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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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青い薔薇の伝説



柔らかな陽光が降り注ぐ庭園。

静寂の中に、小鳥たちの囀りと風にそよぐ草木の音が響いている。

その庭園の片隅に、一見何の変哲もない花壇がある。



レンは夢の中で、その場に立っている自分の感覚を感じ取っていた。

しかし、それが夢だという認識はぼんやりとしている。


彼女の目の前には、見覚えのある冒険者達の姿があった。




『この薔薇、本当に青く咲くのかしら?』




優しい声で微笑みながら、小さな苗をそっと土に植え込む。




『ああ、きっと咲くさ。お前が育てるんだ、きっとどんな花よりも綺麗になる』




青年は少し照れくさそうに目をそらしながらも、隣に寄り添い、苗を優しく見つめている。

そんな二人に、ディーネに似た僧侶の女性が、微笑んだ様子で頷いた。




『でも青い薔薇って、栽培がとても難しいんでしょう? 特に雨量の多い土壌じゃ…』

『其処はスライム様が、一発でどうにかしてくれるだろ?』




ウォルターに似た大剣使いの男が、冗談めかして言う――が、表情は何処か優しい。




『オイラの魔法で育てたんじゃ意味がないよ。これはニンゲンの手で育てるから、価値があるんだ」


『えぇ、そうね』




その声には真剣な響きがあり、テイマーの女性に向ける眼差しは温かかった。



夢の中でレンは、彼らの姿を眺めながら、不思議と懐かしさと切なさが入り混じった感情に包まれる。

特に、テイマーの女性と青年の親密そうなやり取りを目の当たりにすると、その胸にぽっかりと空いたような気持ちが湧き上がってきた。




この感覚…なんだろう。

私がこの場にいる気がする。


でも、私は知らないはず…





夢の中での自分の姿を見つめるように感じながら、彼女はその不思議な感覚に戸惑い、そして懐かしさを覚える。




『この薔薇が、ずっと未来にまで咲き続けるといいな。誰かが見て、少しでも幸せな気持ちになれるように…』


『きっとそうなる。この庭園がどうなっていくか…未来の誰かが、ここで笑顔になれるなら、それで十分だ』




青年の魔王の声には、何処か切なさが滲んでいた。

それを感じ取ったテイマーが、そっと彼の腕を掴み、優しく微笑む。




『そんな顔をしないで。未来はきっと明るいわ。…ねえ、信じて?』




その声に青年は僅かに笑みを浮かべ、静かに頷いた。





その色鮮やかな花は、ただ美しさを持つだけでなく、かつて冒険者達が植えた象徴であり、国を救った記憶を刻む証でもあった。

現代において、青い薔薇が剣の王国の庭園で咲き誇っている光景は、時代の流れを感じさせるもの。

今やその薔薇は、世代を超えて広がり、庭園を一層華やかに彩る存在となっていた。



冒険者達の名前は、ここでは語られることは少ないが、その存在は確かに歴史の一部として根付いていた。

彼らがかつて行った数々の冒険や戦い、そしてその苦難が、この青い薔薇と共に記憶されていることを、かつてを知る者達だけが感じ取っていた。




『この薔薇が咲き誇る姿を、今度は皆で見られるといいわね…』




その薔薇が見守る庭園には、時折風が吹き、花びらが舞い散る様子が見られる。


物語を知る者たちは、風に乗って過去を振り返り、そこに潜む冒険者達の勇気と犠牲を思い起こすことだろう。

そして、青い薔薇が咲く度に、その記憶もまた、少しずつ色褪せることなく、誰かの心に生き続ける。


その道程を象徴する青い薔薇は、今も確かに存在している。

それは、彼らの偉業がどんな形であれ、王国の歴史の中に残る事を意味していた。




『その為には、もう此処を発たないとだな。とてもいい国だったけど…』




名残惜しそうに青年が言う。

そんな彼に、テイマーの女性はふふっと笑った。




『美味しい物が食べられなくて、残念なだけでしょう?』

『だって! 剣の王国を離れたらまた野宿だろ? …そうなると、やっぱり今の内に食い治めておかないとっ』

『おいおい…そんな時間も金もないぞ』

『貴方の飲み代の所為でもあるんですけどね、ディオ?』

『そう言うな、ルーナ…』




ディオ。


そしてルーナ。



初めて知る大剣使いと僧侶の名だが、レンは不思議とそれを受け入れていた。

まるでそれが『当たり前』のように。





…何だか懐かしい夢。



どうしてだろう…



自分の知らない筈の光景なのに、何処か自分と深く繋がっているように感じる。





『魔法王国に行けば、また美味い飯にありつけるさ。きっとな』

『さようなら美味い飯。こんにちは不味い飯…』

『りょ、料理の腕がある冒険者でも、雇えたらいいですね…っ』

『誰一人として、料理の腕を磨こうと言う気にならないのが、俺達らしいと言うか、何と言うか…』




冒険者達は再び立ち上がり、新たな旅路へと出発する準備をしていた。




『次は、魔法王国だな。あの国の歴史も面白そうだし、どうやらまた何かが起こりそうだ』




ルーナが頷きながら、ロッドを軽く握る。




『魔法王国…今度はどんな冒険が待っているのかしら。あの王国には、私達がまだ知らない歴史がたくさんある気がするわ』


『次の冒険も楽しみね?』


『うん。何が待っていようと、俺には心強い仲間がいるから、どんな困難も乗り越えられるさ』




小さく揺れる薔薇の苗は、そんな彼らの決意をしっかりと見届けていた――


















「…」





カミサマは静かに目を閉じ、深く息を吸った。

まるで何かに呼びかけるように、その『記憶』を辿り始めた。


何もない真っ白な空間の中に、淡い光が広がり、時折、青い薔薇の花が舞うように現れる。

それは、『彼』の過去から流れ出てきた思い出の欠片のようだった。



仲間と共に過ごした日々、困難を乗り越えてきた冒険者たちとの絆。

特に、彼ら冒険者達の笑顔を思い浮かべると、懐かしさが込み上げてくる気がした。


まるで其処に自分が居るかのような、錯覚冴えすら覚えてしまう。




「…無事に咲いたんだね」




カミサマはぼそりと呟いた。


その言葉に応えるかのように、青い薔薇が空間の中に現れ、その花びらがしなやかに揺れ動いた。

花の色は、記憶の中の彼の冒険の日々を象徴しているかのように、鮮やかに光っていた。




「これが、君の遺した証か…」




何処か懐かしく、少し寂しそうに微笑むその表情。

それは、過去と現在との間に、確かな繋がりが存在している事を実感していた。


その瞬間、青い薔薇はさらに輝き、その光がカミサマの周りを包み込む。

まるで過去と現在が一つになったかのような、心地よい温かさを感じる。


けど同時に、心の中にはまだ、ぽっかりとした『穴』が空いている事を実感した。




「ねぇ君。この世界はもう一度、進む事が出来るんだろうか…」




カミサマは『彼女』の姿を思い描いて呟く。








かつて、この世界を愛し。



この世界を仲間と共に生きた君へ。




願うならば、もう一度。




僕は――…








第3章『光と影』 ~完~







この度は『〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~』をお読み頂きありがとうございます。

今回を持ちまして、第3章 光と影 篇 が完結致しました。

読者の皆様、そして執筆を支えてくれた方々には、心から感謝しています。


第3章は、剣の王国における『王位継承問題』。それに巻き込まれて行く冒険者達を描きました。

争い良くない、ダメ、ゼッタイ。ミンナ,ナカヨシ!


…まあ、それが出来たら苦労はしないのですが。


どの世界にも時代にも、こう言った争いがあるものです。

『護りたい物の為にどれだけ自分を犠牲に出来るか?』を論点に描くと、完全ご都合主義の世界観が出来上がる訳ですね。

大好きです、ご都合主義。


出来る事なら、何かしらの救いは欲しいので…



剣の王国を出ると、漸く魔法王国への旅路を再開します。

『何の為に此処に居るんだっけ?』と考えていましたが、まだまだ旅の途中なんですね、しかもまだ隣街と来た。



今後も引き続き物語は進みますので、どうぞ応援のほどよろしくお願い致します。

このお話を読んだ感想もお待ちしております。


第4章も是非、お楽しみ下さい!



紫燐


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