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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.4 【エニシの異界&ルスラウス大陸 ―The Perfecty WORLD―】
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94話 7つの種族、織りなすとりどりの色《Anthem》

挿絵(By みてみん)

お上り気味な

道楽の旅


圧倒されるは

聖なる都


はじめましての

契約を


君と

 空は晴れ、流れる雲すら見通しが良い。3Dよりもリアルな立体がクリアブルーを背景に日がなのんびり泳いでいる。

 風も清く降り注ぐ陽光もまたじんわりとし首筋に汗を浮かべるていどで心地よく爽快。

 いったん東と離れた若者たち一党は、聖女の案内で城とは別の場所に向かっていた。


「くわぁぁ~……お日様ぽっかぽかで気持ちいい~」


 んっ、と。夢矢は欠伸と伸びをした。

 可愛く口を開けたヘソがちらりと見え口と同じく縦に広がる。目端に浮いた眠気をぐいぐい袖で拭う。 

 横には高い城壁がどこまでもつづいており、もう片側には閑静な住宅街となっている。


「我々大人組みは内密な話し合いをするので後は若い者に任せるとしよう、かぁ」


 そして彼は押しつけられるようにして言い渡された言づてを、もう1度繰り返した。

 それは颯爽と裾を翻し都中央の聖城へと消えた男が残した言葉だった。

 東という中年は、あらゆる意味で責任を放棄するのがウマい。匠の技。

 聖女を女王に仕立て上げる、なんて。極大宣言だけを残して脱退してしまった。だから残されたこちらとしてはもうどうしようもない。


「任せるっていわれても聖女ちゃんを女王にするなんてわけがわからないよね。しかも聖女ちゃんについていけばすべてわかるとかテキトーいっちゃってさぁ」


 中性的な顔立ちは不安いっぱいに曇ってしまっている。

 腰から背を丸くし、うつむきがちになってとぼとぼ歩く。


「とはいえ相手はあの東よ? 考えもなしにそんなことをいうとは思えないけどねー……まさか近いうちに選挙でもあるのかしら?」


「もしここが民主主義国家だったとしても僕らだけの努力で選挙に勝たせるなんてもっと無理ゲーじゃないかなぁ」


 ヒカリもおおよそ夢矢と同じで流されているだけにすぎない。

 しかもどうやらヒカリは未だ周囲を歩く人種の違いに戸惑っている。


「それにしても本当にたくさんの種族がいますなぁ。生活様式とかもきっと異なるし食べ物とかどうしているのかしらね」


 行き交う他種族に目が泳いで仕方ないといった感じで忙しい。

 フラワーガーデンを逸れてみると、観光地特有の人混みより端正な居住区が一党らの視界に広がった。

 観光地というメインロードから離れてもなお足並みが絶えずにいる。この聖都だけで十数万の観光客や都民が常に活動しているのかもしれない。大きさのわりに人口減少傾向のノアと比べて雲泥の差だった。

 そしてなにより雑踏から離れることで行き交う種族たちにより目が行き渡るというもの。

 ヒカリはひょいとつま先立ちになって辺りを見渡す。


「んー……そういえばレィガリアさんが大陸には7種族いるっていってたっけ?」


「エルフ、ドワーフ、獣人、ピクシー、ヒューム、エーテル……ありゃ、これだとまだ6種族かな?」


 夢矢が繊細な指をくるくる回しながら記憶を辿っていく。

 しかしどうやら最後の1種族がおぼろげらしい。

 なのにヒカリからは「そうなんですかぁ?」と、興味すら示さない。より曖昧な答えが返ってきただけだった。


「都をとりどりの色たちが鮮やかに彩る。数多くの他種が織りなす光景は圧巻だよね」


「ま、圧巻さ加減でいったら私たちの前を歩く2人組みが1番目を引くきますけどねぇ」


 そして2人の渋い視線が先頭へと注がれる。

 実のところ先ほどから道行く周囲の種族たちの注目を集めてやまない2人組みがいた。


「人間さん人間さん♪ 人間さんの好きな食べ物ってなんですか♪」


 見事なまでに歌うような猫なで声。それでいて腕に絡みつきしなだれかかる。

 制服越しの肩に頬を寄せ自分の匂いをマーキングするみたいにすりすりと頬ずりを繰り返す。

 さながらイチャイチャムードを絵に描いたような光景が繰り広げられていた。


「塩、あと水」


「まあ! ずいぶんと豪胆なお食事を好まれるのですね! むむっ、でもすべてのお料理に使われているくらいお塩と水は大切です!」


 すごいです! テレノアは、ハッとしながらも腕から離れようとはしない。

 ずっとだった。もうかれこれ東と別れて半刻は経っている。

 そのかんずっと。テレノアは、ミナトの腕をさながら自分の領土であるかのように位置づけて質問攻めにしていた。


「じゃ、じゃあ、そのぅ……す、好きな女性のタイプとか教えて欲しいです!」


 頬にぽってりと桜をまぶし、ちょっと踏みこんだ質問だった。

 それをミナトは秒もかからず対応する。


「オレを馬鹿にしなくて相手してくれる子」


「はっ! 私誰かをバカになんて絶対にしませんよ! あとお話相手だってすっごく得意なんです!」


 テレノアのぼう、と熟れた瞳でミナトを見上げた。

 当然唐突にこんなことをされてミナトの頭のなかは真っ白になっている。


――なになになに? これってどういう状況? モテ期の到来ってこんな予兆もなくいきなりなのか?


 こわっ。塩対応を繰り返しているように見えて実はなにも考えられていないだけ。

 いくらチャチャという女性との同居経験があるとはいえだ。さすがにここまで積極的にこられると許容量を超えてしまう。

 その間にもテレノアは重ねる肌の面積を増やしていく。


「人間さん♪ 人間さん♪ 人間さんと~聖都でおでかけです~♪」


 小気味良い歩調に不思議な歌まで歌いだしてしまう。

 もうどうしようもなくご機嫌だった。尻尾のついた種族なら千切れんばかりに振っていたのかもしれない。

 代わりに太ももに蹴られた白いスカートがふわふわと踊る。細い脚を膝をから伸ばすようにずんずん進んでいく。


――こんな可愛い子に好いて貰えるのは男冥利に尽きるけど、どうしたものかなぁ。


 ミナトは複雑な気持ちで目が回りそうだった。

 しがみつかれる腕に力が籠められたぶんだけテレノアのほうからいい匂いが漂ってくる。高貴な香りというか女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 触れる肌は暖かいし柔らかい。とにかく男と生まれたからには嫌なものはなにひとつない。

 というのはあらかた嘘である。肘に金の鎧がこすれてとても痛いし、感触もロマンもない。


「ふむふむ? あれはもしかするとモテモテってやつですかなぁ?」


「あはは……けっこう一方的っぽく見えるのは僕だけかな?」


「いやいやいや夢矢さんや夢矢さんや。ああ見えて振りほどかない辺りミナトくんも楽しんでるところありますぞぉ?」


 そんなラブロマンスに下卑た視線がニタリと光った。

 夢矢は苦笑いをしていたが、どうやらヒカリのほうはそうではない。

 彼女は指でキャメラを象りミナトとテレノアを中におさめる。


「まさかあの手の早いでお馴染みな東よりも先に女の子をゲット! しかも高貴な少女を手籠めにッ! アザーに封じられていた少年は実は狼だったッ!?」


 パシャ、パシャパシャ。シャッターの音を口にだしながら光景を切りとっていく。


「見出しは革命の矢の実態は如何に、で決定ね! うへへへ、ノアのみんなが知りたがってることだからきっと人気トピックになるわよぉ!」


「あああ……本当にALECナノマシンの網膜データへ記録するの止めてあげてよぅ……」


 夢矢が呆れ顔でため息を吐くも、ゴシップ記者となったヒカリは止まらなかった。

 人間のなかには《ALECナノマシン》が組みこまれている。そのため生きているだけですべての体験が共有可能となっている。

 つまりノアへ生きて戻れさえすれば異世界の真実をすべて伝えられるということ。もし生きて帰れたらの話だが。

 撮影を終えて一区切り。ヒカリはようやく落ち着きをとり戻す。


「それにしても聖女ちゃんメロメロですなぁ。私たちのことすら見えてない感じで完全に2人の世界よ、あれは」


「危ないところへ急に現れて命を救っちゃったんだし、そりゃあねぇ?」


 間髪入れず「そうなんですよ!」ふわ髪がぶわあ、と舞い上がった。

 ぎょっ、と。驚き跳ねる夢矢をよそに銀燭の光はよりいっそうキラキラと瞬く。


「あのときのことは感謝してもしきれません! このご恩はたとえなにがあろうともお返ししたい所存です!」


 テレノアは薄い胸の前に両手でぐっ、とガッツポーズをとった。

 が、すぐさましゅん、と長いまつげの影が目元を覆うように伸びる。


「実はあの時の私……途中で捨てられちゃうかなってずっと不安だったんです」


 そうか細く言って「えへへ……」悲しそうに目を伏せた。


「でも人間さんは最後まで私を見捨てないでいてくれたんです。私が勝手に不安がっているすぐ横で息を切らしながらも前だけを見ながらずっと運んでくださったんです。それがとても嬉しくて……嬉しくて」


 ……嬉しくて。いつしか両手は祈りを結んでいる。

 浮かれていたというよりは、記憶にある恐怖から逃げていただけ。

 実際に両足が折れた状態で見捨てられれば飢えるか、別の魔物に捕まるかする暗い未来しかない。かといって女性であるテレノアに見知らぬ男を信頼しろというのも無理難題だ。

 ああやってミナトが必死に仲間と合流しようと奮起している間もずっと。彼女は汗塗れの背中に不安を覚えつづけていたのだ。


「あはは。その心配だけは杞憂だったね」


 と、夢矢がいつしか止まってしまっていた足を一歩ほど踏みだす。

 テレノアは「……え?」と顔を上げ、彼の愛らしい微笑を見て目を丸くする。

 いっぽうでヒカリと夢矢は互いの瞳をちらりと見合ってからにんまり細めた。


「だって、ねぇ?」


「そこにいるのは私たちの世界で1番のお人好しですからなぁ」


 それから2人はミナトを眺めながら同時に肩をすくませ苦笑する。


「オレなんかバカにされてる感じ?」


「私たちの想像している通りの行動をする男子だと思ってるだけぇ~」


 ヒカリは振り返る自分を指さす彼へ白い歯を見せつけた。

 ツンツンに跳ねた頭の後ろで手を組む。誇らしげに背を反らすと半端に開いた制服の内側で抑揚あるバストが窮屈そうに潰れる。


――そうか。オレは仲間と合流するのに必死だったけど、テレノアはそれ以上に不安だったのか。


 ミナトが思い返すと、記憶にあるのは彼女の空元気ばかりだった。

 テレノアも人並みには不安だったのだ。そして今もその時の恐怖に苛まれてつづけている。


「よしっ!」


 ならば、と。ミナトは仕切り直すかのよう手をぱんっ、と打ち鳴らす。

 彼女の不安を消してやる方法が1つだけあった。

 ミナトは、祈り手を結んだまま呆然とするテレノアへ、提案する。


「まず友だちになろう」


「と、ともだち、ですか?」


 キレイなオウム返しだった。

 唐突な誘いに呆然とするのは仕方のないこと。

 しかしてこれがミナトに考え得る最善策でもある。


「そう、友だちだ。友だちなら助け合うものだし、あの時オレがテレノアを助けたのもこうしてつづいた未来で友だちになりたかったからだ」


 なによりこれからともに時間を共有するのであればこの儀式は欠かせない。

 なにせ未だ出会っただけ。色々なことが濁流の如く起こった結果、まずやらねばならぬことをすっかり忘れてしまっている。


「テレノアはまずその人間さんってのをやめよう。魔王と勇者みたいな関係じゃないんだしお互い自己紹介してちゃんと名前を呼び合おう」


 実は未だ自己紹介すらまともに済ませていない。

 なんとなく彼女の名は知っていても、彼女はミナトの名を1度も呼んだことはない。

 だから彼女もこちらを人間さんなんて呼ぶしかなかった。命を助ける助けない以前の問題だろう。


――…………ん~。


 ミナトは、一拍ほど間を開ける。

 そしてテレノアのほうへ身体を向け、姿勢を正して踵を揃えた。


「オレの名前はミナト。マテリアルリーダー、マテリアル1のミナト」


 形式めいて、右手を左肩へ添えた。

 左肩には3Dホログラフィックの盾腕章が浮かんでいる。


「僕は《セイントナイツ》のナイツ2、虎龍院夢矢だよっ。よろしくね、テレノアちゃん」


「私はヒカリね。食堂ハレルヤの看板娘ミトス・カルラーマ・ヒカリよ。っていうかチーム名までいう必要なくない?」


 すると残りの2人も察す。

 ミナトの方式に準じ、真似るようノア式の敬礼を送った。

 しばしテレノアは目をぱちぱちとさせたが、すぐに肩を揺らして我に返る。

 

「あ……て、テレノアです! 私はテレノア・ティールと申します! ふつつか者ですがどうぞよろしくお願い致します!」


 あわあわしながら膝に額がつくのではないかというほど大きく礼をした。

 名前の交換を終え3人は順番に握手を交わして親交を深めていく。

 これで必須の名刺交換を終え、晴れてより友と呼べる間柄へと進んだことになる。

 それによってようやく4人はふさわしい距離感で街道をゆるりと歩き始めた。


「あの……みなと、で合ってますでしょうか?」


 とと、と。テレノアが駆け寄って再びミナトの腕に絡みつく。

 どうやら友となっても彼女にとっての適切な距離感は変わらないらしい。

 ミナトは再びの甘い香りに頭痛を覚えながらも「そうだよ」と、仕方なく歩幅の調子を彼女に合わせた。


「それは貴方がたの世界では一般的なお名前なんですか?」


 テレノアは振り返ってそちらに尋ねた。

 奥深い色合いの銀眼が――ミナトではなく――後ろを歩く夢矢とヒカリに注がれる。


「んっ? 別にミナトって珍しい名前ではないよね?」


「そうですなぁノアの名簿にも何人かミナトって名前の人はいるわよ。というわりと大衆向けな名前じゃないかしら」


 それを聞いたテレノアは「そうなんですね」少し大人っぽい表情でこくこくと何度も頷く。

 そしてミナトの腕にしがみつく力をぎゅう、と籠めた。


「それでは改めましてよろしくお願いしますね! ミナト様!」


「あれ? 人間さんから様になって余計に距離が広がってない?」


「大丈夫です! 私の心は常にミナト様のお隣におりますので!」


 テレノアの頬にぼんやり花色が浮かぶ。

 初めて花弁がほころぶような、ぎこちなくも美しい笑顔が咲いた。

 そしてようやく目的地と思わしき雑多な人混みが奥のほうに見えてくる。


「あっ、もうすぐ目的の教会前広場ですよ!」



(区切りなし)

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