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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.2 【Team AEGIS ―アザー―】
60/364

60話【VS.】禍ツ繭 黒ノ使者 U黒NKO族WN 2

挿絵(By みてみん)


畏怖

未知との遭遇


IF

それは黒き闇


顕現せし

黒眼の凶兆

 仲間たちが奮闘する戦場の周囲をバギーが疾走する。

 なるべく攻撃に巻き込まれぬよう適正な距離を測りつつ、戦いの様子を観察していた。

 そうやってぐるぐると周りながら観測役は敵の様子をくまなく調べていく。


「どうだい美菜んとこの娘っ子! あのなかに閉じ込められているお姫さんの様子は確認出来そうか!」


「さっき杏ちゃんが外殻を剥いたときレーダーになにかが映った! 僕の能力で磁場を構築しながら中身をスキャンしてるからちょっと待って!」


 愛は身体から蒼き波を発生させ情報の更新に励んでいた。

 三角耳の形をした受信機が跳ね返ってきた蒼をキャッチし敵の情報を探っているのだ。

 戦闘チームはかなり安定した戦いを繰り広げている。そのため彼女が外れていても問題なく戦況は優位を崩すことはない。


磁気共鳴マグネティックレゾナンスでのスキャニングか! クハハ、機械いらずとはおっさん時代の進化を感じちまうねぇ!」


「医療用MRIの応用だから既存の科学技術ではあるんだけどね! これがけっこう理解力と集中力を使うんだよ!」


 助手席に乗った愛が敵の情報を収集を務め、剛山が運転を担当していた。

 どちらも専門はことなれど研究職に根ざす者たちだ。自然と自分たちのやるべきことを理解している。

 なにしろ敵はアザーの民でさえ見たことのない不確定要素。情報がこれからの戦況を左右しかねない。

 そのため2人は互いの知りうる知見を密に交換していく。


「あの卵はおそらく羽化する予定じゃなかったんだろうな! 俺が接触したことで何かしらの刺激になっちまって未完成状態で外に出てきちまったんだ!」


「そう理論づける根拠を是非聞かせてもらいたいね! 一瞬だけ姿は視認したけどそこそこ成熟しているように見えたよ!」


「見た目は20そこらだった! だが、中身のほうは口もきけねぇ立ちもしねぇの赤子よ! だから俺はアレが完全体ではないと思っている!」


 2人とも未知を知るという欲求に対して貪欲だった。

 愛はキーを叩き、剛山はバギーの後輪を滑らせながら、互いの意見を遠慮なく言い合う。

 間もなく雲を透かす夕暮れの光源が、灰と砂礫の地平線へと沈む。このまま夜を迎えれば視界は閉ざされより危険な戦いを強いられることになりかねない。

 最後部に位置する銃座に立ったミナトは、苦心する。


「もう6時間も過ぎてるのにジュンたちの合流が遅い。しかも新種のAZ-GLOWまで現れたか」


 ここにきて最難関の選択を迫られつつあった。

 とるべきは撤退か、残留か。任務目標である虎龍院剛山の保護は成功している。しかし新種のAZ-GLOWの解明はこの星の真相に迫る重要な欠片(ピース)になり得た。

 さらにはBキャンプに置いてきた3人との合流も未だ出来ていない。


「よし、ここは撤退して仲間との合流を優先だな。あんなもん相手にしてたら本当の意味で日が暮れる」


 ミナトは小粒の最新鋭機器が着いた耳へ手を当てた。

 仲間たちへと指示をするため《ALECナノコンピューター》の回線を開く。

 最適解なのはいうまでもないだろう。戦闘中の仲間たちを回収し剛山を含めてBキャンプへと転身する。そして3人の安否確認と合流を果たし安全区域へと避難する。

 ミナトはあの未知なる生物は放置することにした。とにかく生存を優先させたのだった。


「回線が繋がらないだと……なんでこんなときに?」


 なのだが回線が一向に開こうとしない。

 仲間たちへ撤退を指示すべく広げたモニターには、切断の文字が浮かんでいる。耳に入ってくる音もザーザーと耳障りだった。

 ミナトはあっさりと諦めモニターを閉じる。


「……ふぅ」


 状況の逼迫具合のわりには軽いため息だった。


――さすがにこれを偶然で済ませられるほどこっちだってバカじゃねーぞ。


 本日はなにもかもが悪い方向へ舵を切りつづけている。

 ミナトは戦う仲間たちの様子から視線を外す。代わりに天高くへと詰まった雲海をしみじみ睨みつけた。

 空は、嘲笑うし大地に這う人さえ見下してくる。さながら凶兆を現わしているかの如き血色の紅だった。

 そうやってミナトが視線を逃がした先に、なにかが存在している。


「なんだ、あれ……ヒビ? 空が……割れているのか?」


 思わずため息ばかりこぼれる口で息を呑む。

 曇天の夕暮れを背景に幾何学模様の欠けが存在しているのだ。

 しかもはらはらと少しずつ空が欠けて亀裂模様が広がりつつあった。


「敵の攻撃が止んだわ! この行動は初めて見せるわね!」


 そして戦場でもなにか別の動きが生じている。

 杏は華麗に着地を決めて背に大剣を背負い直した。

 久須美と愛も敵から距離を取りつつ様子を窺う。


「ずいぶんと再生をつづけておられましたがようやくエネルギーが尽きたということですの?」


「だからといって油断はダメだよ! あれだけ地下から吸い上げていた黒いモノも流れを止めてる! もしかしたらまだなにかしてくるかもしれないよ!」


 あちら側で戦っているはずの面々が動きを止めた。

 さらにはあれだけ人間に対して敵意を向けていた球体が静止している。杏たちへ触手を仕向けることさえ止めている。

 流砂の渦の中央から吸い上げていた黒き流体も流れも停滞していた。

 まるで時が止まっているかのよう。人の側からすれば不気味な静寂でしかない。距離をとりながら次の手を決めあぐねている。 

 そして唐突に耳をつんざくが如き金切り声が周囲一帯に鳴り渡った。


「A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”!!!」


 それは音というより衝撃に近い。砂塵が舞うほどの威力を秘めていた。

 宙に浮いた黒い球体から意識すら刈り取らんばかりの騒音が発される。

 とてもではないが正気で聞いていられる音ではない。汚らしいがなり声が周囲を波動の如くざわつかせた。


「A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”!!! A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”!!!」


 それは人の出す悲鳴のようであって、獣の発す気迫のような風にも聞こえた。

 景色さえもボヤけるほどの音圧が嵐の如く舞う。音に弾かれた砂塵が川のように波を打つ。

 そしてその中心には触手で固められた半径10メートルほどかというくらいの巨大な球体が漠然と浮かんでいるだけ。

 愛がモニターからガバッと勢いよく顔を上げる。


「謎の巨大なエネルギー反応を感知! あの触手の中でなにかが爆発的に膨れ上がってる!」


 黒い球体に変化があった。

 はじめはあれだけ弾力のある触手玉だったのに表面が光沢を帯びる。中央の辺りから徐々に硬質化を開始していた。

 しかもその硬質化した箇所が全体にいたろうと下辺りでピシッ、という音と亀裂が生まれる。


「割れるだと!? 触手の塊にヒビが、なかからなにかが出てきやがるぞ!?」


 剛山は目をカッと見開きながら唇を震わせた。

 彼の語る通り硬質化した触手の塊に落雷の如き亀裂が広がっていく。


「A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”!!!」


 騒々しい絶叫のなか僅かにピシピシという破砕音が混ざった。

 必死に状況を整理しようとすればするほど焦りが滲んでいく。

 戦闘中の面々も発される音から逃げるみたいに両手で鼓膜を守っている。


「っさいわねぇ!? なに、この音!? なんか、気持ち悪い!?」


「クッ、生命への冒涜さえ思わせる絶望的な音色ですわね!」


「ううっ!? な、なんかこの音聞いてると頭がガンガンしてくる!?」


「これやば……寝起きにキッツぅ……」


 戦闘中だったはずの4人は強烈な音波に晒された。

 全員攻撃どころではない。両手で耳を塞ぐことでやっと。実質この音そのものが攻撃のようなものだ。


「A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”A”! O”O”O”O”O”O”O”O”O”!」


 なおも黒い球体は悲鳴を上げながら上部中央の辺りから左右に裂けていく。

 集結した触手は蠢くことを止め硬い殻となり割れていく。

 まるで卵の殻のようだった。地下から吸い上げた大型を球体にまといながらゆっくり大地に降りつつあった。

 混乱の最中でもミナトは、一瞬たりとも目を離すことなく1点を注視している。


「地上の殻だけじゃないッ!! 空のヒビも割れるぞッ!!」


 言葉にした次の瞬間、2つの亀裂が破砕した。

 黒き球体が殻を破るのとほぼ同時だった。空の亀裂が千々(ちぢ)となってはじけ飛び大穴を開けた。

 上空から夕暮れの欠片が降り注ぐ。地上では歪なれど人とよく似た影がふわりと宙に立っている。


「…………」


 殻なかから現れたのは、女形のナニかだった。

 この星で起こった不可解な現象は数あれど不気味さでいえば群を抜く。

 一糸まとわぬ姿で抑揚ある裸体を晒す。それでいてないところに立ちつづけている。さらには白く透けるような肌に赤黒い粘液をどろりと滴らせる。

 殻を脱ぎ捨てた彼女は、少なくとも人間でない。人であればそのような眼差しを持つこと自体あり得ない。


「……A”A”……O”O”O”……」


 開かれた彼女の眼球はどちらも漆黒の如く黒かった。

 そして闇が血色の瞳を抱いていた。

 バギーが後輪を滑らせながら急停止する。


「あの人ならざる目は嬢ちゃんだ! 俺がここまで連れてきた嬢ちゃんで間違いねぇ!」


 表情を強ばらせながら剛山は全身をぶるりと震わせた。

 唐突に現れた人の如き物体によって漠然とした不安や不快感が満ちていく。



(区切りなし)

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