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F級テイマー、世界を学ぶ


――最近と言うか、この世界に来てからずっと、何かしら元の世界についてを思い出す事が多い。


それは懐古として、ふっと脳裏に浮かんだりすれば、寝ている時に夢として現れる事もある。


楽しかった思い出。

辛かった思い出。


35年間を必死に生きて来た自分には様々だ。



その度に一喜一憂する。

異世界にやって来た現実、元の世界には帰れない現実を、再確認させられる。




そして今日も、私は夢を見る。


それは、懐かしくも楽しい記憶か。

はたまた、思い出したくもない辛い記憶なのか…




『ごめん…ごめんね…っ』




誰かが泣き、ずっとずっと謝り続ける声。

すすり泣く声は一人ではない。


ぐすっ、ずず…っと、何人もの声、そして気配を感じた。




「皆…っ!」




その姿を見た時、私の表情はパッと明るくなる。


それは、懐かしい友人達の姿だった。

大学時代に知り合い、意気投合し、女子4人でよくつるんでいた。

ご飯に行ったり、遊んだり、旅行に行ったりと、築かれた楽しい日々は今も忘れていない。


卒業してからは各々の道を歩んで、忙しい毎日だったけれど、4人は定期的に集まろうと約束をした。

週に一回、二週間に一回、月に一回と、会える回数や集まる人数は減っていたが、それぞれの誕生日には絶対に祝おうと、その日だけは全員が必ず集まっていた。


お互いの近況報告を聞くのが楽しみで、皆がどんな仕事を請けたのか、どれだけ大変だったかなど…

時に零れる愚痴なんかを酒の肴に、笑い話にしたりした。

多忙な日々を送ると言う点では、医者も弁護士もCAもOLだって、何ら変わりなかった。



私達が最後に集まったのは、先日行われた医者である彼女の誕生日。

その時『その次はレンの誕生日だね』なんて話していたっけ。


でも、再び集まった彼女達はあの時と違って暗く、そして泣いている…




『レン…!』

『どうして、死んでしまったの…っ』


「皆…?」




間隔を開けずに彼女達が集まったのは。


私の死んだと言う訃報を受けてだった。



友人達の声を耳にし、悲しげな顔をこんな形で直面するとは思わなかった。

困惑したが、私は此処に居る。


それなのに、誰一人として此方とは目を合わさない。


泣いているから…と言う訳ではなさそうだ。

私の姿は見えていない。



薄暗い空間中で、ベッドに横たわるのは、顔を白い布で伏せられた人の姿。

丸みを帯びた膨らみと長い髪から、それは女性である事が窺える。



其処はまるで、霊安室の様だった。

テレビで観るような、死者を一時的に安置する場所。

傍には点けられたばかりであろう長いお線香が三本あり、細い煙を上へ上へと立ち昇らせている。




『自分から車に飛び出して来たって…っ』

『…レンを、す、救えなかった…手は尽くしたんだけど…っ』

『よっぽど疲れてたみたい…っ。…もっと話を聞いてあげれればよかった!』




懸命に治療したのは医者の彼女。

やはり、自分は車に跳ねられたのか。


跳ねられたのは事実だけど、レシートを拾いに行っただけだからね?

不慮の事故とは言え、自殺をする気はさらさらなかったよ???



心ではツッコミを入れて明るく振る舞う。

けれど、自分の姿を確認する気にはなれなかった。




四肢がバラバラになっているかも知れない。

あらぬ方向にひしゃげているかも知れない。


事故の衝撃で身体がどうなったのかなんて、知りたくはなかった。



いっその事此処で、寝ている人物がむくりと起き上がり、『ドッキリ大・成・功!!』だなんて言いながら、巨なおプラカードを手に持ってくれればいいのに。




ねぇ、起きて。

今ならまだ、間に合うよ。


そうすれば、彼女達も涙を笑いに変えてくれる。

もしかしたら、『変な冗談は辞めてよ!』――なんて、怒られてしまうかも知れない。


それでもいい。

泣かないでいてくれるなら、それでよかった。





あぁ…


本当に私、死んでるんだな――…




顔を覆う布がピクリとも動かない事が、その証拠だった。

そう思うと、温かな、透明な雫が勝手に流れていた。








◇◆◇






ツンツン




ツンツン



ーー…?




頬に触れる癇癪に、眠っていた意識が徐々に覚醒し始める。

薄く開かれた瞳。




――何、誰…




誰かがそこに居るのだと、何となく解った。




『ぷー!』


「ぷぷーっ!」

「…朝から何してるの」




視界一杯に、堪え切れない笑いを吹き出すぷるぷるスライム。

そして、子供過ぎる魔王様が居た。




魔王。


夢じゃなかったのか…



昨夜の事を思い出し、気怠い身体を起こした。




『レン泣いてたー』

「えっ…」

『こわーいゆめでもみたのー?』

「…覚えてないや」




頬には、確かに泣いているような跡がある――

けれど、何の夢を見ていたのかなんて、ふっと忘れてしまった。


悲しい夢だったのかどうかも解らない。



それよりもスライムや魔王様の前で泣いていた、と言う恥ずかしさに、慌てて痕跡を消そうと擦る。

すると鏡の向こうで、魔王様が笑顔と牙を見せ、ぐっと人差し指を立てた。




「アホ面だったぞ!」

『アホ面ー! アホ面―!』

「変な言葉を覚えるんじゃありませんっ」




めっ!とスライムに人差し指を立てて怒ると、飛び上がったスライムは魔王様の背中に隠れてしまった。

其処が一番安全な場所だと認識しているのだろう。


それは正しい。

魔王様を前に、私はどうする事も出来ないちっぽけな存在だったから。




『レン、こわーい』


「怖いってさ!」

「こ、怖くないよー? 優しいよー?」




くそぅ、変な知識をつけてしまったな…!









部屋を出て、盛大な欠伸をしながら階段を降りると、後ろからさも当然の様に着いて来る魔王様。




「いや、何でついて来てるの?」

「ハンバーグ食わせろっ!」


『ボク、さらだー!』




朝から何てヘビーな物を召し上がるのか。

魔王様は、何処までもおっきい子供だった。



最初こそ腰を低く、へりくだっていたレンだった。

だが、彼が余りにも自由奔放過ぎるので、恐れはするものの、もう完全に手のかかる幼稚園児の眼で見ている。


昨日食べたばかりだと言うのに、今日もだなんて、そんなに美味しかったのか。




「人間は旨い飯を作るのが得意だからな!」

「それを聞くと、普段は不味いご飯を食べてるって事になるけど?」


「配下が作る飯は旨いぞ! でも人間のも旨い!」




そんな話をしていると、階下に降りた私達を見つけた看板娘が声を掛けて来た。




「おはようございます。早速ですが、昨夜の追加料金を頂きますねっ」




にっこりと笑う看板娘。

彼女は抜かりなく、一人分の宿泊料と追加のハンバーグ代『325G』を徴収してくれた。


まだ11時までのチェックアウトには時間がある為、余裕をもって行動が出来る。

と言っても、今日も今日とて連泊予定なのだが。




「飯、飯!」


『ごはーん!』


「はいはい…」

「これから朝食なんですね。そうしましたら、お連れ様の分は追加料金になります」

「えっ」




ハンバーグが食べたいと言っていたし、単品なら300G 定食なら800Gもするのか。

またしても徴収される追加料金に、布袋の重みはまた少し減った。




「賑やかな方ですね。お知り合いですか?」

「えぇ、まぁ…」




実は魔王様だなんて言っても、信じられないだろう。

それを言った所で『面白い冗談ですね』なんて、彼女は笑ってスルーしそうだ。




「今日もいつもの『採取クエスト』ですか?」

「えぇと。ちょっと『討伐クエスト』で、戦闘の練習でもしようかと…」

「お怪我には気を付けて下さいね。『薬草』や『ポーション』はあった方がいいですよ」




そんなアドバイスを受け。スライムに金平糖を買ってあげるついでに、道具屋を覗いてみようと思った






◇◆◇






【■すっぴんボア(F) Lv.3 との戦闘を開始します。▼】



『ぷぷぷっ!』



【■スライムのおくちてっぽう! 小石で25ダメージを与えた!▼】




戦いの練習として選んだのは、草原で『すっぴんボアを10体倒す』討伐クエストだった。

何度も遭遇した敵なので、対処法は解っている。

脳天が弱点だと言う事も理解しているので、後は私とスライムが上手く立ち回れるかの練習だ。


『おくちてっぽう』は、今まではオーバーキルするほどの小石の量を使用していたが、常に1000個も小石をストックしているかと言えばそうではない。

小石切れの時を考えて、出来るだけ最小限に使用する――と言うのを教えたら、こうして節約しつつ戦闘をこなす事が出来る様になった。


学習能力はちゃんとあるみたいだ、スライム。


おくちてっぽうは、物理系スキルなんだろうか。

そうなると、力のパラメーターに依存する事になる。


しかし、おくちてっぽうの『付与』が『水』になると、今度は知力のパラメーターに依存する事が解った。

此方はまさにオモチャの水鉄砲な威力だった。


知力は…ちょっと低いみたいだ。

でもあの時、自分を助けてくれた時は凄かったと思うんだけどな?




『■スライムがLv.5になりました。▼』




戦いを重ねて行くと経験値を得て、スライムのレベルは上がって着実に行く。

かく言うレンは、漸く『Lv.2』 になったばかりだった。


同じように戦っているのに、このレベル差は何なのか。

これもパーティとして見られるなら、これ以上レベルが離れたら経験値も少なくなるんじゃないか?




『まおー様、何処に行っちゃったんだろー』


「さぁね」




すっぴんボアとの戦闘を繰り返し行っている間、彼の姿はいつの間にか消えていた

そのまま魔王城に引っ込んでいてくれればいいけど、退屈を嫌って城を脱走するくらいだ。


『テイマー』に興味があるみたいだし、またその内ひょっこり姿を現すに違いない。


そう考えていると、目の前にパッとログウィンドウが表示された。



【■PPとSPを振り分けて下さい。▼】



そう言えば、レベルを上げるだけ上げておいて、パラメーターもスキルも全くポイントを振り分けていなかった。

試しに何かを上げてみよう――




「ステータス!」


【■ステータスを起動します。▼】




まず最初に、『PP』の確認をした。

パラメーターごとに『HP』『MP』『力』『身の守り』『体力』『素早さ』『知力』『勇敢さ』と分れている。

その中で、獲得した『PP』 を振り分けて成長させるようだ。

テイマーもスライムも『PP』に差はあるものの、やり方は同じだった。


ゲームのシステムであれば、『知力』までは理解出来るのだが、『勇敢さ』と言うのは、一体何に反映されるんだろう。




「何を上げたらいいのかな…」




スライムの特徴はと言えば、小さい事と分裂する事。

戦い方は体当たりをするアタックと、スキルを使う『おくちてっぽう』――


上げるべきパラメーターは全てだが、とりあえず、『力』を上げておけば問題ないかな?


問題はそれが極振りなのか、均等なのかだが…




「いいや。全部使っちゃえ!」




女は度胸だ!

上げ過ぎて、ムキムキスライムにならないといいけど。




【■スライムの『力』が上がった!▼】




スキルを振り分けると、スライムの体がぼんやりと光を帯びる。

しかし、それだけで特に変化はないように見受けられた。




『ボク、つよくなったー?』


「多分…?」


『やったー!』




スライム自身ですら解らないそうだが、本人は嬉しそうに喜んでいる。

まあいいか…?




「私はどうしようかな」




ステータス上のパラメーターは、全体的に平凡である。

良く言えば『平凡』

何に特化する訳でもなく、特に偏りがない『平凡型』だ。


上げ方によっては伸びしろがあるかも、多分…!



獲得した『PP』は『1』だったので、泣きそうになりながらも、素直に『素早さ』を選択した。


戦いはするけど、いざとなったらスライムを抱えて逃げられるように!




「あれ、新しいスキルが増えてる?」




続いて『SP』の画面に映る。

私の方にはスキルとして、『偵察』が加わっていた。


『偵察』と言えば、ウォルターがそんな事も出来るんじゃないかって、提案してくれたっけ。

それが本当に出来るようになったのかな?


周囲を警戒し、魔物の動向を観察する事が出来るらしい。

『何処』に『何』が居るかを把握するには、うってつけだ。


『SP』を振り分けた覚えがない為、これはきっとテイマーの『固有スキル』なのだろう。

『偵察』を得る代わりに、SPは全く増えていなかった。




「スライムは…覚えられるものはあるみたいだけど、まだポイントが足りないみたい」


『えー…』




『おくちてっぽう』だけでも十分強いけれど、他に出来る事が増やしてもいいと思う。


しょんぼりと落ち込むスライムに、先程道具屋で買った金平糖の小瓶を渡したら、あっという間にご機嫌が直った。

単純すぎても困るし、知力も上げた方がいいのか、これ…?




レンは物は試しと【偵察】を使用してみる事にした。




「じゃあお願いね。何か見つけたら報告しに戻っておいで」


『『はーい!』』




10匹に分裂をしたスライムが、揃って元気よく返事をする。

早速、例の『偵察』を使ってみようと考えたのだ。




【■スキル:偵察を使用しました。▼】


『『わー!!』』




一斉に四方八方散らばるスライム達。

何処かですっぴんボアを見つけたら倒せばいいし、アイテムを拾ってもいい。


そう考えていたら、早速スライムが一匹戻って来た。




『レンー』


「何か見つけた?」


『うんっ、小石―!』


「今は集めてないからいいよ?」


『そっかぁ』


『レンー。あっちにちょうちょいたー!』


「…うん、よかったね?」




【偵察】と言っても、スライム達も明確に『何を見つけろ』と指示を貰っていないので、本当に見つけて来る物がアバウト過ぎた。


私の指示の仕方が一番の問題だったんだと思う。

仕事の時は、それなりに的確な指示を、部下に出してたんだけどな…


余りにも成果が酷いので、一旦スライム達を招集する事にしたら、10匹の内2匹が迷子になっていた。

何処に居るのか探すのに苦労したし、スライム自身も解らないと言っている。


スライム同士の意思疎通も、出来る様になるといいなぁ。




『レンー』

『見つけたよー!』


「あ、戻って来た。何を見つけたの?」


『まおー様―』




…何か居る。


そう思ったのは、スライムの後を歩く金髪の男。




「よっ!」




爽やかな笑顔で挨拶をする魔王様だった。




「…ど、どうも」


『木の上でお昼寝してたー』

『ぐっすり寝てたのー』




『何かを見つけたら』とは言ったが、別に魔王様を見つけなくてもよかったと思う!

魔王様の登場に、きゃっきゃと集まるスライム達は笑顔だ。


今度からは、もっとちゃんと解りやすく、指示を出す事を心がけよう。




「よしっ。次はオレが鬼なー! いーち! にーい! さーん…」


『『きゃーっ!!』』


「かくれんぼか!」




見れば見るほど、魔王様の精神年齢は幼いのではと思ってしまう。


此処は幼稚園ですか??






◇◆◇





すっぴんボアの討伐は無事に終わらせた。

後は冒険者ギルドで完了報告をすれば終わりである。


だが私達は今も尚、だだ広い草原に留まっていた。




「ガオー! 喰っちまうぞー!」


『『きゃー!』』


「まーだやってる…」




かくれんぼの次は鬼ごっこらしい。

魔王様が鬼で、複数の分裂したスライム達が逃げ回っている。




『かくれろー』

『にげろー』


「おっ、隠れ鬼かっ!? いいぞー!」




随分と楽しそうだ。

子供の頃ならいざ知らず、18歳だろうが35歳だろうが、立派な大人の部類だ。

正直私には、草原を駆け回る体力も気力も、童心に還る余裕もない。




『あんみつするぞー!』

『あんみつー!』




…あんみつ?




「みぃつけたぁ!」


『ぴゃあああっ!?!?』

『あんみつしっぱいー!』


「あんみつじゃなくて隠密な!」

「…楽しそうだからいいか」




今はただ、スライム達が遊び疲れて戻って来るのを待とう。

私は手頃な大岩の上に座り、その様子を眺める。


すると、一匹のスライムがぽよん、ぽよんと近付いて来た。

コワイコワイと呟くスライムは、ぐすんっと涙ぐんでいる。

心なしか、いつものぷるぷるに拍車をかけて、震えて上がっている気がした。




『た、食べられちゃうよぉ…!!』


「確かに…」




あれは、いつか喰われる。





「丁度いいし、マニュアルでも見ておこうかな」




ぐずるスライムを撫でつつ、『マニュアル』を起動した。

この世界を生きる上で、色々と解らない事が多い中で、このマニュアルはとても頼りになる。


一般常識的な事から、専門的な事まで教えてくれるし、解らなければ単語ごとに検索が掛けられる。

勿論自分でキーワードを口にすれば、それに該当する内容がヒットするので、サーチも楽である。




「――【魔王】」



【■『魔王』についての項目を表示します。▼】



・悪逆非道を繰り返す、残虐で、残忍で、絶大な魔力を持つ、魔族の王。

・強大な力を持つ悪魔や魔物を率いて、人間に害を与えては数多くの冒険者達を葬った。

・古より存在したと推察されるが、何処から現れたかなどの詳細は不明。

・しかし一説では、『魔王』は魔族にとって『最強』の意味合いを持ち、その称号を与えられし魔族が『魔王』になる。

 その為、歴史の陰では血で血を洗う争いが絶えず続いている――と言われている。



…酷い書き方だな。


私の知っている魔王様の印象とは、全然違う。

あそこで元気に駆け回る魔王様は、子供っぽくて、自由奔放。

それ以上の事は解らないけれど、本当に魔王様かって疑うくらいに。


しかし、それもまた一人の『魔王』としての個性なんだろう。

色々な人が居るように、色々な魔物が居て、色々な魔王様が居る。


そして、魔王には魔王の良さがある――



まだ出会ってそう時間は経ってないけれど、レンは何となくそう思っていた。




【■『テイマー・メモ』を更新しました!▼】




そんな時、ログが何かを知らせた。




「…何だこれ? 【テイマー・メモ】?」




呟くと、目の前のウィンドウが変化し【魔王様】についての項目が増えた。




【■テイマー・メモ。▼】

・25歳(?)くらいの魔王様。

・金髪、紅眼、耳が尖ってる、ピアス、ヤンキー!!!

・明るい、元気、面倒見がいい、自由奔放。

・子供っぽい(精神年齢が!!)

・子供っぽい(たまに幼稚園児に見えなくもない!! ※見た目的に)




…ナンダコレ。


こんなの見たら、皆が彼を魔王様だって気づくんじゃ?

ご丁寧にも、顔写真まで載ってるし――…



【■『魔王様』についての『テイマー・メモ』は、レン・アマガミにのみ閲覧可能。▼】



と言う事は、これは私の考えなのか?

前述のおどろおどろしい『魔王』の詳細よりも、此方の方が解りやすい、物凄く!


次に『スライム』についての項目を検索した。

出て来たのは、一般的であろう『スライム』の詳細である。


しかし――



『テイマー・メモ』

・ぷるぷるしてる。グミっぽい。

・分裂する。金平糖が好き。可愛い。癒し。




…本音が駄々洩れなマニュアルだった。


隠すつもりはないけれど!




そう言えば、冒険者ギルドに初めて登録に行った時に、受付嬢が何か言っていた気がする。



『自分だけの――』




何だっけ。

受付嬢に思いっきり笑顔で、何かを言われたような…




『自分だけのマニュアルを作って下さいね!』




「『自分だけの』って、こう言う事か…」




このシステム、創ったの誰だよっ!!








「無防備過ぎて、首ハネるのも面白くねーな」

「…っ!?」




物騒な言葉に、びくっと身体を震わせる。

顔を上げると、目の前には魔王様が立っていた。

マニュアルの画面に集中していた所為か、足音も気配をも感じなかったのだろう。


警戒心がないと言えばそれまでだ。

物事に集中する際は、魔物に襲われる心配もあるので、気を付ける様にしよう。



その驚きもあったのだが、魔王様は分裂した『全てのスライム』を抱っこしている。

腕の中でもぞもぞと動く小さなスライム達は、それぞれに嬉しい・楽しいと言った表現を、前面に押し出していた。




『えへへっ。つかまっちゃったー』




何て可愛い事を言うスライムなのか。

正直、私も捕まえたかった。


やがて、わーっと一斉にスライム達が一つの場所へと集合し、一匹のスライムに融合する。




『ただいまー!』


「お、お帰り…」

「オレの扱い酷過ぎね?」




それは、一般的な『魔王』についての詳細か?

それとも、私の『テイマー・メモ』の事だろうか?


どちらにしても、この『マニュアル』は私にしか見えないのだから、彼が読み取る事なんて出来やしない。



え、見えないよね…?




「このウィンドウ、見えてるの?」

「見えない。でも書いてる事は大体解る」




そう言いながら、魔王様は私の隣に腰を下ろした。




「オレが世界で最強!って書いてんだろっ!」

「あぁ、うん…」

「やっぱりなー!」




ケラケラ笑う魔王様は、まさに自画自賛。

何処にそんな自信があるのかと問い掛けたいが、何を聞いてもきっと『魔王様だから!』とか言いそうだ。




「この前殺した人間も、『本当に魔王か?』なんて聞いて来たぞ。どっからどう見ても魔王様なのになー?」

「それは…魔王様が魔王様らしくなかったから、とか」

「あー。この格好で人前に出たからか? 人間って服装で魔王かどうか判断すんのなー?」

「いや、どうだろう…?」




少なくとも今の魔王様は、ただのジャージとサンダルの金髪ヤンキーにしか見えない。

その間延びした喋り方と子供っぽさも相まって、もう『だらけ切った魔王様』にしか見えなかった。

ちなみに、ジャージ姿なのは彼の配下による進言らしい。




「どうして、殺したの?」




――『全員殺した』


『マニュアル』にある『魔王』は『悪逆非道を繰り返す、残虐で、残忍で、絶大な魔力を持つ、魔族の王』

更には『人間に害を与えては数多くの冒険者達を葬った』――とある。


この魔王様とは似ても似つかないけれど、本来はそう言った一面を持っていると言う事になる。

あくまで世間一般的に知られている『魔王』の詳細だ。




「あいつらがオレを殺しにかかるから。だから殺した。そんだけ」

「…え」

「オレだって平和に暮らして―しな!」




魔王様は、ただただ自衛の為に戦っている。

ただ平和に暮らしたかった。


魔王として生きているから、人間が『魔王討伐』を目指して旅に出る。

何もしていなくても、それを『絶対的な悪』だと決めつけた。




「それって、人間が悪いんじゃないの…?」

「さあな。人間だってやられたからやりかえしたんだろ。知らねぇけど」

「し、知らないのにお互い戦ってるの?」

「前の魔王がどうだかしんねぇけどな。オレが殺してもう居ねーし」




結局のところ、最初に手を出したのがどっちかなんて、誰にもに解らない。

争いは気付けば起こっていて、どちらかが倒れるまで終わらない。


そんな戦いが、もうずっと、ずっと長く続いている。










「――なぁ。お前はオレを殺してくれるか?」

「…えっ?」




その問いに、心臓が大きく跳ね上がった。

彼の言葉が余りにも突拍子過ぎて、信じられないものに思えた。

凍り付いたようにその場に立ち尽くして、私は驚きに満ちた表情で彼を見ていた。




「どう言う意味…?」




さっきまで、ニコニコと子供みたいに笑っていた魔王様。


彼の紅い眼が、私をじっと見つめて来る。

私には、何だか突然、とても恐ろしい物に見えてしまい、彼が冗談を言っているとは思えなかった。


魔王様の眼は何処か遠く、深い深淵が潜んでいるようだ。

私の目の前に居るのは、最強で無敵ともいえる存在――あの強大な魔王様だ。



――殺してくれるか、だって…?


自らの死を望むような言葉を口にするなど、到底理解出来るものではなかった。



魔王様は、暫く私の顔を――瞳をじっと見つめた。

その深い紅い瞳の奥に、何か計り知れない感情が揺れ動いているのを感じた。


いつも明るく、余裕に満たされた笑みを浮かべている彼は、何を考えているのか、その心を完全に見せようとはしない。



しかし今、彼の言葉とその眼差しには、何処か深い孤独と虚無が、滲み出ているようだった。







ぐぅ…




「腹減ったな!」




不意に魔王様は軽く肩を竦め、にぱっといつものおどけた表情に戻った。

しかしその笑顔は、既に違和感でしかなく。


実は彼の心を隠しているような、仮面なのではーーと思ってしまう。




「ハンバーグ喰いに行こうぜ!」

「ハ、ハン、バー…グ?」




まるで、初めて言葉を喋る赤ちゃんの様に、レンの言葉はつっかえていた。

何度も眼を瞬き、漸く息が出来る事に、酷く安心感を覚える。


そんな此方の様子を気にもせず、魔王は立ち上がった。




「さっきのは冗談だ!」

「…本当に?」

「魔王様だって、冗談の一つくらい言うぞっ」

「そう、なんだ…」




鼻歌交じりに歩く魔王様の後ろを、スライムを抱き抱えて追いかける。





冗談だと言いながらも。


彼の眼にはまだ、深い深淵が漂っているような気がした。






――世界で一番強くて力を持つ。


世界で一番、悲しい瞳をした魔王様。


その時の彼を、私は今でも忘れていない。


あの時、はぐらかされた言葉。


もう一度聞いたら、今度は答えてくれるのかな…






氏名:レン・アマガミ

性別;女

年齢:18歳

職業:テイマー(F級)Lv.1→『Lv.2』

スキル:テイム…魔物を手懐ける

パッシブ:なし


【■素早さが1上がった!▼】



種族:スライムLv.3→『Lv.5』

スキル:おくちてっぽう…おくちから何か出て攻撃する。

異空間収納…何処に繋がってるかスライムも解らない。

分裂…スライムを分裂させる。数は増えるが能力が僅かに落ちて行く。(上限数50匹)。

偵察…魔物の位置を感知したり、周囲の情報を集める。←new!

パッシブ:夢見る子供…『伝説のスライム』を夢見る無垢な心の持ち主。効果はなし。


【■力が5上がった!▼】

【■スキル:偵察 を習得しました!▼】



Chips!

【■『マニュアル』に『テイマー・メモ』が追加されました。▼】



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