信号
うぜぇ……。
たくさんの人々でごった返す帰宅時間。俺はその人たちに紛れて信号待ちをしていた。
みんな無言のまま信号が青に変わるのを待つ。早々に家に帰りたいのだ。
前のやつらが鬱陶しい。お前ら俺より早く歩けんのかよ? チンタラ歩きやがったら承知しねぇぞ?
運悪く横断歩道の上で立ち往生しやがった車がいる。あいつも早く家に帰りたいんだろうが、わきまえろ。
身勝手な行動が、たくさんの人々の帰宅の足に影響するんだ。
イライラしながら、信号が青になるのを待つ。その時、信号が赤から『黒』に変わった。
黒信号の中の白い人物アイコンは、雨傘を振り上げている。
俺は気付いた。
それは、『殺せ!』の合図だと。俺は鞄から折り畳み傘を取り出して、前の男を殴った。
辺りには悲鳴が響くが関係ない。まるで幕末の剣士のように傘を振り抜く。自分の傘が壊れたら、人のものを奪って何人も何人も──。
そのうちに黒信号が点滅を始める。
分かる。
『殺せ、殺せ、もっと殺せ』の合図だと。
交差点にいた者たちは、バタバタと呻き声を上げて倒れている。
まだだ。もっと、もっと──。
その時だった。交差点に銃声が響き渡る。俺は胸を押さえて倒れた。俺の体から血だまりが広がっていくのが分かる。
そこらじゅうからヒーローを讃えるように歓声が上がったが、気付いたのは俺だけだ。
別な信号が赤信号から『黒信号』に代わり、そのアイコンが銃を構えていることに……。
ターン!
ターン!
タン! ターン!