勉強会と言う名の、彼女のナワバリ。
学生生活において、宿題ほど鬱陶しいと思うものはない。学習塾もそうなのだが、本人が必要だと思わない教材を家庭に持ち帰ってまでやらせるとなると、当事者は精神的な苦痛しか受けないのだ。
将来の為になることは、もちろん承知している。それでも、知っていることを何べんも演習させられても面白い事は一つも無いのだ。
「……この宿題、何のために出してるんだか」
宿題プリントの分厚さに恐れおののいている豊も、その被害者同盟の内の一人だった。プレゼンテーションの手元資料と同じくらいの宿題などやってはいられないが、やるしかないのである。
習得の特に難しい単元で演習量が増えるのはまだ理解できるが、そうでないてんげんでも馬鹿の一つ覚えで同じ量を出すのは意図に苦しむ。
「……千亜希は寝ちゃってるし……」
雑談仲間である千亜希は問題文を見るだけで眠気に抗えなかったのだろう、絨毯の上に上半身を安置していた。
豊は確かに自らの宿題と立ち向かっているのだが、自身の勉強部屋に身を置いているのではない。そう、彼女の家にお邪魔している。
事の始まりは、昨日。
『豊、今日だされた宿題なんだけど……』
終礼後の放課後、すぐに豊に千亜希が近づいてきたのだ。
『ここの問題、全部わからなーい』
こうして豊が千亜希に解き方を説明することになったのだが、如何せん宿題量が膨大で最後まで到達しなかった。そこで、
『明日、あたしの家に来てよ。一緒に勉強会、しよ?』
と、ここまでが経緯である。
豊が思うに、千亜希は狙って勉強会を開いたのではないだろうか、と。
というのも、彼女の宿題プリントの初めの方は完璧な解法で答えが導き出されていた。基本的な考え方はどの問題も変わらないので、自力でも解け切ることの出来るレベルのはずなのである。
それを証拠づけるように、開始から今のこの時間まで一度たりとも千亜希から質問が飛んできていない。彼女が開幕してすぐに寝落ちしてしまった、ということも原因の一つに入ってくるが、それを考慮しても不自然なのだ。
……まったく、こんなに気持ちよさそうに寝やがって……。
悪夢にうなされるでもなく、千亜希の微笑は快眠そのものだ。地獄の勉強から解放された喜びを叫んでいるのだろうか。目が覚めれば、現実を注視せざるを得なくはなるのだが。
「……風邪ひくぞー、って聞こえないか」
身だしなみがなっておらず、上ずった上着とズボンの隙間からへそが見えている。いくらコタツの中に下半身が入っているとはいえ、放っておくと風邪を引いてしまいそうだ。
かと言って、異性の服を豊が勝手にどうこうするわけにもいかない。毛布があればぜひかけてあげたいが、ここは他人の家だ。物色する勇気はない。
仕方が無いので、脱いで放置していた自身のジャンパーを千亜希にそっと被せた。気付いた様子も無く、彼女は熟睡している。
「……もう無理ぃ……」
食べ放題の夢でも見ているのだろうか。起きたところを捕まえたとて、きっと覚えてはいないだろう。
……寝顔なんか見たことなかったけど、結構無防備でかわいいな……。
しばしの間、宿題をするのも忘れて千亜希の寝顔にうっとりとしていた豊であった。
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