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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.11 【空色の空 ―Sky Light Syndrome―】
326/364

326話 200年前の貴方へ《Legendary》

挿絵(By みてみん)


過剰な待遇

報い


人の残した

記憶


白き魔女の

微笑

 なぜかエルフ女王は人に優しいのだ。

 しかも国を挙げてまで庇護する徹底ぶり。リアーゼの有能さから見ても常軌を逸する行動でしかない。


「えとえと! あの、確かにその詩はカマナイ村に出没した怪魚のことですね!」


「ミナト様と海龍スードラ様が先陣となって討伐なされたんですわ! 私たちはたまたま偶然その場に居合わせたというだけです!」


 わたわた、と。慌ただしいにもほどがある。

 だがエーテル国とエルフ国は隣国で協力関係でもあった。

 災害時や特殊個体などによる被害が多い場合必要であれば互いに物資や兵を派遣し支援する。

 当然であるが今回の件も契約上定められた行動ではない、はず。


「そ、それにあれば龍とエルフの少女が我が友へともちこんだ依頼です! なのであればあくまで人種族の庇護の範疇であるかと!」


「そーですそーです! 怪魚討伐の功績は聖女派と教団派でちゃんと半分こしちゃいましたけど!」


「ばっ――余計なことをいうんじゃありません! それではまるで私たちがエルフ領土から希少魔物を掻っ攫ったみたいではありませんか!」


 これほど慌てるのには意味があった。

 変異個体であるヴァリアヴルヴァシリスクは、かなり希少性が高い。そのため鱗1枚でさえ高価な額がつきかねなかった。

 だからいまさら聖火にすべて焼べてしまった、なんて。詰められたら国の沽券に関わってしまう。


「だから、あのぉ……このことは寛大なお心でぇ……」


「内密に処理していただけると非常に喜ばしいのです……」


 双王ともにタジタジだった。

 上座だというのにしゅん、と。上目遣いで懇願するしかない。


「謝るなんてとんでもございませんわ! 人種族が動いたということは私にとって実に素晴らしいことなのですから!」


 白く長い耳がピコン、と跳ねた。

 リアーゼは興奮気味に呼気を乱して熟れた両頬に手を添える。

 てっきり叱責のひとつでも、と。テレノアは意外とばかりに銀目を丸くした。


「勝手な行動をお怒りになられないのです?」


「怒りどころか感謝の念しか湧いてきませんわ! 彼の者の果たした功績は我が国にとって光栄なのことなのです!」


 リアーゼは目尻をとろけさせながら腰を艶めかしく揺らがす。


「もし強大な魔物が野に解き放たれれば村1つどころでは済まなかったでしょう。これは1国の主とし、勇敢な行動をおとりくださった皆々様がたへと心より御礼申し上げとうございます」


 先ほどした挨拶よりずっと深い礼だった。

 リアーゼは決して形式的とはいえぬ礼を双王に示した。

 世にも美しい白い頭髪が気品ある所作につづいて光を塗す。


「な、なんとか許していただけましたね……! 戴冠式の直後に危うく問題が起こっちゃうところでした……!」


 九死に一生を得るが如き安堵だった。

 たまらずといった感じでテレノアは起伏の浅い胸をなで下ろす。

 しかしザナリアの表情は未だ曇ったまま、晴れることはない。


「ですがいまいちリアーゼ様の行動原理が理解できません。なぜあれほどまでに人種族へ寛大な対応をなさるのでしょう」


 線の細い顎に手を添え当惑の繭をひそめていた。

 こと人種族が関わると、リアーゼの言動には不可解な部分が多くある。

 ひとことでいうならば、人種族という異世界種への対応が甘すぎた。

 テレノアはふふんと鼻を鳴らしてしたり顔を決める。


「私たちもいっぱいいーっぱい助けて貰っちゃいましたし当然の対応です。数々の功績を果たしてくださった人種族さんたちとの約束は聖女の威厳をもってして必ず達成されなければなりません」


 まるで人種族たちの功績が己のものであるかのような威勢ぶり。

 いまや人種族たちは街を歩けば笑顔をむけられるほど。聖女、教団関わらず大陸の民にすら信頼されている。

 ザナリアだって彼ら勇敢で優しき種族たちのためならば心血注ぐ覚悟があった。


「それはいまならば、というお話です」


 だが、それは重ねた功績があるから。

 聖誕祭で奮起し、努力が認められたという結果が伴うから。


「リアーゼ様はなにも信頼が築けていない状況ですでに庇護へと動いていました」


「あぁっ! 確かに私が森のなかで助けていただいた件も一部のかたしか知らないはずです!」


 当然だがリアーゼにそんな神託じみた力はない。

 なのにまるでこうなる未来をあらかじめ知っていたかのよう。

 ザナリアは、意を決したように無言で佇むリアーゼのほうを見る。


「フフ、お話はお済みでして?」


 緊迫を孕むこちらとは異なって、淫靡な微笑だった。

 若葉色の瞳が光るたび、心の底まで見透かすかされるような錯覚を覚えてしまう。

 それでもザナリアは気圧されずに騎士然と応対する。


「なぜ貴方様はそれほど人種族をお助けになられるのです? 見ず知らずである異世界種を迎え入れるには若干手厚すぎるのでは?」


 問うことで十を得るつもりはなかった。

 一を得られれば十分。その予想は大いに裏切られる。


「ワタクシは人と呼ばれる種族のファンなのです」


「ふぁん? それはいったいどういう?」


 唐突なウィンクだった。

 ザナリアは唖然と心を抜かれてしまう。


「愛しているのですよ、もはや陶酔の域といっても良ろしいくらい。彼らの訪れの報を耳にして以来この胸が張り裂けてしまうほど狂おしく、お慕いしているのです」


 戸惑いをよそに、饒舌だった。

 リアーゼは頬を包み腰を揺らめかせる。

 威厳のとろけた顔はさながら恋する乙女であるかのよう。


「この世界に人がやってきたのはおよそ2度目であることはそちらもご存じですね?」


「え、ええ……私の生まれる前にいたというお話くらいならばお父様から聞いております」


 テレノアとザナリアが生まれていない世界の話だった。

 それに人種族の存在したという過去は文面や口頭で伝え聞いたことがあるくらい。大陸史実に残された情報があまりにも少なかった。

 原因は、おそらく200年前の戦争にある。そのころ大陸は種族間抗争の戦火に呑まれていたこともある。ゆえにその間のみ歴史が曖昧なのだ。

 テレノアはくるくると指を回して銀目を天へ逸らす。


「確か200年前の人種族さんはたったのひとりだったらしいですね?」


 たったひとり。これは大陸に伝わる有名な記述だった。

 今回のように大勢ではない。ただひとり。

 人に関する記述内容は、雑多に、さまざま。

 脚が4本あったというのはマシなほう。なかには10mほど体長があって木々を薙ぎ倒して歩く、など。

 誰がそんな世迷い言を信じるものか。情報が錯綜し混線しているにすぎない。それほどまでに200年前の大陸は大戦の渦中にあったということだろう。

 ザナリアは海馬の頁を探りながら読み上げていく。


「200年前、冥府は創造主の御命を案じ、魂の回収を目的として大陸世界を滅ぼそうとした。それに対し創造主は愛する我が子の住まう大陸世界を守るために手を尽くした。このように相反した神々の思想が大戦乱を呼び起こしてしまった」


「そう、そして人の者は抗争の元凶となっていた神の災厄を相手どった。この大陸種族たちを率いて討ち勝ったのです」


 リアーゼは満開の笑みで白い手を数度ほど打った。

 それがなぜだか褒められているような気がしてザナリアは気恥ずかしくなってしまう。


「実はワタクシ……200年前の戦乱にて命を落とし生まれ変わった転生者ですの」


 一瞬、視界が真っ白になるような錯覚を覚えた。

 それほどの衝撃的な開示だった。だからザナリアとテレノアはほぼ同時に息を呑み硬直する。


「て、えええええええええええ?!」


「まさかそんなこと、ありえません!? 巡る魂が再び世界へ転生するというのは聖典に描かれたお伽話です!?」


 異口同音。驚愕しかでてこない。

 聖書にはそのような記述があった。だがそれとこれとは話が別である。

 どう考えても幼子の紡ぐ嘘を煮詰めた与太話でしかない。でなければ世界規模で常識が崩壊してしまうではないか。

 リアーゼは、余裕綽々にくるり、と。若葉色のスカートを翻す。


「戦乱をおさめた人の記憶をワタクシは今生まで引き継いでおりますの。だからワタクシはあの御方への恩返しのために国さえ挙げて人種族を守護します。あの200年前の世に彼が大陸へ平穏を築いたようにワタクシも彼らに報いているだけなのですから」


 子供じみてイタズラな微笑だった。

 そして爆弾発言が飛びだした唇の前でしなやかに指を立てて添える。


「それと、この情報が漏れてしまうと国どころか世界が荒れてしまいかねませんっ。ですのでおふたりともここでお話ししたことはご内密にお願い致しますねっ」


 テレノアとザナリアは互いの顔を見合わせた。

 それからどちらともなくほう、と深く吐息を吐ききる。

 いえるわけがない。そもそもそんな話を易々と鵜呑みにしてたまるものか。

 白き女王の笑みは透き通るように無垢で、まるで女狐に化かされるような心もちだった。




○   ○   ○   ○   ○


挿絵(By みてみん)

最後までご覧いただきありがとうございました!!!!!!


























































挿絵(By みてみん)


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