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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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とある暗殺者の暗躍①



「此処までありがとうございます、フウマさん!」

「本当にありがとう。フウマが居てくれて助かったよ」




ラ・マーレの街から県の王国・ビセクトブルクまでは、馬車でも半日あれば済む。

…その筈だったが、予期せぬトラブルに見舞われ、俺達が到着したのは旅立って数日後の事だった。


俺の足ならもっと速く着くけれど、これはこれで道中はちょっとだけ楽しかった…何て思っている。




「お前らは魔法王国に行くんだったな。道中大変だろうけど頑張れよ」




レン達との別れを示唆すると、彼女達は途端に寂しそうに俺を見ていた。

そんな顔をされると別れがたいと思うのは、このパーティーで過ごした時間が本当に心地よいものだったからだ。


かく言う俺自身も、彼女達同様に『寂しい』と言う気持ちを隠しつつ、その場を後にする。

逃げるようにその場から消え去ったのは、そう言う事だ。





「…寂しいなんて、俺にもそんな感情があったんだな」




レン達から姿を消し、路地裏へと引っ込んでそんな事を呟く。




「いい奴らだったな…」




大剣を背負った堅物のウォルターは、イジって見れば意外と面白い奴。

コーヒーを貰った時は、少しだけ嬉しかった。


ディーネは俺よりも年下なのに、意外と芯のある奴で、少しの怪我でも過剰にヒールをしてくる。

有り難いが、それで自分の魔力が枯渇している事に気付いていない。

あと、自分の傷を優先に直して欲しい。


レンはテイマーとか言うよく解らない職業で、本人もよく解らないまま戦っていた。

ダガーの使い方は、昇級クエストの時よりほんのちょっとだけマシになったが、まだまだ粗削り過ぎる面がある。

スライムを従えて戦っているが、あいつもあいつでスライムより前線に立ったりするから、どいつもこいつも危なっかしい。


チビは――意外と身体能力が高いんだなとは思った。

戦闘面では殆ど参加しないが、自身のみに危険が及ばないように『逃げる』と言う選択肢を選んでいる。

まあ、あんな小さな子どもが戦うなんて事はあってはならないし、何かあればレンやディーネが率先して護っている。



そんなあいつらと組むパーティーが、楽しかったのは本当だ。

機会があるなら、またあいつらと組みたいと言う気持ちだってある。




冒険者を生業として生きていれば、また何処かで会う事もあるかも知れないが、暫くはその接点も薄まる事だろう。

魔法王国は遠く、関所を超えた大陸の先に在る。

主に徒歩で旅をしているのならば、次に会うのは数か月先だって事もあり得る話だ。

テレポートの様な『転移』が出来るのならば話は別だが、そう言った魔具を持っている様子はなかった。


唯一、あるとすれば――あのチビだろうか。

ラ・マーレの街で見せた『空間転移』をすれば、どうにかしてまたこのビセクトブルクへ戻って来る事も可能かも知れない。




「ま、もう会う事はないだろうな――帰るか」




自嘲するフウマは、そう言って路地を歩み出した。

真っ直ぐに向かう足は、いつもの慣れ親しんだ『孤児院』へ向かおうとしていた。




「お、お願いします。返して下さい…っ!」

「ん…?」




フウマがその場に居合わせたのは、人気の少ない路地裏だった。

少し離れた場所で、気の弱そうな商人が冒険者達に囲まれ、詰め寄られているのを目にする。




「だからさ、言っただろ?これじゃ足りねぇんだよ!」




リーダー格らしき粗暴な冒険者が、商人の手から取引品と思われる包みを力任せに奪い取る。

商人は怯えた様子で後ずさりしながら、か細い声で抗議していた。




「そ、それは契約通りの品です…。どうか返してください…!」




だが、その言葉に耳を貸す者はいない。

フウマは、そんな冒険者達の横暴な態度に眉を顰めた。




「(こういう奴ら、本当に嫌いなんだよな…)」




元々、盗賊としての立場にありながら、彼には独自の正義感があった。

力で弱い者をねじ伏せる行為を、彼はどうしても見過ごせなかった。




「おい、お前ら。それ以上やると、俺が相手する事になるけど?」




フウマは軽い口調で割って入りながら、足音を立てずに冒険者達の背後に近づいた。

冒険者たちは振り返ると同時に、突然の闖入者に苛立った表情を浮かべる。




「何だてめぇ? 部外者が出しゃばるな!」




リーダー格がそう言いながら剣を抜く。

しかし、その動作はフウマにとって遅すぎた。



フウマは身軽な動きで懐に入り込み、相手の手元を叩いて剣を取り落とさせる。

更にクナイを巧みに操り、リーダーの足元に向けて投げつけた。

クナイは地面に突き刺さり、冒険者達を一瞬怯ませる。




「…次は外さない」




低く冷たい声に、冒険者達は動きを止めた。




「ちっ…! ずらかるぞ!」




数秒間の沈黙の後、彼らは舌打ちしながら、手にしていた品物を地面に投げつけ、その場を去った。

商人は冒険者たちの姿が見えなくなるのを確認すると、息を吐きながらフウマに頭を下げた。




「本当に、助かりました…。私はただ、契約に従って取引していただけなんです」




商人は顔を綻ばせ、フウマに何度も頭を下げる。

その態度は非常に礼儀正しく、気弱で人の良さそうな印象を与えた。




「気にするな。あいつらの方が悪い。それより、あんたの包み大丈夫か?」




フウマは奪われかけた包みを拾い上げ、商人に手渡す。

商人はそれを確認すると、何処かほっとした様子で頷いた。




「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます。貴方の様な腕利きの方が、こんな街にいるとは…。お名前を伺っても?」

「フウマ。ただの通りすがりの盗賊だ」

「と、盗賊?」

「安心しな。俺は悪い奴らからしか盗まねぇよ」

「そ、そうなのですね…」




何処か安心した様子の商人に、フウマは苦笑する。


『盗賊』と聞いて、余りいい印象がないのは、冒険者達による悪行だろう。

あの村を襲っていた荒くれ者達の様な、悪い印象を植え付けているようだ。


しかし、自分をあんな奴らと一緒にして貰っては困る。

あくまで、義賊なのだから。




「かなりの手誰た冒険者とお見受けしますが、もしや『S級』冒険者なのでは?」

「S級? そんな事ないさ。俺はただの盗賊でD級だ」

「何と…! それであの動きとは、いやはや本当に凄いお方だ…っ!」

「そんな褒めても何も出ねーぞ」




商人の眼は、フウマの動きに鋭い興味を示していた。

彼の心中には、計画に必要な『駒』としてのフウマの姿がはっきりと映ったのだ。


商人は平静を装いつつ、次の言葉を慎重に選んだ。




「もしよろしければ、お礼として簡単な仕事をお願いできませんか? 大した物ではありませんが、報酬もお支払いします」




すると、フウマは少しだけげんなりした様子で肩を竦める。




「悪いな。こっちは長旅で疲れてるんだ」

「そうお時間が取らせません。単なる荷物運びです」

「俺、疲れてるって言ったんだけどな?」




しかし、フウマは少しだけ考えた。

金銭は決して余裕があるわけではなかったし、何よりこの商人を放っておくのも気が引けた。


見るからに人が良さそうで、見るからに騙されやすそうだ。

今、此処で自分が断りでもすれば、またよからぬ考えを持つ奴らに苦しまないとも限らない。




「…ま、いいか。何処まで行くんだ?」




商人は柔らかな笑顔を浮かべながら答えた。




「目的地まではそう遠くありません」






◇◆◇





フウマが商人から頼まれた荷運びの仕事は、見た目には単純なものだった。

街の外れにある小さな倉庫から、指定された物資を郊外の集落まで運ぶというものだ。


予め提示されていたが、報酬金額も悪くない。

本当にただ荷物を運ぶだけの、簡単なお仕事だった。




「あんた、いつもこんな感じの仕事に報酬を渡してるのか?」

「えぇ。皆さん、お優しい方ばかりで」

「優しいのはあんただよ。…完全にカモられてんじゃん」

「そ、そうですか?」




どうにも、この商人は優し過ぎるところがある。

にこにこしているその表情も相まって、変な方向に噂が立たないといい――なんて、フウマはその男を心配した。


フウマが物資を運ぶ最中、森の中の細道で異変が起きる。

突然、木々の間から数体の魔物が姿を現した。




「グルルル…ッ」




低い唸り声を上げながら、此方にじりじりと近づいてくる。




「ひ、ひぃぃぃっ!」

「…こんな魔物、この辺りに居たか?」




まるで見た事のない魔物の姿に、フウマの眼が一瞬細められる。

剣の王国周辺は、幼い頃から自分の庭の様に駆け回って来た。

その為、生息する魔物の住処や生態なんかは、それなりに把握しているつもりだ。

孤児院の子ども達が無暗に近付かないよう、口を酸っぱくして言い聞かせもしているから、自分でもよく解っている。


この魔物は、もっと街から離れた場所に生息している筈だ。




「下がってろ」

「フ、フウマさん…っ」




フウマは荷車を軽く押し戻しつつ、腰に携えたクナイを取り出した。


魔物の数は四体。

小型だが俊敏なウルフ型の魔物と、大きな体躯を持つオーガのような魔物が混じっている。


ウルフもオーガも、どちらもDランク冒険者であれば、単体でも苦戦する相手だ。




「腹を空かせて街まで降りて来たのか?」




呟いたところで、魔物相手に話が通じるとも思えなかった。

魔物達は、最初から敵視を向け、牙を剥いているのだから。

そして明らかに、自分達を――人間を狩ろうとする眼をしている。


テイマーとして、スライムと会話の出来るレンが、今だけ少し羨ましく思った。



フウマは冷静に状況を見極める。

魔物達の動きには何処か規則性があり、あたかも指示を受けているかのようだった。



最初に襲いかかってきたのはウルフ型の魔物だ。

その素早い動きを、フウマは落ち着いて見極めると、飛びかかってきた瞬間にクナイを投げつけた。

狙いは正確で、魔物の額を貫いた。


次の瞬間、背後からオーガが大木を振り上げ、フウマに叩きつけようとする。

しかしフウマはそれを気配で察知し、素早く横へ跳ぶ。




「こんな大きいの、どうやって倒せばいいかね…」




独り言を漏らしながらも、フウマの表情には焦りがない。

足元に散らばる石を拾い、クナイと組み合わせて即席のスリングを作り出すと、オーガの目元に向かってそれを放った。




「これでどうだ」




石が直撃し、オーガが大声で呻く。

視界を奪われたオーガに追撃を加え、動きを封じた。


次々と押し寄せる魔物達に対しても、フウマは冷静に対処し、一人で全てを片付けてみせた。








「――ふむ、見込み以上の腕前だな」




その様子を少し離れた場所から観察していたのが、依頼主である商人だった。

彼の表情には、驚きと満足が混じっている。



商人の手には、魔物を操るた為の簡易的な魔道具が握られていた。

彼は、魔物を利用してフウマの実力を試したのだ。




「終わったぞ。もう大丈夫だ」

「あ、ありがとうございますっ。流石、腕利きの冒険者さんだ! 貴方は本当に盗賊ですか?」

「言っただろ。俺はただの盗賊だって」




戦闘後、フウマは荷物を無事に届けたが、心の中で何か引っかかるものを感じていた。




妙だ。


あんなのがいるなんて…ただの偶然か?




「チビ達に言っておかないとな」




陽はすっかり暮れつつあった。

足早に向かう先には、慣れ親しんだ孤児院。


庭先では、まだ小さな子ども達が楽しそうに走り回っているのが見える。

賑やかな笑い声と元気いっぱいな姿に、フウマの表情には自然と笑みが零れていた。




「あっ。フウマにーちゃんだ!」

「にーちゃん、おかえりー!」




一人、また一人と子ども達がフウマに気付き、駆け寄って来る。




「もうすぐ暗くなるぞ」

「あのね、あのねっ。今日はカレーなの!」

「フウマにーちゃんも一緒に食べようっ!」

「解った解った」

「おかーさん! フウマにーちゃんが還って来たよー!」




子ども達に抱き付かれ、引っ付かれ―ーしかし、フウマの顔は笑っていた。




「お帰りなさい、フウマ」

「母さん。…ただいま」




そう言ってくれる『家族』の存在に、フウマは幸せを感じていた。




お読み頂きありがとうございました。

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