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魔法使いの頼み



――『冒険者ギルド』


重厚な扉を潜り抜け、レン達はついに『昇級クエスト』の報告を終えた。

冒険者ギルドの職員が、更新された冒険者証を手渡しながら、晴れて『C級』冒険者となった事を告げる。




「やったな、レン!」

「うん…でも、何だか実感が湧かないな」




レンは受け取ったばかりのC級冒険者の証を見つめながら、しみじみと呟いた。


苦しい戦いだった。命の危険も何度もあった。

それでも、こうして無事に戻ってこられたのは、ジェリーと仲間達のおかげだった。




「…あたしなんかが、C級になっていいのかしら」




ぽつりと呟く声が聞こえた。


振り向くと、魔法使いの彼女が冒険者証を見つめたまま、何処か自信なさげに肩を落としていた。

ぽつりと零れたその言葉に、レン達は彼女の心境を察する。


彼女もまた、昇級クエストを果たしていた。

森で遭遇したブラックウルフを単独で五体撃破し、其処からレン達と合流。

その後も共に討伐を続け、規定数を満たした事で、昇級の条件を達成していたのだ。



しかし、彼女の表情は晴れない。

C級になった事を素直に喜べないのは、森での出来事を思い返しているからだろう。


手に入れたばかりの冒険者証に記された『C級』の刻印が、まるで自分には不釣り合いなもののように思えて、気持ちは沈んでいく。






沈んだ空気が漂う中――




ぐぅ……





場違いな音が響く。

沈黙を破ったのは、マオのお腹だった。




「腹減ったなっ!」




彼はお腹を押さえながら、まるで気にする様子もなく言い放つ。




「お前、こんな時に……」




呆れたようにフウマが溜息を吐くが、レンは思わず笑ってしまった。




「よかったら、一緒にご飯食べない!?」

「…え?」




魔法使いはきょとんとした顔をした。




「せっかくC級になったんだから、お祝いしよう、お祝いっ!」

「お祝いって…」

「俺、ハンバーグが食いたい!」

「ほら、マオちゃんもお腹空いたって! ねっ、ディーネ!?」

「そ、そうですね! ぜひご一緒にどうぞ!」

「ちょ、ちょっと…!?」




唐突な流れに戸惑いながらも、魔法使いは気がつけばレン達に背を押されるようにしてギルドを出ていた。




悩んでいる時は、まずお腹いっぱい食べるのが一番。




――誰かがそんな事を言っていた気がする。



…知らないけど!







街の賑わいが溢れる夜のご飯処。


店内は活気に満ち、焼き魚の香ばしい匂いや、湯気を立てる鍋料理の香りが漂っている。

料理人達が手際よく魚を捌き、鍋の中でぷくぷくと煮える貝や海老が食欲をそそる。




「何だ、魚ばっかだな!」

「この街では、海の幸が主流らしいよ」

「肉! 肉はないのかっ!?」

「こっちのページにあるよ、マオちゃん」




マオが勢いよく席に着き、メニューを次々と指差した。




「これと、これと、これ! あ、こっちの刺身盛り合わせも! それから…」


「お、おい…」




レンとフウマが呆気に取られる中、次々と注文が飛ぶ。

結果、ほぼマオの注文でテーブルいっぱいに海鮮料理が並べられ、レン達はその豪華さに圧倒された。




「マオちゃん…ちょっと多いんじゃない?」




レンが苦笑いしながら言うと、マオは得意げに笑った。




「C級になったんだぞ? お祝いはぱーっとやるもんだって!」




その言葉に、ウォルターが深い溜息を吐く。




「おい。いつのまにこんな高いのを…?」


「店の『オススメ!』って書いてあったぞ! オススメは絶対に食べるべきだって、フーディーが言ってた!」


「だからって、人数分頼む奴があるか…っ! どうするんだ…これだけで金貨が軽く2枚は飛ぶぞ…」


「まあまあ、細かい事は気にするな!」

「せめて相談してくれ…」




財布の紐を握るウォルターとしては、頭の痛い状況だった。

次々と運ばれてくる料理に、彼の頭痛がますます激しくなる。




「ウォルターも食えよっ。美味いぞ!」

「…まぁ、確かに美味そうではあるが…」

「だろ!? ほらほら、まずはこの刺身を食えって!」




マオが分厚く切られた刺身をウォルターの皿に乗せる。

新鮮なマグロやタイ、ブリが艶やかに輝き、彼の食欲を確実に刺激していた。


頼んでしまった以上、もうそれを無しにする事は出来なかった。




「…いただくか」




ウォルターは溜息を吐きながらも箸を伸ばし、次第に料理に夢中になっていった。

そして、その流れで運ばれてきたのは、豊富な種類の酒だった。




「おっ! これがこの街の地酒か! やっぱりこういう場では飲まないとな!」




ウォルターの目が輝く。

だが、年長者として理性を保つべきと自分に言い聞かせる。




「いや、しかし…此処で飲みすぎるのはよくないな…」

「んじゃ、オレが飲む!」




マオが無邪気に盃を手に取ろうとした瞬間――




「駄目っ!」




レンが素早くマオの手を押さえつけた。




「マオちゃんはジュース!」

「ちぇっ…」




中身が大人でも、中身は子どもなのだ。

世間体を気にするならば、未成年にお酒はダメ、ゼッタイ!!




「お前、飲めるのか?」

「そりゃあな。美味い肉には美味い酒だろっ」




その間にも、マオは手当たり次第に料理を口へ運んでいく。




「んまっ! んまっ! 最高!!」

「…金の事は気にしなくていいのか?」




フウマが呆れ気味に尋ねるが、マオは気にした様子もない。




「後のことは後で考える! 今は楽しむのが先だろっ!」




その姿を見て、レンも思わず苦笑する。




「…まあ、確かにお腹は空いたよね」




レンもそっと箸を手に取り、料理を口に運んだ。


こうして、一口食べたが最後。

どんどん箸が進み、結局、全員が食事に夢中になっていった。





「まぁ、こうなるよな…」




ウォルターは苦笑しながら盃を傾けた。

財布の残高を心配するのは、明日のウォルターに任せる事にしよう。




「…」




だが、夕食の席に着いても、魔法使いの彼女はずっと浮かない表情だった。

食事の湯気が立ち上る中、彼女は俯きながらスプーンを持ったまま動かない。




溜息ばかり吐いて、料理にはほとんど手をつけようとしなかった。


そんな彼女の皿に、スッと伸びる別の手――




「マオちゃん」




レンがそっとマオの手を叩いた。




「いってぇ! だって、全然食べないから…」




唇を尖らせるマオに、レンは苦笑しながら首を振る。




「それでも、本人の分なんだから」

「…解ったよ」




納得いかない顔をしつつも、マオは大人しく自分の皿に意識を戻す。


そのやりとりを、魔法使いはぼんやりと眺めていた。


ほんの少し、目元が緩んだ気がしたが――

それでも、彼女はまだスプーンを動かそうとしなかった。




「…悲観するのも無理はないか」




そんな彼女の様子を見て、ウォルターはぼそりと呟いた。




「…話は聞いたよ」




その言葉に、魔法使いは少し顔を上げた。




「確かに、辛い経験だったな。でも、それをどう受け止め、どう糧にするかは、君次第だ」




ウォルターの低く穏やかな声が響く。




「冒険者にとって、過去の失敗や後悔なんてついて回るものだ。それを背負いながら、それでも前に進むか、此処で立ち止まるか――決めるのは、君自身だ」




彼は魔法使いの目をまっすぐに見据えながら、続けた。




「それに…君は決して弱くはない。魔法使いが、ブラックウルフを五体も倒したんだろう? それは並の冒険者に出来る事じゃない」




魔法使いの表情が少し揺れる。




「君がこの先、どうするかは自由だ。でも、せっかくC級まで来たんだ。前を向いて上を目指すのも悪くないんじゃないか?」




勿論、無理にとは言わないが――と、ウォルターは敢えて逃げ道を残す。

冒険者にとって、旅や冒険は常に死と隣り合わせの危険なものだ。


特にC級までは、所謂『一般冒険者』に当たるクラス。

そのから上--B級、A級と上がれば、それなりに危険度が上がる。

最悪の場合、命を落とす事だってあり得る話だ。


だからこそ、命を粗末しない為に己の力量を鑑みて、身を引く冒険者だって居る。



それこそ、死んでしまっては何もかもが遅いのだ――



優しさの中に、時に厳しさを交えながらの言葉。

それは、年長者として、そして人生の先輩としての助言だった。


魔法使いは暫く黙っていたが、やがて小さく頷いた。




「…ありがとう。貴方の言葉で、ちょっとだけ元気が出たわ」

「それは何よりだ」




その言葉と共に、彼女の表情には少しだけ、本来の明るさが戻っていた。



そして――




「そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったわね」




彼女は姿勢を正し、改めて自己紹介を始めた。




「あたしはリリィ。凄腕の魔法使いよ! 炎の魔法なら、誰にも負けない自信があるわ!」」




リリィは胸を張り、笑みを浮かべる。

自分で『凄腕】と言うからには、余程の自信があるのだろう。


自信満々の口調に、レン達は『おお…!』と微妙な反応を返した。

そんな中、ウォルターがくいっと酒を煽りながら言う。




「俺はウォルター。大剣使いだ」




リリィはじっとウォルターを見つめ、傍らに在る大剣に目を留めた。




「とても大きな剣ね。とても腕が立ちそうだわ」

「まぁ、それなりにはな」

「それじゃあ、貴女は?」




次にリリィは、ディーネに視線を向ける。

ディーネはぺこりと軽く頭を下げた。




「わたしはディーネです。僧侶をしています」

「貴女のヒールのお陰で、身体はだいぶ良くなったわ。本当にありがとうっ」

「いえっ。そんな、大した事じゃ…」




謙遜するディーネ。

彼女はもっと自信を持ってもいいと思うんだけどな…




「で、貴方は?」

「カゲだ」




フウマはそう名乗った。




「…え?」

「どうしたの?」




レンが小さく反応を示すものの、はっとして首を振る。




「ううんっ。何でもない! ちょっとこの料理が初めて食べる味だったから…ね?」




慌てて誤魔化し、目の前の料理を口に運ぶ。

何の変哲のない焼き魚の何処が、初めて食べる味だと言うのだろうか。


自分でも、苦し言い訳になってしまった。




「カゲの職業は?」

「ただの盗賊だよ」

「盗賊! だからあんなに身のこなしが軽かったのね!」




幸いな事に、リリィはそんなレンの『言い訳』を、深くは追及しなかった。




『レン、どうして? フウマおにーちゃんは…』


「今は『カゲ』って呼ぼうね、スライム」


『う、うん。解った』




テーブルの上できょとんとするスライム。

フウマは、魔法使いとは一定の距離を置こうとしているのだ。


彼女にとって、レン達は『仲間』かも知れない。

だが、リリィに対してフウマは、あくまで『他の冒険者』であると言う、線引きをしているのだろう。


フウマがそう名乗る事のであれば、今はその流れを汲み取るしかない。

レン達もその意図を察し、密かに目配せをした上で、敢えて何も言わなかった。




「不思議に思っていたけど…貴女、スライムを仲間にしているの?」


「あ、うん」




そして。リリィの視線はレンにも向けられた。




「テイマーだから…あ、私はレンだよ」

「テイマー? へぇ…書物の中の存在だとばかり思ってたわ」




やはり『テイマー』と言う職業は、世間的にもそう知られていないらしい。

続いて、スライムが自分をアピールするように、元気よく挨拶をした。




『ボクはね、スライムだよー!』


「スライム…??」




リリィは一瞬、思考が停止する。

しかし、驚くどころか、すぐに『あぁ、なるほどね』と納得した様子で頷いた。




「変なのと会話出来る魔法使い、結構いるのよね。あたしの師匠もそうだったし」


『変なの…!?』


「あはは。私は魔法使いじゃないけどね」

「んまっ! んまっ!」




そんなやり取りを横目に、マオはひたすらテーブルの上に在る料理を次々と平らげている。

その小さな身体の何処に入るのか――しかしレン達は最早、見慣れた光景である。




「ほら。マオちゃんも挨拶しよう?」

「…んむ? んぐ…マオだぞっ! よろしくなっ!」


「あんたも、誰かに呼び出されて此処に来たの?」

「此処?」

「人間界よ。あんた魔族でしょ?」

「えっ!?」




突然のりりィの発言。

レンのみならず、誰しもが驚いた様に彼女を見ていた。




「リリィ…どうしてそう思うんだ?」




すかさず、ウォルターが問いかける。




「だってこの子、とんでもなく強い魔力を持ってるでしょ」

「そ、そんな事も赤っちゃうの…!?」

「あたしは魔法使いよ? それくらい解らなくてどうするの」




魔法の素質がある人なら、マオちゃんの持つ『魔力』を感じ取る事が出来るのか…

そうなると、彼が『魔王』と言う事も、解る人には解ってしまうのだろうか。




「オレは魔王だからなっ!」

「…は?」

「あああ…そう言う『ごっこ』でね…!」




解ってしまうのは、本人が豪語するのも要因の一つだと言う事を、失念していた。


本当に、誰にでも『魔王』と名乗らせるのを、いい加減やめさせなきゃね…!

レンは焦るが、リリィは腕を組んで考え込む。




「オレは別に,誰かに呼び出された訳じゃないぞ。自分の意志で人間界に来たんだ」




そして測らずとも、マオが『魔族』だと言う事が確定と見なされてしまう。




「ふーん、そうなの?」

「しかし…呼び出されたとは?」


「あぁ…魔法王国じゃ、たまに勝手に呼び出す魔法使いもいるから。使い魔とか異形の者とか…だからレンもそうなのかなって」


「いやいやっ。私、召喚とか使えないしっ」

「その前に…リリィは魔法王国を知っているのか?」

「だってあたし、魔法王国の出身だもの」




ウォルターは酒の入ったグラスを軽く回しながら、リリィの言葉に少し眉を顰めた。




「魔法王国から?」

「そうよ!」




リリィは胸を張り、得意げに言った。


彼女は魔法王国から、例のパーティーに加入し、この街までやってきたという。

目的は魔法使いとして名を馳せるため。

その修行の一環として、様々な国や街を巡るつもりだった。





しかし、フウマ―ーいや、カゲは冷静だった。




「なら、あの国の事情にも詳しいのか?」

「事情?」

「何故、剣の王国と魔法王国間の関所が、封鎖されているのかだ」




ウォルターが腕を組みながら問いかけると、リリィは頷いた。




「あぁ…お城の方で何かやってるみたい。それで余所者を入れたくないんだと思うわ」

「何かって……何をやってるんだ?」




フウマが鋭く尋ねると、彼女は肩を竦めて言った。




「詳しくは何とも。ただ、あたしはたまたま城に魔法使いの一人として呼ばれて、其処で見聞きした事しか知らないの。確か…」




彼女は少し思い出すように目を伏せた。




「何かを呼び出そうとしていたわ。広間の中央に、見た事もないような術式の魔法陣が描かれていたの。其処に、沢山の魔法使いが集められていた…」




その言葉に、ウォルターは険しい表情を浮かべた。




「召喚魔法か…?」


「何を呼び出そうとしてたのかまでは解らないけど…ただ、何か大掛かりな魔法を準備してたのは確かよ




レンたちは互いに視線を交わし、空気が少し引き締まる。




「あたしも師匠について行っただけだから、詳しく聞かされていないの。でも、師匠なら何か知ってるかもしれないわね」


「ふむ…その師匠とやらなら。何か知っているかも知れないな」

「そうだね。情報を得るには市場入力かも」

「え、ちょっと待って? 貴方達、まさか師匠を訪ねるつもり…っ!?」




リリィは箸を落としそうになりながら、目を見開いた。

その表情は驚愕と焦りが入り混じっている。



「何か問題があるのか?」




ウォルターは静かに頷く。




「お、大有りよっ! このままじゃ、あたしまで師匠の所に行かなくちゃいけないじゃないっ」

「は? 何であんたが?」




フウマが怪訝そうに眉を顰める。




「だって、あたしもあんた達に、ついて行こうって思ってたから」




リリィは胸を張って言い放つ。




「新たな仲間を探すなら、貴方達みたいな冒険者がいいと思ってたのよ!」




その言葉に、レン達は顔を見合わせた。




「それなら、なおさら問題ないんじゃないか? ついでに師匠を紹介してくれると話が進みやすい」




しかし、リリィの表情は一変。

彼女は大きく首を振った。




「そ、それはダメ!」

「どうして?」




レンが首を傾げると、彼女は観念したように溜息を吐いて言った。




「…あたしのスタッフ、師匠のものなのよ…」

「…それで?」

「これがあればあたしは最強!…ってノリで、勝手に持ち出しちゃったの」

「なるほど…?」

「そ、それは確かに怒られますね」




レンとディーネが納得したように頷くと、リリィはぐぅっと小さく縮こまった。




「いや、だって…凄い杖なのよ? 軽く振るだけで炎の玉が飛ぶし、魔力の増幅効果も尋常じゃないし…これを使えば最強だと思うじゃない?」


「いや、それは解るけど。普通は持ち出さないんじゃ…」




そう言って苦笑すると、彼女はぷいっとそっぽを向いた。




「だって、師匠の弟子だし、いずれはあたしが貰いうける物なんだもの! 今でも変わりないじゃない?


「貰える前提で盗んでんじゃねぇか、それ」




フウマの的確な指摘に、彼女は更に縮こまる。




「師匠のスタッフを勝手に持ち出して、家出同然に出て行ったっていうのに、今更のこのこ帰るなんて…絶対怒られる!」


「あー…それはまあ、確かに怒られるかもな」




フウマが苦笑いする。

ディーネも同情するように頷いた。




「お師匠様のですからね…」

「ほら! だからあたしは行かないわ! 絶対に!」


「でも、いつまでも師匠から逃げ回っていては、何も解決しないんじゃない?」




レンが優しく諭すように言う。




「…うっ…」




リリィは言葉に詰まった。




「謝るなら早い方がいいですよ」




ディーネが微笑む。




「時間が経てば経つほど、余計に謝りにくくなっちゃいますし…」


「うぅ…」




リリィは頬を膨らませながらも、渋々と腕を組んだ。




「そりゃ、あたしも師匠の所にいつかは戻らなきって思ってたわよ? でも、気付いたら魔法王国に繋がる洞窟は、変な魔物が居るんだもの。そう簡単には帰れなくなっちゃったのよ」


「変な魔物? 道中は盗賊が出ると言う噂は。聞いていたが…」


「ここ最近になって、魔物が棲みついたのか、そう簡単には洞窟を抜けられなくてね。ギルドで討伐クエストは何件も出てるわよ」


「じゃあ、得意の魔法でぶっ倒したらいいんじゃないか? 自信があるんだろ?」




マオが口を挟むが、リリィはぶんぶんと首を横に振った。




「そ、そんな簡単に言わないでよ…! あたしだって『最強!』って訳じゃないんだからねっ」


「さっきまで『最強になれる!』みたいな事言ってたのに…」


「うぐ…っ」




追い打ちを掛けられ、リリィは最早ぐうの音も出なかった。


ちょっとだけ。

ほんのちょっとだけ、彼女が哀れに思えて来なくもない。




「だ、だからね。パーティーが全滅しちゃってさ…お金もないし、これからどうしようか、って感じなのよ」




淡々と言いながらも、彼女の声には何処か疲れが滲んでいた。




「もともと、パーティーにくっついて来ただけだったし、旅費もリーダーの冒険者持ちだったの。だから、あたしの所持金なんて雀の涙ほどしかないのよね……」




そう言って、リリィは苦笑する。

これまで自分で稼ぐという事を、ほとんどしてこなかった結果だと、嘆くように肩を落とした。




「だから、このまま旅を続けるよりは、一度家に帰ろうかなって考えてるんだけど…」




其処まで言いかけて、リリィは深々と溜息を吐いた。




「…そうよね、その為には師匠に会わなきゃなのよね」




彼女は漸く、決心を決める事にしたのだろう。

彼女は椅子から身を乗り出すようにして、懇願した。




「~~~っ!! 解ったわ! あたしも一緒に連れて行って!」

「帰るのか?」


「だって、あたし一人じゃ、また何処かで襲われるかも知れないし…!」




魔法使いは胸を張ると、ニヤリと笑った。




「旅の途中で、あたしの凄い魔法、いっぱい見せてあげるから!」




その表情は、少し前までの沈んだ彼女とは違い、自信に満ちたものだった。


それからも食事は続き、こうしてリリィはレンたちと旅をすることが決まったのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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