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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.10 【蒼色症候群 ―SKY BLUE―】
291/364

291話 過去の記録《Time Capsule》

挿絵(By みてみん)


贈り物


筺の中の

手紙


女神の創造せし船

宙間移民船


ノア

 身長だけでいえば成人男性より頭2つほど抜けて高身長。

 さらにいえば背から生えた翼も旗を広げたかと思うほど、巨大だった。

 握手を交わすだけで見上げなくてはならない。ヒカリとリーリコは目を皿のように丸くする。


「でっかぁ! 大人の東が子供みたいに見える!」


「しかもスタイルまで抜群……まさに巨人」


 圧倒されるほど、規格外だった。

 超高身長かつ幅広い翼の部分まで入れるともはや人工建造物に近い。

 しかし人々に彼女を恐れるものはいない。


「よろしくぅ~♪ よろしくねぇ~♪」


 巨大龍は1人1人と――半ば強引に――触れ合っていく。

 ほんわかとした表情に敵意の欠片もありはしない。触れ合うさいも両手でそっと包みこむかのよう。

 

「そっちの子もよろしくねぇ~♪」


「は、はい、よろしくお願いします」


 そして次はオペレーターの少女の番だった。

 若干ではあるが震える手を巨大龍へと差し伸ばす。

 すると巨大龍は彼女の手をとらず。おもむろに両手と翼をわあ、と広げる。


「きゃっ!?」


 圧巻の凄まじい光景だった。

 オペレーターの少女が逃げる暇さえない。

 猛烈なハグによって人1人がすっぽりと彼女の体躯に包みこまれて消失した。

 まさに呑みこまれるかのよう。規格外な体格を覆うポンチョ風の胸囲に頭ひとつが隠れてしまう。


「おいおいあれ大丈夫なのかよ!? 映画とかでエイリアンに食われてるヤツじゃねぇのか!?」


 ジュンが慌てて地を蹴った。

 しかしすでにオペレーターの少女は解放されている。

 支えを失った彼女は顔中に血色を集めながら頭をぐらぐら揺らしていた。

 そしてそのままぷしゅう、と。たまらず地べたに座りこんでしまう。


「お、おいしっかりしろ!」


 ジュンが駆け寄って声をかけた。

 だが少女の目は蕩けきっており、ぼやりと虚ろ。

 一向に立とうとしないどころか肌を濡らしながらうっとりと目尻を垂らしている。


「なにされたんだ畜生やっぱりやべぇヤツじゃねぇか!?」


「両側から、ふにふに、だったんです」


 臨戦態勢に入ろうとする袖が摘ままれた。

 ジュンは、「は?」オペレーターの少女へ振り返る。


「間がすごく柔らかくて……良い匂いだったんです!」


「間だって……なんのだよ?」


「おっぱいの、真ん中の、深い部分がです!」


「……はぁ?」


 そうやっている間にも次の犠牲者がでようとしていた。

 順繰りの挨拶に己の番がやってきて手を差し伸べる。


「はぁぐぅ~♪」


「え、ちょ――」


 次の犠牲者は、夢矢だった。

 男子にしては華奢な身体が一瞬のうちに覆われ尽くす。

 時として3秒ほどか。次に現れた夢矢もまたオペレーターの少女と同じ末路だった。

 頬から耳の先まで完熟した様相で、膝先からすとんと草原に崩れ落ちてしまう。


「はへぇぇ~……」


 控えめにいって魂が抜けていた。

 なにが起こったのか当事者でさえ理解できていないらしい。

 ただ宙を仰ぎながらぶつぶつと同じ言葉を繰り返すだけの木偶と化す。


「彼女男女問わず無差別だから気をつけたほうが良いよ」


 ジュンは呆れ眼をディアナへ仕向けた。

 どうやら彼は早々に戦線離脱を図っている。

 決して巨大少女の視界に入らぬ絶妙な場所で澄ましていた。


「王様……アンタ1人だけ離れてるのってそういうことかよ」


「別にどう捉えてくれても構わないよ。だけど、僕はあれを過去に3度くらってるとだけ付け加えておこうかな」


「俺は興味ねぇからうらやましいやら同情するやら。どちらにせよ男としては心の整理がおっつかねぇな」


 一時の夢を見るか、生涯の恥をさらすか。

 巨大龍からの迫られるのは、究極の二者択一だった。

 交流を楽しむのも良いが。はしゃぐ若者たちを置いて白裾がはためく。

 草原の中央には手荷物が丁寧に置かれている。


「この包みは、(むしろ)か」


 東は、おもむろにしゃがみ込んで外側の材質へと躊躇なく触れた。

 乾いて毛羽立った乾草は芳醇な森林の香りを放っている。

 どうやらなかには雑多にモノが詰まっているらしい。パンパンに膨れた莚包みはいまにもはち切れそうになっていた。


「このなかを接見させていただいてもよろしいですかな?」


「もちろんさ。君たちに見てもらおうと用意したんだからね」


 東が紳士的に伺いたてると、ディアナはにんまりと笑んで応じた。

 東とジュンは視線を交わし、「手伝ってくれ」「おうよ」と、頷き合う。


「包みを結んでるロープは切断しちまっても構わねぇよな?」


「ああ。だが中身までは傷つけないよう頼む」


 あいよ。返答を待たずしてすでに背の剣に手が伸びている。

 ジュンは背負った幅広の大剣をひと薙ぎに振るう。

 すると荒く編まれたロープが一切の抵抗なくぷっつりと断たれた。


「へっ。このていど楽勝だぜ」


「あれほど荒い縄を一刀両断とは見事。その武器はなかなかの業物とお見受けする」


「なんたってコイツは俺たちの世界でいうところの最新式だからな。旧時代の文明に負けることはねぇさ」


 レィガリアは感嘆の吐息を漏らす。

 ジュンの手によって寸断された切り口を僅かに驚いた様子で眺めていた。

 大陸種族にとって船員たちの装備する超過兵器を理解することは難しいだろう。スイッチウェポンシリーズには、どれも科学的趣向が凝らされているのだ。

 なかでも刃の付随する兵器は攻撃の予兆を内部CPUが検知し微細に振動を発する作りをしている。これによって肉のみならず岩や鉱物まで細断を可能にしていた。

 蒼と科学。この2つが人のもちうる強み。どちらが欠けても人ならず。だからこ大陸種族にも負けぬ歴史がある。


「それではそろそろ蓋を開いて拝ませていただこうじゃないか。200年前から送られてきたというタイムカプセルの中身をな」


 もったいつけても仕方がない。

 みなが緊張の視線を集めるなか。東は無感情に編み草の敷物を払い除く。 

 そして編み草の敷物が剥がされると、なかには驚愕の代物が詰まっていた。

 夢矢が草を蹴るようにしてソレに駆け寄る。


「これって……たぶん重機の脚部部品だよ!」


「しかもかなりの骨董品。現状ノアで稼働しているものよりも遙かに古い、遺物」


 つづくリーリコも似たような反応だった。

 夢矢のように声を高めることはない。だが、ロープの襟首を引き上げながら訝しげに目を細める。

 人々の目の間に現れたモノとは、ガラクタ。

 ガラクタ如く積み重なった正真正銘のガラクタだった。


「……なぜノアに存在しないものがここにある?」


 しかしなぜ一様に驚き動揺を広げるのか。

 答えは簡単だ。東含むノアの民たちはコレを知らない。

 この大きく積み上げられ、補修あとばかりの傷だらけで無残な残骸の元を認識していない。


「消えかけてるけどヴィーナス社のロゴまである! つまりこれは本当に人のもちこんだ科学技術だよ!」


 夢矢の指さす残骸のひとつに見慣れたロゴが刻印されている。

 普遍的概念を数多くまといながら数多ある星々のなかに佇む乙女。これはノアに住まう民ならば必ず目にするもの。


「そういやヴィーナス社って確か宙間移民船を作った大企業の集合体の総称だったよな」


「ノアのインフラおよび人類の生存環境のほぼすべてを開発設計した……とされている」


「とはいえノア船員である私たちだってヴィーナス社の社員のはずよ。そもそも認識コードをもつ人類全員がヴィーナス社の管轄内っていう意味だし」


 企業は生活の一部といっても差し支えない。

 人類は一企業によって管理されながらも依存していた。

 しかしてヴィーナス社の実態とは、すでに無形の概念でしかない。

 宇宙での環境基盤である宙間移民船を人類に与えただけ。直接的に人類へ関与することさえなかった。

 ゆえに社の掲げる方針は、人類の生存と保護と噂される機会が多い。人類に生きる力を託して以降は形のない無形の概念と化していた。


「それとこれの持ち主から手紙を受けとっているよ」


 おもむろにディアナは己の懐へと手を差し入れた。

 そうやってしばしまさぐってから「あったあった」と、指に挟んでとりだす。

 東は、差しだされた封を自然な流れで受けとる。

 その茶こけてしみったれた紙には、とある文字が記載されていた。


「認識コード840……だと?」

挿絵(By みてみん)


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