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ZOMBIE 4

窓から見える近代的な町並み。高いビル群と青々とした気持ちの良い空。窓を開けたらきっと心地の良い風が吹きこんでくるに違いない。

いや、そんなことはあり得ないのだ。ここは地下なのだから。

見える景色は全てガラス越しに貼られた写真だ。近寄れば近寄るほど偽物だと言う事に打ちのめされるため、あまり窓には近寄らないことに決めて居た。

だが今の状況では暴力的なほどに視界にそれが飛び込んでくる。ああ、背中にあるこのショットガンでぶち壊してやろうか。


「任務だ」


無駄にでかい革の椅子に座った男は威厳のある声で言った。

名前は知らない。知る機会は数えきれないほどあったけれど、別に知る必要はないから覚えようともしなかった。

――――任務。

どうせ下らない内容に違いない。

男の背後に飾られた空しい街並みの写真が光る。太陽の光を疑似したそれは、所詮人工的な光でしかない。


「G-12地区の状況調査に向かってくれ」


バカな奴らだ。どうせ何回行っても何も変わらない。今、地上は死者がはびこる世界なのだ。

状況調査で人員を亡くすより、抗ウイルス剤を開発するための人員に回してほしいものだ。


「是」


敬礼をし踵を返し部屋を出た。

状況調査なんて何をすればいいのだろう、といつも思う。ゾンビを殺し、数日かけて生存者を捜し――――。

今まで調査中に生存者を発見したことなんて一度もない。

地上に出るたびに、絶望感だけが募るのだ。もう、あの青い空の下を笑って歩ける日なんてない、と。


地上へ出るエレベーターに乗り込んだ。

網目状に張り巡らされたエレベーターは、行きたい場所の数字を押せばどこにでも行けるようになっていた。

しかし、その他にパスワードを入力することが決まっている。

それはゾンビがここへ入らないように、それとここに居る誰かが下手に逃げ出さないようにとの一種の鎖だった。

無事入力し終わると扉は閉まり、音もなく動き始める。

向かう先は天国から地獄か、それとも地獄から天国なのか。

エレベーターは止まる。地上のカモフラージュとして公衆便所の一個室に設置された扉は、中から出ると閉まり本物の壁のように消える。

ここにも趣味の悪い上層部の趣向がうかがえる。

はぁとため息をつき、腰に忍ばせている拳銃を手に取った。ストッパーを外し、いつでもトリガーを引けるようにする。

さぁ、これから向かう先が天国なら良いのだけれど。足音を立てぬよう細心の注意を払い歩きだした。


***


「あ、雨が上がった」


先ほどまで降り続いていた雨は上がり、どんよりと重たかった雲が段々と引いて行く。

この調子でいけば、直ぐに青空を拝めるかもしれない。

そうしたら久しぶりに皆でお弁当を持ってピクニックに行こうか。雨で濡れる花々も、それはそれで美しいから。

特にやることもないので、自室から外へと出た。

雨の独特な匂いを胸一杯に吸い込んだ。ああ、生きている。そう実感させてくれる力強い生命の香り。

湿気の含む空気は日光に熱せられ少しむっとしていた。それも何だか気持ちが良いものだった。


『マァ』


エインがひょこひょこと着いてきた。まったく、さっきまで居なかったのに目ざとい奴だ。

『どこ?』と首を傾げる。きっと『どこに行くの?』と聞きたいのだ。


「お散歩に行こうかなって」


そう。家宅侵入…、じゃない、散策がてらのお散歩だ。決して遊びにじゃないぞ、うん。

エインはどこか物言いた気な顔でもじもじとした。

私も少しづつだが成長しているのだ。例えば今何が言いたいのか、とかね。


「エインも行く?」


そう聞けばほら、ニコッと笑う。まったく、おかげでこちらまで絆されてしまう。

エインは頷き『はい』と言った。そうして私たち二人は歩きだした。


数十分歩いていると、エインが私の服を掴んだ。

それは迷子にならないようにとか、早く行こうと急かすようなものではなく。

険しい表情で遠くを見つめながら歩みを止めたエインに、私も必然的に足を止めた。


「どうしたの?」

『いいえ』

「え?」


まだ、遠くを見つめている。彼には何が見えるのだろうか。

私には聞こえないものが、彼には聞こえているのだろうか。

止める理由を話せるほどエインはまだ話せない。『だ、め』とたどたどしく言い、元来た道を戻るエイン。

氷のように冷たい手に腕を引かれ私は歩いた。

足が絡まりそうになりながらなんとかエインについて行く。その時だった。


――――パンッ。

初めて聞いた音に、私は一瞬思考回路が止まる。

どこかで聞いたことがある。それは身近にじゃない、映画とか、アニメとか、そういう少し遠い場所で。

そんな音が自分の背後で聞こえたのだ。


「え、えいん」

『ちっ』


おいおい、変なことを覚えるなよ。舌打ちなんていつ教えた?

本当ならここでお説教タイムだけど、そんな余裕はなかった。

エインは震える私の肩を抱くようにして足早に走り出す。銃声は未だ、私の背後で鳴り響いている。

怖かった。それは初めて彼らと出会った時ほどの衝撃だった。

はぁはぁ。私は一人息を荒くし走り続けた。エインは一切の呼吸の乱れが感じられない。羨ましい。

車が置き去りにされた二車線道路の真ん中を二人で走る。無人の車が二人を隠してくれるから、姿が丸見えとかそんな危険もない。

が、疲れがピークに達した足がもつれ、私は地面へと転がった。


「へぶっ」

『マァ!へーき?』

「うん…、大丈夫。…痛い」


硬いアスファルトは容赦なく私の肌を傷付けた。赤い鮮血が、膝からたらりと流れた。

――――あ…。

そう言ったのは、私かエインか。音もなくエインは膝をつく。それはまるで中世騎士のような。

時間が止まった気がした。


白く濁った瞳は一点、私の血を流す膝に注がれていた。

何をするんだー!と顔面を思いきり蹴りつければ良かったのかもしれない。

でもそんなことを考えられないほど、自然にエインは膝にキスをしたのだ。

ちゅぅ…。

背徳、羞恥、そしてゾンビウイルスが体内にー!と様々な感情が頭の中に渦巻いた。

ああ、とうとう私もゾンビの仲間入りか。どうか善良なゾンビになれます様に。無宗教なのに心の中で十字を切った。

ちゅ、ちゅっと可愛らしいリップ音をさせながらエインはキスをする。

唇に付いた血を舌ですくっては味わうように口に運んだ。転んだ傷の血以外、エインはなにも求めない。

噛みも引っ掻きも何もしない。ただただ一心不乱に膝の血を舐め続けた。

その様子に私の頭の中から次第に背徳と羞恥が消えて行く。

もしやこれは彼らにとって当たり前の行為なのだろうか。赤子が授乳をするように、当たり前の事。

それは私に対して、だけの――――。


顔を上げたエインの瞳。それはまるで今さっきまで流れていた鮮血のような赤に変化していた。

驚きから目を見開いた。肉が見えていた頬や傷だらけだった皮膚が治って行く。

な、ななな。


「エインーー!?」

「まり」


普通のイケメン兄ちゃんが、そこに居た。


エインは恍惚とした笑顔を引っこめると、勢いよく近くにあった車を片手で掴む。

そしてぐわりと持ち上げた。


「えーーー!?」


驚きの連続だ。車の一部分だけを持つのではなく、車そのものを持ち上げたのだ。

勿論それはミニ四駆でもチョロQでもない、一般的な自動車だ。そしてそれを私たちの前に勢いよく叩き落とす。

衝撃で起きた風で、エインのオシャレハットがフワリと舞った。

帽子から現れた頭部ははみ出ていたはずの脳みそが消え、変わりに癖っ毛で少しだけ長い綺麗な黒髪がサラリと揺れる。

私たちの前に立ちはだかる壁と化した車に、パンパンパンと銃声がぶつかった。


「え、えい、えい」

「だいじょうぶ、まり」

「エイン~!銃声が車だからエインが人間になって…。えー!?」


黙りたいけど黙ったら気絶しそうなのだ。

私の意味不明な、というか特に意味のない叫びにエインは頷き「うんうん」と言った。分かってないくせに!


「…誰かいるのか?」


第三者の声が、私たちの元に届いた。私は車の影に蹲りながら叫んだ。


「撃つ前に聞いてよ、ばかー!」


私に覆いかぶさるようにしていたエインは、またもや「うんうん」と言った。

本当に分かっているのだろうか。様子を見ていたゾンビのカラスたちがギャアギャアと鳴く。

それを警戒音だと知らないまだ見ぬ相手は、気の抜けた声で「す、すまない」と謝った。


未だにカラスは鳴いている。






レベルアップゾンビの言葉は『』から「」になります。


ギャグを目指していますが登場キャラがアレなので、一歩間違えればホラーシリアスに成りかねない。

と言うか成りつつあります。

大丈夫です、テンションで乗り切ってギャグに戻しますので!

死人は出しません!

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