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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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曇天消え失せ、晴れ間覗く




玉座の間には、荘厳な静けさが漂っていた。

国王は背筋を伸ばし、王冠を手に取り、重さを感じるようにゆっくりと目を閉じた。


年老いた彼の顔には深いしわが刻まれ、その目には長い治世を乗り越えてきた証が浮かんでいる。




「ワシに残された時間は僅かだ」




その言葉が広間に響いた瞬間、周囲の家臣たちは息を呑んだ。

国王は続けた。




「この国には新たな時代が必要だ。ワシの役目は終わった。あとは、我が息子達の手に委ねよう」




アルデールとエルヴィンは、国王の言葉を真剣に受け止めた。

特にアルデールは、玉座を引き継ぐ責任の重さを痛感しながらも、それに立ち向かう決意を固めていた。



その夜、国王は玉座の間を離れ、王宮の奥にある小さな部屋に足を運んだ。

其処には、亡き妻、アルデールとエルヴィンの母である王妃の肖像画が飾られていた。


蝋燭の柔らかな光が肖像画を照らし、優雅で慈愛に満ちた王妃の姿を浮かび上がらせる。

国王はその前に立ち尽くし、しばらく何も言わなかった。




「お前の息子は強い」




漸く呟いた声には、僅かな震えが混じっていた。




「アルデールは、ワシ以上の王となるだろう。あの子は…誇り高い息子だ」




肖像画に向かい、彼は静かに頭を下げた。




翌朝、アルデールとエルヴィンは広間に呼ばれた。

そこにはすでに退位の準備が進められた玉座があった。


国王は二人に目を向けると、穏やかな笑みを浮かべた。




「アルデール、エルヴィン。この国は剣の力だけでは守れないし、知恵だけでも進めない。お前達二人が力を合わせなければ、真の平和は訪れないのだ」




事件が収束し、式典も終わった後、国王はアルデールとエルヴィンを前に告げる。

そして国王は、アルデールを王位継承者に指名する一方で、エルヴィンには宰相の役割を与える事を宣言した。




「エルヴィン、お前の知恵と魔法の力はこの国の宝だ。お前の導きがあってこそ、アルデールの王としての力が真価を発揮する」

「兄上を全力で支え、この国を守る事を誓います」




エルヴィンは真摯に頷き、力強く言葉を返した。




「お前達がこれからの国を導くのだ。互いに助け合い、争いを超えて、国を守れ」




そう力強く説く国王の言葉に、二人の皇子は深く頷く。




「お前達はこの国の未来だ。民の声を聞き、正義をもって治めよ。そして、失敗を恐れるな」




アルデールは父の言葉を心に刻み、深く頭を下げた。




「父上のような王になる事を誓います」




アルデールは、剣士としての生き方を貫いてきたが、政治的な手腕には自信がない。

一方で、弟であるエルヴィンの知恵や魔法の才能を尊敬しつつも、これまでの対立構造がその思いを素直に伝える事を妨げていた。


エルヴィンは、兄の強さと民からの支持を羨ましく感じながらも、自分の方が国を良い方向に導けるという思いを抱いていた。

だが、その野心が兄に対する劣等感と反発心を生み、兄弟の間には深い溝が存在していた――と言うのが、民衆の当初の見解である。




しかし――




「俺の剣だけでは、この国を支えるのは無理だ。だから、お前の力を貸してくれ」

「兄上が…嬉しいです。僕で役に立つなら、全力を尽くします」




アルデールが手を差し出すと、エルヴィンがそれを握り締める。


兄弟は向き合い、互いに手を取り合った瞬間。

その姿に、国王は満足げに微笑んだ。



観衆はその姿に感動し、拍手と歓声が大広間を満たした。



継承式は、二人の兄弟の手を取り合う姿で幕を閉じる。

この瞬間を境に、剣と魔法が調和し、剣の王国は新たな時代へと歩み始める。



第一皇子・アルデールは無事に王位継承式を終え、王国の次期国王としての立場を確立した。







継承式から数日後、玉座の間では正式に退位式が行われた。

アルデールは新王としての第一歩を踏み出し、エルヴィンはその傍らで補佐役としての役割を果たし始めた。


城の外では、二人の皇子の結束を喜ぶ声が国中に広がり、連日祝賀の祭りが続いた。


ディーネはその光景を窓越しに見つめながら呟いた。




「この国はきっと、彼らの手で素晴らしい未来を迎えますね」




ウォルターが頷きながら付け加える。




「だが、道は平坦ではないだろう。それでも…あの二人ならやっていけるさ」




こうして、アルデールとエルヴィンの新たな時代が始まった。

国は困難を乗り越えながらも、希望の光に満ちた未来への第一歩を踏み出していく。




継承式で起きた刺客の襲撃事件は、太后の陰謀だった。

アルデールは刺客の刃をかわしながらもエルヴィンの身を守り、一方、エルヴィンは魔法で兄の盾となる場面を作り出した。

この協力は偶然の産物だったが、二人はお互いに助け合えると言う可能性を、城の者達は垣間見ていた。




「皇子様方の方は、これで安心ですね」




ほっとした様子で息を吐くディーネ。

しかし、その表情はずっと晴れないままだと言う事に、ウォルターは気付いていた。



城の外は連日賑やかな祭りで沸き返っていたが、城内は落ち着かない空気が続いていた。

継承式の混乱を経て国王の退位が進む中、新たな秩序が築かれつつあった。


そんな中―-レンは依然として眠り続けていた。




『ディーネちゃん。レンは、いつになったら目を覚ますの…?』


「スライムさん…」



スライムは、ベッドの脇で目覚めないレンを。心配そうに見つめていた。

その小さな声には、焦りが混じっていた。


今にも泣き出しそうな表情で、レンを見つめている。




「きっと直ぐに目を覚ましますよっ」

「…それ、昨日も聞いた…」

「えっと…お腹! そう、お腹は空いてませんか!? 昨日も食べていなかったですよねっ」

「レンが起きるまで、食べないもん…っ」




だが、ディーネがスライムに食事を勧めても、ぷいっと顔を背けるばかりだった。




「まだ目を覚まさないのか…」




ウォルターもまた、レンの部屋を訪れては、彼女の無事を祈るように立ち尽くしていた。




「何だか、E級の昇級クエストの思い出すな」

「えぇ…あの時も、レンさんは何日も目を覚まさなかったですね…」




二人は、以前行った昇級クエストの記憶を呼び起こしていた。

その時も、レンは倒れて目覚めないまま、周囲を不安にさせた事があった。



今回もそうだ。


身体のあちこちには、刃物で切り刻まれたような跡があった。

疲弊し、雨や泥に塗れたその姿は、満身創痍だっただろう。


彼女が誰と戦ったのかはーー何となく察しが付く。




フウマもまた、同じような状態で発見されたのだから――




ーーコンコン




やがて部屋の扉がノックされ、国王となったアルデールとその弟エルヴィンが姿を現した。

ディーネとウォルターが立ち上がると、アルデールは軽く手を挙げて制した。




「構わない。様子を見に来ただけだ」




アルデールは眠るレンに視線を落とし、暫く静かに佇んでいた。




「剣の王国が封鎖していた区域が解放された。これで君達は、次の目的地に進める」




ウォルターが口を開いた。




「それは有り難い話です。しかし…レンが目覚めない限り、どうにも動けません」




アルデールは一瞬だけ溜息を吐き、柔らかい声で言った。




「好きなだけ此処にいるといい。この国に貢献してくれた礼だ」




その言葉にディーネは目を丸くした。

アルデールの優しさを感じる瞬間は珍しかった。




「ありがとうございます。助かります」


「お礼を言うのは此方の方です。この国に尽力して頂き、本当にありがとうございます」




深々と頭を下げるエルヴィンに、ウォルターは首を振った。

ウォルターは腕を組みながら首を振った。




「我々はただ、やるべき事をしただけです」




ディーネも静かに微笑みながら言う。




「私達がした事より、これからお二人がこの国をどう導くかが大事ですから」

「アルデール王、エルヴィン様。遅ればせながら、此度の戴冠おめでとうございます」

「ありがとう。…継承式で死者が出なかったのは、本当に幸運だった」

「えぇ、そうですね。あれだけ人が居たのに」




継承式に参列していたのは、国内外から招待された要人や来賓も居たが、あの騒ぎの中で逃げ出す者や、逃げ遅れた者など様々だ。

しかし、負傷者はあれど。神官達や癒師の懸命な治癒により、大事には至らなかった。




「操っていた魔物の件は?」

「太后の話では、魔物の気配が完全に消え去っているそうだ」

「お話し出来るほどまでに、回復したのですね」

「あぁ…本当に憑き物が落ちた様だった」




アルデールは小さく頷く。

彼は、続いて太后と元国王の現状について語り始めた。




「あの日以来、太后はまるで別人のようだ。穏やかで、大人しい。」

「母上の優しい表情を見るのは久しぶりでした。…昔の母に戻ったみたいで、正直ほっとしています」




太后の変化に、エルヴィンは胸を撫で下ろしているようだったが、アルデールは眉間に少し皺を寄せた。




「だが、城内ではまだ彼女を不安視する声がある。何もなければよいのだが…」




継承氏から退位式へと移行し、その間は城内も慌ただしかった。

皆、顔には出さないが、これからどうなるのかを憂いているのは確かだろう。




「太后様はどうなるのでしょう?」




ディーネが不安そうに問いかけた。

アルデールは少し考え込み、静かに答える。




「…父上が、余生を何処か静かな場所で心穏やかに隠居生活を送りたい、と言っていてな。その場所に太后も連れて行くつもりらしい」




エルヴィンがその言葉を補足する。




「空気の澄んだ場所であれば、母上の身体も、そして心も安定するだろう、というお考えのようです」




ディーネは安堵の表情を浮かべつつも、まだ心に引っかかるものがある様子だった。




「それなら、良いのですけど…」


「何にしても、今すぐという訳ではない。暫くは太后の療養が優先だ。あの日から、彼女は随分と変わったが、まだ完全に安心出来る状態ではない」




エルヴィンも頷きながら付け加える。




「母上が元通りになる事を願っています。だからこそ、暫くはそっと見守るつもりです」




その言葉に、ディーネも漸く納得したように頷いた。




「そうですね…太后様も、穏やかに過ごせる場所で癒されると良いのですが」




アルデールはその言葉に、僅かに微笑みを浮かべた。




「彼女を見送るのも、父上を支えるのも、今の俺達兄弟の役目だと思っている。安心してくれ」


「…アルデール王。フウマの方は、どうなりましたか?」




ウォルターが静かに問いかける。

話題がフウマに移ると、アルデールの顔に一瞬だけ影が差した。




「あの男は今、地下牢に投獄されている。大人しくしているが、何も話さないのが現状だ」

「フウマさんに会う事は出来ませんかっ?」




ディーネは心配そうにアルデールに尋ねるが、彼はすぐに首を横に振る。

それを見て、ウォルターが眉を顰める。




「…本当に暗殺者だったのですか?」




アルデールは冷淡な口調で返した。




「継承式で剣を向け、太后の手先となった。それは事実だ」




ディーネが慎重に問いかけた。




「フ、フウマさんの処遇はどうなるのですか?」

「それは――…」




アルデールが一瞬だが口籠る。

その隣では、エルヴィンが重い表情で、視線を下に落としていた。




「…フウマさんが行ったのは、国に対する反逆と同等の罪になります」

「そ、それでは…っ」




アルデールは頷き、冷静に答えた。




「よって…処刑だ。だが、公にはせず秘密裏に行う。公開処刑でもしようものなら、更なる混乱を招くからな」




その言葉にウォルターは難色を示した。




「アルデール王。やはり、彼が本当に暗殺者だったのか、俺は信じられません」




ウォルターは視線を落とし、拳を握り締める。




「確かに剣を向けたのは事実だが、俺たちと過ごしたフウマは、ただの少年だった。あどけない16歳の顔をした…俺達の仲間だ」




アルデールは無言のまま、ウォルターを見つめた。

彼の気持ちは痛い程、アルデールにはよく解っていた。


だが、フウマの所業を許してしまう事は、到底出来なかった。




「…仕事があるので、此処で失礼する」




部屋を去る直前、アルデールはもう一度レンの寝顔を見つめ、小さく呟いた。




「彼女が目覚めたら、また礼を言いに来る」




エルヴィンも一礼し、二人は静かに部屋を後にした。

その背中を見送りながら、ディーネは小さく呟く




「どうしたらいいのでしょう…」




その問いに答える者は誰もいなかった。





城外では、アルデールの王位継承を祝う祭りが連日続いていた。

人々は二人の皇子の和解を喜び、この国の未来に希望を抱いていた。




「城では何か騒動があったようだが、一体何が遭ったのだろう?」

「さあな。だが、皇子様方が協力し、事態を収められたそうだぞ」

「何て素敵…! まるで昔に戻られた様だわ!」




街の人々は口々にそう言いながら、これからの平穏を祈っていた。


継承式の混乱とその後の一連の事件は、アルデールの指導力によって一応の収束を迎えたものの、まだ幾つかの謎と不安を残したままであった。

しかし、それでも人々は新たな時代の幕開けを歓迎し、未来へ向けて進んでいった。




お読み頂きありがとうございました。

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