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異常調査部〜細菌事件〜【3】  作者: 月ノ羽ルナ
6/9

宣戦布告

誘蝶木ゆうちょうぼく旅館で、行方不明だった動物愛護団体四名の死体が発見された


旅館を調査していた淂崎とくざき剛洞こうどうが行方をくらませた事で、両者とも今回の事件と深く関わっている可能性があると判断し、事件の担当は警視庁・情報開示課がする事になった


世瀬よせ 芯也しんや

「芥昱津は、今回の事件での重要参考人として取り調べをさせてもらう」


情報開示課、通称ジョーカーに所属している三名は、異常調査部へとやって来ると、半ば強引にあくたへの取り調べを要求してきた


当のあくたはと言うと、申し訳程度に設置されている来客スペースの机に、だらしなく突っ伏したまま微動だにしない


長くボサボサの髪が、彼の身体を覆い隠している上に、時々「ゔぅ〜」とうめき声のようなものが聞こえてくると、おどろおどろしく近寄り難い雰囲気だ


蔡茌さいし めぐる

「ちょっと待ってくれ、世瀬がいきなり芥を取り調べるなんて、どう言う事か教えてくれ」


状況が飲み込めていないめぐるに答えたのは、自分のデスクの上で、頬杖をついている黎ヰ(くろい)だった


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃん、聞くだけ時間の無駄だって。どーせ、ただの難癖もどきだろ」


黎ヰ(くろい)は、わざわざ()()()を付ける事で、世瀬よせ達に言いがかりにもなり得ないと伝えている


くろうま あおい

「ふんっ、難癖もどきだと?こちらには正当な理由がある。この前は、上手く交わしたつもりかもしれないが、今日はそうはいかないからな!」


偉そうに言い放ったのは、金髪の青年だった。首まである髪は少しウェーブがかっており、シャツにはループタイ、ベストを合わせていた。落ち着きのある堂々とした態度と清楚で洗練された佇まいが、言動に反して青年の上品さを際立たせていた


蔡茌さいし めぐる

「えっと…君は確か、穢佇くんの取り調べ中に黎ヰに追い出されていた」


穢佇えだち風十かざとの取り調べを行っていた際、記録係に扮していた青年は、取り調べ自体を無効だと言い、中止にしようとしたが黎ヰ(くろい)に追い出されていた


くろうま あおい

「失礼な、追い出されてはいないっ。僕が自ら引いたんだ」


ふんっと、鼻を鳴らし腕組みをする青年に、世瀬よせはため息をつき、もう一人の女性は呆れた表情だった


蔡茌さいし めぐる

(結局、誰なんだ)


めぐるの心の内を読んだのか、たまたまタイミングが合ったのか、疑問に答えたのはお茶を運んできた曳汐ひきしおだった


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「彼は、驪蒼さんです。情報開示課の一員であると同時に、警視総監である驪聖さんの御子息であり、異常調査部を設立した驪胡景さんの実弟にあたります」


黎ヰ(くろい)

「因みに、この前上手く交わした〜どうこうの件ってのは、穢佇風十が俺に自白を強要されたって、証言させる事だろぉ。ま、両者の繋がりが発覚した事で、その作戦も意味を無くした訳だがなぁ〜」


その読みは図星で、あおいは独自に穢佇えだちを使い、黎ヰ(くろい)を追い詰めようと考えていた


だが、隅田すみだ穢佇えだちがお互いの協力関係を認めた事であおいの思惑がはずれ、彼は悔しそうに目を逸らした


巫山戯すざけ かのこ

「派手な容姿で誤魔化していても、根本的な部分は何も変わっていない、相変わらず姑息ね」


今まで黙っていた女性が口を開いた。センター分けされた栗色の髪は短めで、黒いタートルネックにシャツを重ね着している


黎ヰ(くろい)

「いやいや、最初にその話題を持ち出したのは、驪蒼だろ。俺は自分の仲間に分かりやすく説明しただけだぜ」


巫山戯すざけ かのこ

「そうやって、関係のない話題で目的を逸らそうとしてるでしょ。時間稼ぎなら無駄よ」


黎ヰ(くろい)を睨みつける、その目には怒りや憎悪が込められていた


何故か、黎ヰ(くろい)に対して敵意が剥き出しの彼女にめぐるは、區鬥くとうの墓参りの際に、会った時の事を思い出した


蔡茌さいし めぐる

「あなたは、確か……す、ざけ、さん?」


巫山戯すざけ かのこ

「あの時はどうも。言ったでしょ、貴方の上司の不正を暴くって」


めぐるは、彼女がどうしてそこまで言い切れるのか不思議に思った


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「その方は、巫山戯麛さんです。異常調査部設立時にいらっしゃいましたが、後に退任されてます」


曳汐ひきしおは先程と同じく、混乱しているめぐるへと紹介をしながら、各机へ淹れたてのお茶が入った湯呑みを置くと、自分は未だ微動だにしないあくたの前の席へと腰を下ろした


蔡茌さいし めぐる

「えっと……ひ、ひきしお?」


めぐるが戸惑うのも無理はなかった。ジョーカーの面々にはお茶が出されず、決っして感じが良いとは言えない曳汐ひきしおの態度に、めぐるの胃は徐々に痛みだした


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「塩を撒いても良いんですけど、一般的には相手方が立ち去ってからですよね?」


いつもの表情だが、曳汐ひきしおは明らかに怒っていた。普段、感情の乱れが少ない彼女がこうなったのは、ジョーカーがあくたを重要参考人だと言い張り、事件に巻き込もうとしているからだ


世瀬よせ 芯也しんや

「随分な言い草だな。全く、監視係なら教育からやり直した方がいいんじゃないか。あまりに酷いと程度が知れるぞ」


蔡茌さいし めぐる

「世瀬」


厳しい友人の言葉に、めぐるの表情は曇っていく。異常調査部へあからさまな敵意を向けた態度に、ついこの間まで、酒を飲みながら世間話をしていた世瀬よせなのかと、疑わずにはいられなかった


黎ヰ(くろい)

「自己紹介もなく、勝手に乗り込んで来たのはそっちだろぉ。歓迎される気がないのが透けて見えるから、断る手間を省かせてやろって、優しさが分からないかねぇ〜」


くろうま あおい

「茶など不要だ。何が入っているか、分かったもんじゃないからな」


蔡茌さいし めぐる

「なっ?!」


まるで毒でも入っているかのような言い草に、めぐるはわざわざ淹れてくれた曳汐ひきしおの事を思うと、何か言い返したくなる


が、明らかに歳下のあおいに声を荒げるのも違う気がして、色々と考えた結果、悪いものは入っていないと言うように勢いよくお茶を飲んだ


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「中身は梅昆布茶と抹茶と紅茶のブレンドです。茶葉が中途半端だったもので」


蔡茌さいし めぐる

「ぶっ、うぅ」


吐き出しそうになるのを堪え、何とか飲み込んだもののめぐるの口の中は、訳の分からない味が広がり時間が経つにつれ、舌を洗い流したくなってくる


黎ヰ(くろい)

「クククク、紾ちゃん最高!」


それを見て上機嫌で笑った黎ヰ(くろい)は、お茶を飲み干した


黎ヰ(くろい)

「曳汐もあんがとな。独特で面白い味だぁ」


決っして美味しくは無い筈なのに、笑顔で感謝を伝える黎ヰ(くろい)


蔡茌さいし めぐる

(いま思ったけど、ここに来てからまともな飲み物飲めて無いんじゃないか…俺)


沈殿したココアに苦瓜味のお茶を思い出しながら、持参していた水筒からお茶を飲み、口の中をリセットする


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃんの場合、中身を勝手に勘違いしたのと、間違って渡されたのを素直に飲んだ結果だろぉ〜。因みに今回に関して言えば、色と匂いで察せると思うがなぁ」


めぐるの心を読んだ黎ヰ(くろい)の表情は、腹だたしくなるくらいニヤついていた


黎ヰ(くろい)に反論したかったが、最も過ぎて結果、何も反論できなかった


蔡茌さいし めぐる

「……曳汐、淹れてくれてありがとう。できれば今度からは、ブレンドは控えて欲しいんだけど…」


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「そうですね。私もあまり美味しくなかったので今後、余剰分が出た場合、黎ヰさんにだけお出ししますね」


予想外の曳汐ひきしおの言葉に、面食らった黎ヰ(くろい)だったが、味の有無よりも面白さを優先させ、笑いながら承諾する


黎ヰ(くろい)

「アハハハハハ、いいねぇ〜。次の機会が楽しみになって来た」


いつもの異常調査部の日常に、ジョーカーの面々は馬鹿にされているのかと怒り、特にくろうまは顔を赤くさせている


くろうま あおい

「おいっ、僕を無視するな!」


黎ヰ(くろい)

「会話に入りたいなら、茶でも飲んだらどうだぁ〜」


黎ヰ(くろい)の冗談を間に受けた曳汐ひきしおは、少し考えた後に上司の顔を立てる為に申し出た


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「……黎ヰさんが言うなら、淹れましょうか?」


くろうま あおい

「飲むわけないだろっ!?」


世瀬よせ 芯也しんや

「落ち着け蒼。お前は少し下がってろ」


完全に、黎ヰ(くろい)に遊ばれているくろうまに見兼ねた世瀬よせは、彼の肩を持つとグッと後ろへ引く


くろうま あおい

「ぐっ、……ふん!」


一瞬、悔しそうに顔を歪めたが、ここで文句を言っても話がまとまらないので、くろうまは仕方なく引き下がった


世瀬よせ 芯也しんや

「下らない遊びは終わりにしてくれ、事件解決の為だ。芥に話を聞かせてもらおうか」


未だ、あくたが机に突っ伏したままだが、彼は世瀬よせ達が来る前からこの状態で、異常調査部の面々はその理由を知っていた


先程の騒ぎでも反応を示さないあくたを見て、黎ヰ(くろい)達は心配する


黎ヰ(くろい)

「タイミングが絶滅的に悪りぃから、諸々の文句なら出直して来てくんね?」


今度は、冗談ではなく真剣に言った黎ヰ(くろい)だったが、巫山戯すざけがキッと睨みつけた


巫山戯すざけ かのこ

「笑わせないで、都合なんて関係ない。やましい事が無いのなら、拒む理由もないでしょ。それとも、その状態を見るに…何かあるのかしら?」


巫山戯すざけはわざと挑発する事で、取り調べに応じるように誘導しようとするが、黎ヰ(くろい)は冷静に言葉を返した


黎ヰ(くろい)

「そもそも、うちの芥に答える義務がないんだって話し。重要参考人ってのも、見当違い過ぎて笑えねぇ」


彼らが抗議の声を上げる前に、黎ヰ(くろい)は話を続ける


黎ヰ(くろい)

「芥に目を付けたのも、暗に学会に参加してたのと細菌の検査をしてたからって理由だろぉ〜。それか、失踪した二名と関わりがあったとかか?いずれにしろ、どれも重要参考人にはなり得ない。だから最初に難癖()()()だって言ったろ」


黎ヰ(くろい)は本当に下らないと、心底つまらなさそうな目をジョーカーへと向ける


世瀬よせ 芯也しんや

「発見された遺体は特殊な状態だった。それも、専門的な知識を必要とするものだ。こちらで調査した結果、芥が関与している可能性がある、巫山戯が言ったように何も無いのならこちらの質疑に応答しても、問題ないだろ」


黎ヰ(くろい)

「御丁寧にどーも。異常調査部、部長として言わせてもらうが、芥をその事件の重要参考人とする事は、俺が認めねぇ」


下がっていたくろうまは、黎ヰ(くろい)の言葉が気に触り声を荒げた


くろうま あおい

「お前が部長などと名乗るな!そこは本来、胡景兄さんの居場所だっ!!」


今にも掴みかかりそうな勢いのくろうまを、慌てて世瀬よせが止める


世瀬よせ 芯也しんや

「おぃ、下がってろと言った筈だ」


くろうま あおい

「うるさいっ、僕は誰の指図も受けない。お前のせいで、胡景兄さんがどんなに惨めな思いをしたか、お前さえ居なければ、兄さんは今もエリートコースだったんだっ。それを、汚い手で兄さんを貶めた!僕は絶対にその座からお前を引きずり下ろしてやるっ!!」


巫山戯すざけかのこ

「分かってる。少し落ち着きなさい」


興奮するくろうまを、巫山戯すざけがため息混じりに宥める


蔡茌さいし めぐる

(何の話をしてるんだ…黎ヰが彼のお兄さんを貶めたって、何かの間違いじゃ…)


この中で、唯一状況が飲み込めていないめぐるにいち早く気づいた世瀬よせは、残酷な笑みで浮かべ言い放った


世瀬よせ 芯也しんや

「この手は避けたかったが、取り調べを拒むなら仕方ない。異常調査部の活動を停止とさせてもらう」


黎ヰ(くろい)は涼しい顔で続きを促していたが、めぐるは友人から発せられた、衝撃な言葉に口を挟まずにはいられなかった


蔡茌さいし めぐる

「世瀬、いきなりどうしたんだ。停止って、冗談……だよな」


世瀬よせが、冗談を言っている雰囲気ではない事はめぐるも理解していたが、タチの悪い冗談であって欲しいと願ってしまう


世瀬よせ 芯也しんや

「紾、お前はまだ通院しているな」


だが、友人の口からは願っていた言葉を聞く事は叶わず、それどころか信じられない言葉がめぐるの耳に届いた


蔡茌さいし めぐる

「いきなりなんだ、わざわざ確認しなくても知ってるだろ」


世瀬よせ 芯也しんや

「あぁ、拳銃を使用した事が発端となり、始まったカウンセリングだ。問題がなければ一日で終わる筈が、お前は随分な時間を掛けてるな」


まるで、犯人を問いただすかのような目を向けられると、めぐるは動揺して何も言う事ができなかった


世瀬よせ 芯也しんや

「何か問題があるんじゃないか?例えば、異常調査部の活動や環境とか。言ってただろ、初めの事件では犯人と揉み合い、確保するまでに時間が掛り大怪我をしたって。黎ヰもその場に居たんだろ、二人も居てどうしてそうなった。ちゃんと状況を見極めて応援を呼べば、そんな事にはならなかったんじゃないか」


世瀬よせの狙いが分かったくろうま巫山戯すざけは、畳み掛けるように彼に続く


くろうま あおい

「僕も知っているぞ。調査で訪れた住宅地では、前科者の集まりだったらしいな、しかも何故か火災が発生した。その場にも黎ヰは居たそうじゃないか」


巫山戯すざけ かのこ

「拳銃の発砲に関しても、不可解よね。部長がその場で指示した…とも、考えられるわ」


三人は現在、めぐるの置かれている状況は全て、黎ヰ(くろい)が関わっているせいだと言っていた


確かに無茶苦茶な事ばかりだが、黎ヰ(くろい)なりに一生懸命に、事件を解決しようとしている事を、めぐるは知っていた


自分のせいで、異常調査部の活動が停止するどころか、黎ヰ(くろい)にまで被害が出てしまうと思っためぐるは、慌てて説明しようと間に入る


蔡茌さいし めぐる

「待ってくれ!黎ヰに何かあるなら、それは監視係の俺のせいだ。いま言った疑問は全部、説明できる!説明させてくれ」


真剣な表情のめぐるに、曳汐ひきしおは目を見開いて驚いていた


曳汐ひきしお 煇羽やくは

(どうして?蔡茌さんは私と違って、ここ以外にも居場所はある筈なのに)


彼女には、異常調査部以外にも居場所があるめぐるが、ここまで必死になる理由が理解できないでいた


ジョーカーは、わざと誇張気味に言ってはいるが、実際黎ヰ(くろい)の奇想天外な行動で、めぐるが振り回されているのも事実だ。それだけでなく、異常調査部自体がめぐるの神経をすり減らしていると、きっと誰もがそう思っていただろう


めぐるの言葉が嬉しくて黎ヰ(くろい)は、誰にも見られる事なく、クスリと笑みを漏らすと予め用意していた資料の束を、世瀬よせへ向かって放り投げた


黎ヰ(くろい)

「紾ちゃん、説明する必要ねーよ。異常調査部の活動報告書だ」


咄嗟に受け止めた世瀬よせは、パラパラと中身を見る。そこには、黎ヰ(くろい)が丁寧に作成した活動報告が記載されており、さきほど自分達が言っていた事柄についても詳細が書かれていた


しかも、管理官である父の承認判子も押されている。と言う事は、この活動報告書は正式なものだと証明されていた


世瀬よせ 芯也しんや

「……」


苦虫を噛み潰した表情で、世瀬よせは押し黙る


プルルル プルルル


沈黙を破る様に異常調査部の電話が鳴ると、席を立った曳汐ひきしおが取る


世瀬よせ 芯也しんや

「だからどうした、いずれにせよ今の紾の精神状態では事件に関わる事は難しい。芥もそうだ、いくらお前が否定しても俺達は重要参考人だと疑ってない。疑いが掛かったままの奴を活動させる訳にはいかないだろ。部の半数が居ない状態で、刑事課の仕事が務まるとも思えないがな」


黎ヰ(くろい)

「足掻くねぇ〜。ご心配なくとも、紾ちゃんも芥も謹慎にはさせねーよ」


どちらも譲らないと言うように、お互いの視線がぶつかり合う


黎ヰ(くろい)

「悪いが、今の情報開示課に俺たちをどうこうできる権利はないぜ。実績上げる為に、事件解決に勤しんでるんなら、目的である俺じゃなく手段である地位獲得に励めよなぁ」


くろうま あおい

「その為に、取り調べをすると言っているっ!いい加減に顔を上げたらどうだっ!」


痺れを切らしたくろうまは、ズカズカとあくたの方へ向かうと、彼の腕を掴み上げた


あくた 昱津いくつ

「ゔぅ〜ゔ、ゔっうわあああああああん」


すると、何故か号泣し鼻水を垂らしたあくたが顔を上げる。ただでさえ、血色が悪いあくたが大号泣しているせいで、そのインパクトは絶大だった


黎ヰ(くろい)

「今の芥に、近づかない方がいいぜ〜」


くろうま あおい

「ひっ?!」


すでに遅い黎ヰ(くろい)のアドバイスを無視し、小さく叫ぶと、驚きと恐怖のあまりくろうまはその場で尻餅をついた


ドサッ


と、机の上に置いてあった週刊誌がくろうまの足元へと落ちる。見開きには【医療機器学会の参加者が、次々に健康被害に!その裏には陰謀が!】【世界が注目する学会で、細菌がばら撒かれていた!】などと書かれていた


くろうま あおい

「ぼ、僕とした事が…不覚だった」


とりあえず冷静になろうと、自分に言い聞かせ立ち上がると、くろうまは埃を払った


くろうま あおい

「ふんっ、不意をついたつもりかもしれないがーーって、な、な、なんだっ?!」


急にあくたが、くろうまへと飛びつく


あくた 昱津いくつ

「ゔぅぅ〜、どう…し…て…ゔぅ〜、グスッグスッ」


くろうま あおい

「おいっ、離せ!僕の服で涙を拭くなっ!」


長身のあくたに飛びつかれてしまえば、くろうまが自力で引き剥がすのは難しい


蔡茌さいし めぐる

「あ、あくた、落ち着いてくれ」


このままでは、あくたの体重に耐えられなくなったくろうまが、床に頭を打ってしまうかもしれないと、めぐるは二人を引き剥がす


あくた 昱津いくつ

「あ、あれ…めぐ…る、くん??じゃあ…君は…」


泣き過ぎで頭痛がし、おまけに視界がボヤけているあくたは、目を細めて前に居る人物をジッと見た


あくた 昱津いくつ

「小さい…紾、くん?」


くろうま あおい

「そんな訳あるかっ!」


すかさずくろうまのツッコミが入るも、あくたはピンと来ていない様子で、頭を傾げる


彼は、朝から週刊誌に掲載されているゴシップネタに、ショックを受けずっと伏せっていた。各出版社は、医療機器学会と参加者達の体調不良を結びつけた


せっかく、あくたが細菌の原因を突き止めたのに、懸念していた事態が起り、彼はかなり落ち込んでいた


めぐる達がとりあえず落ち着くまで、様子を見ていた所に、ジョーカーの面々が乗りこんで来て、冒頭に戻る


黎ヰ(くろい)

「だ〜か〜ら〜、タイミングが絶滅的・壊滅的・破滅的に悪いって言ったろ」


くろうま あおい

「そこまで言ってなかっただろ!!」


騒ぐくろうまは、めぐる同様に完全に黎ヰ(くろい)のペースにのせられていた。反応をしなければからかわれる事もないのだが、その事にくろうまめぐるも気づいてはいない


黎ヰ(くろい)

(それにしても"異常調査部に一任した方が早そう"なんて明言しときながら、よくも抜け抜けとジョーカーに担当させたな、あの狸)


狸とは、管理官である世瀬よせ哲乙あきおの事で、数日前に黎ヰ(くろい)と話していた時は、確かにそう言っていた


それが、偶然なのか情報開示課が追っていた動物愛護団体の件と結びついた事で、あっさり事件の担当をジョーカーにしたという事だろう


いい加減なのか、管理官の手のひら返しの速さに黎ヰ(くろい)は、感心すら覚えた


黎ヰ(くろい)

(にしても、芥に目を付けるとはなぁ。発見された遺体が特殊って理由で疑いを掛けて来たって事は、解剖医または医師の知識が必須って事か?と、なると十中八九遺体には何らかの手が加えられていた筈だ)


もちろん黎ヰ(くろい)は、あくたが関係しているとは微塵も思っていないし、本当に医療機器学会の事を思い、独自に細菌について調べていた事も知っていた


黎ヰ(くろい)

(このままじゃ、大人しく帰ってくれそうにないよなぁ〜。いっそう、俺が取り調べに同行でもするか?)


黎ヰ(くろい)がそんな事を考えていた矢先、電話が終えた曳汐ひきしおが「あの」と、戸惑いを含んだ表情で世瀬よせ達を見た


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「誘蝶木旅館で、芥さんの知識をお借りしたいと、情報開示課の方からご依頼が来たんですけど」


…… ……


一瞬、その場に居た全員が耳を疑った


くろうま あおい

「な、な、なな」


巫山戯すざけかのこ

「はぁ?!」


これに関しては、ジョーカーも予想外だったのだろう。くろうまはともかく、巫山戯すざけまで驚きを口にしていた


世瀬よせは、曳汐ひきしおの言う"情報開示課の方"が残りの一人しかいないと気づき、思わず額を抑えた


世瀬よせ 芯也しんや

「小尾檜田か。何を考えてんだ、あいつは…」


小尾檜田おびひだは、先行して誘蝶木ゆうちょうぼく旅館で事件の捜査を行っていた。それが何をどうすれば、あくたの協力を仰ぐ事になるのか……


困惑しているジョーカー達をよそに、黎ヰ(くろい)は顔面を腕で隠しながら身体を震わせていた


蔡茌さいし めぐる

(楽しんでるな)


曳汐ひきしお 煇羽やくは

(絶対、笑ってる)


あくた 昱津いくつ

「やく、は…ちゃん。その旅館って…まさか…」


名指しで指名されたあくたは、目を輝かせて曳汐ひきしおを見た


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「伺った話によると、四名のご遺体の状態を調べて欲しいとの事です。芥さんが調査していた細菌との関連もあるみたいでーー」


あくた 昱津いくつ

「僕、行く!」


曳汐ひきしおが言い終わる前に、あくたは挙手すると、いつもとは比べものにならないくらいのスピードで、準備を始めた


くろうま あおい

「あの小尾檜田だ。何か考えがあるに決まってる」


世瀬よせ 芯也しんや

(考えが無いと困る。まぁ、この動かない状況よりは、現場へと向かわせた方が、色々と聞き出せるかもしれないな)


そう結論付けると、世瀬よせは小さくため息をついて、めぐるを見た


世瀬よせ 芯也しんや

「俺は先に行ってる」


黎ヰ(くろい)の言うように、異常調査部を謹慎にする権利はジョーカーにはまだない。なら、行動を共にし事が起こるのを待てばいいと、あえて世瀬よせめぐるに来るように促したのだった

世瀬よせ 芯也しんやプロフィール〜


性別/男 年齢/27歳  誕生日/9月11日  血液型/A型

好きな食べ物/寿司、おでん  嫌いな食べ物/グラタン

好きな飲み物/エナジードリンク  お気に入りスポット/道場


経歴/父は警視庁・管理官。母は剣道道場の師範代

胡景と共に異常調査部を設立するも、後に左遷されてしまう。三年後の現在、黎ヰの居る異常調査部を終わらせるべく、情報開示課を設立する


性格/狡猾で抜け目のない性格。厳しい両親に育てられた。人を使う事に対して躊躇いがない

先輩である區鬥くとうには、警察官としてのいろはを教わった

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