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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.10 【蒼色症候群 ―SKY BLUE―】
312/364

312話【VS.】神気 希少鉱石魔獣 ダモクレスガーゴイル 3

奮う猛威

白き魔獣


もう誰も

死なせない


そう

あのとき


友と仲間に

誓ったから


挿絵(By みてみん)


「グァァァッ!?」


「またひとり負傷したぞォ!? 治療役(ヒーラー)はどこだァ!?」


 巨躯の舞踏によって1人また1人と戦闘不能になっていく。

 攻撃を図ろうにも敵のもつナチュラルステータスを前にまったく歯が立たない状況だった。

 剣は折れ、拳は割れ、斧は刃を割る。やがては心でさえそうなってしまうかのよう。


「ふ、《フレイム》! 《フレイム》! 《フレイム》!」


 杖を掲げて炎を呼びだす。

 だが放たれる魔法は白色の岩肌に当たっては消えてしまう。


「《フレイム》! 《フレイム》! フレ――」


「闇雲にマナを減らすんじゃない!? タイミングを合わせなきゃ効くわけがないだろ!?」


「じゃあいまをどうしろっていうの!? 前衛の子たちがやられたら次はこっちの番だ!?」


 命の駆け引きに晒された冒険者たちは喧々囂々としていた。

 場が混濁し、荒れている。とても正気であるとは思えないまでに。

 決して統率がないのではない。己が生きるために生きるべくして動いているにすぎない。

 報酬に目が眩みながら軽んじていたわけではない。警戒がもう1歩2歩ほど足りていなかった。


「こちらの攻撃がまるで効いていないぞ! こんなに純度の高い突然変異種ははじめてだ!」


「喋ってる暇があるのなら攻撃の手数を増やせ! マナも体力も無限じゃ薙いだからなァ!」


 辛うじて敵の爪を回避しながら反撃に徹していた。

 しかし光明が見えない。いっこうにダモクレスガーゴイルの肌を貫くには至らぬ。

 このままでは平行線にもなりはしない。身体が悲鳴を上げる前に心が挫けかねなかった。


「ROOOOAAAAAAAAA!!!」


「ふっ!」


 浮き足立つ冒険者のなかに目覚ましい者がいる。

 華奢な身体の少女はダモクレスガーゴイルとの盾役(タンク)に注力していた。

 獣の如き瞬発力のある素早い身のこなしで、敵の攻撃を意識的に引き寄せる。


「Grooooooo……!」


「くっ――!?」


 ダモクレスガーゴイルは逃げ遅れた冒険者へ鎌首もたげた。

 しかしその視界を横切るように振り袖が線を描く。


「早く逃げて! 敵の注意は引いておくから!」


「す、すまない恩に着る!」


「GROEEEEEEEEEEE!!」


 ここは彼女の戦場か。

 冒険者たちが未だ欠けず生き残っているのは、少女が敵を独占しているから。

 洗練された淀みない回避のなかに手数を咥えることも忘れない。

 ひらりと横薙ぎの爪を背面跳びでひらりと躱す。それから花弁が踊るように身を翻し、特殊な大爪を食らわせる。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 細腕の数倍あろうかという大爪が脊椎目掛けて落とされた。

 当たった直後にガキン、と。鮮烈な音とともに赤い火花が散った。


「Grrrrrrrrrr……GRAAAAAAAAA!!」


「さすがは大陸屈指ともいわれる硬度のダモクレス鉱! やっぱりこのくらい威力じゃ効かないね!」


 追撃を猫のようなステップで瞬時に後退し、躱す。

 あれほどをもってしてなお無敵。数多くの冒険者が死力を尽くして身を投じても、無傷。


「はぁ、はぁはぁ! っ、これだけやっても傷ひとつつかないなんて! どうやればこんな化け物を倒せるっていうの!」


「とにかくなんとしてでも1欠片を砕くんだ! 身体が削られればじょじょにダモクレスガーゴイルは弱くなっていく!」


 一進一退ならば勝機のひとつでも見えよう。

 だが、ダモクレスガーゴイルという魔獣はこの場においてなお健在のまま。

 消耗する冒険者たちとは違って、はじめからなにも変わっていないのだ。

 そうして悪戦苦闘しているうちに、(ほつ)れる。神の振る賽が良くないものを呼び起こしてしまう。


「ヒッ!? あ、あああ、《ウィンド》!?」


 若い判断だった。

 到底熟練しているとは思えぬ。

 絹のような飾り羽根の少女が敵の足下で魔法を放った。

 魔獣の頬を風の刃がかすめる。


「GROEEEEEEEEEE!!!」


 当然かすり傷ひとつとしてつくことはない。

 しかも見境のない魔獣はこちらの少女に目の色を変える。


「GRAAAAAAAAAA!!!」


「きゃあああああああああああああああ!!?」


 振り上げられた影の下で、絶望の悲鳴が響いた。

 だが、そこへ振り袖がひらりと揺らぐ。


「くぅっ!?」


 割って入った少女が盾となって敵の大爪を受け止めた。

 質量に圧倒的な差が生じている。受け止めた衝撃だけで彼女の足下がひび割れる。


「急いで撤退をッ!!」


「は、はい!!」


 撤退のため一瞬気を逸らした瞬間だった。

 2本目の腕が大風の如く少女の身体を横に薙ぎ払う。


「にゃあっ!!?」


 辛うじて両腕での防御が間に合っていた。

 しかし防御した衝撃で装具の大爪が砕ける。

 小さな身体の少女は、10数メートルほど大きく吹き飛ばされてしまう。

 するとダモクレスガーゴイルの敵意が盾役を失った冒険者たちに向く。


「まずいっ!! こっちに狙いを変えてきたぞっ!!」


「前衛は意地でも後衛を守れェェ!! 魔法が使えなくなったらそれこそ本当の終わりだァァ!!」


 敵には、執着するという感情がない。

 ただ1番近くにある輝かしい命が枯れれば、それで良いのだ。

 だから先ほどまで戦っていた少女になんて目もくれぬ。大柄な巨躯で地均しを行いながら冒険者たちへ脇目も振らず突撃するのみ。


「GROOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


 鼓膜をつんざく咆吼に意識が揺らされ、死を見る。

 近づいてくるのだ。ずぁら、ずぁら、死が地鳴りとともに迫る。

 一塊となって青ざめ、すくむ。ダモクレスガーゴイルは、そんな冒険者たちを刈りとらんと押し迫っていた。


「助太刀参上!!! モチ羅ファイアー!!!」


 その誰もが恐怖する場面に颯爽と滑りこむ。

 少年の手によって掲げられた少女は、短い足を浮かせてたらり野太い尾を垂らす。

 そして口から炎獄の大烈火(もちらファイアー)を噴出させる。


「はぅ、ぷうううううううう~~~!!」


 凄まじい業火がダモクレスガーゴイルを丸ごと呑みこんだ。

 先の冒険者たちが使っていたどれよりも紅蓮。それでいて輝きに当てられるだけで肌を焼かんばかりの灼熱。

 尋常ではない、ケタが違い。子なれど龍の燃焼は冒険者たちを震え上がらせる。


「あの掲げられた少女――まさか龍族の子供だと!?」


「どうして成熟していないのにこれほどの炎を吐けるの!?」


 煌々たる炎に照らされながら、たじろぐ。

 もし焔龍の娘だと知ったらもっと別の顔もするのだろう。


「ぷうううううううう~~~!!」


「良いぞモチ羅! このまま焼き尽くしてやれ!」


 あの親あってこの子有り、か。

 正直抱えているミナトも予想外の火力に驚きを隠せずにいた。

 炙りはじめて10秒ほど経てようやくモチ羅の炎が収束していく。


「はっ、はっ、はっ! ちょっともうでないかも!」


 やはりあまり長い時間高火力を発揮可能というわけではないらしい。

 モチ羅は小さな肩を上下させながら額に粒を浮かべていた。

 煌々と燃ゆる朱色がおさまると陽炎の奥から巨躯がぬぅ、と現れる。


「Grrrrrrrrrrrr!!」


 龍の炎をもってしてもなおこの期に及んで五体満足だった。


「あの炎でも火力が足りないのか!? 俺たちの倍は強大な炎だったんだぞ!?」


「じゃあつまり……はじめから私たちに勝ち目なんてなかったってこと?」


 いよいよをもって冒険者たちから気力が失せていく。

 やれることはすべてやってなお敵は健在だった。あまりに強大な存在を前に悲観と悲壮が同時に襲ってくる。

 だが、これで良い。検証とは実践の積み重ねである。冒険者たちは未知を紐解くための段階を踏んだのだ。

 ゆえにこうして大敵を前に威風堂々と胸が腫れる。モチ羅を下ろしたミナトは傍らのソレを拾い上げ、構える。


「ヨルナ!! ルハーヴ!!」


 呼びかけると大気が揺らいだ。

 2人の救世主がミナトの両隣に現れる。


「まださっきの作戦は仮説の状態だし、もし効果的じゃないと判断したら絶対に引くからね」


 いっぽうは伝説級の鍛冶師。

 手には双剣を携え燕尾の羽織が風を引く。


「俺らはなんべん死のうが姫さえいりゃ蘇ることが出来る。だがテメェは1度きりなんだ、引き際を間違えんじゃねぇぞ」


 もういっぽうは西方の勇者。

 弱き種なれど長き槍をもたせれば彼を越える美丈夫の数少ない。

 これほど双肩を守らせるに値するものもいないだろう。

 そして赤き光を身にまとう。手にした身の丈に合わぬ長物を担ぎ上げる。


「イージス所属マテリアルリーダー・マテリアル1!! ミナト・ティール出撃する!!」



(区切りなし)

挿絵(By みてみん)

最後までお読みくださりありがとうございました!!

もし気に入っていただけたのであれば感想レビュー評価等々よろしくお願いいたします!!




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