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消えた村


―ー翌朝。




「レンさんっ!」




ディーネに揺り動かされ、レンは目を覚ました。




「うぅん…もうちょっと…」

「レンさん、起きて下さいっ!」




ディーネの声がどこか焦っている。

半分眠ったまま、レンはゆっくりと目を開けた。



寒い。


風音が耳を打ち、素肌に直接吹き付けている。



…夏も終わりに近いし、そろそろ薄着で寝るのはやめよう…


そんな事を思いながら、ぼんやりと身体を起こす。



だが――




「…ん?」




違和感。




「…あれ?」




寝ていた筈のふかふかのベッドがない。




「…え?」




周囲を見回すと、そこにあったのはボロボロの木の寝台。

屋根は吹き抜け、壁は崩れ落ち、隙間風どころではない。


部屋全体が、まるで廃墟のようだった。




「ど、どうして…?」

「朝起きたら、こんな状態だったんだ」




ウォルターが顔を顰めながら言う。




「駄目だ、何処にも人がいねぇ」




其処へ、辺りを見回していたフウマが戻ってきた。




「人の気配が感じられねぇ。村全体が、完全に『壊滅』してる」


「えっ?」




レンは外へ飛び出した。




昨夜、賑わっていた筈の村は、まるで何年も放置された廃村のように、すっかり荒れ果てていた。

屋根は崩れ、壁は朽ち果て、道には雑草が生い茂る。




「ど、どういう事…?」


『起きたら、こーんなになってたんだっ』


「まるで、あの農村の時みたいですね…」




ディーネがぽつりと呟く。


子供を亡くした優しい夫婦が居たあの家も、翌朝には『誰もいなくなって』いた。

レンの背筋に寒気が走る。




「…まさか、私達、夢を見ていたの?」




昨夜の出来事が、夢だったかのように感じられる。




「だが、全員が同じ夢を見るなんて…そんな事あるか?」

「でも現に…」




レンは震えながら言った。




「こんな村、さっさと出ようぜ」




フウマが眉を顰めた。




「腹も減ったし、森が近くにあったから、何か獲って来てやるよ」




レン達は頷き、村を出ようとした。



だが――


宿屋の主人が言っていた話が気になる。

ウォルターと同じ大剣を持った人物。


この大剣は所謂『特別』な剣で、この世に二本とない。

勿論、宿屋の主人がただ大剣を見て、似た装備を想像したのかも知れない。



大剣だけでなく、自分によく似た男と言われれば、話は別だ。

しかし、昨夜の光景が夢なのか現実なのか、彼には判別がつかずにいた。




「夢じゃないぞ」

「マオ…?」

「村は、確かに此処に在ったんだ」




迷いなくそう口にするマオ。

『魔王』である彼が言うのであれば、間違いないのだろう。




「だから、宿の親父が言っていた事も本当だ」

「…聞いていたのか?」

「オレは耳がいいんだっ!」




にぱっと笑うマオは、ぽんっとウォルターの背負う大剣に手を添えた。




「夜まで待ったら、また村が現れるかもなっ!」


「…」





もしも本当に、その冒険者が『父』であるのならば。



もう一度。




もう一度だけ、その話が聞きたいと思った。






「…すまん、皆…」




ウォルターが静かに言った。




「ん?」

「夜まで此処で待てないだろうか?」

「夜?」




レンは目をぱちくりとさせる。




「何でまた?」

「おいおい、先を急ぐって言ってたのはおっさんだろ?」


「…そうなのだがな」

「何かあるんですか、ウィルターさん?」

「どうしても気になるんだ。もしかしたら『何か』があるかも知れない」

「はぁ?」


「…?」




レンとディーネは、不思議そうに首を傾げた。

ウォルターの表情が余りにも真剣なので、それが単なる思い付きと言う訳ではなさそうだ。




「私は別にいいよ。昨日の村が夢だったのかどうか、ちょっと気になるし」

「えぇ、そうですね」

「…フウマはどうだろうか」

「まぁ、どうせ金もない事だしな」




フウマが肩を竦める。




「この辺りは金になる素材が多そうだ。なら、日が暮れるまで金策でもするか」


「それなら私も行く…っ!」




レンは目を輝かせ、フウマと共に素材集めに向かう。




「…こういう時だけ、妙にやる気になるよな…」

「お金が必要なもんでね!」

「大変だな、悪魔からの借金ってのも…」



フウマは呆れたように笑った。







◇◆◇





そして、夜を迎えた時――


再び、村人たちが現れるのだった。




夕日が沈み、夜の帳が降りていく。




「そろそろだが…」



村の中央で待機していたレン達は、固唾を飲んで辺りを見回していた。



そして、その瞬間――


目の前の景色が、一瞬だけ歪んだように感じた。




「…っ!?」




世界が『揺らぐ』。



倒壊していた家屋は次々と元の形へと戻り、荒れ放題の田畑には作物が植えられている。

朽ち果てたはずの村が、昨夜見た姿へと変わって行く。




「これって…!」




レンが息を呑む。


昼間とは全く異なる光景。

篝火が灯り、道を行き交う村人たちの姿が見える。


まるで、昼間の廃村が嘘だったかのように。




「こんな事が…!」




ウォルターが驚きの声を上げる。

フウマも目を見開き、信じられないといった顔をしていた。




「これは、幻なのか…?」




ディーネが怯えたように呟く。


すると――




「貴方達は…」




聞き覚えのある声がした。

振り向くと、そこに立っていたのは、昨夜村を案内してくれた青年だった。




「また来てくれたんですね」




彼は、まるで何もおかしくないかのように、にこりと微笑んだ。




「あ、あぁ…」




ウォルターが戸惑いながら頷くと、青年はさも当然のように言った。




「どうぞ、ごゆっくりなさって下さい」




まるで、昼間の出来事などなかったかのように。




『この村は、夜だけ存在する」



レン達は、目の前の光景に言葉を失っていた――




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