宣戦布告
誘蝶木旅館で、行方不明だった動物愛護団体四名の死体が発見された
旅館を調査していた淂崎と剛洞が行方をくらませた事で、両者とも今回の事件と深く関わっている可能性があると判断し、事件の担当は警視庁・情報開示課がする事になった
世瀬 芯也
「芥昱津は、今回の事件での重要参考人として取り調べをさせてもらう」
情報開示課、通称ジョーカーに所属している三名は、異常調査部へとやって来ると、半ば強引に芥への取り調べを要求してきた
当の芥はと言うと、申し訳程度に設置されている来客スペースの机に、だらしなく突っ伏したまま微動だにしない
長くボサボサの髪が、彼の身体を覆い隠している上に、時々「ゔぅ〜」とうめき声のようなものが聞こえてくると、おどろおどろしく近寄り難い雰囲気だ
蔡茌 紾
「ちょっと待ってくれ、世瀬がいきなり芥を取り調べるなんて、どう言う事か教えてくれ」
状況が飲み込めていない紾に答えたのは、自分のデスクの上で、頬杖をついている黎ヰだった
黎ヰ
「紾ちゃん、聞くだけ時間の無駄だって。どーせ、ただの難癖もどきだろ」
黎ヰは、わざわざもどきを付ける事で、世瀬達に言いがかりにもなり得ないと伝えている
驪 蒼
「ふんっ、難癖もどきだと?こちらには正当な理由がある。この前は、上手く交わしたつもりかもしれないが、今日はそうはいかないからな!」
偉そうに言い放ったのは、金髪の青年だった。首まである髪は少しウェーブがかっており、シャツにはループタイ、ベストを合わせていた。落ち着きのある堂々とした態度と清楚で洗練された佇まいが、言動に反して青年の上品さを際立たせていた
蔡茌 紾
「えっと…君は確か、穢佇くんの取り調べ中に黎ヰに追い出されていた」
穢佇風十の取り調べを行っていた際、記録係に扮していた青年は、取り調べ自体を無効だと言い、中止にしようとしたが黎ヰに追い出されていた
驪 蒼
「失礼な、追い出されてはいないっ。僕が自ら引いたんだ」
ふんっと、鼻を鳴らし腕組みをする青年に、世瀬はため息をつき、もう一人の女性は呆れた表情だった
蔡茌 紾
(結局、誰なんだ)
紾の心の内を読んだのか、たまたまタイミングが合ったのか、疑問に答えたのはお茶を運んできた曳汐だった
曳汐 煇羽
「彼は、驪蒼さんです。情報開示課の一員であると同時に、警視総監である驪聖さんの御子息であり、異常調査部を設立した驪胡景さんの実弟にあたります」
黎ヰ
「因みに、この前上手く交わした〜どうこうの件ってのは、穢佇風十が俺に自白を強要されたって、証言させる事だろぉ。ま、両者の繋がりが発覚した事で、その作戦も意味を無くした訳だがなぁ〜」
その読みは図星で、蒼は独自に穢佇を使い、黎ヰを追い詰めようと考えていた
だが、隅田と穢佇がお互いの協力関係を認めた事で蒼の思惑がはずれ、彼は悔しそうに目を逸らした
巫山戯 麛
「派手な容姿で誤魔化していても、根本的な部分は何も変わっていない、相変わらず姑息ね」
今まで黙っていた女性が口を開いた。センター分けされた栗色の髪は短めで、黒いタートルネックにシャツを重ね着している
黎ヰ
「いやいや、最初にその話題を持ち出したのは、驪蒼だろ。俺は自分の仲間に分かりやすく説明しただけだぜ」
巫山戯 麛
「そうやって、関係のない話題で目的を逸らそうとしてるでしょ。時間稼ぎなら無駄よ」
黎ヰを睨みつける、その目には怒りや憎悪が込められていた
何故か、黎ヰに対して敵意が剥き出しの彼女に紾は、區鬥の墓参りの際に、会った時の事を思い出した
蔡茌 紾
「あなたは、確か……す、ざけ、さん?」
巫山戯 麛
「あの時はどうも。言ったでしょ、貴方の上司の不正を暴くって」
紾は、彼女がどうしてそこまで言い切れるのか不思議に思った
曳汐 煇羽
「その方は、巫山戯麛さんです。異常調査部設立時にいらっしゃいましたが、後に退任されてます」
曳汐は先程と同じく、混乱している紾へと紹介をしながら、各机へ淹れたてのお茶が入った湯呑みを置くと、自分は未だ微動だにしない芥の前の席へと腰を下ろした
蔡茌 紾
「えっと……ひ、ひきしお?」
紾が戸惑うのも無理はなかった。ジョーカーの面々にはお茶が出されず、決っして感じが良いとは言えない曳汐の態度に、紾の胃は徐々に痛みだした
曳汐 煇羽
「塩を撒いても良いんですけど、一般的には相手方が立ち去ってからですよね?」
いつもの表情だが、曳汐は明らかに怒っていた。普段、感情の乱れが少ない彼女がこうなったのは、ジョーカーが芥を重要参考人だと言い張り、事件に巻き込もうとしているからだ
世瀬 芯也
「随分な言い草だな。全く、監視係なら教育からやり直した方がいいんじゃないか。あまりに酷いと程度が知れるぞ」
蔡茌 紾
「世瀬」
厳しい友人の言葉に、紾の表情は曇っていく。異常調査部へあからさまな敵意を向けた態度に、ついこの間まで、酒を飲みながら世間話をしていた世瀬なのかと、疑わずにはいられなかった
黎ヰ
「自己紹介もなく、勝手に乗り込んで来たのはそっちだろぉ。歓迎される気がないのが透けて見えるから、断る手間を省かせてやろって、優しさが分からないかねぇ〜」
驪 蒼
「茶など不要だ。何が入っているか、分かったもんじゃないからな」
蔡茌 紾
「なっ?!」
まるで毒でも入っているかのような言い草に、紾はわざわざ淹れてくれた曳汐の事を思うと、何か言い返したくなる
が、明らかに歳下の蒼に声を荒げるのも違う気がして、色々と考えた結果、悪いものは入っていないと言うように勢いよくお茶を飲んだ
曳汐 煇羽
「中身は梅昆布茶と抹茶と紅茶のブレンドです。茶葉が中途半端だったもので」
蔡茌 紾
「ぶっ、うぅ」
吐き出しそうになるのを堪え、何とか飲み込んだものの紾の口の中は、訳の分からない味が広がり時間が経つにつれ、舌を洗い流したくなってくる
黎ヰ
「クククク、紾ちゃん最高!」
それを見て上機嫌で笑った黎ヰは、お茶を飲み干した
黎ヰ
「曳汐もあんがとな。独特で面白い味だぁ」
決っして美味しくは無い筈なのに、笑顔で感謝を伝える黎ヰ
蔡茌 紾
(いま思ったけど、ここに来てからまともな飲み物飲めて無いんじゃないか…俺)
沈殿したココアに苦瓜味のお茶を思い出しながら、持参していた水筒からお茶を飲み、口の中をリセットする
黎ヰ
「紾ちゃんの場合、中身を勝手に勘違いしたのと、間違って渡されたのを素直に飲んだ結果だろぉ〜。因みに今回に関して言えば、色と匂いで察せると思うがなぁ」
紾の心を読んだ黎ヰの表情は、腹だたしくなるくらいニヤついていた
黎ヰに反論したかったが、最も過ぎて結果、何も反論できなかった
蔡茌 紾
「……曳汐、淹れてくれてありがとう。できれば今度からは、ブレンドは控えて欲しいんだけど…」
曳汐 煇羽
「そうですね。私もあまり美味しくなかったので今後、余剰分が出た場合、黎ヰさんにだけお出ししますね」
予想外の曳汐の言葉に、面食らった黎ヰだったが、味の有無よりも面白さを優先させ、笑いながら承諾する
黎ヰ
「アハハハハハ、いいねぇ〜。次の機会が楽しみになって来た」
いつもの異常調査部の日常に、ジョーカーの面々は馬鹿にされているのかと怒り、特に驪は顔を赤くさせている
驪 蒼
「おいっ、僕を無視するな!」
黎ヰ
「会話に入りたいなら、茶でも飲んだらどうだぁ〜」
黎ヰの冗談を間に受けた曳汐は、少し考えた後に上司の顔を立てる為に申し出た
曳汐 煇羽
「……黎ヰさんが言うなら、淹れましょうか?」
驪 蒼
「飲むわけないだろっ!?」
世瀬 芯也
「落ち着け蒼。お前は少し下がってろ」
完全に、黎ヰに遊ばれている驪に見兼ねた世瀬は、彼の肩を持つとグッと後ろへ引く
驪 蒼
「ぐっ、……ふん!」
一瞬、悔しそうに顔を歪めたが、ここで文句を言っても話がまとまらないので、驪は仕方なく引き下がった
世瀬 芯也
「下らない遊びは終わりにしてくれ、事件解決の為だ。芥に話を聞かせてもらおうか」
未だ、芥が机に突っ伏したままだが、彼は世瀬達が来る前からこの状態で、異常調査部の面々はその理由を知っていた
先程の騒ぎでも反応を示さない芥を見て、黎ヰ達は心配する
黎ヰ
「タイミングが絶滅的に悪りぃから、諸々の文句なら出直して来てくんね?」
今度は、冗談ではなく真剣に言った黎ヰだったが、巫山戯がキッと睨みつけた
巫山戯 麛
「笑わせないで、都合なんて関係ない。やましい事が無いのなら、拒む理由もないでしょ。それとも、その状態を見るに…何かあるのかしら?」
巫山戯はわざと挑発する事で、取り調べに応じるように誘導しようとするが、黎ヰは冷静に言葉を返した
黎ヰ
「そもそも、うちの芥に答える義務がないんだって話し。重要参考人ってのも、見当違い過ぎて笑えねぇ」
彼らが抗議の声を上げる前に、黎ヰは話を続ける
黎ヰ
「芥に目を付けたのも、暗に学会に参加してたのと細菌の検査をしてたからって理由だろぉ〜。それか、失踪した二名と関わりがあったとかか?いずれにしろ、どれも重要参考人にはなり得ない。だから最初に難癖もどきだって言ったろ」
黎ヰは本当に下らないと、心底つまらなさそうな目をジョーカーへと向ける
世瀬 芯也
「発見された遺体は特殊な状態だった。それも、専門的な知識を必要とするものだ。こちらで調査した結果、芥が関与している可能性がある、巫山戯が言ったように何も無いのならこちらの質疑に応答しても、問題ないだろ」
黎ヰ
「御丁寧にどーも。異常調査部、部長として言わせてもらうが、芥をその事件の重要参考人とする事は、俺が認めねぇ」
下がっていた驪は、黎ヰの言葉が気に触り声を荒げた
驪 蒼
「お前が部長などと名乗るな!そこは本来、胡景兄さんの居場所だっ!!」
今にも掴みかかりそうな勢いの驪を、慌てて世瀬が止める
世瀬 芯也
「おぃ、下がってろと言った筈だ」
驪 蒼
「うるさいっ、僕は誰の指図も受けない。お前のせいで、胡景兄さんがどんなに惨めな思いをしたか、お前さえ居なければ、兄さんは今もエリートコースだったんだっ。それを、汚い手で兄さんを貶めた!僕は絶対にその座からお前を引きずり下ろしてやるっ!!」
巫山戯麛
「分かってる。少し落ち着きなさい」
興奮する驪を、巫山戯がため息混じりに宥める
蔡茌 紾
(何の話をしてるんだ…黎ヰが彼のお兄さんを貶めたって、何かの間違いじゃ…)
この中で、唯一状況が飲み込めていない紾にいち早く気づいた世瀬は、残酷な笑みで浮かべ言い放った
世瀬 芯也
「この手は避けたかったが、取り調べを拒むなら仕方ない。異常調査部の活動を停止とさせてもらう」
黎ヰは涼しい顔で続きを促していたが、紾は友人から発せられた、衝撃な言葉に口を挟まずにはいられなかった
蔡茌 紾
「世瀬、いきなりどうしたんだ。停止って、冗談……だよな」
世瀬が、冗談を言っている雰囲気ではない事は紾も理解していたが、タチの悪い冗談であって欲しいと願ってしまう
世瀬 芯也
「紾、お前はまだ通院しているな」
だが、友人の口からは願っていた言葉を聞く事は叶わず、それどころか信じられない言葉が紾の耳に届いた
蔡茌 紾
「いきなりなんだ、わざわざ確認しなくても知ってるだろ」
世瀬 芯也
「あぁ、拳銃を使用した事が発端となり、始まったカウンセリングだ。問題がなければ一日で終わる筈が、お前は随分な時間を掛けてるな」
まるで、犯人を問いただすかのような目を向けられると、紾は動揺して何も言う事ができなかった
世瀬 芯也
「何か問題があるんじゃないか?例えば、異常調査部の活動や環境とか。言ってただろ、初めの事件では犯人と揉み合い、確保するまでに時間が掛り大怪我をしたって。黎ヰもその場に居たんだろ、二人も居てどうしてそうなった。ちゃんと状況を見極めて応援を呼べば、そんな事にはならなかったんじゃないか」
世瀬の狙いが分かった驪と巫山戯は、畳み掛けるように彼に続く
驪 蒼
「僕も知っているぞ。調査で訪れた住宅地では、前科者の集まりだったらしいな、しかも何故か火災が発生した。その場にも黎ヰは居たそうじゃないか」
巫山戯 麛
「拳銃の発砲に関しても、不可解よね。部長がその場で指示した…とも、考えられるわ」
三人は現在、紾の置かれている状況は全て、黎ヰが関わっているせいだと言っていた
確かに無茶苦茶な事ばかりだが、黎ヰなりに一生懸命に、事件を解決しようとしている事を、紾は知っていた
自分のせいで、異常調査部の活動が停止するどころか、黎ヰにまで被害が出てしまうと思った紾は、慌てて説明しようと間に入る
蔡茌 紾
「待ってくれ!黎ヰに何かあるなら、それは監視係の俺のせいだ。いま言った疑問は全部、説明できる!説明させてくれ」
真剣な表情の紾に、曳汐は目を見開いて驚いていた
曳汐 煇羽
(どうして?蔡茌さんは私と違って、ここ以外にも居場所はある筈なのに)
彼女には、異常調査部以外にも居場所がある紾が、ここまで必死になる理由が理解できないでいた
ジョーカーは、わざと誇張気味に言ってはいるが、実際黎ヰの奇想天外な行動で、紾が振り回されているのも事実だ。それだけでなく、異常調査部自体が紾の神経をすり減らしていると、きっと誰もがそう思っていただろう
紾の言葉が嬉しくて黎ヰは、誰にも見られる事なく、クスリと笑みを漏らすと予め用意していた資料の束を、世瀬へ向かって放り投げた
黎ヰ
「紾ちゃん、説明する必要ねーよ。異常調査部の活動報告書だ」
咄嗟に受け止めた世瀬は、パラパラと中身を見る。そこには、黎ヰが丁寧に作成した活動報告が記載されており、さきほど自分達が言っていた事柄についても詳細が書かれていた
しかも、管理官である父の承認判子も押されている。と言う事は、この活動報告書は正式なものだと証明されていた
世瀬 芯也
「……」
苦虫を噛み潰した表情で、世瀬は押し黙る
プルルル プルルル
沈黙を破る様に異常調査部の電話が鳴ると、席を立った曳汐が取る
世瀬 芯也
「だからどうした、いずれにせよ今の紾の精神状態では事件に関わる事は難しい。芥もそうだ、いくらお前が否定しても俺達は重要参考人だと疑ってない。疑いが掛かったままの奴を活動させる訳にはいかないだろ。部の半数が居ない状態で、刑事課の仕事が務まるとも思えないがな」
黎ヰ
「足掻くねぇ〜。ご心配なくとも、紾ちゃんも芥も謹慎にはさせねーよ」
どちらも譲らないと言うように、お互いの視線がぶつかり合う
黎ヰ
「悪いが、今の情報開示課に俺たちをどうこうできる権利はないぜ。実績上げる為に、事件解決に勤しんでるんなら、目的である俺じゃなく手段である地位獲得に励めよなぁ」
驪 蒼
「その為に、取り調べをすると言っているっ!いい加減に顔を上げたらどうだっ!」
痺れを切らした驪は、ズカズカと芥の方へ向かうと、彼の腕を掴み上げた
芥 昱津
「ゔぅ〜ゔ、ゔっうわあああああああん」
すると、何故か号泣し鼻水を垂らした芥が顔を上げる。ただでさえ、血色が悪い芥が大号泣しているせいで、そのインパクトは絶大だった
黎ヰ
「今の芥に、近づかない方がいいぜ〜」
驪 蒼
「ひっ?!」
すでに遅い黎ヰのアドバイスを無視し、小さく叫ぶと、驚きと恐怖のあまり驪はその場で尻餅をついた
ドサッ
と、机の上に置いてあった週刊誌が驪の足元へと落ちる。見開きには【医療機器学会の参加者が、次々に健康被害に!その裏には陰謀が!】【世界が注目する学会で、細菌がばら撒かれていた!】などと書かれていた
驪 蒼
「ぼ、僕とした事が…不覚だった」
とりあえず冷静になろうと、自分に言い聞かせ立ち上がると、驪は埃を払った
驪 蒼
「ふんっ、不意をついたつもりかもしれないがーーって、な、な、なんだっ?!」
急に芥が、驪へと飛びつく
芥 昱津
「ゔぅぅ〜、どう…し…て…ゔぅ〜、グスッグスッ」
驪 蒼
「おいっ、離せ!僕の服で涙を拭くなっ!」
長身の芥に飛びつかれてしまえば、驪が自力で引き剥がすのは難しい
蔡茌 紾
「あ、あくた、落ち着いてくれ」
このままでは、芥の体重に耐えられなくなった驪が、床に頭を打ってしまうかもしれないと、紾は二人を引き剥がす
芥 昱津
「あ、あれ…めぐ…る、くん??じゃあ…君は…」
泣き過ぎで頭痛がし、おまけに視界がボヤけている芥は、目を細めて前に居る人物をジッと見た
芥 昱津
「小さい…紾、くん?」
驪 蒼
「そんな訳あるかっ!」
すかさず驪のツッコミが入るも、芥はピンと来ていない様子で、頭を傾げる
彼は、朝から週刊誌に掲載されているゴシップネタに、ショックを受けずっと伏せっていた。各出版社は、医療機器学会と参加者達の体調不良を結びつけた
せっかく、芥が細菌の原因を突き止めたのに、懸念していた事態が起り、彼はかなり落ち込んでいた
紾達がとりあえず落ち着くまで、様子を見ていた所に、ジョーカーの面々が乗りこんで来て、冒頭に戻る
黎ヰ
「だ〜か〜ら〜、タイミングが絶滅的・壊滅的・破滅的に悪いって言ったろ」
驪 蒼
「そこまで言ってなかっただろ!!」
騒ぐ驪は、紾同様に完全に黎ヰのペースにのせられていた。反応をしなければからかわれる事もないのだが、その事に驪も紾も気づいてはいない
黎ヰ
(それにしても"異常調査部に一任した方が早そう"なんて明言しときながら、よくも抜け抜けとジョーカーに担当させたな、あの狸)
狸とは、管理官である世瀬哲乙の事で、数日前に黎ヰと話していた時は、確かにそう言っていた
それが、偶然なのか情報開示課が追っていた動物愛護団体の件と結びついた事で、あっさり事件の担当をジョーカーにしたという事だろう
いい加減なのか、管理官の手のひら返しの速さに黎ヰは、感心すら覚えた
黎ヰ
(にしても、芥に目を付けるとはなぁ。発見された遺体が特殊って理由で疑いを掛けて来たって事は、解剖医または医師の知識が必須って事か?と、なると十中八九遺体には何らかの手が加えられていた筈だ)
もちろん黎ヰは、芥が関係しているとは微塵も思っていないし、本当に医療機器学会の事を思い、独自に細菌について調べていた事も知っていた
黎ヰ
(このままじゃ、大人しく帰ってくれそうにないよなぁ〜。いっそう、俺が取り調べに同行でもするか?)
黎ヰがそんな事を考えていた矢先、電話が終えた曳汐が「あの」と、戸惑いを含んだ表情で世瀬達を見た
曳汐 煇羽
「誘蝶木旅館で、芥さんの知識をお借りしたいと、情報開示課の方からご依頼が来たんですけど」
…… ……
一瞬、その場に居た全員が耳を疑った
驪 蒼
「な、な、なな」
巫山戯麛
「はぁ?!」
これに関しては、ジョーカーも予想外だったのだろう。驪はともかく、巫山戯まで驚きを口にしていた
世瀬は、曳汐の言う"情報開示課の方"が残りの一人しかいないと気づき、思わず額を抑えた
世瀬 芯也
「小尾檜田か。何を考えてんだ、あいつは…」
小尾檜田は、先行して誘蝶木旅館で事件の捜査を行っていた。それが何をどうすれば、芥の協力を仰ぐ事になるのか……
困惑しているジョーカー達をよそに、黎ヰは顔面を腕で隠しながら身体を震わせていた
蔡茌 紾
(楽しんでるな)
曳汐 煇羽
(絶対、笑ってる)
芥 昱津
「やく、は…ちゃん。その旅館って…まさか…」
名指しで指名された芥は、目を輝かせて曳汐を見た
曳汐 煇羽
「伺った話によると、四名のご遺体の状態を調べて欲しいとの事です。芥さんが調査していた細菌との関連もあるみたいでーー」
芥 昱津
「僕、行く!」
曳汐が言い終わる前に、芥は挙手すると、いつもとは比べものにならないくらいのスピードで、準備を始めた
驪 蒼
「あの小尾檜田だ。何か考えがあるに決まってる」
世瀬 芯也
(考えが無いと困る。まぁ、この動かない状況よりは、現場へと向かわせた方が、色々と聞き出せるかもしれないな)
そう結論付けると、世瀬は小さくため息をついて、紾を見た
世瀬 芯也
「俺は先に行ってる」
黎ヰの言うように、異常調査部を謹慎にする権利はジョーカーにはまだない。なら、行動を共にし事が起こるのを待てばいいと、あえて世瀬は紾に来るように促したのだった
〜世瀬 芯也プロフィール〜
性別/男 年齢/27歳 誕生日/9月11日 血液型/A型
好きな食べ物/寿司、おでん 嫌いな食べ物/グラタン
好きな飲み物/エナジードリンク お気に入りスポット/道場
経歴/父は警視庁・管理官。母は剣道道場の師範代
胡景と共に異常調査部を設立するも、後に左遷されてしまう。三年後の現在、黎ヰの居る異常調査部を終わらせるべく、情報開示課を設立する
性格/狡猾で抜け目のない性格。厳しい両親に育てられた。人を使う事に対して躊躇いがない
先輩である區鬥には、警察官としてのいろはを教わった