E級テイマー、剣の王国へ行く
とある昼下がり。
レンはスライム、マオと共に街を歩いていた。
ラ・マーレは今日も活気が溢れ、人の声でとても賑やかである。
冒険者を始め、行商人や職人など、道の往来を行き会う人の姿が絶えなかった。
「何か今日は人が多いね。また何かイベントでもやってるのかな?」
街の中央に在る噴水広場では、時にイベントや催しが行われている事が多い。
その為、大通りに面した道沿いには自然と人が集まるのだが、ここ最近は大規模なフリーマーケットがあったくらいだ。
人の出入りは街の南北に位置する門を中心に広がっている。
街に入って来る姿もあれば、逆に出て行く姿がありと、人によって様々である。
もしかすると、今後のイベントに備えてやって来ているのかも知れないとレンはそう思っていた。
「レン」
「あ、ウォルター」
街を歩いて居ると、ウォルターに出会った。
彼はいつもの様に背中に大きな大剣を背負い、精巧な作りの鎧を身に纏っていた。
軽く手を挙げる彼は今日も元気そうで、レンもまた自然と笑顔で駆け寄る。
「こんな所で会うなんて奇遇ね」
「そうだな。最近はどうだ?」
「毎日クエストを頑張ってる! 小石拾いの他に討伐とかも始めたんだ」
「それは凄いな」
ウォルターにしてみれば、レンが『小石拾い」以外を請け負うなんて、ちょっとした驚きに近いものがある。
『戦闘が苦手』だと本人は言うが、ウォルターの知る限りレンは頑張っていると思う。
レンはダガーの使い方をちゃんと一から学ぼうと、冒険者ギルドから『初心者講座』のクエストを勧められていた。
そのお陰で、少しはダガーの使い方を覚えたのだとレンは嬉しそうに語る。
それを聞き、ウォルターは関心の意味を込めて頷いた。
「頑張っているんだな」
「まだまだだけどね。ウォルターは最近どうなの?」
「書類整理に仲間の訓練と相変わらずさ」
ウォルターはそう言って少し肩を竦めた。
彼が『隊長』の立場にあり、忙しい人だと言うのは知っていたが、聞けば最近はまともに休みを取れた試しがないらしい。
毎日馬車馬の如く働く姿は、その背後に見え隠れするフィオナが原因なのだろうか。
此処にもブラック仲間が居た――と、レンはそっと彼を同情する。
「まあ、それ以外にもやる事は山積みなんだがな…」
ウォルターがぽつりと呟いた。
不思議そうにレンが首を傾げると、彼ははっとした様子で首を振る。
「いや、何でもない。これから何処かに行くのか?」
「特に何も決めてなくて。何かクエストをしてお金を稼がなきゃとは思うんだけどね」
「お金?」
「最近、ハウスを買いまして…その借金返済に色々と」
口を窄ませて視線を逸らせば、ウォルターもまた不思議そうに首を傾げた。
「借金までして家を買ったのか? なかなかだな」
「いや、これには海より深い事情がありまして…」
「そ、そうか」
見るからに落ち込んだ様子のレン。
彼がそれ以上の追及をしないでくれたのは、とても有り難かった。
そんな時、レンは自分の手を引っ張る感覚を覚える。
視線を下に向けると、小さな魔王が何処かを見つめていた。
「レン、アイスだ! 買おう!」
マオが見つめる先にはアイスクリーム屋さんの店があった。
カラフルな色合いの屋根が特徴的で、店先にはテラス席がある。
其処では家族連れやカップルと思しき人達が、笑顔でアイスクリームを食べている姿があった。
最近は残暑が続いている為、ひんやりと冷たいアイスは特に格別なものに感じるだろう。
マオと同じぐらいの年代の子供たちが、丁度笑顔でアイスを受け取っている。
「いいよ。何がいい?」
「バニラ!」
『ボク、パチパチするやつー!』
「パチパチ…あぁ、ポッピングシャワーね」
それぞれの要望を聞き、レンは早速店に入る。
店内はアイスの温度管理の為か、外の暑さとは打って変わってとても涼しい。
アイスクリームを二つ頼むと、手際よく店員さんが用意してくれた。
「はい。落とさないように気を付けてね」
「ありがとうっ!」
『わーい!』
その様子を見て、ウォルターは少し驚いた顔をして見せる。
レンを、そして魔王を交互に見ては、信じられないものを見たとでも言いたげだった。
「…」
「どうしたのウォルター。もしかして食べたかった? よかったら買って来るけど」
「いや…大丈夫だ」
ウォルターは、はっとして首を振った。
レンにはそれが、何処か不思議でならなかった。
先程からふと感じていた事だが、今日は彼の様子がおかしいと思う。
日々の仕事で忙しく、疲れている所為もあるのかも知れないが、それ以外にも何か理由があるんじゃないか、
同じブラック仲間としてはとても心配である。
自分を騙して働き続けて、それで身体を壊してしまうケースだってよくある話だ。
ウォルターには、ちゃんと悩みを相談出来る様な相手はいるのだろうか。
気兼ねなく話が出来る人が居れば、少しは心の支えや肩の荷が軽くなりそうではあるのだが…
余り無理をし過ぎては、自分の寿命を縮めるだけである。
レンは強くウォルターの身を案じた。
「ウォルター。何か悩み事?」
「えっ?」
「顔色が悪いと言うか何というか…そんな気がして」
「あー…」
そう言うと、彼は少し言い淀んでた。
視線を逸らし、どう言葉を返すか迷っているようだった。
もしかすると、彼の所属する『クロス・クラウン』に関する仕事内容なのだろうか。
もしそうなら、彼が秘密保持の為に言いあぐねている理由が解らなくもない。
レンは部外者なのだから、彼も立場上、おいそれと情報漏らす訳にはいかなかった。
「ギルド関係の件だったら、余計な詮索はしないでおくけど…もしも悩みがあるなら言ってね? 友人として話は聞くよ」
「友人か。お前にそう言って貰えるのは嬉しいな」
「ウォルターだってそう言ってくれたんだもの。私も嬉しいわ」
『友人』と初めて呼んでくれたのは、彼の方からだった。
そんな彼の助けになりたいと、レンは笑顔で頷く。
するとウォルターは、またしても顔を顰め、神妙な面持ちで言った。
「…実はな。フィオナから『レンの監視をしろ』と指示があったんだ」
「えっ。監視?」
レンは驚きの表情を浮かべる。
フィオナとは、ウォルターが所属するギルドのマスターを務めている女性だ。
彼女は女性でありながら、数多くのクセ強な冒険者達を一つに纏めて上げる、卓越したリーダーシップとカリスマ性に溢れる女性だった。
「監視ってどう言う事? 私に何か問題があるの?」
「いや、レンに問題がある訳じゃない。ただあいつは、魔王の事をやはり警戒している」
ウォルターの眼が、ちらりと件の『魔王』へと向けられる。
彼は素知らぬ顔でアイスを頬張り、口の周りを見事に汚していた。
「マオちゃん。おくち拭こうか…じっとしててね」
「ん!」
その様子を見かねてレンがティッシュで拭き取るものの、直ぐにまた汚して元の有様だ。
それでも彼女は微笑み、その様子を楽しそうに眺めている。
…小さな子どもの姿もそうだが、これで彼が魔王だと言うのだから、本当に驚きである。
「あれ、指示があったって事は…」
「…」
「もしかして、監視役ってウォルターなの?」
「あぁ、俺だ」
「あー…そうかぁ」
通りでウォルターの様子がおかしかった訳だと、レンは漸く腑に落ちた。
彼がレンの監視役になった事で、友人としての彼と隊長としての彼が葛藤している――そんな感じだろう。
「でもウォルター。私達をずっと監視してるのは、流石に面倒…いや大変じゃない?」
ウォルターは笑いながら肩を竦めた。
「だから俺も乗り気じゃない。でもフィオナの命令だから仕方がないさ」
「はぁ…ご苦労様です」
自分が言うのもなんだが、監視する方も大変である。
彼の苦労を労い、レンは曖昧に笑っていた。
ーーべちゃっ
何かが落ちる音に気付いた。
まさか…と隣を見れば、地面に落ちたアイスをじっと見つめるマオ。
「落っこちた!」
彼はは笑顔でそう言った。
気を落とす何処か笑うなんて、アイスが落ちた事すらも楽しんでいる様子だ。
普通の子供なら此処でギャン泣きしているだろうし、タダを捏ねて我儘を言う事だって考えられる。
彼が悲しむ様子ではない事が、まだ幸いなのだろうか。
それでも落としたアイスは元には戻らないし、何ならすぐに蟻が集って来ている。
「ああ…ちょっと待ってね。おててもおくちもベタベタ…」
またしても甲斐甲斐しく世話をするレン。
その姿にウォルターは、解っていたとしても『魔王』とは程遠いな…なんて思う。
「…こうして見ると、本当に子どもの様だな」
「子どもだぞっ。可愛いだろっ」
「自分で言うのか…?」
そんな様子を見ながら、ウォルターは少しだけ肩を竦めた。
「そうだレン。知ってるか? 隣街への通行が解除されたそうだ」
「隣街?」
ふとウォルターが、思い出したように言う。
そう言えば、街道沿いにある道の内の一つが、ずっと通行止めになっていた。
周りは山岳地帯が広がり、他に迂回出来るルートはない。
その為、隣街に行く為には必然的に其処を通るルートを辿る事になるのだが、その通行が先日解除されたそうだ。
「隣街? 此処以外にも街があるの?」
「勿論だ。隣街だけじゃない。この大陸は国境を越えれば大きな国もある。世界は広いぞ!」
レンにしてみれば、この街がスタート地点であり拠点である。
今までずっとこの街を中心に生活して来たから、他の街の事なんて全然知らない。
しかし、ウォルターの熱弁とも取れる言葉に、レンは何か心動かされるものを感じた。
知らない街や未だ見ぬ冒険に、わくわくしているのだと思う。
そして、彼が何とも嬉しそうに言うので、何だかそれが可笑しく感じた。
「ふふ…っ」
「な、何だ?」
「いや、何か途端に子供っぽく思えて…」
「む…」
ウォルターは、自分が知らず知らずの内に拳を握り締めていた事に気付いた。
少しだけ顔を赤くした様子がまた面白くて、レンはまた笑いが込み上げる。
何だか自然と涙まで出て来た。
「わ、笑うな」
「ごめんごめん…それで、隣街だっけ?」
「最近までは封鎖されて行けなかったんだが、通行が解除されたんだ。興味があるなら行ってみるのもいいと思うぞ」
「近いの?」
「山岳地帯だが、歩いては行けなくもない。だが殆どの人は馬車を使う」
「馬車…初めてかも」
歩いて行くにしても、見知らぬ土地で道に迷ったりしたら大変だ。
馬車が出ていると言うのなら、それを利用するのもありだろう。
お金さえ払えば、乗り合いにはなるが隣街まで連れて行ってくれるらしい。
レンは興味を示しながらも、若干躊躇っていた
「でも、私達は監視されてるんでしょ? 街を離れるのはきっと駄目なんじゃ…」
そう言うと、ウォルターは軽く笑った。
「俺が一緒に行くから大丈夫だ」
「えっ…」
「急な話だからな。レンが良ければ明日にでも行くか?」
レンはウォルターの言葉に耳を疑う。
しかし、隣街がと言うところなのか、一度見てみたいと言う気持ちは強かった。
「この街とはまた違った雰囲気が味わえると思うぞ。何せ城がある」
すると、会話を聞いていた魔王とスライムが顔を上げた。
「城っ!?」
『お城―!?』
「オレの城とどっちがでっかいかな!」
『レン、レン! ボク、お城見たい!』
早くも二人は期待に胸を膨らませ、わくわくしている様子が窺える。
その気持ちはレン自身、十分過ぎるほど解った。
レンもまた、城という言葉に大変興味を持っていたのだ。
「それじゃあ明日、隣街に行ってみようか。ウォルターが一緒なら大丈夫だよね」
翌日
天候は快晴に恵まれ、レン、ウォルター、魔王、スライムの一行は、隣街までの街道を馬車で進んでいた。
馬車にはレン達の他にも冒険者や行商人と言った人の姿があり、彼らも同様に隣街へ行く。
馬車を引くのは二頭の馬。
その手綱を引く御者の男は、慣れた手付きで安全かつ安定した乗り心地を保証してくれている。
道中は乗り合いする人達の会話で満たされていたが、魔物の姿もなく周辺は静かなもので、穏やかな風景が続いていた。
レンは久しぶりに少し遠出する感覚に、心を躍らせながらウォルターと話していた。
「隣街は、ラ・マーレとはまた違った雰囲気だから、きっと楽しめると思うぞ。市場も多いし、国独自の食べ物もまた美味しい」
「そうなんだ。どんな物が売ってるのか楽しみだね。隣街にも冒険者が居るのかな?」
「あぁ、あちらも多いと思うぞ。何せ城への志願に集まるくらいだからな」
「城…そう言えばそんな事も言ってたね」
穏やかな緑の風景は、やがて山岳地帯へと姿を変えて行く。
すると、先程まで快晴だった筈の空が途端に曇り出した。
雲行きの悪さ、そして雨の様な湿気た匂い。
やがてぽつりぽつりと降り出した雨は、次第に音を立ててその到来を知らせる。
「雨…? さっきまであんなに晴れてたのに」
「この辺りは雨が降りやすいんだ。見ろ」
その山岳抜けた先に湖畔が見えて来たかと思うと、ウォルターが馬車の窓から外を覗いた。
「街が見えて来たぞ。あれが剣の王国―-『ビセクトブルク』だ」
湖畔を臨む傍らに、荘厳たる西洋の大きなお城が佇んでいる。
城の中央に位置する主塔は、鋭く天に向かって聳え立ち、その先端はまるで県の切っ先のような鋭さを持っている。
更に鉄塔には『剣の王国』を象徴するかの如く、二つの大きな剣が交わったモニュメントが飾られていた。
外壁は銀色に反射する石材で作られており、雨の降る風景でも、何処かキラキラと輝いて見える。
「わぁっ…!」
目の前に広がる光景に、レンは思わず声を上げた。
城をぐるりと囲む城壁は、街や人を護る為、強固な守りを固めている。
高く聳え立つ壁は、外からの侵入を簡単に許しはしないだろう。
馬車は次第に荒れた山道から石畳を通り、城門までの道を真っ直ぐに進み続けた。
城門は巨大で、鋼鉄製の門扉があり、その上には王国の紋章であろうか、交差した『二つの剣』が刻まれている。
城の主塔にも見えた、あの大きな剣のモニュメントと同じものだ。
門の左右には見張り台が設置されており、侵入者のみならず入国する人々の審査も此処で行われている様だ。
「この国へは、冒険者証のある者なら提示すれば入国が認められる。冒険者ではない行商人や職人なんかは、また別で商売用に入国審査が必要だがな」
「ラ・マーレと違って厳しいのね」
「この地の領土を治める王国だからな。王族の身を脅かす輩が現れないとも限らない。だからこそ、こうして厳重に警戒をしているんだ」
そんな話をしてると、馬車がゆっくりと停車した。
「お客さん方、着いたぞ~。雨避けが必要なら言ってくれ」
「四つくれないか」
「あいよ~」
『雨避け』と呼ばれるものをウォルターが購入する。
持ち手の突起を押せば、バンッと大きく傘が開く。
それは世間一般で言うところの『雨傘』に相当する物だった。
この地域は雨が降りやすく、この国を訪れる際にはこうした『雨避け』が必要になるそうだ。
サイズは折り畳み傘の様だが、傘が開かれると途端に一般的な大きさに早変わり。
雨に濡れても速乾性と撥水に優れており、持ち運びにはとても便利だった。
しかし、足元がぐちゃぐちゃに汚れるのは、どの世界でも変わらない。
「よし、降りるぞ」
「うん」
馬車を降りてから直ぐに、ウォルターの言う通り『入国審査』があった。
先導する彼に倣い、ドキドキしながらも『冒険者証』を提示する。
「えっ、テイマー!?」
レンの冒険者証の職業欄には『テイマー』と書いてある。
やはり此処でも、自分がテイマーだと言う事を、審査する兵士に驚かれてしまった。
本当に珍しい職業なんだな、私…
「コホン…失礼っ。テイマーを見るのは初めてでして。お連れの魔物はスライムと――」
「魔王だぞっ!」
「は? 魔王…??」
「そ、そう言う『ごっこ遊び』なんですぅ…!」
「ごっこじゃな…もがもがっ」
「マオちゃん…しーっ!」
レンは慌てて小さな魔王の口を押える。。
余りにも堂々と宣言するものだから、ウォルターは『頭が痛い』と、こっそり額に手を当てている
早くも入国前にひと悶着在りそうな気配に、ウォルターはどうしたものかと思案する。
「あー…その子は彼女の…連れ子(?)だ」
「連れ子…!?」
「あぁ。ご夫婦なのですね」
「そうだ」
「は? いや、違…」
「面倒だからそう言う事にしとけ」
面倒も何も、いきなり子連れと旦那さんが出来た設定なんですが…!
しかし兵士はその『言い訳』を信じたようで、冒険者証を返すなり、ビシッと姿勢正しく敬礼をした。
「失礼致しました! ようこそ『ビセクトブルク』へ!」
「あぁ、はいどうも…」
「城だー!」
『わーい!』
城門を超えた先にある街並みは、ウォルターの言う通り、沢山の人で賑わっていた。
緑豊かな自然溢れる土地の中、海を想像させる街並みの『ラ・マーレ』だが、『ビセクトブルク』の街並みは街網は、それとはまた違った印象である。
まず目についたのは人の多さだ。
冒険者や商人など様々だが、中には鎧を着た兵士の姿もある。
城下町と言う事もあり、街や住民の安全を護る為にこうして見回りをしているのだろう。
「さっきも言った通り、ビセクトブルクには城の兵士になりたいと言う志願者が多く居てな。特に剣を扱う者にとっては、その為に冒険者を目指す者も居るくらいだ」
「へぇ。そんなに此処は凄い国なのね。お城って事は、王様が住んでいるのよね?」
「あぁ。『剣王』と呼ばれている。王の統治と剣の腕があったからこそ、この国が大きく成長したと言っても過言ではないぞ」
活き活きと語るウォルター。
やはりいつもより饒舌と言うか、彼はこの国の事をよく熟知しているように思える。
「ウォルターは、随分とこの国に詳しいようだけど…もしかして兵士を目指してたりしたの?」
「…何故分かった」
「えっ。そうなんだ」
「まあ、昔はな。目指していたのは騎士なんだ。だが城への門を叩く前に、フィオナに無理矢理冒険に付き合わされて…今はこんな状態さ」
「なるほど」
理由はどうあれ、この国に詳しい彼が居るのであれば色々と案内して貰えそうだ。
城へは一部の区域までであれば、見学は随時可能らしい。
魔王は『お城へ入ってみたい!』と言っていたが、城への道は既に長蛇の列が見えている。
『見学ツアー』にもなっているそうで、入る事が出来ても、随分と待たなければならないだろう。
「この街にも冒険者ギルドや武器や、防具や、道具やなんかが揃っている。街によって取り扱っている物もまた違うぞ」
『こんぺいとー、あるかなっ!?』
「どうだろう? 道具屋を見つけたら探してみようか」
『うんっ!』
キラキラとお星様の様な輝きで、スライムが辺りを見渡している。
新しい街に心躍らせるのは、レンも同じだった。
知らない街並みに、この先には何があるんだろうと期待せずにはいられなかった。
スライム同様、レンも辺りを見渡していると、途端にウォルターがにやりと笑う。
「迷子になるなよ?」
「うぐっ…解ってますよー」
「はは…そうだ。『通信機』で連絡先を交換しておこうじゃないか」
「そうだね!」
お互いに『通信機』見せあうと『ウォルター』と画面に表示された。
ディーネとも同じように連絡先を交換した時があったが、たったこれだけで登録完了とは、何とも便利である。
「何をするかはレン次第だ。今日は楽しむ為の日だからな」
「あ、ありがとうっ」
そんな優しい事を言われれば、誰だって笑顔になってしまうのも必然的。
レンもまた笑顔を返し『ビセクトブルク』での新たな冒険に、胸を躍らせるのだった。
武器や防具屋を覗けば『剣の国』に相応しく、様々なソードやサーベルと言った武器が取り揃えられていた。
鎧や兜、盾なんかは鋼鉄を拵えていて、ウォルターがずっと立ち止まって見ているのを、レンはくすくすと笑ったりもした。
道具屋に『金平糖』は置いてなかったものの、代わりにキラキラした飴玉が幾つも並んでいた。
甘いお菓子がたちどころに並ぶ姿に、スライムだけでなくマオもまた眼を輝かせている。
冒険者ギルドにも覗いてみた。
カウンターには優しく微笑む女性が居て、彼女が此処の『受付嬢』なのだとすぐに解った。
クエストボードには、この国ならではの依頼が所狭しと貼られていたりと、雰囲気自体は然程ラ・マーレのところ変わらない。
違うところと言えば、集まる冒険者達の姿が『剣士』や『大剣使い』など、主に剣を取り扱った職業だと言う事くらいだろうか。
この国では兵士の志願者も随時募集しているそうだし、ウォルターの言う通り、この国を目指して集まる冒険者は多い様である。
「マオちゃん、スライム。何処に行くの?」
城下町をあちこちと歩いてたレン達は、通りの賑やかさとは裏腹に、いつしかひっそりとした路地裏に足を踏み入れた。
「こっちに何かありそうだっ!」
『探検しよー!』
前を歩く魔王とスライムに、レンは苦笑しながらも二人について行く。
その路地の奥で、木製の古びた看板が目に留まった。
看板には『運命を覗く者』と手書きで書いてある。
「運命を覗く…?」
其処には薄暗い紫色をしたテント建ち並んでいた。
テントでは何人かの露天商が商品を並べて店を開いていたが、このテントに限って言えば入り口はカーテンで閉じられている。
これでは中を伺いする事も出来ないが、魔王がサッとそのカーテンを捲り上げていた。
「あやしいぞー!」
「マ、マオちゃん…っ」
中には、一人の人物がいるだけだった。
占い師は黒いフードを深く被り、顔の大半が隠されている。
口元には薄く笑みを浮かべ、じっと此方を見つめているような気がした。
恐らく女性だ。
「どうやら占いの様だな」
「占い? あぁ、運命を覗くってそう言う事?」
『占いか…』とウォルターが呟く。
「レンはこう言うのは好きなのか?」
「私? 朝の星占いを見るくらいで、占い自体はして貰った事はないかな」
「星占い? 占星術か?」
「ああ、そうか。こっちにはないのか…」
つい元の世界の感覚で喋ってしまいがちだった。
首を傾げるウォルターに『何でもない』とレンは誤魔化す。
「占いに興味がない訳じゃないけどね。機会がなかっただけで」
「それなら、やってみるのもいいんじゃないか?」
「ウォルターは?」
「俺はいい。占いは信じてないからな」
じゃあせっかくだし、とレンは軽い興味を示して、そろりと足を踏み出す。
その間、ウォルターは外で待っていてくれるそうだ。
―ースライムやマオと共に。
お読み頂きありがとうございました。
ブクマやご感想等を頂けましたら、励みになります。




