか本当に、彼は忍者だとでも言うのだろうか?




「お前らが探している『宝石』ってのは、これの事か?」




少年の手には、赤く光る石の様な物が握られていた。

確か、依頼人からは『盗まれた宝石』と書かれていた。

詳細は『赤い石』とだけ書かれていたが、まさしく少年のお手に在るのがその宝石だろう。




「それ! それだと思う!」

「お前が何故それを?」




ウォルターが問いかけると、少年は眉を顰めた。




「俺も同じ『盗まれた宝石』のクエストを請けたんだよ。先に見つけたのは俺なんだけど、こいつらがいきなり現れてさ。そうしたら問答無用で襲い掛かってやがった」


「まさか、お前がこいつらを…?」

「そう言う事」

「しかしクエストは、俺達も請けている筈だが…?」

「あぁ。どうやらこれは、俺が探してた宝石じゃないみたいだな」




冒険者ギルドでは、複数の冒険者が同じクエストを請ける事は、パーティを組んだ状態でなければ、原則としては出来ない。

報酬の支払いで揉める事がある為である。


しかし『盗まれた宝石を取り戻す』クエストは、他にも複数あった。

恐らくお互いに、同じ依頼人から別々のクエストを受注したのだと推察される。




「あんたら、冒険者か?」

「え? えぇ…」

「ふーん…何で魔物なんか連れてるんだよ。しかもこんな小さいガキまで」

「私、テイマーなんだ」

「テイマー?」




少年は首を傾げた事を少し不思議に思った。

今まで自分がテイマーだと名乗ると、それなりに珍しい物を見たとでもウ言う様な、反応を返す人が多かった。

しかしこの少年に限って言えば、本当に知らないと居た様子である。




「えぇと…魔物を仲間にして戦うんだけど、知らない?」

「知らない。見た事ない」

「あ、そうなんだ…」




もしかすると、ビセクトブルクの街周辺では、テイマーの存在すら知られていないのかも知れない。

そう思うと、自分はちょっとした有名人を気取っているようで、何だか恥ずかしかった。




「すまないが、その宝石を譲ってはくれないか。依頼人から取り返すように言われている」


「タダじゃ渡せないな?」

「何?」




少年は意地悪くそう言うと、手にしていた宝石を懐に収める。

簡単には渡してくれないと言うのは、彼の言動からも明らかだった。




「お金? それとも命?」

「おいおい…俺にだって選ぶ権利はある。理由もなく殺したりしねぇよ」

「…まるで、理由があれば簡単に殺すと言っている様だな?」




ウォルターのその言葉に、少年の眼が細められる。




「そうさ。俺は自分の為にに住んだりはしない。人の為に盗む。金も、物も、心も、命だってーー」


「盗む…お前、盗賊か?」

「見りゃ解んだろ。俺が剣士に見えるか?」




少しだけ肩を竦めて、少年は深く溜息を吐いた。

少年が手にしたクナイを、くるくると指先で回している。

まるで命を得た生き物の様だ。




「それよりさ。あんたらの依頼人って、もしかしてずんぐりむっくりな体型の『ガハハ』って笑う奴じゃねぇ?」


「えっ。どうだろう…依頼は受けたけど、本人に会った訳じゃないから」

「ふーん。でもまあ、あんたらは運が良かったと思うぜ」

「運がよかった?」


「俺がこうして襲われたんだ。俺が先に来なけりゃ、あんたらがこいつらと同じ運命だったかも知れないぜ」




『運命』と聞いて、レンはドキッとした。

さっきの今だから、少し敏感になっているのかも知れない。


運命なんて、あの占いの事なんて、今は気にしたら駄目だ。


レンは頭を振る。




「そうね。貴方が間違えて此処に来なければ、私達がきっとこうなってたかも…ありがとう?」

「そうだな。下手をすれば俺達がこうなっていたかもしれん…助かった、と言っておこう」

「返り討ちにして、お礼を言われるなんて初めてだな」




そう言いながら、少年はまたにやりと笑う。

しかし、そうなると素直に依頼人の元へ宝石を返すのは、何だか気が引けた。

此方としては宝石を渡して貰えればクエストは終了なのだが、クエストの裏事情を知ってしまい、何と言うか後味が悪い。




「ウォルター、どうする? 何だか渡して貰えない雰囲気なんだけど…」

「そうだな…」




レンとウォルターは顔を見合わせ、これからどうするかを検討した。

お金や命が目的ではないそうだが、それなら一体どうしたら譲って貰えるのだろうか。


すると、少年が肩を竦めてレンを見た。

その表情は、何処か呆れたようだった。




「おいおい…俺の話を聞いてたか? 俺はこいつらに『襲われた』んだぜ?」

「そ、それが何なの?」


「襲われたって事は、俺じゃなくても、誰かがこの場所に来るって事を解ってて待ち伏せていたんだ。この『宝石』を取りにな。そしてこいつらはただの冒険者なんかじゃない。金で雇われた『刺客』だ」


「し、刺客?」


「そうかーー依頼人は、最初から俺達を殺すつもりだったんだな?」




ウォルターはピンと来た様子で頷く。




「ギルドには他にも似たような依頼が出ていたが、目的はどれも『何かを取り返して欲しい』と言う内容。そして報酬は『莫大な金』だ」


「同じような依頼を受けたって事は、他でもその手口に引っ掛かった奴らが居るのかも知れないぜ。まあ、俺が全員やっちまったから、同じ手口はもう使えないだろうな」


「どうして使えないの?」


「失敗した手口を使い続ける馬鹿が何処に居る? 例え気付かれたとしても、奴らは巧妙な手口で、受注した冒険者達を殺して来たんだろ。要するに『クエスト失敗』だ」




レンはウォルターを見たが、彼もその意見に同意の様で、静かに頷いた。

しかし『クエスト失敗』が死を意味するのならば、冒険者ギルドも怪しむくらいはするのではないか?


それとも、依頼人ありきのクエストなのだから、そう言った部分には目を瞑っているのかも知れない。

まるで深い闇の様な部分を覗き込んでしまっているようで、何だか気分が悪かった。





「でも、どうして依頼人がこんな事を…?」




すると少年は、真剣な面持ちで口を開いた。




「あの依頼人は、冒険者を利用して誘き寄せては、装備やアイテムを奪って売り捌いているんだ。カモにされた奴は何人も居る。死んで戻って来なかった奴もな」


「そんな…」


「俺はそんなクソみたいな奴を許さねぇ…」




ぐっと拳を強く握り締める。

その表情は、怒りに満ちていた。




「お前ら、この宝石が必要なんだろ?」

「あぁ。だがその話を聞くと、考えが少し変わって来るな…」

「そうだね。宝石を取り返して『はいさよなら』なんて出来ないよ!」

「そうか。じゃあ…」




少年はレン達を見た。

その表情には、年相応の笑みが浮かんでいる。

まるで悪戯を思いついた子どもの様だった。




「こいつらを雇った奴をシメるから手伝え」

「えっ。シメる?」

「裏切られた報復と言う事か?」

「最初に向こうから俺達を殺そうとして来たんだ。やられる前にやる。当然の事だろ?」




その言葉に、レンはふと表情を曇らせた。




『あいつらがオレを殺そうとしたから』

『だから殺してやった』



頭の中で、以前聞いた魔王の言葉が反芻される。




「そうだなっ。やっちまおう!」

「おっ。チビの癖に解ってんじゃんか!」

「…」




レンは、そんな府に楽しそうに頷く魔王の姿を、神妙な面持ちでただ眺めていた。

そしてウォルターも、そんな彼の姿に顔を顰めた。




「で、どうする? このまま帰るとあんたらは『クエスト失敗』だけど?」

「真っすぐ持って帰る事なんて出来ないな」

「うん、そうだよね。一泡吹かせに行こうか」

「んじゃ、決まりだな!」




少年はにっと笑い、手を差し出した。




「俺はフウマ。『盗賊』だ、よろしくなっ!」


「盗賊…」

「何だよ?」


「いや、まさか盗賊だとは思わなくて…忍者かと思っちゃった」

「は、ニンジャ? なんだそれ。そんな職業があるのか?」




【■職業に『忍者』はありません。▼】




あ、ないんだ…






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