ZOMBIE 2
晴れだ。見まごうこと無き晴れである。
青い空がどこまでも広がり、時折白い雲がの~んびりと流れて行く。
見まごうこと無き、晴れなのだ。
ちゅんちゅん。
雀さんがおはようの挨拶を私にしてくた。
ふふ、おはよう子鳥さんたち。
心地良いお天気ね。
そうそう、あのね、昨日スーパーで…。
『グルギャオォウ!』
「ぎゃひー!す、すずめさぁん!」
窓辺で雀さんと語り合っていたその背後から、突然何かが吠えながら飛び出してきた。
何か、そう。何か。スマートなボディ。肉や骨が見える体に少しだけ残る毛は黒く短毛。
シュッとした口元に尖った耳先…。所謂ドーベルマンという犬種である。
元気に生きていたときはきっと警察犬か何かで活躍していたのだろうなぁ、そんな事を感じさせる。
そんなドーベルマンのゾンビ犬は、どや顔で振り返る。
『わふっ』
「わふじゃねーよ!おいその口元で息絶え絶えの雀さんを離せコラ!」
べっとゾンビ犬は雀さんを吐き出す。
ゴロリと地面に転がった。
「あ、あぁぁあ…」
なんと言う無意味な殺生。
酷い外傷は見当たらないものの、器用に犬歯で喉元を捕らえたらしい。
ムカつくほど器用である。雀さんののど元にうっすらと血がにじんでいた。
『あー』
ロープを持ったゾンビが部屋に入ってきた。
私が持つ雀さんを見て、そして私の横に座るゾンビ犬を見て、何かを察したらしく申し訳なさそうに頭を掻いた。
『うあー』
『ハッハッハ』
「畜生。お前の息が笑い声にしか聞こえない」
ゾンビが犬に向かって、ほら謝れよみたいな雰囲気で目で諭した。
犬は『きゅーん』と悲しそうに鳴き、拗ねて体育座りをする私の正面へと歩みより腰を下ろす。
余りグロテスクは凝視したくないものである。
私は極力目を合わせないことにした。
『きゅーん、くぅん』
「…」
『くぅん…、わおーん!わーん!』
「だーもう、分かった!うるさい!」
『ヴォォォオ!』
「お前まで!?」
許した途端のゾンビの絶叫。
両手を高く上げ、よっしゃー!という雰囲気である。
なぜそこまで喜ぶのか。
そして相変わらずこの光景は精神によろしくない。
『マァ』
背後から違うゾンビが現れた。
マァ。それは私の名前である真里らしい。
最近になり皆私の名前を理解したらしく、名前を呼ばれて振り向くとそれはそれは嬉しそうに笑うのだ。
ゾンビなのに。
『マァ』
「何?」
『マァ』
「どうしたの?」
『マァ…』
「だから何なの」
嬉しそうに、笑うのだ…。
私はゾンビの手がもごついているのに気が付いた。
ああ、そうだった。彼らは自分から私に触れることは一切なかった。
出会った当初泣き叫び、触れてきたゾンビを叫びながら背負い投げをしてから誰も触れないのだ。
そしてもう一つ思い出す。
このゾンビ、私を一番最初に発見し、尚且つ背負い投げをされた奴ではないか。
うん、そうに違いない。このオシャレ帽子の下には黒い髪があり、そして脳みそが…、うう。
思いだしたくない。
『マァ?』
「貴方、最初に私と会った人?」
『あぁ』
「やっぱり」
触れた手はとても冷たい。
冷たいのに柔らかく、それでいてハリがった。
握る彼の手の甲は以外にも傷一つなく、普通の人間の手だった。
ゾンビはゆっくりと私の手を握る力を強くした。
見つめ合う私たちの周りを、ゾンビ犬が羨ましそうな瞳をしながら練り歩き、もう一体のゾンビが『えー』と言いながら体を揺らしていた。
目が合ったそのゾンビは、人差し指で自分を指しながら『マァ、マァ!』と言った。
多分、俺も触ってくれ!という意味らしい。
仕方がない。視界に入ったそのゾンビの手はなかなかなグロテスク具合だが、こっちも腹を括るしかない。
右手に帽子ゾンビ、左手にゾンビ犬の飼い主の手を握りながら、私は青空の下に出た。
今日は快晴である。
さぁ、ゾンビ達を引きつれて楽しいピクニックにでも行こうか。
死んでしまった雀さんが息を吹き返し、それ以来の部屋に住み着くのは別のお話。
初めて歩み寄った日。