表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/146

選別



影の魔物が洞窟内に揺らめきながら、魔力を持つ者達を見据える。


スライム、ディーネ、リリィ、マオ。



選別は始まり、スライムとリリィが戦いを挑むが、明らかに戦況は彼らに不利だった。

一方で、マオはただ回避するだけで、一切戦おうとしない。




「しつこいな、あいつ!」


「選別と言うからには、何か目的がある筈だ…」




ウォルターは戦いの様子を見ながら、魔物の真意を探る。

スライムとディーネは必死に戦っているが、明らかに不利な状況だった。




「この魔物…何を見定めようとしているんだ?」

「…『魔力の持ち主』を試しているのは確かだな」




マオは魔物の言葉を思い出す。


魔物は、予め『戦いに立つ者』を指定した。

それらは全て『魔法』が使える者。


其処に人間や魔物と言った括りはない。




「選ばれるべきは『魔力を持つ者』? しかし、ただそれだけではなさそうだが…」


【…眼に見えるモノが正しいとは限らない』




影の魔物は、ウォルターの言葉に応えるように静かに呟いた。




【―-『魔力を持つ者』の中でも、本当に『契約者の望む者』に相応しいのかどうか…我はそれを、試している】


「契約者? お前は誰に召喚されたんだ?」


【――…契約者の名は、その者の許可なしには口には出来ない。そう言う『契約』なのでな】


「こんなデカい魔物と契約した奴、絶対ロクな奴じゃねぇよ…」


【――…同感だ】





毒づくフウマに、魔物は小さく笑みを零すだけだった。


一体誰が、何の為に。

その答えは今の段階では、知り得る事が出来ないのだろう。




「なら『選ばれなかった者』はどうなる?」




ウォルターが問う。




「――大人しく逃げかえれば、命までは取らぬ。だが、己の力量を弁えぬのであれば…それまでだ」




それが意味するところは、決して軽くない――




洞窟の奥、淡く輝く魔法陣の光の中で、レンたちは魔物と対峙していた。


ディーネ、リリィ、スライム、そしてマオ。

彼女達は選別の対象とされ、魔物の前に立たされている。



この魔物を倒さなければ、先へは進めない。

その場にいる者全てが、理解していた。


しかし、問題は其処ではなかった。




攻撃が、一切通じないのだ。




「浄化の輝きよ、矢となれ――!」




ディーネの放った【浄化の矢」が魔物の胴体に突き刺さる。

しかし、矢は直ぐにその輝きを失い、消滅してしまう。


ダメージどころか、胴体には傷一ついていなかった。




「そんなっ…!?」




ディーネは驚愕の声を上げる。

続けてリリィが炎を纏ったスタッフを構えた。




「それなら、これならどう!? ――ファイアランス!!」




轟音と共に放たれた炎の槍が、魔物の胸元に突き刺さる。

だが、魔物は微動だにしない。




「冗談でしょ…!?」




リリィが息を呑む。

スライムも必死に小さな火球を連続で撃ち込むが、まるで壁に弾かれるように消えていく。





『全然効かないよぉ…!」




一同に焦りが募る。


魔物は、ただ静かに佇んでいるだけ。

まるで、彼女達の攻撃が通じないと解っているかのようだった。




「こいつ、どういう仕組みなんだ?」

「攻撃が、まるで効いてないなんて…!」




影の魔物は、暗闇の中に不気味に蠢いていた。

その姿は黒い霧のように揺らめき、形を変えながらゆらり、ゆらりと舞っている。


巨大で、人の身長をはるかに超えるそれは、威圧感を放ちながら、レン達を見下ろしていた。




「コイツ…不死身なのか?」

「そんな馬鹿な事ってある!?」




フウマが僅かに息を呑む。


リリィもスタッフを握りしめ、魔力を練る。

幾度となく詠唱する炎の魔法だが、その精度にも次第に陰りが見え始めていた。


彼女だけではない。

スライムやディーネもまた、度重なる魔法の詠唱で疲弊し始めている。


このまま続けば、明らかに戦況は悪くなる一方だった。




「どうする事も出来ないの…!?」




此処まで来て、諦めるなんて出来なかった。



確かに目の前の魔物は大きく、恐ろしい。

けれど、その『威圧感』とは裏腹に、何処か違和感がある。



…ふと『本体』に、レンの眼は妙な違和感を覚えた。




戦いの直感ではない。





魔物の影に流れる『オーラ』が、その形に伴っていないように思える。


『オーラ』は、通常の視覚では捉えられない、力の流れだ。

生命体のエネルギーと言っても過言ではない。


魔物の体を包み込む淡い紫の魔力が、脈動するように流れている。

その魔力はまるで川のように、全身を巡っている――筈だった。



しかし――眼に見えるオーラの流れは、明らかに影の魔物の大きさには見合っていない。


何と言うか…そう、オーラが小さすぎるのだ。




――視えているものが、何か『おかしい』



レンはじっと魔物を見つめる。

影が大きく蠢き、闇の中で何度も形を変えている。


買えているのは『影』のみで『オーラ』の流れは、一向に小さいまま。



この魔物全体を包むようなオーラには、到底思えなかった。





…いや違う。


これは、ただの幻…?




眼を凝らし、魔物を覆うオーラを視る。




その瞬間、レンはハッと気づいた。




影に覆い隠されるように、小さな生命体のようなオーラがある――




それは、影の巨体の足元―-まるで『小さな』生き物のように視えた。




…本体は、あれだ!





「スライム!」




レンは即座にスライムに指示を出した。




「ぷちっとふぁいあを、影の足元へ!」


『う、うんっ!』




スライムは素早く体を揺らし、小さな火球を吐き出した。

火球は真っ直ぐに飛び、影の足元へとぶつかる。




【―-…ぐ…っ!?」




その瞬間――


影の巨体が、ぐらりと揺らめいた。



まるで何かに苦しむように、闇が激しく蠢き始める。




「今、攻撃が通った…!?」




ディーネが驚きの声を上げる。

ウォルターやリリィも、目の前の異変に唖然としていた。





「ディーネ! リリィ!」




レンの鋭い声が響く。

三人は彼を振り返った。




「足元の魔法陣だよっ! 其処に何かいる!」




レンは確信する。

幻の巨体ではなく、影の足元にちょこんと佇む『何か』こそが、本物の魔物だったのだ。




「魔法陣…?」




ディーネが一瞬戸惑ったが、レンの真剣な眼差しに確信を得る。




「其処に攻撃を集中させて!」

「わ、解りました!」




ディーネがすぐに詠唱を始める。




「浄化の輝きよ、矢となりて――『浄化の矢』!」




彼女の魔法が、狙いすましたかのように魔物の足元に向かって飛ぶ。

それに続き、リリィが杖を振り翳した。




「炎よ、槍となり貫け――ファイアランス!」




燃え盛る炎の槍が、ディーネの『浄化の矢』に続いて放たれる。

更に、スライムも全身を震わせながら、小さな火球を連続で撃ち込む。




「ぷちっとふぁいあっ!」




三人の魔法が、レンの見つけた『小さなオーラ』に向かって収束する。




ズドォォォォォン!!




衝撃と共に、魔物の体が仰け反る。




その瞬間――


影の魔物は、大きくのたうち回るように揺らめき、悲鳴のような低い唸り声を上げた。




「やった……!」




暫くすると、影の魔物の巨体は、ゆっくりと霧のように消えていった。




「凄い…」




リリィが息を整えながら呟く。

ディーネも驚いた様子で、レンを見た。




「レンさん凄いです! どうして…!?」

「わ、私にもよく…ただ、眼に見えるモノが正しいとは限らないって事は、確かだったね」




魔力の流れの中、敵の足元に展開された魔法陣のあたりに小さな『オーラ』が生じているのを見つけたのだ。

それは、巨大な影に気を取られていては、到底気付けないようなもの。


だが、それこそが唯一の『突破口』だった。




魔物の足元に展開されていた魔法陣が、一瞬だけ激しく明滅し――



バキィィィィン!!




砕け散った。




「…やったか!?」




ウォルターが身構える。


魔物の体を包んでいた魔力のオーラが、徐々に薄れていく。

それはまるで、魔法陣によって守られていた何かが崩れ去るようだった。



巨大な影の魔物は、ゆっくりと顔を上げると――




【…見事だ】




小さな何かが、何処か満足そうに呟いた。

レン達はハッと息を呑み、その方向へと視線を向ける。



其処にいたのは――


小さな、小さなトカゲ(?)のような生き物 だった。





お読み頂きありがとうございました。

ブクマやご感想等を頂けましたら、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ