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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.10 【蒼色症候群 ―SKY BLUE―】
305/364

305話 いわくつきのデート《Blood Parade》

挿絵(By みてみん)

突然の誘い

わだかまる感覚


東の街

危険な芳香


生と死の

説法

 日が頂点に登り切るころ街はいっそうの賑わいを博する。

 無数の種族の商人たちがいたる場所で露店を開き、商う姿は、まさに活気あふれる。

 どの店も簡易的な木枠の店ばかり。荷馬車そのものに値札を備え付けているところまである。

 ここは聖都から30kmほど東へ移動した商いの街。聖都ほど小綺麗ではないが、こぢんまりとした店がそこらかしこに設営されている。


「わぁーっ!」


 商戦まっただなかに転がる小さな影があった。

 モチ羅・ルノヴァ・ハルクレートは、瞳をビー玉の如く輝かせている。

 生まれて間もない彼女にとってフリーマーケットは宝物の山に見えるらしい。

 とて、とて、と。転がるように駆け回りながら野太い尾を小刻みに揺らす。


「みなとー! しらないものがいっぱいあるよー!」


「そっかそっかー。実はオレもここが異世界だから知らないモノだらけなんだよー」


 興奮冷めやらぬといった幼龍に保護者の目尻もうっかり下がってしまう。

 モチ羅の場合、臆病なわりに人混みに臆すことがないのは救いだった。

 だからこうして連れ歩いて色々な世界に触れさせてあげられる。

 と、いうより龍である彼女にとって周囲の種族を恐れる理由がないのかもしれない。


「またずいぶんと活気ある場所で待ち合わせなんだね。衆目を嫌うレティレシアのことだからてっきりもっと閑散としたところを選ぶと思ったんだけど」


「あのお転婆天邪鬼がなに考えてるのかなんて知るモンかよ、だいいち興味すら湧かねぇや」


 物見遊山なこちらとは違って2人は往来を気にもとめない。

 そもそもこちらの世界の住人であるのだから大して物珍しいということもないのだろう。

 ヨルナとルハーヴは淡々と足先を前へ前へと運んでいく。


「そういえばこの街って異様に冒険者が多いんだな。露店に詰めてる客のほとんどが雑多な鎧着てるし」


「エーテル国には魔物の根源たる誘いの森があるからねぇ。良い報酬、強い魔物の功績(トロフィー)を求める腕自慢が日々の糧を稼ぐためがんばってるのさ」


 どことなく物騒、というのがミナトの感想だった。

 往来する種族たちのほとんどが武器防具もち。それぞれが己の得意とする多様な装備をぶら下げている。


「しっかし他種族と群れるってのは未だに違和感が拭えねぇ。しかも混合パーティで背中預け合うとか俺の時代じゃ考えられねぇぜ」


 唾でも吐きすれるような言い草だった。

 ルハーヴは背を丸めながら周囲へ怪訝な視線を散らす。

 決して侮蔑を孕むのではなく、いってみれば不安めいている。

 ミナトが「そうなのか?」見ると、それを受けてヨルナはピンと指を立てた。


「西方の勇者時代は動乱の時代だったらしいからね。僕の生まれたころには他種族との因縁のようなものは片鱗すらなかったけど」


「大陸の中で国境がしっかりしてんのは過去の紛争が原因だ。昔は種族が違うだけで争いの火種になるような世のなかだったからな」


 大陸に歴史有りといったところか。

 種族格差なんてモノが存在するのだ。小さな発端が火種となる事情なんて世の常であろう。

 とくにここ最近まで阻害されていた身としては痛いほどに理解している。


――力が使えるヤツと使えないヤツで区別されるなんてのはどこも一緒かぁ。


 復讐は果たした。

 だからもう恨むものはなかった。


「そういやテメェ戦ってるとき訳知り顔で講釈垂れてやがったよな? ずいぶんと知った口叩きやがったがありゃいったいどういう意味だ?」


 ルハーヴの問いにミナトはしばし(おもんぱか)る。

 ルハーヴとしてもあの瞬間に過去の呪いが解けたのだ。詮索する権利があるというもの。

 ミナトは一時ほど思慮して馬鹿らしくなって肩をすくめた。


「無力のさえずりのようなものさ。弱いから誰も守れず嫉妬に狂って醜く生きたってだけだよ」


「ほぉん。年のわりにお前にもいろいろあるってことかい。そもそも血眼になって帰りてぇ理由もわけわかんねぇしな」


 ルハーヴはそれ以上の回答が得られないと思ったか。

 それ以上ミナトを詮索することはなくそこで閑話休題となった。


――だからこそ帰らないといけないんだ。もっと強くなって、あの場所へ。


 許しを得ようとは思っていなかった。

 しかしノアの民は罪に塗れたこの身を受けいれてくれた。歓迎し友になろうといってくれた。

 だからこそミナトは帰らねばならない。窮地の仲間たちを救ってまた同じ笑顔で、こんどは――……こっちから。

 そうやって考え事をしていると、不意に対向する冒険者に肩が当たってしまう。


「おい気をつけろ! どこ見て歩いてやがるんだよ!」


 隆々としたドワーフの男性がこちらを睨み付けていた。

 こちらの不注意なだけに分が悪い。

 ミナトは慌てて「す、すいません!」と踵を揃える。


「ったく。どんくせーヤツがなんでいまこの街にいやがるんだ。これ以上東に向かうってんなら回りの足引っ張んじゃねーぞ」


 そういって男は(まさかり)を担いで去って行く。

 冒険者ながらなかなかの物言い。どうやらだいぶん気が立っていたらしい。

 そもそもドワーフ族は口と気性が荒い傾向にある。その辺を加味しなければ大陸での生活はままならない。

 それにしても、と。男の背を見送りながらふと気づく。


「なんでこの街こんなに冒険者だらけなんだ? どいつもこいつも装備ガチガチに固めて歩き回ってるの変だよな?」


 はじめに覚えた感想がいよいよをもって形になっていた。

 行き交う種族たちの様相が物騒すぎる。露店商含め馬車にも戦闘用品ばかりが並んでいるではないか。

 しかも街全体がざわざわと殺気立っているかのよう。まるでこれから城攻めにでもいくような物々しさだった。

 ルハーヴは、街に目を配りながら長尺の槍を担ぎ直す。


「ここにいる冒険者連中はもっぱらこの街を探索の中継拠点にしてんのさ」


「そうだね。なにしろこの街よりもっと東に行くとあれがあるから」


 「あれ?」ミナトは、2人のやりとりに不穏さを覚えた。

 どうやらルハーヴとヨルナはなにかしらに気づいているらしい。そして先の冒険者の口ぶりから察するに街の東側だとか。

 とはいえ冒険者たちの動向は関係のないこと。なにしろここにやってきているのは、呼ばれたから。

 デートの誘い。言葉だけで捉えればこれほどロマンチックで胸躍ることもないだろう。しかし呼びだした相手が相手だけに気が置けない。


「それでそのオレらを指名してこんな場所へ呼びだした性悪女はいったいどこにいるんだ?」


「この先にある街の墓地前にいるらしいけど、これはまた趣味が悪いところを選ぶなぁ」


「ある意味では吸血鬼(ヴァンパイア)らしいっちゃらしい場所だけどな」 


 簡易的な柵に囲まれた街の外側に沿ってぐるりと回っていく。

 商業で賑わう街並みは純粋に明るく見飽きることはない。3人と1匹はウィンドウショッピング気分で風景を流し見ながら目的地を目指した。

 そして街に入ってからそれほど刻まずに墓地らしき区画が姿を現す。


「この先ちょっと足並みが緩やかになってるね。どうやら目的地である墓地が近いみたいだよ」


 ヨルナの白い指が向けられる先に、それらはあった。

 4mほどの高さをした樫の区切りをくぐる。雑踏は遠のき一気に視界が開ける。

 まず一党らを迎えたのは荘厳ささえ沁みる鎮静な大気だった。


「白い十字架と名前の掘られた墓標。つまりここに鎮座してるのぜんぶ墓石か」


 息を呑むほど、目を見張るような光景が広がっている。

 区画いっぱいに白い十字架がわあ、と大量に備えられていた。


「ぜんぶがそうってわけじゃねぇけどここはいわゆる共同墓地みてぇなもんだな。んでその大半が冒険中におっ死んだ冒険者の墓だ。冒険者は実家に帰るより無縁のまま近くの街に埋葬されることも少なくねぇ」 


「いちおう冒険者の義務として自分の証明である故郷の書かれたプレートをもっているんだけどね。けっこう根無し草な場合も多いし、こうして各地に供養する場所があるんだよ」


 2人の口ぶりからするに珍しい場所というわけでもないらしい。

 それどころかルハーヴに至っては神聖な場所へ軽装革靴でずかずかと押し入っていく。

 作法もわからぬミナトは、いちおうヨルナに習うことにする。


「はぁ……ここが墓だとわかった瞬間ヒヤリとくるのは死を待つ生き物の性ってやつかなぁ」


 墓所に対して両手を結び礼を払ってから踏みこむ。

 後ろ髪引かれる思いで無作法者の後につづいた。

 草原に祀られる鎮魂の列。風がそよぐと死者が囁きかけてくる気さえする。

 すべて同じ墓標なれど誰1人として同じ者はいない。みな生き、それぞれの生涯を終えた者たちが眠る。

 身が清められる思いだった。やがては辿り着く(つい)の地。追憶の地。

 そんな墓ひしめく聖域に修道女服をまとった影が、1つほど。頭巾(ウィンブル)と紺色の裾をはためかせながら静寂とともに佇む。


「死とはなんとお考えでしょう」


 絹のように繊細な声がそよ風に混ざって聞こえてきた。

 しかもかなり唐突だった。それとあまりに懐疑的な問いかけ。

 ミナトが足を止めるとルハーヴとヨルナもまた足を止めた。


「死とはそれすなわち真なる平等なのです。罪に手を穢そうとも聖職に励み身を清めようとも死は必ず訪れます」


 身なり声佇まいから見ておそらくは、女性。

 修道服はピタリと身体に張り付くようで、瓢箪のように抑揚が浮き彫りになっていた。


「汝死を拒むなかれ。生まれ出ずる瞬間より汝に寄り添う死こそがもっとも尊き救いなのです」


 言葉にすることで無価値になることも多い。

 そのなかでも生物がもっとも畏れ敬うのは、絶対的な死の存在だ。

 生あるものは必定とし死を与えられる。死するは生あるもののみともいえよう。

 そしてその教えにミナトはそっと目を細める。


「そんな服着てなにやってるんだ? お前……レティレシアだろ?」


 まず聖職者だというのに目深に被った頭巾が怪しい。

 横からのシルエットでもわかる。布で覆い隠せぬほどの女性的な肢体。

 そして影に隠れているのは、サディスティックでドメスティックな狂気の笑み。


「キヒッ! なぁんだつまんねぇなぁバレてんのかよォ! せっかくのデートだからおめかししてきてやったってのによォ!」



(区切りなし)

最後までお読みくださりありがとうございました!!

もし気に入っていただけたのであれば感想レビュー評価等々よろしくお願いいたします!!

挿絵(By みてみん)


(レティレシアシスター作るか迷い中……

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