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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.11 【空色の空 ―Sky Light Syndrome―】
321/364

321話 たった1人の願った未来《End of the Story》

挿絵(By みてみん)


きたりし日

崩壊の序曲

破滅の舞踏


進みつづける


そう


約束したから


挿絵(By みてみん)


 暁月(あかつき)(しん)(ほむら)源馬(げんま)によるワンオンワン。

 天賦の才たちを推し量る四柱祭司(スクエアプリースト)のリーダー。

 ノア革命に王手を導いた期待の新人(ホープ)

 なにものをも寄せ付けぬ。真の実力者のみがあがることを許された舞台だった。


「とってもスパイシーだよ! ねねね、ラミィちゃんも見に行こうよ!」


「あー……あの2人またやってるのかぁ。あの2人の勝負を見せられると実力差に打ちひしがれるんだよなぁ……」


 研鑽をしていた若人たちはそろって手を止め、こぞって群がっていく。

 強者の戦いを一目に焼きつけようと、少年少女のように眼を輝かせていた。

 男2人、どちらもタイプが違うが向かい合うだけで華がある。

 しかも舞台に立つのはノアきっての天才集団四柱祭司のリーダーだった。


「少々手狭になってきたな。もし迷惑ならばここら辺りで手打ちという手もあるぞ」


 源馬のほうは情熱的なまさに漢といった兄貴肌。

 身体に恵まれた180はある高身長であり、その身には一切の無駄がない。

 パラダイムシフトスーツを浮かすほど隆々とした筋肉は目覚ましい。浮かべる表情もどこか快活としており、朗らか。

 対して信は、眉目秀麗な横顔から冷気と殺気を同時に放っている。


「いらん雑音は耳に届かないタチだ」


 突き放すような口ぶりだった。

 未だ腰の刀を離さないどころか構えさえ解かず。

 敵と定めた源馬に牙を見せつづけている。


「はっはっは! それはこちらとしても大いに助かる! 強き者は弱きを同列に引き上げるための基板とならねばな!」


「そんな周囲の心配をするより己の心配をしろ。怪我をしないうちに引き下がるのも1つの手だ」


「ハッハッハ! その青く若き意気込みやヨシ! だが俺もまだまだ現役を降りるつもりはないぞ!」


 ノア最強格と唄われる天才は、呵々と笑う。

 羨望の眼差しを一端に背負う男気こそが花道とばかりの大胆不敵さ。

 そんな2人を瞳に閉じこめた乙女たちは、揃って頬を染め、熱い吐息を零す。


「なんと麗しき君なのでしょう! 天才源馬様と日々精進なさるお姿も凜々しい!」


「信様の蒼をまとい佇む姿も大変にお美しい! まるで精巧な作り物かと見紛う完成された美男子!」


 真摯な立ち会いの場に若く黄色い声が弾んだ。

 両者ともに目鼻立ちは黄金比を逃さない。タイプは異なれども顔立ちもまた整っている。

 なにより乙女たちが嬉々として裏打ちするものは、どちらの実力も本物ということ。

 新進気鋭の懐刀。あるいは黒船来襲とでもいおうか。

 とにかく突如船に現れた才あるイケメンに噂ばかりが先走っていた。


「あの2人またやってますわねぇ。本当に精がでますこと」



「塞ぎこんでいたと聞きましたが快方に向かったようでなによりですわね」




「でも根を詰めすぎてるわ。平静を装ってるように見えるけどぎりぎりのところで踏みとどまってるのよ」


 ああやって剣を構えていることが健康かといえば、そうでもない。

 少なくとも杏は、目を皿のようにしている乙女たちより彼を知ってしまっている。

 信はいつ崩れるかわからない。薄氷の上で剣という杖を構えているだけに過ぎないのだ。


『アイツは翼をもがれた自由そのものだったんだッッ!!』


 鳴り止まない、慟哭が。

 焼きついたまま脳を駆け巡る。耳奥にこびりついて反響する。

 杏が憂いて訪ねたときすでに彼は暗い部屋で1人きりだった。

 しかも寝食もとくにとらず半死半生。枯れた涙の跡さえ拭われておらず、おおよそ捨て犬同然だった。

 そんな心折れた信が吹っ切れているはずがない。いまああして立っているだけでも奇跡といえる。


「さあかかってくるがいい!! 君の実力を存分に披露してくれ!!」


「有利も不利も覆す、それだけだ」


 再度蒼が舞い上がった。

 疾風となる源馬の大柄剣を信は正面から受け止める。

 爆ぜる火花と蒼の壮大さに若人たちから歓声がわぁっ、とあふれた。


「一時参ってしまっていたと聞き及んでおりましたがどうやら杞憂だったようですわね」


 ゴージャスなブロンドが広がって浅い川のように流れる。

 久須美は、中空で逆しまになりながら碧眼を瞬かせた。

 いまもっとも死に向かう姿が、あれ。生きるというエネルギーを使い果たした出涸らしにすぎない。


――一時期呪いがどうとかいってったころよりはマシになったと思いたいけど……。


 真実を知らぬのであれば話は裏と腹くらい異なる。

 獅子奮迅と実力を伸ばす少年の姿は人類にとってなにより眩しいはず。

 信こそがノアにとっての救世主。暗い世界を照らす小さな小さな希薄で消え欠けの粒と思われている。

 杏は馬鹿らしくなって嘲笑気味に鼻を鳴らす。


「あんな不健全なんて私の思う英雄の姿とは真逆ね」


 張り詰めたスーツの胸部いっぱいのため息だった。

 へんっ、と。淀んだ吐息を屈託のない歓声に混ぜこむ。

 薄氷の上の英雄。いってみれば人類はそれほどまでに追いこまれているとうことに他ならなかった。

 信じるということはすなわち救われたいのだ。この鬱屈とした閉塞生活のなかで暁月信という偶像をもてはやしている

 当然杏はそんなものに頼る縋る、御免被る。


「信じるにしても私は私の道を信じるだけよ。誰かに生きかたを左右されるなんて気色悪いったらないわ」


「覚悟は大層なことです、が……そろそろワタクシにかけた能力を解除してくださいません!?」


 未知の怪生物に包囲されてすでに5ヶ月が過ぎていた。

 その間宙間移民船のクルーたちはたゆまぬ努力を積み重ねてきている。

 ここ、アカデミー地下の訓練用シェルター集まっている若人たちこそが光の一端だった。

 さらには10万分の1とまでいわれていた第2世代に至る者が劇的に増えつつある。

 いずれきたるときは確実に訪れようとしていた。秒針は止まるどころか加速しているかの如く。


「おっしゃあ! 俺らも訓練再開するぞ!」


「1人が強くなるより全員で協力して強くなったほうがいいからな!」


 1人の少年が声を上げると、さらにつづいて発破がかかった。

 強い。当然弱いものはいる。だが強い者が弱きを引き上げていく。

 革命前より遙かに過酷な事態にもかかわらず、若人たちの目に輝きは失せない。

 全員が知らないから。平和で安穏とした時を知らずに生きる。だからこそ幸せを求めて生き抜く術をみなが身につけている。


「たとえD-dayまでに第2世代へなれなくても気にするな! 第2世代に上がったヤツがサポートするから焦るんじゃないぞ!」


「兵器開発チームが夜通しで新兵器を作ってくれている! あとは自力を伸ばし如何に使いこなせるかが肝だ!」


 年長者たちが年下の背を押し、鼓舞を飛ばす。

 さほど年離れているわけでもなければ、自分たちだって不安でしかたがないはず。にもかかわらず率先して先頭に立とうとする。

 なにも心折れて病み挫ける者ばかりではないのだ。しがらみを踏み越えて前に進もうと躍起になる者も多くいる。


「死ぬよりも生き抜く方法を模索しろ! このまま人類が閉じこもってやられるだけと思わせるな!」


「反撃のときは近い! いざというときのために備えろ! そして臨機応変に対応する!」


 号令に合わせて次々に拳や武器が天を穿つ。

 いまノアに住まう若者たちは1つとなっていた。

 しかも2分されていた革命のときよりも遙かに強烈な結託が完遂している。


「泣いている時間なんてなんてないのです。失ったモノに大小という価値はなく、みなそうおうに心の傷として秘めている」


 久須美は、縁の輪を遠巻きに眼を猫の如く細めた。

 友とチーム仲間を同時すべて奪われた。他の者たちだって似た境遇の者もいる。

 杏は、そんな彼女や立ち上がった者のことを心の底から尊敬している。


「やり返すわよ。どこの馬の骨か知らないけれど、人間に喧嘩をふっかけたこと後悔させてやるんだから」


 指をぱちんと鳴らして能力を解除してやった。

 と、久須美がゆっくりと地上に降りてくる。


「それは弔いですの? 貴方の口ぶりから察するに復讐の類いかしら?」


「復讐のほうに決まってるじゃない。復讐して区切りをつけてからもう1度しっかり弔うと決めてるの」


 久須美は、強気に尖る唇を見て、ふふと頬をほころばせた。


「ワタクシ、アナタの友で良かったと思っておりますのよ。おかげで仲間を失っても心が落ちずにすみましたもの」


「……。同感だわ、私も同じよ」


 こちらでは軽く握った拳と拳をぶつけ合う。

 どちらもが失っている。しかしそれは船全体の過失でもある。

 泣いている暇なんて1秒としてない。いま人類はそれぞれの意思によって総括され、団結し、同じ未来を目指す。

 あの日、彼が死ぬ直前に残した種火は未だ消えることはない。それどころか船全体へ新たな灯火となって至る所に伝播していた。


「ワタクシたちはあの革命の日に終わっていたはず。だから革命の矢(リベレイター)との約束は死んでも守り抜きますわよ」


「人として生きつづけろ、獣になんかになるな。こんなこといまの私たちならば簡単よ」


 結託を結ぶ誓約として生きつづける。

 今日までノアの民ほぼ全員が彼の言葉を追いつづけていた。

 だからこそいまこうして人は人のまま。狂乱も狂信もなく、崇高に生きつづけられていた。


「みんな速報だよ! いますぐAlecナノマシンを起動して!」


 若人たちの群れに駆けこむ人影があった

 長い脚が制服のスカートを蹴たび、厚い前髪がはためく。

 唐突な警笛に若人たちはやや緊迫感をもって視線を一点に集める。

 するとウィロメナ・カルヴェロは、慌てたようにわたわたと両手を振った。


「あ、あの、あのあの……その、Alecナノマシンを、ですね……」


 視線が群がると、途端に肩幅が3割引きになってしまう。

 おずおずと背を丸め指を揉む。目立つことに慣れていないのが誰の目から見ても良くわかった。

 わかっているからこそ杏はその小柄な身体を滑りこませ率先して彼女の壁となる。


「ウィロがそんなに興奮するなんて珍しいわね? なにか良いことでもあったのなら是非聞かせてもらいたいものだけど?」


 なにより彼女の第2世代能力は、心を読む、《心経(ハモニカ)》。

 大勢から注目を集めることは己を傷つけかねない。

 それに彼女は視線を集める身体的特徴が強すぎた。ゆえに周囲の下卑た視線が彼女に群がる。


「それで速報とはいったいなんですの? 砲撃の注意喚起なら耳にタコですわよ?」


 久須美は少し不快気を声に含めて首を傾けた。

 ちらり、と。不潔な視線を払うみたいに高慢な横目で男どもを睨む。

 下心を含めていた連中はそそくさ逃げるようにウィロメナから視線を背けたのだった。

 なんだなんだ、と。とり巻く大勢を前にウィロメナは、ぐっとガッツポーズを作る。


「ジュンのお墓参りに行っててそのときたまたまAlecを起動したらビッグニュースだったんだよ!」


 場にいる全員が「……はぁ?」と首を寝かせた。

 どうやら区画外の墓地からここまで急いで走ってきたらしい。

 そのせいかウィロメナは興奮冷めやらぬ状態で、支離滅裂だった。


「とにかくAlecのサーバーを見てみましょ」


「百聞は一見にしかずですわね」


 杏と久須美は呆れながら眉を摘まむ。

 ナノマシンを意識起動し、手をスライドさせモニターを透かせる。

 そして起動と同時にどちらも目がこぼれんばかりに見開く。


「これって……まさか!?」


「つ、ついにきましたわね……!」


 ウィロメナの興奮する理由をお互い刹那に理解した。

 Alecナノマシンのコミュニティに飾られた見出しが起因している。

 2人はあまりの驚愕に身を強ばらせ、文字を巡らせた。

 一言一句見逃してなるものか。ここに書かれた人名そこ過去と未来の分水嶺を創造する。


『現時刻をもって死の星へと強襲を仕掛けるチームの編成がサーバーにアップロードされました! ただちにAlecナノマシンを起動し、ご確認を!』


 丁度そのとき、船内アナウンスがシェルター内部に反響した。

 訓練シェルターに葉すれの如きざわめきが舞いこむ。

 さらには全員が一斉にAlecナノマシンを起動し、静寂と硬直を行う。

 浮かべた半透明のモニターには、総勢約10万人の名が。それぞれの役割とともに連ねられている。


「アイツの守り抜いたものを俺は守るだけだ。家族も仲間ももう手放しはしない」


 暁月信。アザー強襲チーム。


「おめおめうじうじ死ぬくらいならひと暴れしてやろうじゃないの」


 国京杏。アザー強襲チーム。


「夢、珠……! 貴方たちの魂はワタクシが連れて戦いますわ……!」


 鳳龍院久須美。アザー強襲チーム。


「もう逃げないよ! 私は以上に悲しむたくさんの声を聞いたから!」


 ウィロメナ・カルヴェロ。アザー強襲チーム。

 他にも大勢の少年少女たちの名が、アザー強襲というもっとも危険な任務に並んでいる。

 作戦名Landing on the Planet of Deathまで残り30日。

 恐怖するものはいても脚を止めるものはもはやいない。宙間移民船の航路は誰もが望む未来へと舵を切ろうとしていた。

 あの日、革命の完遂され管理棟に立っていた少年の叫びが人間そのものを強く導いている。


 それはきっと、そう。


 たった1人が願った世界だったはず。



   ○   ○   ○   ○   ○

挿絵(By みてみん)

最後までご覧くださりありがとうございました!!!!






あと






昨日誕生日でした!!!!!!

贈り物イラスト本当にありがとうございました!!!!

そのうちこちらでもご紹介させていただきます!!!!!


めちゃんこかわいいですよ

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