67話 四柱祭司《Noah Academy》
艦橋地区側から下層に降りる階層用エレベーターに乗り込む。
宙間移民船ノアの居住施設は居住区の5層と、こちら艦橋側の4層で構成されている。
そのため多くの人のみならずバスでさえ乗り込み移動可能なエレベーターが随所に設置されており階層を容易に昇降することができた。
「そういえばアカデミーってどこにあるんだ?」
「艦橋地区側の最下4層だ。居住地区から専用のリニアバスが細々と出てアクセスしやすいようになってるぜ」
――最下4層?
ジュンの説明を聞いてミナトは口を閉ざす。
記憶が正しいのなら艦橋地区最下には、あの部屋があるはず。
結晶洞窟の如く不透明なシリンジが生え伸びた奇妙な部屋。その奥には巨大なマザーコンピューターが鎮座している。
――ならあの部屋はこの4層の下か。どうりで……噂もたつわけだ。
ミナトにとってあの革命の舞台となったコンサーヴェーションルームは記憶に新しすぎた。
そうやって考えこんでいると、高い位置から気のいい視線が降り注ぐ。
「ん? どうした暗い顔して?」
長身のジュンが不思議そうに瞬く。
エレベーターから降りた雑踏らのなかでも彼の身長は頭ひとつほど高い。そのため年2つ若いミナトと視線を合わせるさいは顎を引かねばならなかった。
「火のないところに煙はたたないって言葉を噛み締めてただけだよ」
「……どういうこった?」
はぐらかしつつ目的地であるアカデミーに歩を進めていく。
この艦橋地区側4層は他の地区より緑が多く広々としている。
空高く葉萌ゆる木々。人工とは思えぬほど自然な風がそよいで葉を揺らしせせらぎ歌う。
ときおり仮想の空を巡るチチ、という鳴き声が耳を打つ。しかしその小さな羽ばたきは本物の鳥ではなく模しただけの機械にすぎない。
ノアは未来的でありながらどこか牧歌的な風景を人々に提供する。人々がストレスや閉塞感を感じぬよう存分に自然を振る舞ってくれていた。
そうやって気長な足どりで清潔な舗装を歩いていると、街路樹の向こう側がとびきり開けていく。
「見なさい。あそこが私たちノアの民が清き勉学と健やかなる成長を磨くための学び舎――総合教育機関ノアアカデミーよ」
杏が促す先には広大な敷地と建造物が重厚に生えていた。
ミナトは思わず「で、でかいな!」声量を上げ、ぎょっと足を止めてしまう。
「ははっ、そりゃでけぇさ」
そんな新鮮な反応にジュンはカラカラと気っ風よく笑う。
「ここは大人も子供も関係ねぇ。ただ欲求に正直な貪欲連中が集まる場所だからな」
「知識が欲しい子たちや身体を鍛えたい子たちが一斉に集うのがここノアアカデミーよ。ノアのなかでもっともメジャーでレジャーな施設ともいえるわ」
2人はここが地元でもあるかのよう――……地元というより地船か。
目の前の光景に圧倒され立ちすくむミナトを置いてすたすた歩いていってしまう。
「あ、おい待ってくれよ! オレを1人にしたら寂しくて大変なことになるぞ!」
「ならぼーっとしないでさっさときなさい。それにもしはぐれたら通信くらいすればいいでしょ」
一定間隔に植えられた街路樹の木漏れ日をくぐり抜けるようにして進んでいく。
木々の奥にはまるでラスボスの住まう居城であるかのよう。背幅の広い建物がどっしりと構えている。
その大きさは膨大で、近寄ると上空を貫くかと思うくらいどこまでも伸びていく。はじめて見る人間にとってはホロで見た架空世界の砦、あるいは城でしかない。
ほどなくして街路樹を行き交う往来の中央に見覚えのある人影が佇んでいる。
そしてミナトが「……ん?」視認するのとほぼ同時くらいか。
「じゅ~ん! 杏ちゃん! ミナトく~ん!」
歌うような音色だった。
声の正体はノアの制服を身にまとったウィロメナ・カルヴェロである。
統一された制服の背には盾の刺繍が施されている。肌を透かし体型を浮かす近未来スーツなんかより遙かに常識的なデザインをしていた。
ウィロメナは仲間をみつけた子兎の如く嬉々としてぴょんぴょんと跳ねる。
「おお~い! こっち~だよ~!」
視線を隠すくらい伸びた長い前髪がぱたぱた扇ぐ。
彼女の足が大地を蹴るたび中途半端に開いたファスナーからぼろりとあふれる大鞠が揺れ動いた。
無邪気なウィロメナの動きに反して威力は絶大。インナーを押し出すほどぎゅうぎゅうに主張するソレが魔性の挙動を生み出している。
「やけにご機嫌だなぁ。最近になって気づいたんだけどウィロメナってけっこう明るい性格してるよな」
「初対面相手が苦手ってだけであんなもんだぜ。それと今日はミナトがアカデミーにくるから友だちに転校生を紹介する的なテンションなんだろ」
同居女性に慣れているミナトと、幼馴染みのジュンにとっては、いつものこと。
あのていどの刺激でどぎまぎしていたら同じチームなんてやっていられるはずがない。
そもそも彼女は人の心を読む。《心経》の能力をもつためこれくらい無頓着でなければ年中前屈みになっていたことだろう。
杏は小走りに彼女のほうへと向かっていく。
「いちおう連絡入れておいたんだけど首尾は上手くいってる? 私たちこれから鍛錬所のほうに向かいたいからミナトを任せられる人をみつけたかったのよね?」
「それが講師陣の人たちみんな火の車って感じだったんだよ。ノア解放以降アザーに降りたい子たちがわらわら~、ってアカデミーに集まってるみたいなの」
そのまま合流したウィロメナと頬を寄せ合う。
ひそひそと密談をはじめる。
杏はエレベーターに乗り込んだ辺りで《ALECナノマシン》をコソコソといじっていた。おそらく隠れてなにかよからぬことでも企んでいる。
なおも少し離れた彼女たちから潜められた音が漏れ聞こえた。
「でもでもっ、呼びかけたら1人だけ時間を割いてくれた人がいるんだ」
「このさいもういっそえり好みはなしね。その親切な人に面倒事押しつけさせてもらうわ」
「ものすごい人だから杏ちゃんももしかしたらびっくりしちゃうかもっ」
仲睦まじい少女たちの奥にもう1つほど人影があった。
ミナトは違和感を覚えながら近づいてくる影をじぃ、と見つめる。
「なんだ? 人通りが中央から割れて……?」
街路樹の往来がとある地点を起点として中央から左右に割れていった。
その中央には大柄ながらすらりとした男の姿がある。
彼が歩むたび足繁く流れる往来がピタリと静止し道を譲って割れていく。
「――――喝ッッッッッッ!!!」
そして突如発された怒号に周囲の空気がびりびりと震えた。
腹を打たれるような衝撃が全身を叩くほど。近くにいるすべての人間が同様に慌てて耳を塞ぐ。
あまりに凄まじい声量だったため青葉が音の振動を伝え街路樹を真っ直ぐ突き抜けていった。
「ウィロが声を掛けたのって――まさか!? ノアアカデミー最重要研究対象の《四柱祭司》なの!?」
杏は焦げ色の髪を振って驚愕の眼を泳がせる。
先の男とウィロメナの間で幾度となく視線を行き来させた。
「し、しかもあの人ってチームリーダーの焔源馬じゃない!? よくあんなすごい人を連れてこられたわね!?」
「なんとなぁく源馬さんが特訓していたから声を掛けてみたんだよね。それでミナトくんの名前をだしてみたらあっさりオッケーしてくれたよ」
「《四柱祭司》に1秒教えを請うと10万エルはとられるって聞くわよ!? そもそも私たちの第2世代能力の根本ともなる先駆けを築いた超1級フレクサーなんだから!?」
まったり普段通りなウィロメナと対照的に、杏は慌てふためく。
それどころか周囲の人々も足を止め、羨望の如き眼差しを男へ集わす。
ミナトは事態についていけずにいる。
「……ちょうクサー? いや、まあ聞き間違えだってことくらいわかってるけどさ……」
周囲の反応から察するになんとなくすごい人間なのだろう、という気配だけはひしひしと感じている。が、そこまで。そもそも信頼のない人間に尊敬を向けるほど浮かれた世に生きていない。
と、男は杏とウィロメナの横を通り過ぎた辺りで足を止める。
「鬼のディゲルが育て上げた男にしては線が細い。だが心は見事彼の勇敢さを受け継いでいると見た」
先ほどの気合いとは異なり凜々しくも芯のある声色だった。
回すよう両腕を組むと肩がもこりとせり上がる。鉄球のように屈強な筋肉の塊がパラダイムシフトスーツ越しに浮かび上がる。
姿勢は目を見張るほど正しい。背に鉄筋でも通してあるのかと思うほど。
直立を崩さないのは体幹がしっかりしているからか。足先から頭のてっぺんまで絵に描いた線の如く真っ直ぐ美しい。
そして厳しくも熱意ある視線もまた愚直なまでに真っ直ぐで、1人を捉えつづけている。
「……あれ誰、大人か? こっちを凝視する眼差しが値踏みするみたいで不愉快なんだが……」
ミナトは熱気に咽せそうになりつつも男から1歩距離を置く。
ウィロメナの説明から察するに十中八九待ち受けていたのだ。だからこそその立ち止まってこちらを観察するような態度が気に食わない。
ジュンは潜めがちな声に若干の緊張を滲ませる。
「ありゃチーム《四柱祭司》の親分、焔源馬だ。ちなみに俺らの先輩にあたる人で、エリートチーム《四柱祭司》はノアアカデミーの優秀成績者TOP4が座る椅子を意味してるぜ」
「TOP4? オレ以外第2世代のチームよりすごいところなのか?」
「俺らていどの第2世代なんて比にならねぇよ。なんたってあのレベルまで行くと第2世代能力全部扱えたりすっからすげぇんだ」
ジュンの瞳は周囲の羨望とは異なって真剣そのものだった。
普段から彼は周囲の友人に敵を作らぬ快活な笑みを向ける。しかし今の表情はそのどれとも違う。
「ジュン謙遜はよすんだ。君の最大フレックス量は常人を遙かに凌駕する」
「そりゃあどうも。だがこっちとしても謙遜したつもりはねーんだ。アンタら4人はどう考えても常軌を逸してる」
「多くをこなすことを才と呼ぶのであれば個を研ぎ澄ますこともまた才と呼ぶ。どちらが上か下かなんて決めるものではないだろうさ」
ジュンと源馬、2人のやりとりには明らかな温度差があった。
きっとその正体は一方的に注がれる恐れと思われる。ジュンの側から源馬に向かって敵対に似た感情の波が発されているのだ。
源馬はミナトに向かって上品な作法で貴族めいた礼をする。
「ようやく会えて嬉しく思う。ミナト・ティール少年」
それから挨拶代わりとばかりに右手が差し出された。
1秒ほど躊躇いながらその手を右手で受ける。
「こちらこそ。確かお互い初見はスペースラインで合流した時でしたかね」
記憶を探るとその顔には確かな見覚えがあった。
革命中この艦橋地区へ向かうさいともに疾走している。ともすれば彼もまた同じく革命側に寄り添う存在ということに他ならない。
すると源馬は手を解きながら「おおっ!」大袈裟に驚いてみせた。
「キミの誓いは我々年長者の心にしかと届いたぞ! おかげでしおれかけていた心に久しく芯が通ったともいえる!」
そう言ってどむっ、と。重い音がするくらい己の胸板に思い切り良く拳を打ちつけた。
しかしミナトはすでに源馬を見ていない。
「――っ!?」
目を剥きながら己の手のひらを凝視している。
なんとなくで交わした友好の余韻へ唐突な恐怖を覚えていた。
――なんだ今の!? 手のひらに1ミリくらいしか生命を感じなかったぞ!?
触れた彼の手はあまりに無骨すぎた。
暖かかったため義手の類いではない。間違いなく人の手である。
しかし触れた直後ミナトの脳が彼を人ではなく岩石と誤認した。必死に鍛えて皮膚が硬くなったとかそういうレベルの話ではない。そう、次元が違う。
「……誓い? ってなんだ?」
正気に戻ってみると、ふと源馬の発言が引っかかった。
ミナトはわけもわからぬまま腕組みして黒い頭を真横に倒す。
「革命のとき管理棟の上からミナトが東に叫んだあれのことだろ」
ジュンがあっけらかんと口にする。
と、遅れて杏が駆け寄ってきた。
「アンタあの時間違って船内全体の回線に繋いでたのよ。つまり船内にいる全員の耳に怒鳴り声が響いてたってわけね」
「なにその泥酔して記憶が無い翌日に友だちから色々聞かされる的なやつ? しかもそれって誓いっていうかただの痴態じゃないのか?」
ミナトは冷静を装うも頬に熱が浮いてくるのを感じた。
あの日の記憶は非常に薄くぼやりとしている。
なにせあの時は本当に切羽詰まっていたのだ。病院のベッドで目覚めてはじめて革命の成功と己の拳の破壊を知ったくらいだった。
「クソ有名な逸話ってことになってるよなあれ。だから黙っててもいずれミナトの耳に入っちまうだろ」
「しかも幸か不幸かあれのおかげで東に楔を打つことにも成功してるわ」
どうしてか2人はどこか和気藹々と声を弾ませる。
さながら見たイベントの感想を改めて語らうかのよう。
目を細めながら語るほど昔の話でもないのだが、2人はやけにほがらかだった。
「あの女ったらしが別のほうに精力を注ぐってのはそうとうだよな。革命が成功したらなんだかんだ言い訳しながらふらふら遊び回るかと思ってたぜ」
「船内全員の前で誓いを立てさせられたからでしょ。だから自分の口にした改革を強制的に進めざるを得なくなってるのよ。本当にざまあみろって感じだわ」
しだいに話題の中心は東光輝という男へ集約していった。
彼があくせく働く様子はノアの民にとってそれほどまでに意外なモノだったのだろう。
「ふぅん……だからあんなに動き回ってんのか」
なおミナトもとくに同情とかしていないし、これからもする予定はない。
元より現状のノアはあの男が望んだ通りの道筋を辿っているにすぎない。精力的にアザー開拓に張り切るのも本人が好きでやっていることだろう。
結果としてチーム《マテリアル》は出突っ張りとなりミナトたちの懐が潤う。次いでノアの物資も豊かになり、人々の練度も上がっていく。
あるいは、それらすべてが東という中年男の企みなのかもしれない。ともかく彼は彼なりに大人としての役目を果たしていた。
「さてそれではここから君たちのリーダーをお借りすることになるが、良いかな?」
源馬が痺れを切らしたみたいに口を開く。
直立のまま沈黙を貫いていたが、ようやくといった感じ。
ウィロメナは下腹の辺りで両手を正し深々とお辞儀をする。
「私たちはこれから実技の訓練施設のほうに向かいます。その間ミナトくんのやることがなくなっちゃうんでどうかよろしくお願いしますねっ」
「こちらとしても彼の扱う異常能力や例の適正結果に色々と興味が尽きぬ。しばしアカデミーの案内がてらより精密な検査を受けていただこう」
そんな2人のやりとりを前に「……え?」ミナトは唖然とした。
てっきり気の通った仲間に案内してもらえると思っていたがどうやらそうではないらしい。
しかも初対面同然の年上男に着いていかねばならぬようだ。
ミナトがきょどきょどしているというのにすっかり場の空気が固まりつつある。
「なにせ《四柱祭司》つったら第3世代に最も近いとか噂されてる連中だしな! そんなすごいヤツと一緒ならミナトもあっという間にフレックス使えるようになっちまうんじゃねーか!」
「フレックスの定義や世代の説明は後々しようと思っていたけど私たちより適任者が現れて安心ね。ちゃんとメモをとるとかしながら源馬さんの一言一句を聞き逃さないようになさい」
ジュンと杏はすっかり乗り気だった。
早々に面倒事を渡し終えて解散するような流れになっている。
「…………」
だからミナトは寂しさを覚えて目をうるうるさせた。
実のところアザーからノアに上がってきてというもの1人になることは皆無。かなりのレアケースである。
「この後訓練が終わったらアザーに行くけどウィロはどうするよ?」
「私はちょっと遠慮しておこうかなぁ。もう他の子たちの練度も上がってるし心配ないかもだから休ませてもらうよ」
「まあ英気を養うのも仕事のうちだかんな。ウィロもいちおう女だし俺らみたいにがしがし働くのは難しいか」
「それジュンが体力馬鹿なだけだからね? 一般的な男性の体力を自分基準にしたらだめだよ?」
ジュンとウィロメナが振り返ることなく遠ざかっていく。
「…………クゥゥン」
去って行く友の背を見るミナトの瞳はさながら雨風に晒された子犬の如し。
尾が生えていたら股を通ってしおれていたかもしれない。
そんな薄汚れた子犬とは対照的に源馬はかっかと声を上げて笑う。
「まあ年は離れているが男同士仲良くやろうじゃないか! アカデミーは我が家のような場所だから案内なら任せて欲しい!」
無骨な手が細身の肩へ気さくに添えられた。
彼の年齢は20後半30凸凹といった熟した若さがある。
ゆえに10は異なる相手と同伴というのはどうにも抵抗があった。
「あ、そうだ。ミナト!」
去り際に杏が振り返る。
そして胸に手を添え一呼吸。
それからびしっ、と。白細い指が勢いよくミナトを狙う。
「後で晩ご飯作ってあげるから待ち合わせよ! こっちの用事が終わりしだい連絡を入れるから絶対にでなさいよね!」
なぜか目つきが鋭く、ちょっと怒った風を装っていた。
なのに頬にはほんのり桜色が浮かんでいるし、僅かに呼吸も荒い。
すると横でウィロメナがたまらないとばかりに吹き出す。
「ふふっ。がんばって作ったご飯を残さず食べてもらえて嬉しかったもんねっ」
杏の顔が一瞬のうちにしてぼっ、と真っ赤に染まる。
「な、なに言ってんのよ!? そ、そういうんじゃないし!?」
「あー……通りで道中ずっとツンケンしてんなーって思ったぜ。腹一杯になりながらも残さず完食してくれたのが嬉しかったわけか」
直後ジュンだけが《重芯》の能力によって地べたへ貼り付けとなった。
チームメンバーの奏でる潮騒に似た騒々しさが徐々に離れていってしまう。
引き潮となって残された後に残されるのは、孤独。慣れていたはずの空白だった。
ミナトは久方ぶりの疎外感を覚えながらアカデミーの建物を見上げる。
「ここでオレも蒼に目覚めればもう守られるだけの弱い存在じゃなくなる。そうすればきっともう……なにも失わない」
少年は死神と呼ばれていた。
いつしか瞳には希望を宿し、1人が怖いと思えるようになっていた。
――それに別にこれでサヨナラってわけじゃない、よな。
どうしてか胸騒ぎが止まらないのだ。
もう見えなくなってしまった友の背が遠い。
ずっと遠くにあるような気がしてならなかった。
○ ○ ○ ○ ○




