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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.2 【Team AEGIS ―アザー―】
61/364

61話【VS.】禍ツ繭 黒ノ使者 U黒NKO族WN 3

?ク??セ厄スウ

?オ??セ?スイ?ク


?難スウ?イ??スイ

?難スウ?カ?晢スシ?橸セ?スイ

??セ橸スコ?カ??スオ?イ

?奇セ呻スカ?カ??セ?

 この星に人間は存在していないはず。なにより地球で生まれた生物を人間と呼ぶのであればこの星に住まう人に近い生命は人ならざるものでしかないのだ。

 なにより彼女の在り方は異常だった。体に殻をまとっていたことも、白黒ではない黒赤として眼も、なにもかもが人と異なる生物でしかない。

 女形は、不気味さに拍車をかけるようにして呻き、唄う。


「ア、アア……アアア……」


 両腕をだらりとたらしながら虚ろ眼で佇んでいる。

 座らぬ首を横へ傾け、口端からは赤黒い液体が漏れでていた。

 剛山は顎髭を指で捻りながら彼女の様子を窺う。


「俺が背負ってたときにゃあ肌の至る箇所がフジツボみたいに硬質化して肉と同化してやがった。それなのに潰れかかったイガグリみてぇな声も回復して今や生娘のように清らかな肌になってやがる」


 混迷する事態に恐れ慄くこともせず、淡々と事態の究明に脳を利用する。

 さらには好奇心を隠さぬとばかりに口端をニヤリと持ち上げた。


「瞳の色が違うこと以外見た目は人間と何も変わらないか。いったいお嬢ちゃんはあのダマのなかでなにを経て麗しのナイスバディを手に入れたんだかな」


 乾いた唇をぺろりと舐める。瞳には蒼を灯して視力を補正していた。

 裸体を色眼鏡とは異なる観察眼で矯めつ眇めつ覗き、監査していく。


「ずっと能力で感知していたけど、あれってもしかしたら羽化したのかもしれない」


 しかめっ面の愛がようやくといった感じで口を開いた。


「羽化だぁ? 人の形しているやつ相手にずいぶんとおもしれぇ言葉選びをしなさるじゃねぇか?」


 剛山のいうように彼女らしくはなかった。

 というより人の成りをした生物に対し昆虫の辿る羽化という言葉はどうあっても似つかわしくない。


「僕だって信じたくないし未だに信じようとも思ってないけどね。実はあの子黒い触手の中で1度全身が泥のように溶けたみたいなって消滅しているんだよ」


 愛は論より証拠を提出した。

 ほらこれ。《ALECナノマシン》のモニターを剛山のほうへ傾ける。


「内部のシルエットが1度ぐずぐずに溶けてからあの形に再形成されていってるんだ。もしかしたら本当に芋虫が蝶になるみたいに生まれ直しているのかもしれない」


「クハハ、こりゃあ前例がねぇ。一部ではなく全身のアポトーシスっときたもんだ。ってことは地下の大型が蛹となるスイッチだったってことかね」


「ううんわからないし正直ここで答えは絶対に見つけられない。これは後々アカデミーに提出して議論するべき重要サンプルってだけ」


 科学者2人はモニターを眺めながら粛々と話を進めていく。

 2人の覗き込むモニターには、黒い球体を透かした動画がリピートで流されていた。

 女形の形態が1度どろりと溶解し液状と化す。それから徐々に元の形へと戻っていく過程が映し出されている。

 しかし一党らの目の前で起きている不可思議は彼女だけではなくなっていた。

 それは上空。雲よりも低い位置にぼっかりと開いた大穴。

 

「空に穴が開いてるわ! しかも夕暮れのなかだっていうのに青空が広がってる!」


 杏は背負ったはずの大剣を再び抜いて構えをとった。

 空に開いた鋭利な幾何学模様と少女を交互に見やりながら舌を鳴らす。

 その横では久須美がファイティングポーズでステップを刻む。


「つまりあの洞窟のなかにあった謎の空間と同じ座標に繋がっているということですの?」


「もし違っていたとしてもあの子となんらかの繋がりがあると見るべきね!」


 依然として戦場は停滞を余儀なくされていた。

 敵は果たして敵であるのか。相手が語らない以上こちらは手を止めざるを得ない。

 空では鋭い夕暮れの破片を撒いている。内側から弾け飛んで生み出された超不可思議の亀裂が幾千という破片を大地に散らす。

 夕日の欠片が重力に吸われて風に舞う。灰に埋まる大地へダイヤモンドダストの如き乱反射する光沢が降り注ぎつづけていた。


「アアア、ア、アアアア」


 立ち尽くしていた女形の生物が、動いた。

 関節を軋ませるような機械めいた動きで、喉で喘ぎながら亀裂を見上げる。人と同じく5指のある手を上へ上へと伸ばした。

 表面に滴っていた赤黒い粘液が乾燥してその身を汚す。それでもなお目元から頬にかけて似た色の雫が涙のように顎先から滴となって落ちる。


「おい、冗談だろ!」


 ミナトの口が脳を介さずに現実を否定した。

 これ以上の不可思議はとうに食い飽きていた。だというのに事態は増すばかり、それも悪化の一方向にしか道を辿ってくれない。

 おそらくそれは腕である。偽りの青空が広がる亀裂の向こう側から漆喰の如き殻に覆われた手のようなモノが伸び生えてきている。

 しかもその巨大さといえば、ゆうに人1人を握りつぶせるほどの大きさをしていた。


「《雷伝(システム)》の回路にも当たっているはずなのに感じられない! 血も筋繊維すらも持ち合わせていない空洞の殻のようだね!」


 科学者である愛でさえも首を捻って瞬き、呆然と見上げるだけ。

 なのに小柄な肩が恐怖で息を刻む。眼があふれんばかりに見開かれ顔色は真っ青になっていた。

 キーを叩く直前の中途半端に浮かせた指がぶるぶる小刻みに震えている。

 しかもそうなっているのは彼女だけじゃない。この場に集う全人類が少女と巨大の出現になんらかの恐怖を覚えて立ち尽くしていた。


「アアア……アア、ア」


 混濁の最中でも変異は止まらない。

 女形は大空を抱えるよう天へ両手を掲げると、まるで無重力になったみたいに足が大地から離れる。その身は空から伸びる手のほうへと吸い込まれていく。

 やがて空から生え伸びた巨大な手は彼女の身を掌握して亀裂のなかへと連れ去ってしまう。

 僅かな間の静寂が訪れた。しかしその次の瞬間全員が意図せず止められていた時計の針をほぼ同時に動かす。

 空が弾け飛んだ。それも先ほどの比ではないほど巨大な大穴が空に空を描く。

 そしてそこから甲殻をまとった巨大な半身の化け物が落ちてくる。


「――――――――――――――――――――」


 脚はない。代わりに長く巨大な腕は4つある。

 頭となる箇所はおそらく上に着いた小さな突起であろうか。なにより胴が甲殻に覆われ大鎧の如き見た目をしていた。

 どの部位にもあの女形とは似て非なる赤と黒の瞳がうぎょろうぎょろと動いている。

 それがなんであるか、なんて。もはやどうでも良い。


「全員押しつぶされたくなかったら一時退いて! 後衛はさっきより距離をとって後退の支援よ!」


「杏さんの指示に従ってくださいまし! 《セイントナイツ》各員は急ぎ撤退を開始するのですわ!」


 杏の発した指示に全員が尻頬を叩かれるよう撤退を開始する。

 空から落ちてくる巨大な質量をまともに受ければ即死は逃れられない。


「撤退……! あ~でも走るのだるぅ……」


「そんなこといってる場合じゃないんじゃないかな!? 早く逃げなきゃ潰されちゃうよ!?」


「潰されるのはもっとだるぅ……」


 夢矢と珠も化け物に背を向け走り出す。

 前衛を務めていた杏と久須美だけではなく後衛たちも脱兎の如く後退を余儀なくされた。

 夕暮れの欠片が降り注ぐなか蒼き残光を翻す。その破片が五月雨の如き降り注ぐ最中に僅かな赤い光が横切っていく。


「なんだ……? 化け物から細い1本の線が延びてる……?」


 ミナトだけは化け物から視線を逸らすことはなかった。

 集中するのは得意だった。死神と呼称されながらも生きつづけ培った技術でもあった。

 集中することだけが生きるための方法だった。だからかいつしかどれほど平常心を保てぬような状況であっても観察することは止めなかった。


「まさかターゲッティングかッ! おっさん夢矢の逃げる方角に合わせてアクセルを全力で踏め!」


 だから気づけたのだろう。

 1本の紅い薄透明な線が夢矢の後頭部を真っ直ぐ示している。


「お、おう? ど、どうしたいきなり?」


「どうもこうもアンタの息子が狙われてるんだ! 仲良くノアに帰りたいなら言うとおりにしろ!」


 ミナトはかぶりつくよう運転席に座る剛山に「急げ!」急ぎ、伝えた。

 それと同時に剛山は蹴りつけるようにアクセルを踏む。

 化け物から地上に向けて1本の線が延びていた。しかも紅の線は半べそをかいて撤退する夢矢を定めつづけている。


「畜生!! 間に合え!!」


 銃座から構え、放つ。

 構えた左腕のフレクスバッテリーから蒼きワイヤーが飛び出す。

 急速に延びた蒼い閃は真っ直ぐ夢矢の手に貼り付いた。


「ふぇっ? ――いいいいぃいぃいぃい!!?」


 はじめは呆然としていた夢矢だった。

 が、すぐにぼーっとしていられない事態に追い込まれる。ミナトの奇行によってあどけない表情は、恐怖と悲鳴に変貌する。

 華奢な身体が高速で巻き取られていく。人1人が発射されたワイヤーに捕らわれ釣り上げられていく。


「おおい!? 誰の許可をとってうちの(まな)息子を1本釣りしてやがる!?」


「いいからハンドル回してなるべく動き回れ! 敵の攻撃をかわす準備をしろ!」


「攻撃!? っ、しゃらくせぇやって考えんのは後にしてやらぁ!」


 バギーが後輪を滑らせ向きを進行方向を90度変更する。

 直後、敵の無数にある眼が光を発す。あろうことか発された光線が大地を焼いた。

 しかも光線が外れたとみるや目標を数度にわたって追っていく。


「ひ、ひっ!? ひぇっ――ひやああああああああ!!?」


 いっぽうで夢矢はなすがままに引きずらていく。

 涙を後方に散りばめながらカナリヤの如き悲鳴をあげた。

 自分の意思とは別に引きずられる。しかもその後を追うようにして大地が粉砕されていく。これ以上の恐怖もそうそうないだろう。

 バギーはぐんぐんと速度を上げてゆうに80kmを超えた。それとワイヤーで無理矢理結ばれた彼は、辛うじて足裏でバランスを取りながら砂の上を滑っていく。


「いいいいいいいやあああああああああああ!!?」


「ま、まさか兄ちゃん!? うちの夢矢を助けてくれたってのか!?」


「ひあああああああああああああああああ!!?」


「剛山さんは夢矢くんの父親として怒るべきじゃないかな? この強引な助けかたを助けたことにしちゃダメだと思うよ?」


 愛は納得していないようだが、間一髪の救出劇だった。

 機転がなければ今ごろ夢矢はどうなっていたか、想像すらしたくはない。

 とにかくこれで判明したことは1つきり。無条件でこちらに攻撃してくるのであればそれは敵でしかない。

 ミナトは機銃を掴み化け物のほうへと銃口を定める。


「いきなり警告もなしにぶっ放してくるとかどんな育ち方してやがる!」


「でもミナトくんも同じお里で同郷なんじゃない?」


「この星であんなビッグサイズな知り合いがいたらさぞ食いぶちに困っただろうな!」


 愛の入れてくる茶々を無視してミナトはトリガーを引いた。

 火薬に尻を叩かれた鉛が霰の如く敵に向かって放たれる。返ってくる衝撃で手がビリビリと痺れた。火薬の爆ぜる音によって鼓膜がすり減っていくかのよう。

 ミナトは銃弾をばらまきながら吠える。


「鉛ならあるだけたらふく食っていけ! 殺傷力はいわずもがなこれぞ愚かな人類らしい叡智の結晶ってやつだ!」


 この程度の銃弾如きが効くとはハナから思っていない。

 しかしこうでもしなければ仲間が守れそうになかった。潰されぬよう撤退する前衛たちに攻撃が向けばきっと間に合わなくなってしまう。

 だから怯えを焼べて銃を撃ち続ける。


「オオオオオオオ――ッ!?」


 ちょうど弾帯に切れ目が入ったタイミングで、目が合った。

 ぎょろり、と。いくつもある敵の目とミナトの視線が交わる。


「……ライ……ライ……ク……」


 その中には胸甲に半身を埋めた女形も虚ろ眼も含まれていた。

 彼女が右腕を振り上げる動作をすると、黒色鎧も大木のような腕を振り上げる。


「やばぁっ!? 退避退避ぃ!?」


 愛は身をすくませ叫んだ。

 剛山も即座にハンドルを切って回避行動に入る。


「クハハ! 完全に動きがお嬢ちゃんと化け物で同期してやがる! つまりあれもまたご立派すぎる身体というわけか!」


 大きく車体が傾きタイヤが横に滑った。

 そして流れた先にある岩を踏んでバギーそのものが大きく揺らいで弾かれる。

 その衝撃に耐えきれずミナトの身体が銃座から放り出されてしまう。


「うお!?」


「ミナトくん!?」


 蒼に沿われた愛の手が伸びてくる。

 ミナトも反射的に手を伸ばすも、あとコンマ数ミリで間に合わず。

 残酷にも互いの手が空を切った。


――あ……マズいかこれ? もしかして……死ぬ?


 受け身はとれそうになかった。

クチヨウ

















オチテイク
















モウイナイ

モウカンジナイ



















ドコカトオイ































ハルカ


























カナタ

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