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ZOMBIE 5

どうも、真里です。ゾンビと一緒に居たら撃たれました。

全くムカつくよね!なんで急に撃つのか理解に苦しむわ。ただゾンビと仲良く一緒にいただけなのにねー!

…言葉にして思ったんだけど、なんか私が攻撃を受けることが非常に普通なことじゃない?

撃たれたことに憤慨できるほどの権利が私にはないよね?

いやややや。人類皆平等!でもそれって死人はどうなの?


「先ほどは本当にすまなかった。まさか人が居るとは思わなくて」


軽く頭を下げた細マッチョな金髪男性は、申し訳なさそうな顔をした。

無表情ながらもどこか嬉しそうな雰囲気がバッシバッシと伝わる。

和みそうになるが彼の背中にあるグレネードランチャーと、両脇の腰に引っかかる二丁の拳銃、そして「え?もしかして貴方ポケ○ンマスター目指してるの?」と聞きかけてしまった六つの手榴弾。

――――おおう、デンジャラス!

一気に和みは消えうせた。私は「いやー、誠に」と少し古めかしい言葉で返事を返す。

今二人が居る場所はバーガーショップ。

勿論人は皆無で、長い期間の無人により少し汚れてしまっている。私と細マッチョは向かい合うようにして窓際のテーブルに座っていた。

あ、失敬失敬。エインという名のゾンビ…、と言って良いのか不明な存在になり果てた人物が、私に密着するように横に座っている。

暑苦しいし、なんでお肌が私よりツルツルになってるのか、てか何で人間になってるのか聞きたいです。

後で聞くからね、もう!


「俺の名前はロンサン。特殊警備特攻班に所属している」

「はぁ。特殊うんたらのろんしゃんしゃ…んんっ、ロンさん?私は真里です。」

「まり、かんだ。かわいい」

「こっちはエイン。ほら、挨拶」


ロンサン?その名前の“さん”って何?敬称?

いや、でも自分で「私の名前は真里さんでーす!」とか言う人居ないよね?…ね?

ロンサンかロンさんか判断しにくいため、フレンドリーにロンさんと呼ぶことにする。

そしてロンサンさんと言おうとして噛んでしまった私に、エインは長く細い人差し指で、優しく私の頬をツンとつついた。

え、お前キャラ変わってない?

挨拶をするように言った私の言葉に、頬をつついていたエインはむぅっとむくれると、小さく「…エイン」と名乗る。

うん。偉いぞ、エイン!


「マリィとエインか。いや、本当によく無事でいられたな」

「マリィ?真里です。いやー本当によく無事だったなって思いますよわっはっは」

「まり、もうかえろう。おなかすいちゃった」

「あははエインったら。申し訳ないんだけど少しだけ空気呼んでくれないかな?」


ロンさんの笑顔が怖いよ!

本人にそのつもりがなくても、私にはその笑顔にフィルターが掛かって見える!

下手なことを言えば一気に信用を失いかけない。もっと悪いことになれば、彼等を…、あのゾンビ達を殲滅されてしまうかも知れない。

それはあってはならないことだ。走る悪寒に身を震わせて私は願う。

――――何も起こりませんように!

狂喜乱舞するはずの出会いに、私は不安と緊張と恐怖から顔を青くさせた。


「二人は随分と仲が良いんだな」

「はいストーカー並みにしつこい彼に守られています」

「まり、はずかしがりやさん」

「た、大変だな…」


初めて出会えた常識人に私は打ちひしがれる。

どうして彼は特殊うんたら、曰くゾンビを消す役職の人なのかっ。

横に居る元ゾンビを一瞬恨めしく思う。すまんなエイン。


「それにしてもこの街は随分と静かだな」

「そうなんですか?」

「ああ。こうやってのんびり外に居ることが信じられない」


お茶の一杯でもあれば日常風景と化する今の状況に、窓の外を見て眉根を寄せたロンさんはそう言った。

そうか、通常の人間なら一たまりもない世界なのだ。

――――通常の人間なら…。

ロンさんの重装備は少しもおかしくない。おかしいのは武器を何一つ持たない、私たち。

エインは黙って俯いていた。


「ここまで静かだと、生き延びれたことも頷けるな」

「…」


私は愛想笑いしか返せなかった。

カラスが五羽等間隔に電線に止まっている。すでに一度命をなくした彼等は監視をしている。

――――ロンさんを。

草むらに潜む私の友人たち。人間を襲わなくなった友人たち。

レトルト食品と冷凍食品が大好きな彼らだが、私にもしものことがあったらきっと、きっと…。


「だが安心は出来ないぞ、マリィ。いつここもゾンビに溢れるか」

「まり、もうかえろうよ」

「良かったら地下シェルターに来ないか?」


私の手を握っていたエインの手が、ピクリと揺れた。

ロンさんは嬉々として語る。取り付く島がない会話に、私は只々口を開けて聞いていた。


「地上に比べて息苦しいが、ゾンビの心配がいら…」

「だまれ!!」


ダンッ!とエインはテーブルを叩く。幸いなことにテーブルにはヒビが入っただけだった。力加減を覚えたらしい。

まあテーブルが真っ二つになったら、テーブルの下にある私の足も真っ二つになってしまう。

エインの荒々しい声は外にまで聞こえたらしく、私の友人等が潜む草木がカサリと揺れた。カラスがギャーギャーと煩い。


「何故そんなに怒る?」

「なぜって、なぜって…」

「エイン、落ち着いて」


立ち上がっていたエインの服を引っ張り座らせる。悔しそうにエインは顔を歪ませ、瞳に涙を溜めていた。

うん、分かってる。何故の理由は「僕がそのゾンビだから」だよね。

優しいエインは私をかばって言えなかったんだ。赤い瞳からぽたりと滑り落ちる涙を拭ってあげ、私は「ロンさん」と彼の名前を呼んだ。


「申し訳ないけど、地下シェルターには行きません」


「ま、り」と嬉しそうにエインは私を抱きしめた。

その腕を振りほどくことなく、私はロンさんに語り続ける。行けないじゃなくて行かないのだ。


地上ここには大事なものが沢山あるんです。離れられない。だから、ごめんなさい」


ロンさんは「…そうか」と言ってそのまま黙った。

嫌な沈黙じゃない。お互い譲れない何かがあることを感じているのだ。


「ロンさん、私たちそろそろ帰ります」

「ん?ああ引きとめてしまってすまない」

「いえ。あの」


バーガーショップの扉に手をかけていたロンさんは振り返る。

私はちらりとロンさんが持つ銃に視線を向けた。


「この近辺ではあまり殺生はしないでください」

「はは、そうだな。またマリィを殺しかねない」


笑って扉を開ける。

殺生はしないでください。ゾンビを殺さないで。

今では人を襲わなくなった彼らを殺す貴方は、只の猟奇的大量殺人者です。

優しいロンさんの背中を見つめ、私はそう思った。





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