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ZOMBIE 6

穏やかな昼下がり。

エインが友達を紹介したいと言って、私を小さな空地へ連れ出した。

二人で歩き辿り着いたそこには、思わず逃げ出したくなるような人物が居た。


「しょうかいするよマリ。ジェイソンだ」

「アハハこりゃマジもんよりすげーぜ。おいエイン、こっち来い」


「何だい、マリ?」と言って、エインは嬉しそうに私の後を追う。

ジェイソンと呼ばれた、軽く二メートルを超える男のゾンビはキョトンという顔をした。

あ、ちょっと可愛いな、とゾンビに少しでも愛嬌を見出してしまう様になった私は、救いようのない末期だと思う。

ジェイソンさん(呼び捨てにするには恐れ多すぎるっ)から、すたこらと十メートルほど離れ私とエインの二人はしゃがみ込みボソボソと話し出した。


「ちょっと、あ、あ、あんなの、どこで拾って来たの!」

「え?かせんじき」

「今すぐ戻してきなさーいっ」


もはや内緒話というレベルではない。

きっとジェイソンさんにも聞こえているだろうが気にしてはいられ…、ない。

河川敷と言えばホームレスの宝庫である。あのジェイソンさん、なかなかやりおる。

エインは私の言葉を聞き、クシャッと端正な顔を悲しそうに歪めた。

そして「ひどいや、マリ。どうしてそんなこと言うの?」と呟く。


「ど、どうしてって…」

「ジェイソンは僕らと何もかわらないよ。たしかにうでが、たいほーだけど…」

「うん。そこが大きな問題なんだ」


二メートル軽くを超える巨体。ゾンビのしぶとさに強靭さが加えられ、更に左腕が大砲と来たもんだ。

筋肉がついたマッチョとは一味違う体つき。

機械のコードが皮膚下から見え、彼は何らかの経緯で機械と混じり合った新種のゾンビなのだと伺える。

そして『シュコー、シュコー』という、息なのか何なのか分からない言葉を発していた。

見た目だけで、確実に中ボスの役を与えらる。


「ジェイソンはいい人だ。ジョークも言うんだよ」

「うへへ…」


笑えないよ!シュコーシュコー言われただけじゃ分からないよ!

「この前いちばんおもしろかったのはね」と嬉々としてエインは語り始める。

うう、アメリカンジョークに近いそれが、いまいち分からないよ~!

ちらりと一瞥して見たジェイソンさんはつまらなそうに一人しゃがみ、鉄の大砲の腕で地面をガリガリと掘っていた。

う…!絆されちゃダメ、真里、しっかりしなさい!ああ、でも…。

そんなジェイソンさんに一匹の猫が近づいた。どうやらゾンビになっていない、生きている猫である。

珍しいな。私は軽く目を見開いた。

『シュコッ!』と荒い息らしい言葉を発したジェイソンさんは、右腕でちょいちょいと猫を呼ぶ。

しかし猫は毛を逆立て、今にでも心臓発作を起こすんじゃないかという勢いで「フシャーッ!」を威嚇し走り去ってしまった。

し、仕方ないよジェイソンさん!だって貴方のその指の爪、ものすごく鋭利だもん!

猫の後ろ姿を見つめ、そして再びガリガリと地面を掘り始めた。

その背中は先ほどよりも哀愁が漂っている気がするのは、気のせいだろう。


「マリ?」

「どうしよう、エイン。…私は常識人でいたいの」

「マリはじょーしきじんだよっ」


おいおいお前が言うか!一見人間、中身ゾンビのエインが熱く語る。

チラッチラッとジェイソンさんからの視線を感じ、私は微かに肩を揺らす。

まだかなぁ、話まだ終わらないのかなぁ?と語るそれは、無視しようにも出来ないほど熱いものだった。


「取り合えず戻ろうか…」

「うん」


二人立ち上がりジェイソンさんの方へと歩く。

ああ、ちょっとだけ足がしびれてしまった。とほほ。

私たちに気づいたジェイソンさんはゆっくりとした動作で振り返り、のそりと立ち上がる。

銃口からパラパラと土が零れ落ちた。

あーあ、後で手入れしなきゃ。と考えていた自分に気づき、頭を振る。

エインは片手を上げジェイソンさんに「ごめんねー」と謝った。

それを見て返事をするように『シュコー』っと返事をする彼を見て、ほわっと笑っていた自分が居た。

ああ、もう駄目だ。降参しよう。


「ま、まずはお友達からで」

『シュココー!』

「ジェイソンがよろこんでるよ!」


ジェイソンさんは手で頭を掻き、少しだけ肩をすくめてペコペコと頷く。

それは傍から見れば照れながら頷いているようにも見えた。

お友達から始めることになった私たちは、お互いを知り合おうとベンチへ移動する。

しかし私とエインが座り、ジェイソンさんが座った瞬間ベンチが大破したため断念した。

三人して地面に転がった瞬間見えた青い空は、きっとずっと生涯忘れないと思う。

結局地面に落ち付き今現在三人横に並んで芝生に座っている。

あー、穏やかだ。


「げんき出してよジェイソン」

『シュコー』

「え?げんりょう?しなくて大丈夫だよ!」

「あーお味噌汁飲みたい」


未だにベンチを破壊したことに対して凹んでいるジェイソンさんを、エインが必死になだめている。

ジェイソンがわるいんじゃないよ、あのベンチがもろかったんだ!シュコシュコー。うんそうそう、そのいきさ!

何がどういう会話で「その意気さ!」になるのだろう。だいたいあのベンチは鉄製だ。デザイン重視の素敵ベンチだったのだ。

脆いも何もあるか!


『シュコー』

「ごめんねだって」

「気にしないで!」


そんな事言えるわけがない。

この世に反省しているゴリラを叱り飛ばせる人間が居るだろうか。いないでしょ?

今のはとても良い例だ。自分を褒めてやりたい。


「ところでジェイソンさん。貴方のその大砲って本物?」


ジェイソンさんは左腕を持ちあげ、頷く。

少し錆びているがコンパクトながらにも立派なものだ。


「へぇ。弾ってどうしてるの?」

『……。シュコー』

「そつぁ言えねーな、だって」


ワイルドである。

なるほど、世の中に聞いちゃいけないこと、知っちゃいけないことがあるけれど、その内の一つが“ジェイソンの腕の大砲の弾”が入っているらしい。

勉強になった。忘れないように赤線を引いておこう。


「あのね、私の故郷にチェーンソーを持った有名人が居てね。名前がジェイソンって言うんだよ」

『シュコー!』

「へぇ!すごいね!」


凄いでしょーなんて笑えば、ジェイソンさんはおもむろに左腕を持ち上げた。

すると大砲が急にパカッと割れたのだ。

そしてそれはガコンガコンと形を変え、何やら見覚えのあるものに変化した。


「トランスフォーマー…」


いやいやいや!今のツッコミはおかしかった。なかったことにする。


「えーと…?うん。これは俗に言う」

「チェーンソーだよ」


知っとるわ!

大砲は形を変えなんとチェーンソーになったのだ。

それを眺めるようにして見ていたジェイソンさんは、何ともなしにギュイーンと刃を勢い良く回転させ始めた。


「ぎゃあ!で、電源は!?」

『シュコー!』

「それも聞くなだって」


秘密が多い男はモテるかも知れないが、それはイケメンに限るのだ、ジェイソン君!

嬉しそうに『どうどう?俺凄いでしょ!』みたいな雰囲気で笑いかけてくるが、生憎私には『どや…、刃こぼれ一つあらへんやろ…』という強面な人物しか浮かばない。

してやったり顔でニヤリと笑ったジェイソンさんに、私は身を震えさせた。

お、おかおか、お母ちゃーん!


それ以来ジェイソンさんの武器が大砲からチェーンソーに変わり、私が雑貨屋さんで見つけたお面を渡したらどこをどう見ても某ジェイソンになったのだった。

彼は見た目が恐ろしいが、植木を切ってくれる良いお兄さんなのだ。

この前は象さん型に切ってくれた。

これからも仲良くしたいと思う。完。






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