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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.4 【エニシの異界&ルスラウス大陸 ―The Perfecty WORLD―】
93/364

『※新イラスト有り』93話 聖・誕祭《Saint:Rebirth Day》

挿絵(By みてみん)

焦燥する

安否の不知


ノアの魔女

人へ向かう憎悪


聖なる日に


とびっきりの

祝福を


――早く……早くあっちの世界に戻らないと。アイツの好きになんてさせてたまるか。


 仲間たちの安否を思うほど息が苦しくなってくる。

 ノアの魔女の目的は定かではない。なぜ200年に渡って人類を苦しめるのか。なぜ今になって大規模に動きだしたのか。

 考えれば考えただけ足をくすぐられる。なにも出来ないという焦燥感が胸の奥を熱くちりちりと焦がす。


「……ん?」


 と、ミナトが思考するすぐ横をなにやら可愛い物体がころころ通り抜けた。

 その愛らしくキュートな影たちは迷うことなく一直線に聖女の元へ駆けていく。


「せいじょさまー! どこいってらしたのー!」


「せいじょさまおかえりなさーい!」


 可愛い物体の正体は、3~4才くらいの子供たちだった。

 これにはさすがのミナトも思わず顔が中心に寄ってしまう。


――なんという不器用に転がるような走りかたなんて舌足らずな出迎えッ! 愛らしすぎて直視ができないッ!


 幼い陽気とあどけない笑みは一瞬でミナトの有耶無耶な心がまっさらに浄化していく。

 すると聖女テレノア・ティールは、駆け寄ってくる可愛い物体目視するやすぐさまにっこりと目を細む。


「みなさんただいまですっ! ちょっと聖都のお外にみなさんとピクニックをしてきただけですよっ!」


 さらにはスカートを折って膝を曲げ目線の高さを子供たちに合わせた。

 自然に身についているとしか考えられぬほど流れるような優雅さ。そして子供たちに物騒な話を聞かせまいと優しい嘘をつく気の回りよう。


「ぴくにっく! おべんと! すてきー!」


「せいじょさまもせいきしさまたちもみんななかよしなんだね!」


「そうですよぉ? 私たちはみーんなとっても仲良しさんなんですから!」


 子供たちがぴょんぴょん跳ね回る。

 その中心でテレノアは、ぐっ、と小さくガッツポーズしてみせた。


――な、なんて中身のない会話なんだ! それなのになぜこんなにも尊く有意義な時間の過ごしかたかァ!


 ミナトはもう限界だった。

 あんなに可愛い生物を生涯1度とて見たことがない。

 荒んだ世界に生きたこの身に無垢な子供たちの黄色い声が刺さりに刺さる。

 それに他のメンバーたちも自然と優しい表情になっている。


「ほぁぁ……あれくらいの子たちって男の子も女の子も本物の天使だよねぇ……」


「生意気になる直前辺りが1番きゃわいいのよぉぉ~……」


 夢矢とヒカリだって、もう目の端々までチーズのように蕩けてしまっていた。

 そして子供たちはおそらく彼女と同族だ。銀の美しい髪をした子供たちは無邪気な笑顔でテレノアの帰還を暖かく迎えた。

 そこからもずっとひっきりなしに声をかけてくるモノたちがいた。子供も、大人も、分け隔てなく――会釈、挨拶ていどだが――テレノアを見かけると必ずふくふくとした笑みを作る。

 彼女が都を横切ると和やかでふわふわとした朗らか空間が作られていく。優しい空間、優しさのみで構成される世界。


「ふむ、ずいぶんと愛されている良い子なのだな。なにより陶器の如く華奢な脚が良い。きゅっと締まっていて肉が痩せていない」


 すかさず東の邪な審美眼――色目が鋭く光った。

 その視線は民と聖女という平和な光景を映していない。じろじろという擬音が似合う、まるで品定めのソレ。


「あー……いやですなぁ。確かに可愛い子だけどそうやってすぐ色目を使うなんてお下品よねぇ」


 唯一女性であるヒカリが煙たそうに手を払う。


「いやいやこれはアセスメントというやつだ。ほうほう……腰回りも広くくびれ辺りも優雅な曲線を描いている。まさに理想の体型だな」


「なーにが査定評価ですか。東の場合はただのランク付ってやつでしょ」


 しかし注意されてもなんのそのといった感じ。

 東は、無精髭に手を宛てがいながらテレノアの足先から毛の先までを舐めるように見定めていく。

 さながら獲物を狙う鷹の如き眼光。紅2点の夢矢とヒカリもほとほと呆れかえっている。


「す~ぐそういう目で見るんだからぁ。男ってヤーね。ねっ、夢矢くん?」


「いや、僕どっちかというと男の側なんだけど……」


 唯一の大人がこれでは頼りない。

 実はさきほどの楽しもうという発言さえ本質を語っただけなのではないのか。

 ミナトが苦心していると、不意に心音がとくりと跳ね上がった。


「あれ? 脚が……昨日の今日で治ってるうえに平気で歩いてるだって!?」


 あまりの驚愕に目が見開かれる。

 テレノアの脚は昨日までどちらも折れていた。はず、だろう、ではない。確実に両足ともへし折れていたのだ。

 なのに彼女は、ビッグヘッドオーガによって折られた脚で、もう立っている。

 痛々しい内出血跡もない。骨折していたはずの白い脚はまさに陶器のよう。嘘のようにすらりと伸びていた。


「ようやく気づいたようだな」


「お前まさか知ってて――っ、とぼけてやがったのか!?」


「今朝がたキャンプで彼女に出会った俺の驚愕を共有したくてな。とはいえお前も存外鈍い。両足を折られたあの子を必死に運んだのはお前自身なのにな」


 ここまでは演技だったということ。尋問さながらの誘導だった。

 テレノアの両足が完治している。その事実にミナトは側頭部を鈍器で殴られたかのような目眩を覚えてしまう。

 そしてそれは通常の人間ならば絶対的にあり得ないこと。どれほど科学技術が発展しても見つかっていないもの。

 自己治癒の手助けは可能だとしても完全な再生という技術にはノアでさえ至っていない。

 そうなると答えは1箇所へ収束を開始する。


「あれが魔法の力か……! 水飛ばしたり風起こしたりするよりよっぽどヤバいじゃねぇか……!」


「ちなみに彼らは1種族を除き寿命を望まねば実質無限に生きるという。願えば願うだけ未来永劫生きつづけるのが基本とは羨ましい限りだ」


「願わなければ寿命が与えられないってこと!? それってお伽噺とかでよく聞く不老ってやつじゃないの!?」


「私だっておかしいと思ってたわ。こんな見通しの良い景色に1人も老人がいないんだもの。……現実的じゃなさ過ぎて目も痛くなってくるわけね」


 メンバーたちは、ここが魔法世界であることを強く再認識させられた。

 魔物、魔法、寿命無限、7種族。加えて今は大人しくしているが幽霊までいる始末。

 どうやって帰るかを考える以前に前途多難が予想される。


「いいかお前たちよく肝に銘じておけ。ここからどうやってこの世界に順応し生き抜くかが今後の課題となる」


 東は、裾長の白い羽織を翻した。

 それから都に存在する唯一の人類たちに一瞥を送る。


「そして俺たちは拮抗する自分たちの世界から一方的にはぐれたんじゃない。ブルードラグーンに乗っていた俺たちだけが――唯一苦境から脱出したんだということを忘れるなよ」


 重く現実を突きつけるような言葉だった。

 メンバーたちの両肩に鉄より遙かに重い責任という重しがのしかかる。

 ほだされかけた精神が一気に冷えきってくのがわかった。美しい都も、見たことのない人々も、そのすべてが一抹の夢であるかのよう。ままならぬ現状を突きつけられ萎縮してしまう。


「……。あのさ、今ちょっとシリアスだから下がっててもらえるかな」


 そんな厳粛な静寂にも関わらず、ひしっ、と絡みつく。

 目と目が合うと、あちらは「うふふっ!」猫のようににんまり細めた。

 ミナトの腕には、つい先刻ほどからテレノアがしがみついている。


「これから教会へ供物を納品に向かうので一緒にきてください!」


「……供物? ああ、あのビッグヘッドオーガの?」


 ですですっ。無垢な笑みが花畑の如く広がった。


「実は昨日レィガリアが再度ビッグヘッドオーガの討伐場所におもむいてくれたんです。そこで死骸の回収もちゃんとしたんですよね」


 ミナトはちらりと屋根付きの大層な荷車に目を配る。


――通りでさっきから変な臭いがすると思った。


 テレノアに促されてよくよく幌馬車を覗いてみた。

 すると羽馬にひかれた台のなかには麻袋が大量に詰められているではないか。

 袋の表面にはどす黒い血がじゅわりと滲む。あの巨体を解体して聖なる都へ持ちこんでしまったらしい。


「身体も揃ってるし別に角膜をもっていって証明する必要はないってことかい? ならあんなグロいモノとっとと捨てちゃえばいいだろう? なんだってこんな都に持って帰ってきちゃうかね?」


「せっかくの大物なので聖誕祭の供物を当事者と一緒に提出したいんですっ! だから一緒に聖誕祭管理委員さんたちのいる教会までついてきて欲しいですっ!」


 はて? ミナトの頭にクエスチョンが浮かんだ。

 ここまで幾度とあった良くわからぬ単語である。なのにさして気にしてはなかったが、どこか繋がるモノがあった。

 だいいちテレノアはいったいなぜビッグヘッドオーガの角膜を欲しがったのか。聖女という――たぶん――高貴な生まれならば金に困っているわけではないだろう。


「まだ聖誕祭王位着任の儀の詳細を話していなかったのか?」


 と、小札の触れる音がちゃらちゃらとこちらへ近づいてきた。

 肩には月の描かれた刃反らしのマントを引く。背には大仰な長剣、腰には脇差しと(ボーガン)

 月下騎士団長レィガリア・アル・ティールが武装の喧噪を引き連れながらこちらへ向かってくる。 


「はっはァ! 主役を口説き落とすためには前座、前置きという空気作りが必要不可欠なのでな! だから先に話したとおりいい感じのヤバげな雰囲気を作っておいたというわけだ!」


 東の軽い対応にだって眉ひとつ動かさない。

 レィガリアは特に気にした様子もなく「フム」と筋入りの高い鼻を吹いただけ。


「なにやら語り合ってる様子は察していた。上司として部下の心象を手繰(たぐ)るというのは理に叶った行動だな」


「理解を得られるとはさすが団長殿といったところか。昨夜話を詰めた通りにことを進めるから安心してくれ」


 ミナトは2人の会話からなにやら良からぬ気配を覚えた。

 なんだかんだ東光輝という男は油断ならぬ。飄々としているがいわゆる策士に分類される。

 ノアでの革命だって彼の策がなければ成功することはなかっただろう。決してただの色ボケた能無し中年ではない。

 そんな男が現状を見てなにも優雅な都市観光に浸るはずがないのだ、絶対。


「ということで、だ! お前には可憐な聖女様を国の偉大な王に仕立て上げるという超特例任務を与える!」


 ずびしっ、と。東の指がただ1人を選抜した。

 そこに立つのは聖女テレノアを腕に巻いたミナトだった。


「……は?」


 理解に数秒を要す。

 それほどまでにぶっ飛んだ要求だったから。


「はああああああ!? なにいっちゃってんのこの中年髭!? 脳みそ異世界かよ!!?」


 なおここは異世界である。

 ミナトが反抗しようとも東の暴走は止まらない。


「ちなみに聖女様を女王に仕立て上げるというミッションの成功報酬は、なんとこの世界の共通通貨だ! ラウスを国家予算レベルでたんまりいただけることになっている!」


 はぁーはっはァ!! ゲスな高笑いが一帯へと響き渡った。

 もはや周囲の種族たちが何事かと脚を止めるほど。小さな混乱の中心になっている。

 さすがのメンバーたちもこの暴挙に黙っていられない。


「お金なんていっぱい手に入れてどうする気なの!? 確かに当分の食料確保はしたいところだけど、なんで国家予算レベル!?」


「どうせ変なことに使うつもりでしょ!? 美女がいっぱいいるからって好き勝手しようって腹ね!?」


 夢矢とヒカリも慌てて止めに入った。

 が、東はすかさず指をパチンと鋭く鳴らす。


「それを使いブルードラグーンを即行で修理する! 金の力で腕の良い技術者やら素材を一気にかき集めるのさ!」


 高く伸ばした指は遠く離れた天空を指し示す。

 すべてこの男の掌の上だったのだ。すでに東は1つだけに集約している。

 たった1つだけの任務をこなし、すべての願いを叶えようとしていた。

 ヒカリと夢矢はほぼ同時にさぁ、と青ざめる。


「ちょ、ええええええ!? よ、欲張りすぎるんですけどォ!? つ、つまり……そ、それって」


「異世界にあるこの国ごと私物化するってこと……だよね?」


 あまりに無謀極まりない策だった。

 それを聞かされた2人はそろって魂の抜けたかのようにあんぐり口を開いて動作を止めた。


「聖女を……テレノアを国の女王にするだと? なにを馬鹿げたことを……」


 当然ミナトだってあまりのスケールに強張る。

 口角をヒクヒクと痙攣させ、茫然自失とばかりに佇むだけ。

 そしてそんな混乱をよそに彼女だけは、1輪の花だった。

 テレノアは満面の笑みでミナトを見上げる。


「人間さんという種族はこのルスラウス世界で幸福を呼ぶお守りとされているんですっ♪ なので私と一緒にがんばりましょうねっ♪」


 聖女テレノア・ティールは、全身を預けた。

 恋人のように、ミナトの腕をぎゅうとしがみつく。


「……ハ~ァ??」


 空前絶後の展開にミナトたちはしばし呆然とした。



○  ○  ○  ○  ○




























《disclosure of information command》


《***** **** **》


























《Security:Level00》







《Unlocked》

























【Generation Zero 第零世代】

























【F.L.E.X.er フレクサー】

挿絵(By みてみん)

能力:フレックス

武器:なし

性別:男女

性格:無数

年齢:その時に生まれた















だから
















あの日




















コワサレタ

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